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ルカと共に

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「ルカさまっ! どうなさったのです?」

髪と上着を濡らし私に抱きかかえられたまま憔悴しきった様子で帰宅したルカを見て、出迎えたセス殿は一気に顔を青褪めさせ駆け寄ってきた。

ルカはなんと説明すればいいのかと悩んでいるようだったが、

「ルカ、私が話しておくから無理しないでいい」

と言ってやると、ルカは安心したように私に身を預けてきた。

「セス殿、ルカは少し疲れている。後で私が説明しにいくので、今はそっとしておいてくれないか。申し訳ない」

「ウィリアムさま……私の方こそ考えが至らず申し訳ございません。ルカさまをどうぞよろしくお願いいたします」

ルカのことが心配でたまらないだろうセス殿には申し訳ないが、今は少しでも早く部屋に行ってルカを落ち着かせたい。
私は足早に我々の部屋へと向かった。

ルカをソファーに下ろしタオルや着替えを持ってこようと思ったが、少しの時間でもルカと離れるのが心配でルカを抱きかかえたまま必要なものをとり、一緒にソファーに腰を下ろした。

私の膝に座らせたまま、ルカの濡れた髪を拭いてやる。

「風邪をひくといけないから、すぐに濡れたものを着替えよう」

急いで服を脱がせ、新しいものに着替えさせたがルカはまだ一言も発しない。
おそらく以前のルカがしでかしたことにショックを受けているのだろう。
自分が一度死ぬという苦しみを味わっているから余計だろう。

「ルカ……私がついていながら、辛い目に遭わせてしまって申し訳ない」

頭を下げると、ルカは焦ったように私に抱きついてきた。

「ウィルのせいじゃないんです。僕がルカを止められなかったから……だから僕のせいなんです」

「止められなかったって、どういうことなんだ?」

「前にルカと話したときに言われたんです。『意識がないはずのお前が時々出てきて、僕を注意してくれていたのにな』って。僕は何も覚えていないけれど、ルカが5歳で真実を知らされてからずっと一緒に過ごしながら、ルカがとんでもないことをしてしまった時には、頭の奥で僕の声が制御してくれていたんだって教えてくれたんです。昔、ルカがウィルを池に落としてしまった時も、すぐにセスに助けを呼ぶように声をかけてたみたいなんです。だから、あの子の弟の時だって、僕がちゃんとルカを守ってあげていれば……あの子は弟を失う恐怖に怯えることもなかったんです。そんな怖い思いをしたんです、僕が文句を言われても仕方ないことです。僕が全部悪かったんです……」

暴走していたルカを、カイトの意識が止めていた……。

今、確かに目の前のルカはそういった。
そうか……そうだったのか。

あの時……私を池に落としたあの時、ルカが表面の笑顔の奥に隠していた涙を流していたのは目の前にいるルカカイトだったんだ。
私があの日、心惹かれたのは正真正銘目の前にいるルカだったのだな。
やはり私たちはあの時から、一生を共にする運命にあったのだ。
それならば、やはりルカの罪はルカカイトだけのせいではない。

「ルカ……ルカが以前のルカの犯した罪の償いをするというなら、それを私にも負わせてくれないか?」

「えっ……でも、ウィルが今日の僕のような目に遭うのは嫌です」

「私だってルカだけにあんな思いをさせるのはもうたくさんだ。
言っただろう? 私たちは永遠を共に過ごすと約束したんだ。辛いことも全て共有すべきだろう?」

辛いことは半分請負い、そして嬉しいことは二倍喜ぶ。
これが夫夫としてあるべき姿だ。

「ウィル……」

「今日はあまりにも突然の出来事でルカが土下座をするのを止めることができなかったが、これからはちゃんと考えよう。罪を償うのに土下座は良い手段とは言えない。ルカが本気で以前のルカの犯した罪を受け入れ償うというのなら、皆が幸せになれるように罪を償って行こう」

「幸せになれるように……?」

「そうだ。ルカにしかできないことがあるはずだ」

「僕にしかできないこと……」

「それを一緒に考えていこう」

そういうと、ルカは頷いてくれた。

「よし。良い子だ」

ルカをぎゅっと抱きしめると、額がほんのり熱く感じる。

「んっ? ルカ、熱が上がっているのではないか?」

「えっ? ウィルに抱きしめられているからですよ、きっと。大丈夫です……」

そう言ってくれるのは嬉しいが、これは確実に熱を出しているだろう。
そっと首筋に手を当てると、額よりも数段熱い。

「ルカ、やはり熱がある。医師を呼ぼう」

私は大丈夫と言い張るルカを抱き上げたまま、扉を開け大声でセス殿を呼んだ。
駆け寄ってきたセス殿に

「ルカが熱を出しているようだ。すぐに医師を呼んでくれ」

と声をかけると、急いで駆け出していった。

私はルカをベッドに寝かし、眠りに着くまでそばいるからと声をかけると安心したように笑顔を見せてくれた。
こんな小さな身体で人々の恨みを受け、身体が疲弊したのだろう。
ルカはすぐに眠りについた。

扉が叩かれるような音が聞こえて、私は静かに寝室を離れた。

「ルカが熱を出したと聞いたが?」

てっきりセス殿と医師だと思ったのだが、そこにいたのは父上の姿だった。
ルカに一体何があったんだと威圧感を前面に押し出した父上の姿に圧倒されそうになりながらも私は

「はい。あとでご報告に伺おうと思っていたのですが……まずは医師の診察を受けさせたく存じます」

と毅然とした態度で言い切ると、父上は

「わかった」

と一言だけ告げ、後ろにいたセス殿と医師に中に入るようにと指示を出した。

医師の見立てでは心労と身体が急激に冷えたことによる発熱だということでルカに暖かい布団を被せ、そのまま寝かせることにした。



「それで、何があったのだ?」

父上の執務室でセス殿も交えながら問いかけられた。

私はカフェでの出来事を話し、

「ルカとその男の子との話をご存知でしたか?」

と尋ねると、

「ああ、確かにルカが庭師のジェイムズの息子を無理やり木に登らせ、池に落としたという話は聞いた。池に落ちた音を聞き、ジェイムズがすぐに救い上げことなきを得たと聞いてはいたが、まさかそのような事態になっているとは思いもしなかった。ジェイムズが問題はなかったと言っていたのを信用していたのだ。まさか、私に遠慮して隠していたとは……」

と項垂れていた。

「ルカは自分がその子を殺めかけたことをひどく心を痛めたようです」

「あの子自身は何もしていないというのに……ルカになんと詫びれば良いか……」

「いえ、父上が謝罪されることをルカは望んでおりません。以前のルカが傷付けた人への罪は自分が償うと心に決めているようです。父上、あの子は弱そうに見えますが、芯の強い子ですよ。ルカは自分でこれからどう過ごしていけば良いか解決策を見出すはずです」

「だが、あの子は何も知らないだろう? 今までのルカのことも、そしてこの世界のことも……」

「父上、私がおります。私は今のルカと共に一生を歩む決意をしたのです。ルカが皆から信用を得られるよう、私も最善を尽くします」

じっと父上の目を見つめながら思いの丈をぶつけると、父上は驚きの表情をしながらも納得したように頷いてくれた。
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