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番外編
どちらが上かわからない <アシュリー&デーヴィッド編>
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「デーヴィッド、ちょっといいか?」
明日からの初夜ごもりのことで浮かれているのがありありとわかるデーヴィッドに恐る恐る声をかけた。
「はい。副団長、何かご用事ですか?」
「いや、その……なんだ。かなり機嫌がいいようだな」
「もちろんじゃないですか! 明日はこの3年待ち続けたレジーとの婚礼の儀なのですよ。しかも初夜ごもりで1週間もレジーと愛を育めるなんてこの上ない幸せですよ。私はこのユロニア王国で今一番幸せな男です」
今まで見たこともないほどの嬉しそうなデーヴィッドの姿に緊張が走るが、そうはいってもデーヴィッドも騎士団の団員なのだ。
副団長である私の言葉に逆らうわけがない。
緊張に震えながら、私はデーヴィッドの目を見た。
「それはそうと、ウィルとルカの話は聞いたか?」
「はい。こんなにも早くおめでたい話が聞けるとは思っていませんでしたので、私もレジーも喜んでおります。我々のところにも早く天使がやってきてくれるように明日から頑張らなければと思っています」
「いや……それなんだが、ルカの腹の子はどうやら双子らしいのだ」
「双子ですか? それはまた素晴らしいことですね!」
「ああ、この国にとっても喜ばしいことなのだが、ただでさえ秘薬での男の妊娠な上に双子ともあれば、気をつけなければならないだろう?」
「それはそうですね。多胎妊娠は母体にかなりの影響を与えるようですから。義姉上には十分安静にしていただかないと」
おおっ! デーヴィッドの方からいい言葉を言ってくれた!
これに気づいてくれれば、あとは畳み掛けるだけだ!
いけ、アシュリーっ!!
私は自分を鼓舞しながら、必死に話の核心へと進めた。
「そうなんだ。ルカが安静にしなければならないのだ。だから、ウィリアムがしばらく騎士団を休むことになってな。それでだ、今、デーヴィッドに1週間も騎士団を抜けられるのは正直辛くて、悪いが婚礼の儀を当分の間延期に――」
「すみません、今なんと仰ったのですか?? よく聞こえなくて」
「ひぃ――っ!!!!!!」
突然吹雪のような寒気が全身を襲う。
見れば、とびきりの笑顔を見せるデーヴィッドの目の奥が笑っていない。
「申し訳ありません。副団長の声が突然聞こえなくなってしまったのでもう一度仰っていただいてもよろしいですか?」
私は副団長でなかったか?
騎士団のNO.2だぞ。
その上、このユロニア王国の王子なのだぞ。
それがなぜデーヴィッド相手にこんなに怖れるなど……。
まるで蛇に睨まれたカエルのようではないか。
だが、もう一度デーヴィッドに話す気力は私にはない。
「……いや、なんでもない。明日の婚礼の儀が滞りなく進むよう祈っている。レジーによろしく伝えてくれ」
「はい。アシュリー王子殿下。ありがとうございます」
どうやら私への怒りを収めてくれたようだ。
笑顔のデーヴィッドに見送られながら、私は部屋を出た。
はぁーーーっ。
明日から私一人でこの騎士団をまとめ上げるのか……。
流石にどうしようもなくなったらウィリアムを呼ぼうと思っていたが、腹の子が双子だとわかった今、絶対にルカのそばから離れることはしないだろう。
デーヴィッドはもう確実に無理だとわかった今、やり遂げるしかない。
私にとって途轍もない長い1週間になりそうだ。
明日からの初夜ごもりのことで浮かれているのがありありとわかるデーヴィッドに恐る恐る声をかけた。
「はい。副団長、何かご用事ですか?」
「いや、その……なんだ。かなり機嫌がいいようだな」
「もちろんじゃないですか! 明日はこの3年待ち続けたレジーとの婚礼の儀なのですよ。しかも初夜ごもりで1週間もレジーと愛を育めるなんてこの上ない幸せですよ。私はこのユロニア王国で今一番幸せな男です」
今まで見たこともないほどの嬉しそうなデーヴィッドの姿に緊張が走るが、そうはいってもデーヴィッドも騎士団の団員なのだ。
副団長である私の言葉に逆らうわけがない。
緊張に震えながら、私はデーヴィッドの目を見た。
「それはそうと、ウィルとルカの話は聞いたか?」
「はい。こんなにも早くおめでたい話が聞けるとは思っていませんでしたので、私もレジーも喜んでおります。我々のところにも早く天使がやってきてくれるように明日から頑張らなければと思っています」
「いや……それなんだが、ルカの腹の子はどうやら双子らしいのだ」
「双子ですか? それはまた素晴らしいことですね!」
「ああ、この国にとっても喜ばしいことなのだが、ただでさえ秘薬での男の妊娠な上に双子ともあれば、気をつけなければならないだろう?」
「それはそうですね。多胎妊娠は母体にかなりの影響を与えるようですから。義姉上には十分安静にしていただかないと」
おおっ! デーヴィッドの方からいい言葉を言ってくれた!
これに気づいてくれれば、あとは畳み掛けるだけだ!
いけ、アシュリーっ!!
私は自分を鼓舞しながら、必死に話の核心へと進めた。
「そうなんだ。ルカが安静にしなければならないのだ。だから、ウィリアムがしばらく騎士団を休むことになってな。それでだ、今、デーヴィッドに1週間も騎士団を抜けられるのは正直辛くて、悪いが婚礼の儀を当分の間延期に――」
「すみません、今なんと仰ったのですか?? よく聞こえなくて」
「ひぃ――っ!!!!!!」
突然吹雪のような寒気が全身を襲う。
見れば、とびきりの笑顔を見せるデーヴィッドの目の奥が笑っていない。
「申し訳ありません。副団長の声が突然聞こえなくなってしまったのでもう一度仰っていただいてもよろしいですか?」
私は副団長でなかったか?
騎士団のNO.2だぞ。
その上、このユロニア王国の王子なのだぞ。
それがなぜデーヴィッド相手にこんなに怖れるなど……。
まるで蛇に睨まれたカエルのようではないか。
だが、もう一度デーヴィッドに話す気力は私にはない。
「……いや、なんでもない。明日の婚礼の儀が滞りなく進むよう祈っている。レジーによろしく伝えてくれ」
「はい。アシュリー王子殿下。ありがとうございます」
どうやら私への怒りを収めてくれたようだ。
笑顔のデーヴィッドに見送られながら、私は部屋を出た。
はぁーーーっ。
明日から私一人でこの騎士団をまとめ上げるのか……。
流石にどうしようもなくなったらウィリアムを呼ぼうと思っていたが、腹の子が双子だとわかった今、絶対にルカのそばから離れることはしないだろう。
デーヴィッドはもう確実に無理だとわかった今、やり遂げるしかない。
私にとって途轍もない長い1週間になりそうだ。
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