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番外編
アシュリー宿泊の裏側
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<sideウィリアム>
「ははっ。あんなに浮かれたアシュリーはなかなかみられないぞ」
「そんなに?」
「ああ、泊まりに来ないかと誘った時は羽根でも生えて飛んでいってしまいそうだったよ」
「そんなに喜んでくれたなら良かった。レイもアシュリーさんと一緒に過ごせる時間が長くなって喜んでるよ」
父上が急遽泊まりがけで視察に行かれたことから、ルカが
――ねぇ、今日アシュリーさんに泊まりにきてもらったらどうかな?
と提案したのだ。
レイとリヒトが生まれてしばらく経つが、ルカはまだ一人で動き回れるような状態にはない。
ただでさえ小さな身体なのに、双子を産んだことがルカの身体に負担をかけているのだろう。
その上、授乳もかなりの負担が大きい。
食事を摂った以上にレイとリヒトに栄養が奪われるのだから当然だろう。
だから、少しでも体力を温存するために一日の全てをベッドで過ごすことになる。
私はそんなルカのそばについていてあげたいのだ。
父上も陛下も私の思いを汲んで休職をを認めてくださった。
だが、レジーが身籠ったことで頼みの綱であったデーヴィッドも騎士団を休職することになり、全ての負担がアシュリーにかかることとなった。
流石に数ヶ月一人で騎士団をまとめるのは辛いということで、私に週に二度騎士団に行かせるように取りなしたのがルカだったのだ。
正直言って、まだレイとのことを完全に認めたわけではない。
だが、私とルカが出会ったように、アシュリーとレイが運命なのだとしたら、私がどれほど反対したとて二人はくっつくのだろう。
自分がルカと引き離されたら生きていけないのを重々わかっているだけに、無駄に反対などはしたくない。
将来レイ本人が望むならその通りにしてやりたい。
私はレイもリヒトも幸せになることを願うだけだ。
「アシュリーさまがお食事の間、私がレイさまのお世話をお代わりしようとしたのですが、レイさまがアシュリーさまが良いと仰って、抱っこなさったままお食事をなさっておいででしたよ」
「そうか。いつもはセスに抱っこされるとおとなしくなるのだがな。アシュリーがいれば、アシュリーが良いのだな。レイは」
「ウィル、寂しい?」
「いや、ちゃんとアシュリーを認識しているのだから、賢い子だ」
「そうだね。リヒトもいつか、大事な人ができるのかなぁ……うーん、良いことだけど……ちょっと寂しいかも。ねっ、リヒト」
「だぁっ、だぁっ」
「リヒト。お母さまもリヒトが大好きよ」
リヒトが大丈夫だよと言わんばかりにルカの頬に手を伸ばし、ペタペタと触れる。
傍目から見れば赤子と母の愛らしい光景なのだが、赤子で、しかも自分の息子とわかっていても、やはり私のルカに触れるのは嫉妬してしまうな。
リヒトが私にそっくりだから余計そう感じるのかもしれないが……。
「ルカ、リヒトと風呂に入ってくるよ」
「うん。あとで僕もお風呂に入れてくれる?」
「ああ、もちろんだ。私だけの大切な役目なのだからな。寂しいだろうがしばらく待っていてくれ」
ルカを待たせないために素早く服を脱ぎ、リヒトも裸にして風呂に入る。
膝に乗せて身体を洗ってやると、だいぶ肉がついて身長も大きくなっていることに気づく。
ここしばらくはセスに風呂を頼んでいたから気づくのが遅くなったが、二週間前と比べてもだいぶ大きくなっているな。
ルカの授乳もこれは相当に大変だろう。
やはり人工ミルクを増やすことにして正解だったな。
リヒトと比べるとレイはかなり小さいが、ジョージの話では何の問題もないというのだから、これは個人差の問題なのだろう。
「お前は大きくなって、この国とルカやレイを守れるように騎士団に入るのだぞ」
「だぁっ、だぁっ!」
私の上で飛び跳ねるその力強いキックにやはり私の子だと再確認する。
これから先、ルカを奪い合うことになりそうな気配がするが、
「わかっているだろうがルカは私のものだからな」
自分の息子とはいえ、容赦する気はない。
「わかったな?」
「だぁっ! だぁっ!!」
「ぐぅ――!!!」
飛び跳ねたリヒトの足が愚息を踏みつけて、とんでもない痛みに悶絶してしまいそうになる。
くそっ、こいつ。
わざとじゃないだろうな?
リヒトの嬉しそうな笑顔に一瞬、ルカの表情が見える。
こんなところだけルカに似ているのか……。
リヒトの中にルカが垣間見えた瞬間、愚息を踏みつけられた怒りが霧散する。
ああ、もしかしたら私は家族で一番弱いのかもしれないな。
久しぶりの息子との風呂で私はそれを知ったのだった。
「ははっ。あんなに浮かれたアシュリーはなかなかみられないぞ」
「そんなに?」
「ああ、泊まりに来ないかと誘った時は羽根でも生えて飛んでいってしまいそうだったよ」
「そんなに喜んでくれたなら良かった。レイもアシュリーさんと一緒に過ごせる時間が長くなって喜んでるよ」
父上が急遽泊まりがけで視察に行かれたことから、ルカが
――ねぇ、今日アシュリーさんに泊まりにきてもらったらどうかな?
と提案したのだ。
レイとリヒトが生まれてしばらく経つが、ルカはまだ一人で動き回れるような状態にはない。
ただでさえ小さな身体なのに、双子を産んだことがルカの身体に負担をかけているのだろう。
その上、授乳もかなりの負担が大きい。
食事を摂った以上にレイとリヒトに栄養が奪われるのだから当然だろう。
だから、少しでも体力を温存するために一日の全てをベッドで過ごすことになる。
私はそんなルカのそばについていてあげたいのだ。
父上も陛下も私の思いを汲んで休職をを認めてくださった。
だが、レジーが身籠ったことで頼みの綱であったデーヴィッドも騎士団を休職することになり、全ての負担がアシュリーにかかることとなった。
流石に数ヶ月一人で騎士団をまとめるのは辛いということで、私に週に二度騎士団に行かせるように取りなしたのがルカだったのだ。
正直言って、まだレイとのことを完全に認めたわけではない。
だが、私とルカが出会ったように、アシュリーとレイが運命なのだとしたら、私がどれほど反対したとて二人はくっつくのだろう。
自分がルカと引き離されたら生きていけないのを重々わかっているだけに、無駄に反対などはしたくない。
将来レイ本人が望むならその通りにしてやりたい。
私はレイもリヒトも幸せになることを願うだけだ。
「アシュリーさまがお食事の間、私がレイさまのお世話をお代わりしようとしたのですが、レイさまがアシュリーさまが良いと仰って、抱っこなさったままお食事をなさっておいででしたよ」
「そうか。いつもはセスに抱っこされるとおとなしくなるのだがな。アシュリーがいれば、アシュリーが良いのだな。レイは」
「ウィル、寂しい?」
「いや、ちゃんとアシュリーを認識しているのだから、賢い子だ」
「そうだね。リヒトもいつか、大事な人ができるのかなぁ……うーん、良いことだけど……ちょっと寂しいかも。ねっ、リヒト」
「だぁっ、だぁっ」
「リヒト。お母さまもリヒトが大好きよ」
リヒトが大丈夫だよと言わんばかりにルカの頬に手を伸ばし、ペタペタと触れる。
傍目から見れば赤子と母の愛らしい光景なのだが、赤子で、しかも自分の息子とわかっていても、やはり私のルカに触れるのは嫉妬してしまうな。
リヒトが私にそっくりだから余計そう感じるのかもしれないが……。
「ルカ、リヒトと風呂に入ってくるよ」
「うん。あとで僕もお風呂に入れてくれる?」
「ああ、もちろんだ。私だけの大切な役目なのだからな。寂しいだろうがしばらく待っていてくれ」
ルカを待たせないために素早く服を脱ぎ、リヒトも裸にして風呂に入る。
膝に乗せて身体を洗ってやると、だいぶ肉がついて身長も大きくなっていることに気づく。
ここしばらくはセスに風呂を頼んでいたから気づくのが遅くなったが、二週間前と比べてもだいぶ大きくなっているな。
ルカの授乳もこれは相当に大変だろう。
やはり人工ミルクを増やすことにして正解だったな。
リヒトと比べるとレイはかなり小さいが、ジョージの話では何の問題もないというのだから、これは個人差の問題なのだろう。
「お前は大きくなって、この国とルカやレイを守れるように騎士団に入るのだぞ」
「だぁっ、だぁっ!」
私の上で飛び跳ねるその力強いキックにやはり私の子だと再確認する。
これから先、ルカを奪い合うことになりそうな気配がするが、
「わかっているだろうがルカは私のものだからな」
自分の息子とはいえ、容赦する気はない。
「わかったな?」
「だぁっ! だぁっ!!」
「ぐぅ――!!!」
飛び跳ねたリヒトの足が愚息を踏みつけて、とんでもない痛みに悶絶してしまいそうになる。
くそっ、こいつ。
わざとじゃないだろうな?
リヒトの嬉しそうな笑顔に一瞬、ルカの表情が見える。
こんなところだけルカに似ているのか……。
リヒトの中にルカが垣間見えた瞬間、愚息を踏みつけられた怒りが霧散する。
ああ、もしかしたら私は家族で一番弱いのかもしれないな。
久しぶりの息子との風呂で私はそれを知ったのだった。
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