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私の運命
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<sideマーカス>
父に学生時代から忘れられない人がいると言うのはずっと聞かされていた。
あれは運命だったのだと。
決して母への愛が嘘だったわけじゃない。
私たちも幼い頃からずっと父からの愛を感じてきた。
だから、父に忘れられない人がいると言う話を聞いても裏切られたなんて気持ちにはならなかった。
それどころか、こんなにも父の心を掴んで離さない人がどんな人なのか気になって仕方がなかった。
けれど、私たちも通ったパブリックスクールで伝説の美人として語られていた人が父の想い人だと知った時、これは一生叶わぬ夢なのだろうと思った。
だから今回パブリックスクール創設1000年という節目の同窓会の招待状が届いた時に父に参加するように勧めた。
これで会えなければそもそも運命ではなかったのだし、もし会えたとしても彼が結婚していたら諦めるきっかけになるのではないかと思ったのだ。
父は少し思案してから、
『一緒に来てくれないか?』
と言ってきた。
いつも強気な父にしては珍しいと思ったが、たまには家族揃って出かけるのもいい。
それに父が一人で出かければ、シュバリエの名前に近づいてきた人に運命の彼との出会いを邪魔されるかもしれない。
私たちが一緒に行けば、その壁になることもできる。
そう思って、弟のヴィルジールと共に同窓会に出席した。
案の定、シュバリエの名前に眩んだものたちが次々に話しかけてくるが、肝心の彼の姿はない。
『あれほど美しい人だ。どこかで誰かに足止めをくらっているのかもしれない。会場内を回ってくるよ』
そう言って、いそいそと出かけて行った。
『父さん、いつもと違いすぎだろう? あの彼が来ているかどうかもわからないのに』
『まぁまぁ、気の済むまでやらせてやろう。今日で諦めるかどうか決まるんだからな』
余計な邪魔が入らないように威圧を放ちながら、ヴィルジールとワインを飲んで父が帰ってくるのを待ち続けた。
しかし、それからかなりの時間が経ったがなかなか帰ってくる気配がない。
会場が広すぎて場所がわからなくなっているのかもしれないと思い、ヴィルジールを待たせて迎えに行こうかとした瞬間、
『マーカス、どこにいくんだ?』
と父の声が聞こえた。
『父さん、どこに行っていたんですか? あれ、その方は?』
今まで見たこともないくらい美しい男性の手を繋いでいる父の姿にもしやと思ったが、とりあえず尋ねてみる。
すると、父はこれまでに見たこともないほどの幸せそうな笑顔を見せながら、彼があの運命の相手・エルドだと教えてくれた。
正直伝説として話には聞いていたものの、ここまで美しい人だとは思っていなかった。
父がこの歳になるまで忘れられないのもわかる気がする。
きっと学生時代は可愛らしかったに違いない。
『エルド、もっと君と話がしたいんだ。よければ我が家に遊びに来ないか?』
父の誘いに戸惑っていたものの、私とヴィルが加勢して誘うと彼は頷いてくれた。
父の嬉しそうな顔が頭から離れない。
きっと本当に父の運命の相手だったのだろうな。
亡くなった母のことも私たちのことも愛してくれた父には、これから先の人生も幸せに過ごして行ってもらいたい。
そのためには彼が必要なのだ。
なんとしてでも二人をくっつけてやろう。
私とヴィルは父の幸せのために協力することにした。
未だ独身のエルドさんはアメリカに来ている甥っ子を可愛がっているのだという。
父はその彼に会いたいと言い出した。
きっと家族の同意を得て、周りを固めてしまいたいのだろう。
それがわかったから、私たちもアメリカについていくことに同意した。
仕事も数日休んでも問題はない。
それくらい普段仕事をしているからな。
プライベートジェットでアメリカに渡り、エルドさんの自宅に向かう間、なぜかドキドキが止まらない。
私が、緊張しているのか?
だが、何に?
アメリカなど今までに何十回も行っているし、人と会うのに緊張などしたこともない。
自分でもよくわからない感情に不思議に思っている間に、とうとうエルドさんの自宅に辿り着いた。
『おじさん。お帰りなさい』
扉が開かれながら聞こえてくる声に身体が震えた。
まるで小鳥の囀りのような優しい声。
それが私の耳に残ったまま、離れようとしない。
今の声がエルドさんの甥っ子か。
父とエルドさんの姿に隠れてしまって彼の姿がよく見えない。
『いらっしゃいませ。甥のサトルと申します』
挨拶をした時のその笑顔が父たちの隙間から飛び込んできた。
彼の顔を認識した瞬間、雷のような衝撃が私の身体を貫いていった。
『 C’est incroyable !』
思わずフランス語で叫んでしまうほど、理性を飛ばしていたのかもしれない。
気づけば、
『Tu es ma destinée』
と叫びながら、その彼の小さな身体を抱きしめていた。
そのピッタリと収まるその感覚に彼が本当に私の運命だと訴えていた。
腕の中で何が何だかわからないと言った様子で戸惑っている彼をわかっていながらも、離すことができずにいた。
『おい、マーカス! やめろ! 驚いているだろう!』
ヴィルジールの力で引き離された私は、彼と離れたことでさらに運命を強く感じていた。
やはり彼は私の運命。
決して離しはしない。
彼は我々をリビングに案内するとそのままキッチンに引っ込んでしまった。
『お前が突然驚かせるから彼がキッチンに行ってしまっただろう』
『驚かせてしまったことは申し訳ないと思っていますが、彼が私の運命だと感じたんです』
『なんだと? 彼が?』
『はい。ですから、少し二人だけで話をさせて欲しいんです。力ずくで自分のものにしたりはしないと約束します。だから、話をさせてください」
『エルド、どうする?』
『サトルに優しくしてくれればそれで……』
『はい。約束します』
父とエルドさんの許可を得て、私は彼の元に向かった。
父に学生時代から忘れられない人がいると言うのはずっと聞かされていた。
あれは運命だったのだと。
決して母への愛が嘘だったわけじゃない。
私たちも幼い頃からずっと父からの愛を感じてきた。
だから、父に忘れられない人がいると言う話を聞いても裏切られたなんて気持ちにはならなかった。
それどころか、こんなにも父の心を掴んで離さない人がどんな人なのか気になって仕方がなかった。
けれど、私たちも通ったパブリックスクールで伝説の美人として語られていた人が父の想い人だと知った時、これは一生叶わぬ夢なのだろうと思った。
だから今回パブリックスクール創設1000年という節目の同窓会の招待状が届いた時に父に参加するように勧めた。
これで会えなければそもそも運命ではなかったのだし、もし会えたとしても彼が結婚していたら諦めるきっかけになるのではないかと思ったのだ。
父は少し思案してから、
『一緒に来てくれないか?』
と言ってきた。
いつも強気な父にしては珍しいと思ったが、たまには家族揃って出かけるのもいい。
それに父が一人で出かければ、シュバリエの名前に近づいてきた人に運命の彼との出会いを邪魔されるかもしれない。
私たちが一緒に行けば、その壁になることもできる。
そう思って、弟のヴィルジールと共に同窓会に出席した。
案の定、シュバリエの名前に眩んだものたちが次々に話しかけてくるが、肝心の彼の姿はない。
『あれほど美しい人だ。どこかで誰かに足止めをくらっているのかもしれない。会場内を回ってくるよ』
そう言って、いそいそと出かけて行った。
『父さん、いつもと違いすぎだろう? あの彼が来ているかどうかもわからないのに』
『まぁまぁ、気の済むまでやらせてやろう。今日で諦めるかどうか決まるんだからな』
余計な邪魔が入らないように威圧を放ちながら、ヴィルジールとワインを飲んで父が帰ってくるのを待ち続けた。
しかし、それからかなりの時間が経ったがなかなか帰ってくる気配がない。
会場が広すぎて場所がわからなくなっているのかもしれないと思い、ヴィルジールを待たせて迎えに行こうかとした瞬間、
『マーカス、どこにいくんだ?』
と父の声が聞こえた。
『父さん、どこに行っていたんですか? あれ、その方は?』
今まで見たこともないくらい美しい男性の手を繋いでいる父の姿にもしやと思ったが、とりあえず尋ねてみる。
すると、父はこれまでに見たこともないほどの幸せそうな笑顔を見せながら、彼があの運命の相手・エルドだと教えてくれた。
正直伝説として話には聞いていたものの、ここまで美しい人だとは思っていなかった。
父がこの歳になるまで忘れられないのもわかる気がする。
きっと学生時代は可愛らしかったに違いない。
『エルド、もっと君と話がしたいんだ。よければ我が家に遊びに来ないか?』
父の誘いに戸惑っていたものの、私とヴィルが加勢して誘うと彼は頷いてくれた。
父の嬉しそうな顔が頭から離れない。
きっと本当に父の運命の相手だったのだろうな。
亡くなった母のことも私たちのことも愛してくれた父には、これから先の人生も幸せに過ごして行ってもらいたい。
そのためには彼が必要なのだ。
なんとしてでも二人をくっつけてやろう。
私とヴィルは父の幸せのために協力することにした。
未だ独身のエルドさんはアメリカに来ている甥っ子を可愛がっているのだという。
父はその彼に会いたいと言い出した。
きっと家族の同意を得て、周りを固めてしまいたいのだろう。
それがわかったから、私たちもアメリカについていくことに同意した。
仕事も数日休んでも問題はない。
それくらい普段仕事をしているからな。
プライベートジェットでアメリカに渡り、エルドさんの自宅に向かう間、なぜかドキドキが止まらない。
私が、緊張しているのか?
だが、何に?
アメリカなど今までに何十回も行っているし、人と会うのに緊張などしたこともない。
自分でもよくわからない感情に不思議に思っている間に、とうとうエルドさんの自宅に辿り着いた。
『おじさん。お帰りなさい』
扉が開かれながら聞こえてくる声に身体が震えた。
まるで小鳥の囀りのような優しい声。
それが私の耳に残ったまま、離れようとしない。
今の声がエルドさんの甥っ子か。
父とエルドさんの姿に隠れてしまって彼の姿がよく見えない。
『いらっしゃいませ。甥のサトルと申します』
挨拶をした時のその笑顔が父たちの隙間から飛び込んできた。
彼の顔を認識した瞬間、雷のような衝撃が私の身体を貫いていった。
『 C’est incroyable !』
思わずフランス語で叫んでしまうほど、理性を飛ばしていたのかもしれない。
気づけば、
『Tu es ma destinée』
と叫びながら、その彼の小さな身体を抱きしめていた。
そのピッタリと収まるその感覚に彼が本当に私の運命だと訴えていた。
腕の中で何が何だかわからないと言った様子で戸惑っている彼をわかっていながらも、離すことができずにいた。
『おい、マーカス! やめろ! 驚いているだろう!』
ヴィルジールの力で引き離された私は、彼と離れたことでさらに運命を強く感じていた。
やはり彼は私の運命。
決して離しはしない。
彼は我々をリビングに案内するとそのままキッチンに引っ込んでしまった。
『お前が突然驚かせるから彼がキッチンに行ってしまっただろう』
『驚かせてしまったことは申し訳ないと思っていますが、彼が私の運命だと感じたんです』
『なんだと? 彼が?』
『はい。ですから、少し二人だけで話をさせて欲しいんです。力ずくで自分のものにしたりはしないと約束します。だから、話をさせてください」
『エルド、どうする?』
『サトルに優しくしてくれればそれで……』
『はい。約束します』
父とエルドさんの許可を得て、私は彼の元に向かった。
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