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アメリカに出発※

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<sideエルド>

『えっ、ノーラン。まさか、これでアメリカまで?』

『ああ。息子たちもいるし、アメリカまで8時間くらいかかるから自家用機の方がのんびりできるだろう』

一緒に帰るからとアメリカ行きのチケットの詳細を伝えていたけれど、どうやらキャンセルされていたようで、一緒にこれに乗って帰るしか方法はない。

私自身裕福な家庭に育ったけれど、自家用機の経験まではない。
さすが世界のシュバリエ一族。
住んでいる世界が違うとはこのようなことを言うのかもしれない。

『さぁ、中に入ろう』

緊張しているのはどうやら私だけ。
彼の二人の息子たちも自家用機には慣れているのだろう。

自家用機と言うだけでも驚いたのに、中に入ってさらに驚いた。
まるでスイートルームのような内装で、ここが機内だとは信じられないほどだ。

安定飛行に入る時までは民間機と同じようにシートベルトをつけたものの、その椅子すらも行きに乗ってきたファーストクラスの上をいく。

安定飛行に入れば、大きなソファーに移って映画を見たり、話をしたり、ダイニングに移って外の景色を楽しみながら食事をしたり、本当にここが飛行機の中だと言うことすら忘れてしまいそうになる。

『エルド、そろそろ休もうか。部屋にシャワーがあるから使うといい』

ファーストクラスにもシャワーはある。
だが、ここのシャワーは広さも豪華さも段違いだった。

着心地の良いガウンを借りて、シャワールームを出るとそこにはノーランの姿があった。

『私も入ってこよう。ベッドで先に寝てくれていてもいいよ』

えっ?
今のはどういう意味だろう?

そう思った時にはもうノーランはシャワールームに入っていた。

寝室に置かれているのはとてつもなく大きなベッドだから、もちろんノーランと二人でも十分に眠ることができる。
でも、本当に一緒に寝る気なのだろうか?

自家用機に乗せてもらっている立場で一緒に寝たくないなんてそんなこと言えるはずもないけれど、さすがにあのシュバリエ一族の総帥と一緒に寝るなんて烏滸がましい。
私はベッドでなくても、十分に広いそこのソファーでだって眠れる。

ノーランが出てきて、聞き間違いじゃなかったら私はここで眠るからと伝えよう。

ドキドキしながらソファーで待っていると、シャワーだったからか、あっという間にノーランが出てきた。
お揃いのガウンに身を包んだノーランを見ているだけでドキドキしてしまう。

『あれ? ベッドに入ってくれていてよかったんだよ。それとも一人で寂しがらせてしまったかな』

『ひゃっ!』

近づいてきたノーランに耳元で甘く囁かれて思わず声が漏れてしまった。

『ふふっ。ほら、こっちで一緒に寝よう』

『あ、あの……私はここで……』

『何言っているんだ。ベッドでないと危ないからこっちにおいで』

そう手を差し出されたら、自然と手を取ってしまっている自分がいた。

『あの、ノーランはいつでもこうやって、誰かと一緒に……?』

『ははっ。そんなことあるはずがない。そもそも我が一族の飛行機に一族以外の者を乗せたのも初めてだよ。それだけエルドは私にとって特別だと言うことだ』

『えっ……それって……。』

『ふふっ。もう気持ちは伝わっているかと思ったが、やはりこういうのはきちんと口にしなくてはいけないな。どうも歳をとると口下手になって困る』

『ノーラン……』

『エルド……君とあの会場で出会えた時、運命だと思った。妻と出会い、息子たちが生まれたことに後悔などしていないが、あのスクールで君に思いを伝えていれば私の人生は変わっていたかもしれないと思ったよ。君と出会って、私は新しい人生を踏み出そうと決めたんだ。私の第二の人生は君と共にありたい。私のパートナーになってもらえないか? 嫌だと言われてももう手放すつもりはないから、ここからじっくりと君を落とすつもりだが、今の気持ちを聞かせてほしい』

思いがけないノーランの言葉に戸惑ってしまう。
でも、嫌だと言う気持ちはどこにもなかった。

もしかしたら、私が今まで誰にも惹かれなかったのはこの瞬間を待っていたからなのかもしれない。

今まで一人で過ごしていきたことに後悔はない。
でもノーランのいうように新しい人生を共に歩んでくれる人がいるなら、それは幸せなことかもしれないな。
女性が好きだとか、男性が好きだとか考えたことはないけれど、嫌悪感を全く持たない今の感情を思えば、私はゲイだったのかもしれない。
いや、もしかしたらノーランという一人の人間を好きになったのかもしれないけれど。

『あの、私でよかったら、ノーランのそばにいさせてください』

もっと悩むかと思ったけれど、自分の口から素直にこの言葉が出てきた。

『ああっ! エルド!! 私は最高に幸せだ!!』

『んんっ!!』

ノーランの唇が重なって、優しく啄まれる。
何度も何度も啄まれるのがもどかしくてそっと唇をひらけば、待ってましたとばかりにノーランの肉厚な舌が滑り込んできた。

飢えている獣のように私の口内を激しく貪っていく。
舌を絡められ、舌先に吸いつかれて、甘い唾液が流れてくる。
それをコクっと飲み干すと、キスをしながらでもノーランが嬉しそうに微笑んだのがわかった。

そのまま抱きかかえられベッドに寝かされる。

まさかこのままここで……?

そう思ったけれど、流石にここではなかったようだ。
ゆっくりと唇が離されて、あまりの気持ちのいいキスに恍惚とした表情で見つめていると

『そんな誘う目で見られたらこのままエルドを私のものにしたくなる。続きは君の家でいいかな?』

と抱きしめられながら耳元で囁かれる。

『んん……っ』

身体の奥に疼きを感じながら頷くと、ノーランは嬉しそうに私を強く抱きしめた。



数時間抱きしめ合いながら眠っていると、あっという間に着陸体制に入ることになり、着替えを済ませてリビングへと戻った。

ノーランの息子たちは私たちの関係が変わったことにすぐに気付いたようだったけれど、非難するどころかむしろ好意的に見てくれているようだ。

そのことにホッとしつつ、私はノーランに幸せでいっぱいの笑顔を向けた。
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