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私の使命
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「実はな、今日陛下の元へ相談に行っておったのだ」
「陛下に? なんのご相談でございますか?」
「ルカが別人格に生まれ変わったと告白したのだ」
そうか。
私がアシュリーに報告したように、父上も兄上であるグレン国王陛下に打ち明けたのだな。
信じてもらえたのであれば、これ以上強い味方はいないだろう。
「それで陛下は信じてくださったのですか?」
「ああ、もちろんだ。その上で、ルカのこれからのことを相談したのだ。今まで通りカイトがルカとして生活していくと、今日のようなことがまた起こりうる。水をかけられるならまだしも、これが刃物であったりすればどうなるか……。いや、連れ去られるなんてことも考えられる」
ルカが刺されたり、連れ去られるなんてこと考えたくもないが今日のことを思えば大袈裟だとは思えない。
「公爵令息として不測の事態に備え、身を守れるくらいの護身術を習得していた以前のルカならいざ知らず、今のルカには自分自身を守る術もない。其方がいつでもルカについていると言ってもいつどこで1人になるかもわからぬ。それに今のルカにいつ襲われるかもしれぬ恐怖に怯えながら生活させるのは酷というものだろう。今のルカが安心して生活するためには、以前のルカとは変わったのだと周知させる必要がある」
アシュリーには私がルカを守るなどと大口を叩いたが、私はルカのそばについていながらあのものがルカに水をかけるのを止めることさえ出来なかった。
子どもだからと油断してしまったのだ。
もし、ルカがひとりの時を狙われでもしたら、父上の言う通りルカは何も防御などできるはずもない。
「確かにその通りでございます。ですが、どのようにして周知させるのでございますか?」
「陛下がルカのために宴を開こうとご提案くださったのだ」
「宴を?」
「ああ。2週間後に其方とルカの婚姻の儀も兼ねて、王家主催の宴を開催することにしたのだ」
「2週間後? 婚姻の儀はひと月後では?」
「ああ。陛下が、其方がルカの伴侶となったことを少しでも早く国内に広めたほうが良いと仰るのでな、私も日付けに関しては抵抗したのだが、ルカの平和な生活を望むなら早い方がいいだろうと押し切られてしまったのだ。だが、其方がどうしてもひと月後が良いと申すなら、もう一度陛下に頼みに――」
「いえ、2週間後でっ! 2週間後でお願いいたします」
まさか、半月も早くルカと正式な夫夫になれるとは思っても見なかった。
しかし、裏を返せばそれほどルカのことを心配されているということだ。
これから私たちが夫夫として幸せな時を過ごしていくためには、その宴での反応が大きな鍵となる。
「ウィリアム……ルカを頼むぞ」
父上の低い声色に身が引き締まる思いでいっぱいだった。
「私にお任せください」
もう二度とルカに今日のような思いはさせない。
私は深く心に刻んだ。
部屋に戻るとまだルカは寝覚めていないようでホッとした。
起きてひとりにはさせたくないと思っていたからな。
そっと寝室に入り、眠っているルカの隣に腰を下ろした。
ゆっくりと頭を抱き上げ、私の膝に乗せおでこに触れてみた。
ああ、よかった。
熱は下がったようだな。
ルカの綺麗な艶髪を優しく撫でると、まだ少し濡れている。
あのカフェでの出来事が私の脳裏に一気に甦る。
人からの憎しみの気持ちに真っ向から向き合ったルカ、あの時の思いは如何程だったろう。
相手が子どもだからこそ、嘘偽りのない憎しみがルカの心を抉ったことだろう。
この国唯一の公爵家の跡継ぎであるルカの婚姻の儀と共に、王家主催の宴が開かれるとあれば国内の貴族は全て参加するはずだ。
その中で誰がルカに恨みを持っているのか……すぐに調べる必要がある。
アシュリーに相談して、当日はルカの周りを騎士たちで固めた方がいいだろうな。
そんな考えを思い巡らせていると、ルカが身動いだ。
「んっ……」
「ルカ、起きたのか?」
「ふふっ。やっぱり、ウィルだった……」
「どうしたんだ?」
嬉しそうに笑顔で見上げてくるルカが愛おしい。
ルカの身体を抱きしめながら、そう尋ねると、
「ウィルの匂いが、夢の中でもしてました……。だから起きた時も抱き締めていてくれたらいいなって思ってたんです。そしたらウィルが本当に抱きしめててくれたから嬉しくて……」
と微笑んでくれた。
ああ、この子はこれだけでこんなにも笑顔になってくれるのだ。
この子の笑顔を一生守り続けたい。
それが私の使命なのだと心からそう思った瞬間だった。
「ルカ、私たちの婚姻の儀が早まるそうだ」
「えっ? どうして……?」
「私もルカもお互いに愛し合っているから、父上と国王さまが早く正式な夫夫にしてあげたいと思ってくださったのだよ」
そういうと、ルカは一瞬喜びを滲ませたものの、
「でも……」
と急に浮かない顔になってしまった。
まさか、私との結婚が嫌になったのでは……?
と愚かな考えが頭をよぎる。
いや、たった今幸せそうな笑顔を向けてくれたばかりではないか。
焦る心を必死に抑えながら冷静に尋ねてみた。
「何か気になることでもあるのか?」
「……うーん、だって……1ヶ月くらい僕の蜜をウィルに取り込んでもらわないと赤ちゃんができないんですよね?」
「えっ?」
「そんな不完全な身体じゃウィルのお嫁さん? になれないでしょう?」
「ぐぅ――っ!!!」
ルカが私のお嫁さん……。
確かにルカは私の夫となるのだが……いや、子を産むのだから妻でいいのか……。
いや、それよりも私があの時いった戯言を本気で考えてくれていたのか……。
どうする? なんていえばルカを安心させられるか……。
「ウィル……? やっぱり、僕……」
「大丈夫だ、心配しなくていい。ルカが頑張れば2週間でも完全になれるよ」
「本当ですかっ?!! じゃあ、僕、頑張ります!!!」
屈託のない笑顔でそう宣言され、私は
「ああ……頑張ろうな」
と返すのが精一杯だった。
「陛下に? なんのご相談でございますか?」
「ルカが別人格に生まれ変わったと告白したのだ」
そうか。
私がアシュリーに報告したように、父上も兄上であるグレン国王陛下に打ち明けたのだな。
信じてもらえたのであれば、これ以上強い味方はいないだろう。
「それで陛下は信じてくださったのですか?」
「ああ、もちろんだ。その上で、ルカのこれからのことを相談したのだ。今まで通りカイトがルカとして生活していくと、今日のようなことがまた起こりうる。水をかけられるならまだしも、これが刃物であったりすればどうなるか……。いや、連れ去られるなんてことも考えられる」
ルカが刺されたり、連れ去られるなんてこと考えたくもないが今日のことを思えば大袈裟だとは思えない。
「公爵令息として不測の事態に備え、身を守れるくらいの護身術を習得していた以前のルカならいざ知らず、今のルカには自分自身を守る術もない。其方がいつでもルカについていると言ってもいつどこで1人になるかもわからぬ。それに今のルカにいつ襲われるかもしれぬ恐怖に怯えながら生活させるのは酷というものだろう。今のルカが安心して生活するためには、以前のルカとは変わったのだと周知させる必要がある」
アシュリーには私がルカを守るなどと大口を叩いたが、私はルカのそばについていながらあのものがルカに水をかけるのを止めることさえ出来なかった。
子どもだからと油断してしまったのだ。
もし、ルカがひとりの時を狙われでもしたら、父上の言う通りルカは何も防御などできるはずもない。
「確かにその通りでございます。ですが、どのようにして周知させるのでございますか?」
「陛下がルカのために宴を開こうとご提案くださったのだ」
「宴を?」
「ああ。2週間後に其方とルカの婚姻の儀も兼ねて、王家主催の宴を開催することにしたのだ」
「2週間後? 婚姻の儀はひと月後では?」
「ああ。陛下が、其方がルカの伴侶となったことを少しでも早く国内に広めたほうが良いと仰るのでな、私も日付けに関しては抵抗したのだが、ルカの平和な生活を望むなら早い方がいいだろうと押し切られてしまったのだ。だが、其方がどうしてもひと月後が良いと申すなら、もう一度陛下に頼みに――」
「いえ、2週間後でっ! 2週間後でお願いいたします」
まさか、半月も早くルカと正式な夫夫になれるとは思っても見なかった。
しかし、裏を返せばそれほどルカのことを心配されているということだ。
これから私たちが夫夫として幸せな時を過ごしていくためには、その宴での反応が大きな鍵となる。
「ウィリアム……ルカを頼むぞ」
父上の低い声色に身が引き締まる思いでいっぱいだった。
「私にお任せください」
もう二度とルカに今日のような思いはさせない。
私は深く心に刻んだ。
部屋に戻るとまだルカは寝覚めていないようでホッとした。
起きてひとりにはさせたくないと思っていたからな。
そっと寝室に入り、眠っているルカの隣に腰を下ろした。
ゆっくりと頭を抱き上げ、私の膝に乗せおでこに触れてみた。
ああ、よかった。
熱は下がったようだな。
ルカの綺麗な艶髪を優しく撫でると、まだ少し濡れている。
あのカフェでの出来事が私の脳裏に一気に甦る。
人からの憎しみの気持ちに真っ向から向き合ったルカ、あの時の思いは如何程だったろう。
相手が子どもだからこそ、嘘偽りのない憎しみがルカの心を抉ったことだろう。
この国唯一の公爵家の跡継ぎであるルカの婚姻の儀と共に、王家主催の宴が開かれるとあれば国内の貴族は全て参加するはずだ。
その中で誰がルカに恨みを持っているのか……すぐに調べる必要がある。
アシュリーに相談して、当日はルカの周りを騎士たちで固めた方がいいだろうな。
そんな考えを思い巡らせていると、ルカが身動いだ。
「んっ……」
「ルカ、起きたのか?」
「ふふっ。やっぱり、ウィルだった……」
「どうしたんだ?」
嬉しそうに笑顔で見上げてくるルカが愛おしい。
ルカの身体を抱きしめながら、そう尋ねると、
「ウィルの匂いが、夢の中でもしてました……。だから起きた時も抱き締めていてくれたらいいなって思ってたんです。そしたらウィルが本当に抱きしめててくれたから嬉しくて……」
と微笑んでくれた。
ああ、この子はこれだけでこんなにも笑顔になってくれるのだ。
この子の笑顔を一生守り続けたい。
それが私の使命なのだと心からそう思った瞬間だった。
「ルカ、私たちの婚姻の儀が早まるそうだ」
「えっ? どうして……?」
「私もルカもお互いに愛し合っているから、父上と国王さまが早く正式な夫夫にしてあげたいと思ってくださったのだよ」
そういうと、ルカは一瞬喜びを滲ませたものの、
「でも……」
と急に浮かない顔になってしまった。
まさか、私との結婚が嫌になったのでは……?
と愚かな考えが頭をよぎる。
いや、たった今幸せそうな笑顔を向けてくれたばかりではないか。
焦る心を必死に抑えながら冷静に尋ねてみた。
「何か気になることでもあるのか?」
「……うーん、だって……1ヶ月くらい僕の蜜をウィルに取り込んでもらわないと赤ちゃんができないんですよね?」
「えっ?」
「そんな不完全な身体じゃウィルのお嫁さん? になれないでしょう?」
「ぐぅ――っ!!!」
ルカが私のお嫁さん……。
確かにルカは私の夫となるのだが……いや、子を産むのだから妻でいいのか……。
いや、それよりも私があの時いった戯言を本気で考えてくれていたのか……。
どうする? なんていえばルカを安心させられるか……。
「ウィル……? やっぱり、僕……」
「大丈夫だ、心配しなくていい。ルカが頑張れば2週間でも完全になれるよ」
「本当ですかっ?!! じゃあ、僕、頑張ります!!!」
屈託のない笑顔でそう宣言され、私は
「ああ……頑張ろうな」
と返すのが精一杯だった。
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