上 下
70 / 85
番外編

誕生の裏話 <sideセス&アシュリー>

しおりを挟む
すみません。
昨日完結設定にしたばかりですが、前話<僕たちの赤ちゃん>の対になるようなお話を書いたので投稿します。
完結完結詐欺になって申し訳ありませんが(汗)
楽しんでいただけると嬉しいです。

  *   *   *


<sideセス>

「おかえりなさいませ。検診はいかがでございましたか?」

「セス、それが大変なのだ。出産が急遽明後日になった。手術の準備を早急に進めてくれ」

「明後日、でございますか? まさか、ルカさまとお子さまの身に何か?」

「いや、そうではない。子たちがもうすでに大きくなっているから、取り出したほうがいいそうだ。あまり大きくなりすぎるとルカの腹に収まりきらなくなる」

確かにもうすでにルカさまのお腹はかなりの大きさだ。
この小さなお腹にお子さまが二人もいらっしゃるのだから当然だ。

「承知いたしました。手術室に関しては何があっても良いようにとすでに万全に整えてございます。ウィリアムさまは当日手術には立ち合いになられるのでしょう?」

「無論、そのつもりだ。それでだ、子たちが生まれたらすぐに身体を清める必要がある。それをセスと他に誰かに任させたいのだが……」

「それなら旦那さまかアシュリーさまにお任せいたしましょうか」

「問題はそこなのだ、ジョージは2人だけだと言っているから、セスともう1人になるが……おそらく陛下もご希望になるだろう? とにかく、私はルカに付き添うから、あとの1人を誰にするかは話し合いでうまくやってくれ」

「承知いたしました」

そうは返したものの、おそらく揉めるだろう。
なんと言っても旦那さまも国王さまもずっと楽しみにしていたのだから。

私はすぐに国王さまとアシュリーさまに早馬を出し、その間に旦那さまに事の次第を報告にいった。
話を聞くや否や、旦那さまは当然のように

「私はルカの父親で、生まれてくる子たちの祖父なのだぞ! 私がやるのが当たり前だろう!!」

と息巻いていらっしゃったが、なかなかそうもいかない事情がある。

なんと言っても国王さまはルカさまの生まれ変わりでいらっしゃる御子をアシュリーさまのご伴侶さまになさるおつもりだからだ。
しかもアシュリーさまもそのつもりでいらっしゃるようだし、そして、ウィリアムさまもそのことを渋々ながらも容認なさっておいでだ。

とすれば、本来ならばアシュリーさまにお任せするのが一番良いのではと思うのだが、お子さまの誕生を楽しみにしていらっしゃる旦那さまと国王さまのお気持ちを察するに、私の方から率先してアシュリーさまにお任せくださいと言いづらい。

しかし、手術はすでに明後日と決まっている。
長引かせるわけにはいかない。

そう思っていると、ちょうどいいタイミングで国王さまとアシュリーさまがお着きになった。

ここからうまく話し合いが進めば良いのだが……。
あとはアシュリーさまにお任せするしかない。


<sideアシュリー>

フローレス公爵家からの早馬に、まさかもう生まれたのか! と慌てて手紙を見ると、ルカの手術が明後日になったとの報告だった。
そのことについて至急話がしたいと公爵家執事セスからの手紙に私は父上と共に急いで公爵家へと向かった。

どうやらルカは出産に備えて部屋で安静にしているようだ。
そんなルカのそばにウィリアムも付き添っているらしい。

私と父上は屋敷の応接間へと案内され、話を聞くこととなった。

「それで出産時についての話とはなんだ?」

「兄上、実はルカの子どもたちが生まれた後にすぐに身体を清めてやる人が必要なのだそうで、その役目を我々の中から選ぶのでございますが……」

「何? ならば、私だ! なんと言っても私は国王なのだからな。私以外にその役目をできるものはおらぬだろう」

「いえいえ、兄上。私は生まれてくる子たちにとって祖父なのですよ。私に一番の資格がございます」

「ちょっと待ってください。私はルカの生まれ変わりである子の伴侶となるべき者のはずです。私がその役目を担うのが当然では?」

「お前、それとこれとは違うだろう!」

「いいえ、父上。私がやります!」

私の伴侶となるべき者の初めての介助を、何が悲しくて父上たちにさせなければならぬのだ!
ここは絶対に引くわけにはいかない!

そう思っていると、黙って話を聞いていたセスがゆっくりと口を開いた。

「失礼致します。僭越ながら、私の方からも一つご提案を申し上げてもよろしいでしょうか?」

「なんだ、セス。何かあるのか?」

「はい。お子さまたちの御介助を実際にやっていただいて、誰にお願いするかをお決めしたく存じます」

「実際にやって? それはどういう意味だ?」

「生まれたてのお子さまと同じ大きさ、同じ体重の人形を相手に身体を清めていただきたいのです。それで一番綺麗にしていただいた方にお願いしとうございます」

なるほど、それはいい考えだ。

父上もルカの父上もその提案に賛同し、急いで手術室に向かい、一人一人やってみることになった。
とはいえ、最初から結果は見えている。

父上もルカの父上も子の世話などしたことがないのだから、やり方一つ知らず、父上に至っては湯の中に人形を落としてしまう始末。
その点、私は騎士団で大人相手ではあるが介助をした経験もある。
2人よりはマシだろう。

というわけであっさりと私が任されることとなった。
今思えば、やったこともないのにどうしてあんなにも気楽に、父上とルカの父上がセスの提案に乗ったのか不思議でならない。
まぁ、やったことがないからこそ、小さな子どもの世話など簡単だと思ったのだろうな。

兎にも角にも、あっという間に手術の日がやってきた。

私とセスは手術室に立ち入ることはできず、隣室でただひたすらに誕生を待ち続けるだけ。
準備万端で待ち続けていると、ようやく手術室から赤子の泣き声が聞こえてきた。
それからすぐにウィリアムが両手に子を抱いて現れ、

「アシュリー、こちらがルカの……生まれ変わりだ」

と私に直々に手渡してくれた。

ルカと同じ金色でふわふわの髪色、目は瞑っているからわからないがやはりルカによく似ている。
ああ、ルカ……ようやく私の腕の中に抱けるのだな。

幸せを噛み締めていると、

「アシュリーさま、こちらの御子はウィリアムさまにそっくりでいらっしゃいますよ」

と嬉しそうにセスが見せてくれる。

ああっ! 本当にウィリアムに瓜二つだ。
なるほど。
どうしてこちらがすぐにルカの生まれ変わりだとわかったのか理由がわかった。

この子は大きくなったら母親のルカを巡ってウィリアムと喧嘩になりそうだ。
ウィリアムはルカが絡むと嫉妬深いから、いくら子どもとはいえ本気になりそうだな。


「お前は私の伴侶だぞ。私が成人までしっかりと育ててやる。だから早く大きくなれ!」

生まれたばかりですでに笑みを浮かべているように見える、生まれたてのかわいい伴侶の身体を清め、私の手で美しい産着に着替えさせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

処理中です...