同窓会で大富豪に一目惚れされたら甥っ子にもスパダリな恋人ができました

波木真帆

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運命の輪

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<sideマーカス>

『ごめんなさい……』

毎日同じ時間にサトルとビデオ通話ができることだけを楽しみに、日本とフランスでの離れ離れの生活を耐えていた私の耳に、今日突然悲しげなサトルの声が飛び込んできた。

私をみて、目を潤ませながらごめんなさいという謝罪の言葉を口にするサトルの姿に嫌な予感がした。

『サトル、どうしたんだ? 一体何があった?』

別れの言葉を口にされるのではないか……そんな不安に苛まれながら、必死に問いかける。
きっと私の声は震えていただろう。

そして、サトルは画面越しに私の目を見つめながら意を決したようにゆっくりと口を開いた。

『私……フランスには行けない、ま――』
『サトル、行けないってどういうことなんだ? 私のことが嫌いになったのか? それとも他に恋人でも――』

想像したくない言葉がサトルの口から出てきて、最後まで聞くことも耐えられなくて口を挟んでしまった。

人の、いや、恋人の話を遮るなんてやってはならないことだが、どうしてもそれから先の言葉を聞きたくなかった。
現実を受け入れたくなかったのだろう。

それほど、私はサトルを愛しているのだ。
決して別れることなどできないくらいに。

『違うっ! そうじゃないんです!!』

今度は私の言葉を遮るようにサトルが声を上げる。
今まで聞いたことがないほどの大きな声に驚きつつ、

『ふぅーーーっ』

サトルにも聞こえるほどの大きな深呼吸をして、必死に自分を落ち着かせた。

『悪い、サトルに別れを言われるのだと思って冷静さを欠いていた。途中で口を挟まないと約束する。もう一度聞かせてもらえないか?』

「マーカス……私も、誤解をさせるような言い方をしてしまってごめんなさい。私……マーカスと別れるつもりなんて一切ありません。フランスに行けないと言ったのは、あと四年だけ……ここの大学での仕事を継続させてもらいたかったんです』

「サトル……君が私と別れるつもりがないと聞いて正直ホッとしている。だが、サトルが日本の大学に留まることにした明確な理由があるのなら教えて欲しい。どうして四年間なんだ?』

『実は……私の講義を受けることを夢見て頑張って勉強してくれていた子が、今回受験に合格したんです』

『な――っ、本当に?』

『はい。合格が決まって、すぐに報告にきてくれて……私の講義を受けるために頑張りましたってキラキラとした目で見られたら、今年度で辞めるとは言えなくて……。大学側にはずっと引き留められていましたから、私があと四年いるといえば受け入れてくれると思うんですが、ずっと私がフランスに行くことを期待して待っていてくれたマーカスに伝えるのが辛くて……。本当にごめんなさい。身勝手だけど、どうかあと四年だけ……彼が卒業するまで、見守っていてやりたいんです』

『えっ? 今、と言ったか? もしかして、そいつはサトルを――』
『違いますっ!! そんなことは絶対にありません!! そして、私も彼に心が動くようなことはありませんから』

サトルがそういうのなら、間違い無いのだろうが。

何より、あと四年か……。

ここで待てないというのは、男としての威厳に関わるだろうか。

だが、サトルと一緒に過ごすことだけを毎日の糧として生きてきた私には辛い現実だ。

『サトル……私は君の重荷にはなりたくない。今も、サトルを慕ってきたその学生のために笑顔で四年くらいなら待っているよと返してあげたい。だが、私はサトルを心から愛しているから、すぐに受け入れられない』

『マーカス……』

『だから、私がサトルの元に通うのを許してほしい』

『えっ? でも、マーカスは忙しいのに……』

『決して仕事をおざなりにはしない。私がやらなければいけないことを終わらせた上で、あとはヴィルに任せてサトルのところに行きたいのだ。会う時間がたった数時間でも構わない。私のために時間を使ってもらえないか?』

『マーカス……そんなに私のことを……』

『それを認めてくれるのなら、あと四年耐えるとしよう。どうだ?』

『はい! 私の方こそ、喜んで!!』

『サトル……よかった』

『じゃあ、早速明後日から臨時休講で月曜日まで予定が空いてるんです。私がフランスまでマーカスに会いに行ってもいいですか?』

『サトル! 嬉しいが、私が会いに行く! サトルを一人でフランスになんて行かせられないよ』

可愛いサトルを一人で飛行機なんかに乗せたら、私の元に辿り着くまでにサトルを狙う奴らにどこかに連れて行かれるに決まっている。
だが、サトルは自分がどれだけ目を惹く容姿をしているのか、全く気づかずに

『私、迷子にはならないですよ?』

なんて言葉を返してくる。

『ああ、もうそんなところが危ないんだ』

思わず漏れてしまった言葉にもサトルはピンときていない。

『私が会いに行くからサトルは私を家で出迎えてくれ。その方が新婚気分を味わえる』

『ふふっ。はい。わかりました』


そうして、サトルは新しい年度を迎えても、まだ日本に留まることになった。
離れ離れなのは寂しいが、会いに行くたびに嬉しそうに出迎えてくれるのもまた幸せなのだ。

フランスで過ごす日を夢見て、今日も私は日本へ向かう。


そうそう、サトルを慕って入学してきたナツキ・ヨシザワが、ヴィルの運命の相手だとわかるまで、あと数日。
ようやくヴィルの運命の輪は回り始めたのだった。


  *   *   *

ここまで読んでいただきありがとうございます。
ようやく完結しました。
このあと、『お忍び温泉旅行について行ったらなぜか甘々な恋人ができました』のお話につながっていきます。
また番外編も思いついたら書くかもです。
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