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私の役目
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神代家執事・郡司さん視点のお話です。
* * *
<side郡司>
とうとう選ばれし花嫁さまがお越しになる。
この日をどれだけ待ち侘びたことか。
旦那さま自ら花嫁さまの元に参られ、このお屋敷にお連れになる。
「良いな。今日はこの神代家にとって最も重要な日となる。決してお二人の邪魔はせぬように」
屋敷にいるすべての使用人にしっかりと言いふくめ、旦那さまが花嫁さまと共に戻られるのを待った。
屋敷中が未だかつてないほどの緊張感に包まれる中、旦那さまはしっかりとその腕に花嫁さまをお抱きになって戻られた。
旦那さまのこの上なく幸せそうな笑顔に私は安堵しつつ、この屋敷の執事として花嫁さまにご挨拶をした。
私のような使用人に対してどのような態度をとられるだろうかと少し心配していたが。花嫁の澪さまは、旦那さまが私に嫉妬するほどの笑顔を向けられ、丁寧にお礼を仰った。
さすが、神の遣いである旦那さまの花嫁として神さまに選ばれたお方だ。全てが清らかでいらっしゃる。
これから初夜の儀式に入られるお二人を見送り、私たちは儀式が無事に終わるのを待つことになる。
これまで待ち続けてきた日々を思えば、一週間の初夜の儀式などなんとも短い時間ではあるが、旦那さまにとってはこの上なく濃密で幸せの時間。
お二人の幸せを願いながら、私は部屋のベルが鳴るのを待ち続けた。
最初のベルが鳴ったのは、それから二日が経った頃だった。
初夜の儀式中に部屋に入ることができるのは、私以外にはいない。
すなわち私一人で部屋を整えなければいけないのだ。
全神経を集中させ、お二人がバスルームに移動なさったのを見計らって寝室に入り、大量の蜜に濡れたシーツをすべて取り替える。ベッド脇には、花嫁の澪さまのための飲み物と栄養たっぷりのスープを用意し、お二人が出てこられる前に急いで寝室を出た。
神の遣いである旦那さまは初夜の儀式の間は花嫁さまの放つ蜜しか口にされない。
花嫁さまも旦那さまの蜜で栄養をとることができるが、まだお子さまを身籠ることができるように身体が変化するまでは、蜜だけではたりず、食物での栄養が必要になってくる。
けれど、それもこの初夜の儀式の間だけだ。
あと二度ほどこのスープをお召し上がりになったあとは、それから先は旦那さまの蜜が栄養となるため、食物での栄養は必要ではなくなる。ただし、これは愛の行為の最中での話だ。日常生活では旦那さまにも澪さまにもしっかりと食事をお召し上がりいただく。澪さまが我が家の食事に満足していただくのもこれからの私の大切な仕事だ。
寝室に篭られて八日目の朝。いや、もうお昼に近かっただろうか。
お二人の部屋のベルが鳴り、私は少し緊張しつつ部屋に向かった。
寝室から出てこられていた旦那さまは澪さまを膝にお乗せになり、ピッタリと隙間なく抱きしめておられた。
澪さまはそれを嬉しそうに受け入れていらっしゃって、私は初夜の儀式がつつがなく終えられたと理解した。
「郡司。私たちは正式に夫夫となった。喜んでくれるか?」
「はい。旦那さま。澪さま。おめでとうございます。私はこの日をどれだけ待ち侘びたことか……本当に幸せにございます」
「澪をここに連れてきた時にも伝えたが、改めてもう一度言っておく。これからは澪をこの屋敷で一番身分が高いものとして心を込めて尽くすように。しっかりと使用人たちにも伝えておけ」
「承知いたしました」
「それから、みだりに澪と話をしないように伝えておくのだぞ」
「承知いた――」
「えっ? 護さん……僕、お屋敷の人とお話ししてはいけないのですか?」
旦那さまの言葉に、澪さまが驚きの声を上げられた。
「澪は私とだけ話をしていればいい。澪は私だけのものだろう?」
「それはもちろんです。でも……僕、護さんの夫になるのですから、このお屋敷を支えてくださっている方たちとも仲良くなってお話ししたいです。だって、護さんと僕のために頑張ってくださる方たちですよ。いつか生まれてくる僕と護さんの子どもも皆さんに愛されて育てたいです。護さん……だめ、ですか?」
「くっ――!!! 澪との、子ども……っ。た、確かにそうだな。澪の言うとおりだ。郡司、私の可愛い夫がそう言っているから皆にもしっかりと伝えておけ」
「承知いたしました」
あの旦那さまの考えをこんなにも簡単に変えてしまうなんて……。
ああ、本当に我が家には素晴らしい花嫁さまがいらっしゃった。
さすが、神さまに選ばれたお方だ。
「わぁー、嬉しい! 護さん、大好き!」
「――っ、澪! 私も愛しているよ」
旦那さまにまた欲望の光が宿ったのを見て、私は急いで部屋を出た。
これからもずっと、お二人の幸せな時間を見守る。
それが私の役目だ。
* * *
<side郡司>
とうとう選ばれし花嫁さまがお越しになる。
この日をどれだけ待ち侘びたことか。
旦那さま自ら花嫁さまの元に参られ、このお屋敷にお連れになる。
「良いな。今日はこの神代家にとって最も重要な日となる。決してお二人の邪魔はせぬように」
屋敷にいるすべての使用人にしっかりと言いふくめ、旦那さまが花嫁さまと共に戻られるのを待った。
屋敷中が未だかつてないほどの緊張感に包まれる中、旦那さまはしっかりとその腕に花嫁さまをお抱きになって戻られた。
旦那さまのこの上なく幸せそうな笑顔に私は安堵しつつ、この屋敷の執事として花嫁さまにご挨拶をした。
私のような使用人に対してどのような態度をとられるだろうかと少し心配していたが。花嫁の澪さまは、旦那さまが私に嫉妬するほどの笑顔を向けられ、丁寧にお礼を仰った。
さすが、神の遣いである旦那さまの花嫁として神さまに選ばれたお方だ。全てが清らかでいらっしゃる。
これから初夜の儀式に入られるお二人を見送り、私たちは儀式が無事に終わるのを待つことになる。
これまで待ち続けてきた日々を思えば、一週間の初夜の儀式などなんとも短い時間ではあるが、旦那さまにとってはこの上なく濃密で幸せの時間。
お二人の幸せを願いながら、私は部屋のベルが鳴るのを待ち続けた。
最初のベルが鳴ったのは、それから二日が経った頃だった。
初夜の儀式中に部屋に入ることができるのは、私以外にはいない。
すなわち私一人で部屋を整えなければいけないのだ。
全神経を集中させ、お二人がバスルームに移動なさったのを見計らって寝室に入り、大量の蜜に濡れたシーツをすべて取り替える。ベッド脇には、花嫁の澪さまのための飲み物と栄養たっぷりのスープを用意し、お二人が出てこられる前に急いで寝室を出た。
神の遣いである旦那さまは初夜の儀式の間は花嫁さまの放つ蜜しか口にされない。
花嫁さまも旦那さまの蜜で栄養をとることができるが、まだお子さまを身籠ることができるように身体が変化するまでは、蜜だけではたりず、食物での栄養が必要になってくる。
けれど、それもこの初夜の儀式の間だけだ。
あと二度ほどこのスープをお召し上がりになったあとは、それから先は旦那さまの蜜が栄養となるため、食物での栄養は必要ではなくなる。ただし、これは愛の行為の最中での話だ。日常生活では旦那さまにも澪さまにもしっかりと食事をお召し上がりいただく。澪さまが我が家の食事に満足していただくのもこれからの私の大切な仕事だ。
寝室に篭られて八日目の朝。いや、もうお昼に近かっただろうか。
お二人の部屋のベルが鳴り、私は少し緊張しつつ部屋に向かった。
寝室から出てこられていた旦那さまは澪さまを膝にお乗せになり、ピッタリと隙間なく抱きしめておられた。
澪さまはそれを嬉しそうに受け入れていらっしゃって、私は初夜の儀式がつつがなく終えられたと理解した。
「郡司。私たちは正式に夫夫となった。喜んでくれるか?」
「はい。旦那さま。澪さま。おめでとうございます。私はこの日をどれだけ待ち侘びたことか……本当に幸せにございます」
「澪をここに連れてきた時にも伝えたが、改めてもう一度言っておく。これからは澪をこの屋敷で一番身分が高いものとして心を込めて尽くすように。しっかりと使用人たちにも伝えておけ」
「承知いたしました」
「それから、みだりに澪と話をしないように伝えておくのだぞ」
「承知いた――」
「えっ? 護さん……僕、お屋敷の人とお話ししてはいけないのですか?」
旦那さまの言葉に、澪さまが驚きの声を上げられた。
「澪は私とだけ話をしていればいい。澪は私だけのものだろう?」
「それはもちろんです。でも……僕、護さんの夫になるのですから、このお屋敷を支えてくださっている方たちとも仲良くなってお話ししたいです。だって、護さんと僕のために頑張ってくださる方たちですよ。いつか生まれてくる僕と護さんの子どもも皆さんに愛されて育てたいです。護さん……だめ、ですか?」
「くっ――!!! 澪との、子ども……っ。た、確かにそうだな。澪の言うとおりだ。郡司、私の可愛い夫がそう言っているから皆にもしっかりと伝えておけ」
「承知いたしました」
あの旦那さまの考えをこんなにも簡単に変えてしまうなんて……。
ああ、本当に我が家には素晴らしい花嫁さまがいらっしゃった。
さすが、神さまに選ばれたお方だ。
「わぁー、嬉しい! 護さん、大好き!」
「――っ、澪! 私も愛しているよ」
旦那さまにまた欲望の光が宿ったのを見て、私は急いで部屋を出た。
これからもずっと、お二人の幸せな時間を見守る。
それが私の役目だ。
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素敵ですね❤️いいリクエストありがとうございます☺️
素敵な旦那さまと可愛いニャンコが降ってきたら書いてみます❤️
ありがとうございます⭐️
四葩さま。コメントありがとうございます!
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