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運命的な出会い
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<sideヴィルジール>
キッチンからマーカスが戻ってきた姿を見た瞬間、ああ、彼を落としたのだとすぐにわかった。
隙間のないほどにピッタリと寄り添って愛おしい目で彼の横顔を見つめるマーカスの姿に、隣にいる父とエルドさんの姿が重なった。
そう。
父がエルドさんを見つめるあの熱い眼差しと同じだ。
まさかマーカスの運命がエルドさんの甥っ子だとは夢にも思っていなかった。
もしかしたらここにきたのは運命の神が彼とマーカスを引き合わせるためのものだったのか。
そう思ってしまうほど運命的な出会いだった。
マーカスは片手に持っていたトレイをテーブルに起き、私たちの向かいにあった一人がけソファーに座った。
もちろん彼を膝に乗せて。
『あ、あの……マーカスさん、私、下ります』
『やっと思いが通じ合ったばかりだというのに、そんな悲しいことを言わないでくれ。それともサトルは私と一緒にいたくないか?』
『えっ、そんなことは……』
『なら、ここでいいだろう?』
彼はマーカスの口のうまさにすっかり言いくるめられてしまっているようだ。
『マーカス、無理強いするなよ』
『無理強いじゃない。なぁ、そうだろう。サトル』
『ひゃぁっ』
聞いたこともないような甘い声で彼の耳元で囁くと彼は顔を真っ赤にしてマーカスに抱きついていた。
『ほら、サトルから抱きついてきてくれているんだ。無理強いじゃないだろう?』
『うぅ…‥っ』
勝ち誇ったような表情を向けられ、何も言い返せないのは本当に彼が嫌がっているようには見えなかったからだ。
『マーカスもヴィルジールもその辺にしておけ。エルド、サトルくん。うちの愚息たちが申し訳ない。いつまで経っても子どもなのだから』
『い、いえ。そんなっ』
『ノーラン、気にしないでください。私も智琉もこんなふうに愛を伝えられることに慣れていないだけなんですよ。なぁ、智琉』
エルドさんがにこやかな笑顔で彼に視線を向けると、彼はマーカスの腕の中で顔を真っ赤にしながら頷いていた。
『あ、あの……それで、おじさん。この方達は一体……』
『ああ、そうだった。まだ同窓会で出会った友人としか説明していなかったな。あの、実は彼は……』
『エルド、せっかくだから私から話をさせてもらえないか? どうやら彼は私の息子になるようだし、きちんと説明をしておきたいんだ』
『はい。ではお願いします』
エルドさんはもうすでに父に絶大な信頼を向けているようだ。
父は嬉しそうにエルドさんを抱きしめながら、彼に説明を始めた。
自分がシュバリエ家の当主で学生時代からエルドさんに憧れていたということ。
同窓会でエルドさんと再会してその思いをもう止めることができなくなったこと。
身内である彼に会い、自分たちの仲を伝えようと思ったこと。
ここに来る機内でエルドさんに告白をして無事に恋人同士になったこと。
最後の部分だけは、私もマーカスも知らなかったが、二人が機内の部屋から出てきた様子が恋人同士のそれに変わっていたからやっぱりなという感じだ。
『フランスでは同性婚は認められているし、ゆくゆくはエルドと正式な夫夫になりたいと思っている』
『ノーラン……』
『エルド。私は本気だ。だが、君はアメリカ軍人として働いているから退役まで待つよ。それからの人生を私の夫として歩んでくれたら嬉しい』
そんな父の言葉にエルドさんは嬉しそうに抱きついて、涙を流していた。
父の本気を目の当たりにしてマーカスも思うところがあったようだ。
『サトル、君は仕事は何を?』
『はい。日本の大学で教授をしています』
『おおっ! なんと素晴らしいっ!! サトルはその仕事が好きなんだな』
『はい。ずっと好きなことを突き詰めていったら教授になっていたというのが正しいのかもしれませんが』
『私はフランスで仕事をしているが、サトルのためなら仕事を辞めて日本で仕事を探してもいい』
『えっ、でもそれは……』
『いいんだ。私はサトルと少しの間も離れていたくない』
ずっと待ち続けるといった父と、少しの間でも離れたくないと仕事を辞めてまでそばにいようとするマーカス。
そのどちらも正しい選択なのだろう。
『あの、実は海外のいくつかの大学から教授としてきてほしいと誘われているのです。その中にフランスの大学もありました。だから、もう少ししたらそのお誘いを受けてフランスに移住しようと思っています。その時まで待ってもらうことはできますか?』
『もう少しとはどのくらいなのだ?』
『三月で今年度が終わるので、早ければ半年後には……もしかしたら予定が変わることもありますが……』
『半年……そうか、わかった。その可能性があるというのなら、とりあえずそこまで待ってみよう』
『――っ!! ありがとうございます!!』
彼の嬉しそうな表情に本当に運命で惹かれあった二人なのだなと思う。
それにしても父とエルドさん。
マーカスと彼。
幸せそうなカップルたちの中で私だけが一人ものか……。
私にもいつか彼らのような運命が現れるのだろうか……。
そんなに何度も奇跡は起こらないだろうな。
なら、私は彼らを見守るだけだ。
父もマーカスも彼らと幸せになれるように。
キッチンからマーカスが戻ってきた姿を見た瞬間、ああ、彼を落としたのだとすぐにわかった。
隙間のないほどにピッタリと寄り添って愛おしい目で彼の横顔を見つめるマーカスの姿に、隣にいる父とエルドさんの姿が重なった。
そう。
父がエルドさんを見つめるあの熱い眼差しと同じだ。
まさかマーカスの運命がエルドさんの甥っ子だとは夢にも思っていなかった。
もしかしたらここにきたのは運命の神が彼とマーカスを引き合わせるためのものだったのか。
そう思ってしまうほど運命的な出会いだった。
マーカスは片手に持っていたトレイをテーブルに起き、私たちの向かいにあった一人がけソファーに座った。
もちろん彼を膝に乗せて。
『あ、あの……マーカスさん、私、下ります』
『やっと思いが通じ合ったばかりだというのに、そんな悲しいことを言わないでくれ。それともサトルは私と一緒にいたくないか?』
『えっ、そんなことは……』
『なら、ここでいいだろう?』
彼はマーカスの口のうまさにすっかり言いくるめられてしまっているようだ。
『マーカス、無理強いするなよ』
『無理強いじゃない。なぁ、そうだろう。サトル』
『ひゃぁっ』
聞いたこともないような甘い声で彼の耳元で囁くと彼は顔を真っ赤にしてマーカスに抱きついていた。
『ほら、サトルから抱きついてきてくれているんだ。無理強いじゃないだろう?』
『うぅ…‥っ』
勝ち誇ったような表情を向けられ、何も言い返せないのは本当に彼が嫌がっているようには見えなかったからだ。
『マーカスもヴィルジールもその辺にしておけ。エルド、サトルくん。うちの愚息たちが申し訳ない。いつまで経っても子どもなのだから』
『い、いえ。そんなっ』
『ノーラン、気にしないでください。私も智琉もこんなふうに愛を伝えられることに慣れていないだけなんですよ。なぁ、智琉』
エルドさんがにこやかな笑顔で彼に視線を向けると、彼はマーカスの腕の中で顔を真っ赤にしながら頷いていた。
『あ、あの……それで、おじさん。この方達は一体……』
『ああ、そうだった。まだ同窓会で出会った友人としか説明していなかったな。あの、実は彼は……』
『エルド、せっかくだから私から話をさせてもらえないか? どうやら彼は私の息子になるようだし、きちんと説明をしておきたいんだ』
『はい。ではお願いします』
エルドさんはもうすでに父に絶大な信頼を向けているようだ。
父は嬉しそうにエルドさんを抱きしめながら、彼に説明を始めた。
自分がシュバリエ家の当主で学生時代からエルドさんに憧れていたということ。
同窓会でエルドさんと再会してその思いをもう止めることができなくなったこと。
身内である彼に会い、自分たちの仲を伝えようと思ったこと。
ここに来る機内でエルドさんに告白をして無事に恋人同士になったこと。
最後の部分だけは、私もマーカスも知らなかったが、二人が機内の部屋から出てきた様子が恋人同士のそれに変わっていたからやっぱりなという感じだ。
『フランスでは同性婚は認められているし、ゆくゆくはエルドと正式な夫夫になりたいと思っている』
『ノーラン……』
『エルド。私は本気だ。だが、君はアメリカ軍人として働いているから退役まで待つよ。それからの人生を私の夫として歩んでくれたら嬉しい』
そんな父の言葉にエルドさんは嬉しそうに抱きついて、涙を流していた。
父の本気を目の当たりにしてマーカスも思うところがあったようだ。
『サトル、君は仕事は何を?』
『はい。日本の大学で教授をしています』
『おおっ! なんと素晴らしいっ!! サトルはその仕事が好きなんだな』
『はい。ずっと好きなことを突き詰めていったら教授になっていたというのが正しいのかもしれませんが』
『私はフランスで仕事をしているが、サトルのためなら仕事を辞めて日本で仕事を探してもいい』
『えっ、でもそれは……』
『いいんだ。私はサトルと少しの間も離れていたくない』
ずっと待ち続けるといった父と、少しの間でも離れたくないと仕事を辞めてまでそばにいようとするマーカス。
そのどちらも正しい選択なのだろう。
『あの、実は海外のいくつかの大学から教授としてきてほしいと誘われているのです。その中にフランスの大学もありました。だから、もう少ししたらそのお誘いを受けてフランスに移住しようと思っています。その時まで待ってもらうことはできますか?』
『もう少しとはどのくらいなのだ?』
『三月で今年度が終わるので、早ければ半年後には……もしかしたら予定が変わることもありますが……』
『半年……そうか、わかった。その可能性があるというのなら、とりあえずそこまで待ってみよう』
『――っ!! ありがとうございます!!』
彼の嬉しそうな表情に本当に運命で惹かれあった二人なのだなと思う。
それにしても父とエルドさん。
マーカスと彼。
幸せそうなカップルたちの中で私だけが一人ものか……。
私にもいつか彼らのような運命が現れるのだろうか……。
そんなに何度も奇跡は起こらないだろうな。
なら、私は彼らを見守るだけだ。
父もマーカスも彼らと幸せになれるように。
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