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隠し事はいらない

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「ウィルもお父さまにご挨拶できましたし、これで本当に家族ですね」

「あ、ああ。そうだな。嬉しいよ、ルカのおかげだ」

「ふふっ。僕も嬉しいです」

ウィルの嬉しそうな笑顔に僕も嬉しくなる。
ああ、家族が増えるって幸せなんだな。

「ルカ、今日はいろいろあって疲れただろう。風呂に入ってゆっくり休むとしよう」

「はい。そうですね」

僕が頷くと、ウィルは嬉しそうに僕を抱きかかえたまま、寝室の奥にある扉を開いた。
そして、脱衣所に置いてある椅子に僕を座らせると、手際よく僕の上着を脱がせ始めた。

えっ? なんで僕、ウィルに脱がせてもらってるの?

「あ、あの……僕、1人でお風呂に入ってるんです。だから、これからも1人で……」

「えっ? ルカは1人で入っているのか? まさか……」

「いえ、本当です。僕も大人ですし……だから、1人で大丈夫です」

僕がそういうと、ウィルは顎に手を当てて何やら考えていたけれど、

「ルカ……1人でいたときはともかく、夫夫になったからには1人で入ってはいけないのだよ」

と教えてくれた。

「ええーっ、そんな決まりがあるのですか?」

「ああ、セス殿から教えられていないのだな? まぁ私との結婚が決まったのも急だったから、ルカには教えることがいっぱいで夫夫のしきたりの一つ一つまで教える暇がなかったのかもしれないな」

「そう、なんですか……」

ええーっ、セス……他のことは忘れてもいいけど、お風呂みたいな重要なことは教えておいてよぉ!

せっかくこの前セスと交渉して、1人でお風呂に入れるようになったのに……。
今日からはウィルと一緒だなんてなんだかすっごく恥ずかしいんだけど……。

「ルカは私と一緒に入るのは嫌か?」

「い、嫌とかそんなんじゃない、ですけど……あの、ちょっと恥ずかしくて……」

「恥ずかしい?」

「は、はい。だって、人前で裸になるなんて……そんなこと……あの、ウィルは恥ずかしくないのですか?」

「うーん、恥ずかしいと思ったことは一度もないな。子どもの時は私も爺に洗ってもらっていたし、騎士団に入ってからは遠征で野宿することもある。汚れれば団員たちと川で洗い流すこともあることだし、恥ずかしいという感覚でいれば、騎士団長は務まらないな」

確かにそうかも。
集団で生活している以上、裸が恥ずかしいだなんてそんなこと言ってられないか。
なんといってもウィルは騎士団長だもんね。

「そう、ですよね……。でも、僕……なんだか人と一緒にというのがなんだか慣れなくて……」

「そうか……。だが、私たちは夫夫なのだよ。他の大勢と裸で交流する必要はないが、私とだけは入ってもいいのではないか? お互いに仮面を外して何も持たずに己を曝け出す時間はこれから先、夫夫として長い時間を歩む私たちには必要なことではないか?」

「お互いに、仮面を外して……曝け出す……」

「そうだ。私はルカを愛してる……だが、まだ私に言えないこともあるだろう?
私も同じだ。今日出会って気持ちは通じ合ったが、心の奥深くまで通じ合ったとは言えない。
それを少しずつ曝け出していかないか?」

以前のカイトはお父さんに酷いことをされていることも、お母さんに助けてもらえないことも友達にも先生にも誰にも何も言えずに隠してた。
親に優しくしてもらえなくて可哀想……そう思われるのが嫌だったんだ。

自分は可哀想なんかじゃない!
そう思うことで自分を奮い立たせてた。

今のルカはどうだったんだろう。
優しいお父さまとセスを始めすごくよくしてくれる使用人さんたちに囲まれて……僕には幸せでしかないように見える。
だけど、ウィルにあんな酷いことをしてしまった事実を知ると、ルカにも何かあったのかもしれない。

お父さまとセスはウィルには記憶を失ったことは黙っていたほうがいいと言ったけれど、全てを曝け出すためには言ったほうがいいんじゃないだろうか……。
それは、今のルカを僕が思い出すためにも必要なことなのかもしれない。

ルカじゃないとわかってウィルに嫌われてしまうのは辛いけど、僕を愛してると言ってくれた言葉にほんの少しでもカイトの僕が含まれているなら今の僕を受け入れてくれるかもしれない。

これから先ずっと一緒にいたいと思った人に隠し事はいらない。

そうだ。
今がきっとその時なんだろう。
ウィルにきちんと話をする、その時がきたってことなのだろう。

よし!
そう僕が心の中で決心した時、頭の中で何かが呼びかけた気がした。

「……ト、カイト……こちらへ、いらっしゃい……」

なぜか聞き覚えのある声に誘われるように

「……は、い」

と声を上げた瞬間、その場に倒れてしまった。

「ルカっ? どうしたんだっ! 目を開けてくれっ! ルカっ!!」

薄れゆく意識の中で、悲痛な声で僕の名前を呼び続けるウィルの声だけが耳に残って離れなかった。
 
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