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心配はただひとつ
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「ウィリアム団長、父上の突然の呼び出しはなんだったんだ?」
「アシュリー王子殿下」
「おい、その呼び方はやめろ。俺たちは従兄弟だし、その上、今はお前の方が立場は上だろうが」
アシュリーの母・ミア王妃と私の母・エマは非常に仲のよい姉妹で、同じ年でもあったアシュリーとは兄弟のように育てられた。
今はアシュリーも共に王国騎士団に在籍し、副団長として私を支えてもらっている。
公の場では私がアシュリーを王子殿下と敬称をつけて呼ぶことを渋々認めているが、それ以外の場所ではアシュリーの方が私を団長と揶揄い混じりに呼びかける。
それはアシュリーが私の実力を認めてくれていることの表れでもある。
「わかったよ」
「それで、父上の呼び出しはなんだったんだ?」
「縁談だ」
「ああー、お前……結婚には興味がないから誰でもいいと父上に話していたもんな。それで、誰を紹介されたんだ?
前からお前に言い寄ってきているトレス伯爵家のリリアか? それともこの前騎士団の練習を見にきてお前にアピールしまくってたハリス子爵家のなんていったか……ああ、サレイシャ?」
「ルカさまだ」
私が端的に名前を告げた途端、アシュリーの表情から笑顔が消えた。
「……はっ? ちょっと待て。今、ルカって聞こえたが……俺の聞き間違いか?」
「間違いじゃない。フローレス公爵家のルカさまだ」
「はぁっ?? うそだろっ?? ウィリアム! なんでお前があいつなんかと!」
「アシュリー、あいつなんて言うな。陛下とフローレス公爵さま直々のお話だぞ。断る理由もないだろう」
「だからってなんでお前があんな我儘なやつと! お前だって知ってるだろう?
ちょっとそこで待ってろ! 俺が父上に話をしてくる」
力強い足取りで陛下の元へと向かおうとするアシュリーの腕を慌てて捕まえ、なんとかその場に留まらせた。
「やめろ、アシュリー。もう決定したことだ。今更お前が話したところで覆りはしない」
「お前、それでいいのか? あのルカだぞ! そりゃあ顔は驚くほどの美人だから見ている分には悪くないが、公爵だって匙をなげるほど我儘で暴れるんだぞ。お前なんか選ぼうと思えば選び放題なのに、父上はなんでお前にあのルカのお守りをさせるんだ?」
「公爵家との縁談は身分の制約もある。伯爵家以上の子息女たちの中でルカさまを大人しくさせられるものがどれだけいると思う? 陛下と公爵さまが私しかいないとお考えくださった上での縁談ならば、その命を全うするだけだ。そうだろう?」
「はぁーっ。ウィリアム……。わかったよ。せいぜい俺もルカがおかしなことしないように目を光らせてやるさ」
「ありがとう。だが、ルカさまは……」
「んっ? なんか言ったか?」
「いや、なんでもない。じゃあ、ちょっと準備があるのでこれで失礼する」
アシュリーはまだ何か言いたげだったが、私には時間がない。
すぐにでもフローレス公爵家で生活を共にする準備をしなければ。
私は急いで自宅へと向かった。
「父上。少し急ぎのお話が……」
「なんだ、ウィリアム。突然帰ってきたかと思えば騒々しい。お前は今月は戻らないのではなかったか?」
「はい。ですが、少し……いや、かなり状況が変わりまして」
「どうした? 詳しく話しなさい」
私はできるだけ父上を驚かせないように努めて冷静に話をしたのだが
「……お、お前が……あの、ルカさまと……結婚? フローレス公爵家に婿に行くというのか?」
と半分血の気がひいた表情で問いかけてくる。
「はい。陛下とフローレス公爵さまの直々のお話でありましたので、お受けいたしました。相談もせず申し訳ありません」
「……いや、お前が決断したことであれば、私は特に何もいうつもりはない。
フローレス公爵がお前に頼むくらいだ、ルカさまの所業によほど困り果てておいでだったのだろう。
お前がそこまで見込まれたということなのだろうな。だが、後継はどうなさるおつもりなのだ?」
「それは……問題ないと仰っておいででした」
男でも孕むことができる。
陛下とフローレス公爵はそれを王家の秘薬だと言っていた。
私もその存在を初めて知ったことを考えれば、おそらくその秘薬は王族だけが知るうる存在なのだろう。
そう思って私は秘薬の存在を今は黙っていることにした。
「そうか、それなら良い。まぁアシュリー殿下のところに御子が生まれれば、公爵家の後継にもできよう。
今は、お前が婿に入ることで丸く治まるというのならば私としても鼻が高い」
「父上、ありがとうございます。それで、フローレス公爵さまはすぐにでも公爵家に移り住んでルカさまと生活を共にしてほしいと仰られていまして私もそうしようと思っています」
「そうか、わかった。異例なことではあるが、公爵さまのお考えがおありなのだろう。お前はすぐに荷物を纏めて、あちらで必要なものがあればすぐに連絡をしてくれ。オルグレン侯爵家としてもお前を送り出すのに必要なものは用意しよう」
「何から何までありがとうございます」
「いや、私にできることはそれくらいだからな。お前も頑張るのだぞ」
「はい。ありがとうございます」
父上がこうもすんなり了承してくれるとは思ってもいなかったが、相手がフローレス公爵家で、しかも陛下からの直々の縁談とくれば仕方のないところもあるのだろう。
これで憂いなく公爵家に行くことができる。
ルカさまは私が婿だと了承してくれるだろうか……。
あとはそれだけが心配だ。
「アシュリー王子殿下」
「おい、その呼び方はやめろ。俺たちは従兄弟だし、その上、今はお前の方が立場は上だろうが」
アシュリーの母・ミア王妃と私の母・エマは非常に仲のよい姉妹で、同じ年でもあったアシュリーとは兄弟のように育てられた。
今はアシュリーも共に王国騎士団に在籍し、副団長として私を支えてもらっている。
公の場では私がアシュリーを王子殿下と敬称をつけて呼ぶことを渋々認めているが、それ以外の場所ではアシュリーの方が私を団長と揶揄い混じりに呼びかける。
それはアシュリーが私の実力を認めてくれていることの表れでもある。
「わかったよ」
「それで、父上の呼び出しはなんだったんだ?」
「縁談だ」
「ああー、お前……結婚には興味がないから誰でもいいと父上に話していたもんな。それで、誰を紹介されたんだ?
前からお前に言い寄ってきているトレス伯爵家のリリアか? それともこの前騎士団の練習を見にきてお前にアピールしまくってたハリス子爵家のなんていったか……ああ、サレイシャ?」
「ルカさまだ」
私が端的に名前を告げた途端、アシュリーの表情から笑顔が消えた。
「……はっ? ちょっと待て。今、ルカって聞こえたが……俺の聞き間違いか?」
「間違いじゃない。フローレス公爵家のルカさまだ」
「はぁっ?? うそだろっ?? ウィリアム! なんでお前があいつなんかと!」
「アシュリー、あいつなんて言うな。陛下とフローレス公爵さま直々のお話だぞ。断る理由もないだろう」
「だからってなんでお前があんな我儘なやつと! お前だって知ってるだろう?
ちょっとそこで待ってろ! 俺が父上に話をしてくる」
力強い足取りで陛下の元へと向かおうとするアシュリーの腕を慌てて捕まえ、なんとかその場に留まらせた。
「やめろ、アシュリー。もう決定したことだ。今更お前が話したところで覆りはしない」
「お前、それでいいのか? あのルカだぞ! そりゃあ顔は驚くほどの美人だから見ている分には悪くないが、公爵だって匙をなげるほど我儘で暴れるんだぞ。お前なんか選ぼうと思えば選び放題なのに、父上はなんでお前にあのルカのお守りをさせるんだ?」
「公爵家との縁談は身分の制約もある。伯爵家以上の子息女たちの中でルカさまを大人しくさせられるものがどれだけいると思う? 陛下と公爵さまが私しかいないとお考えくださった上での縁談ならば、その命を全うするだけだ。そうだろう?」
「はぁーっ。ウィリアム……。わかったよ。せいぜい俺もルカがおかしなことしないように目を光らせてやるさ」
「ありがとう。だが、ルカさまは……」
「んっ? なんか言ったか?」
「いや、なんでもない。じゃあ、ちょっと準備があるのでこれで失礼する」
アシュリーはまだ何か言いたげだったが、私には時間がない。
すぐにでもフローレス公爵家で生活を共にする準備をしなければ。
私は急いで自宅へと向かった。
「父上。少し急ぎのお話が……」
「なんだ、ウィリアム。突然帰ってきたかと思えば騒々しい。お前は今月は戻らないのではなかったか?」
「はい。ですが、少し……いや、かなり状況が変わりまして」
「どうした? 詳しく話しなさい」
私はできるだけ父上を驚かせないように努めて冷静に話をしたのだが
「……お、お前が……あの、ルカさまと……結婚? フローレス公爵家に婿に行くというのか?」
と半分血の気がひいた表情で問いかけてくる。
「はい。陛下とフローレス公爵さまの直々のお話でありましたので、お受けいたしました。相談もせず申し訳ありません」
「……いや、お前が決断したことであれば、私は特に何もいうつもりはない。
フローレス公爵がお前に頼むくらいだ、ルカさまの所業によほど困り果てておいでだったのだろう。
お前がそこまで見込まれたということなのだろうな。だが、後継はどうなさるおつもりなのだ?」
「それは……問題ないと仰っておいででした」
男でも孕むことができる。
陛下とフローレス公爵はそれを王家の秘薬だと言っていた。
私もその存在を初めて知ったことを考えれば、おそらくその秘薬は王族だけが知るうる存在なのだろう。
そう思って私は秘薬の存在を今は黙っていることにした。
「そうか、それなら良い。まぁアシュリー殿下のところに御子が生まれれば、公爵家の後継にもできよう。
今は、お前が婿に入ることで丸く治まるというのならば私としても鼻が高い」
「父上、ありがとうございます。それで、フローレス公爵さまはすぐにでも公爵家に移り住んでルカさまと生活を共にしてほしいと仰られていまして私もそうしようと思っています」
「そうか、わかった。異例なことではあるが、公爵さまのお考えがおありなのだろう。お前はすぐに荷物を纏めて、あちらで必要なものがあればすぐに連絡をしてくれ。オルグレン侯爵家としてもお前を送り出すのに必要なものは用意しよう」
「何から何までありがとうございます」
「いや、私にできることはそれくらいだからな。お前も頑張るのだぞ」
「はい。ありがとうございます」
父上がこうもすんなり了承してくれるとは思ってもいなかったが、相手がフローレス公爵家で、しかも陛下からの直々の縁談とくれば仕方のないところもあるのだろう。
これで憂いなく公爵家に行くことができる。
ルカさまは私が婿だと了承してくれるだろうか……。
あとはそれだけが心配だ。
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