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日本旅行編
驚きの提案
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「――っ、わぁ! すごいっ!」
襖を開けると、広々とした畳の部屋に綺麗な着物がいっぱい掛かっているのが見える。
「これ、お母さんたちの着物ですか?」
もしかして、あまり着物を見たことがない僕や、フランス人のミシェルさんやリュカのために展示しておいてくれたのかな?
「いいえ。これは、弓弦くんたちに着てもらおうと思って用意したお着物なの」
「えっ? 僕たちに? でも、これは女性用、ですよね?」
「ええ。でもあんなにも綺麗なドレスを着こなした弓弦くんたちなら、お着物だって着られるはずよ。あのドレス姿を見た時から日本に来たらお着物を着てもらおうってみんなで考えていたの。だから、私たちの行きつけの呉服屋さんから弓弦くんたちに似合いそうなものをいっぱい選んできたのよ。この中からそれぞれ好きなものを選んでちょうだい」
理央くんのお母さんが笑顔で説明してくれる傍らで、空良くんたち他のお母さんも一緒に笑顔で頷いている。
これはもう決定事項って感じだけど、ミシェルさんやリュカの反応はどうだろう?
そっと二人に目をやると、リュカは驚いて声も出せない様子だったけれど、ミシェルさんは目をキラキラと輝かせて、掛けられた着物を見つめていた。
「ミシェルさん、どうする?」
「『C’est pas mal du tout!』プレゼントでシューゴから貰ったユカタもすっごく綺麗だったけど、キモノは最高!! 僕、着てみたい!!」
「あらあら、そんなに気に入っていただけて嬉しいわ。じゃあ、早速ミシェルさんのを選びましょうか。誰が選ぶ?」
「あ、私たちが」
手を挙げたのは秀吾さんと佳都さんのお母さん。
「じゃあ、花織さんと清佳さん。お願いね」
二人のお母さんはミシェルさんにフランス語で話しかけると、少し離れた場所に座って早速着物を選び始めた。
「弓弦くんとリュカさんも選びましょう」
「あ、あの……理央くんたちは、着物着るんですか?」
「ええ。もちろんよ。私たちの若い頃の着物を仕立て直して準備しているの。それを着て、みんなで初詣に行きましょう」
「理央くんたちと、みんなで、着物着て、初詣……」
その光景が頭にふっと浮かんできて、楽しそうと思ってしまった。
「リュカ、着替える?」
「そうですね。ミシェルさんも乗り気ですし、私もこの煌びやかなお着物には興味があります」
「じゃあ、着替えようか。こういう時でもないと着られないもんね」
「はい。そうですね」
「よかったわ。じゃ選びましょう」
僕とリュカの会話を楽しそうに聞いていた理央くんのお母さんがさっと僕の背中に手をやって着物のところへ連れて行って入れた。そして、リュカもまた空良くんと周防さんのお母さんたちと離れた場所で着物を選び始めた。
「弓弦くんのお着物を選べるなんて嬉しいわ。弓弦くんはどんなのが好き?」
「えっ……うちは母さんも着物を着ているのをみたことがないし、どんなのが好きか考えたことなくて……でも、あの着物はすごく綺麗だなって思います」
僕は掛けられていた薄いピンク色の着物を指差した。
「あれ? やっぱり! 弓弦くんなら気に入ってくれると思っていたのよね。あれは私が選んだの」
理央くんのお母さんはさっと立ち上がってその着物を外して持ってきてくれた。近くで見ると余計に触れるのを躊躇うくらいに豪華だ。
「振袖の方がずっと豪華でお正月にはピッタリだけど、弓弦くんは着られないから訪問着にしたのよ。でもこれ、よく似合うわ。髪の色とのバランスもピッタリ」
「あの、振袖ってどうしてダメなんですか?」
「あれはね、結婚していない女性が着るものなの。弓弦くんにはもう素敵な旦那さまがいるでしょう?」
「あっ! そういうことなんですね」
「ええ。だから、この部屋には振袖はないの。じゃあ、この着物にしましょう。これに合う帯を選びましょうね」
理央くんのお母さんは引き出しからいくつかの帯を持ってきて、着物に当て始めた。
「この辺りはどれも似合うんだけど、気に入ったものがある?」
「あの、これ……エヴァンさんと僕の髪の色みたいで綺麗です」
光に当たると金色っぽく見えるこの髪の色は、あの閉鎖的な田舎では目立って嫌いだったけど、僕とお父さん、そしてエヴァンさんと一緒だってわかって大好きな色になった。それを身につけられたらって思ったんだ。
「ええ。とてもよく似合うわよ。じゃあ、この帯にしましょう」
それから理央くんのお母さんは、そのほかの小物も一緒に選んでくれて、僕の着物が完成した。
「明日が楽しみね」
「あ、でもこれ…どうやって着るんですか?」
「大丈夫。私が着付けをするわ。ミシェルさんもリュカさんもみんなが着付けをしてくれるから大丈夫よ。今、主人たちがエヴァンさんたちにお話ししていると思うんだけど、今日はエヴァンさんと弓弦くんはうちにお泊まりしてもらうわ。ミシェルさんセルジュさんは花織さんのお家で。リュカさんとジョルジュさんは愛子さんのお家でそれぞれお泊まりしてもらうわ」
「えっ、いいんですか?」
「ええ。理央と凌也も今日はここに泊まるから楽しい夜になるわよ」
てっきり夜はホテルに行くと思っていただけに驚いたけど、ここで理央くんも一緒にお泊まりだと思うと嬉しくてたまらなくなっていた。
襖を開けると、広々とした畳の部屋に綺麗な着物がいっぱい掛かっているのが見える。
「これ、お母さんたちの着物ですか?」
もしかして、あまり着物を見たことがない僕や、フランス人のミシェルさんやリュカのために展示しておいてくれたのかな?
「いいえ。これは、弓弦くんたちに着てもらおうと思って用意したお着物なの」
「えっ? 僕たちに? でも、これは女性用、ですよね?」
「ええ。でもあんなにも綺麗なドレスを着こなした弓弦くんたちなら、お着物だって着られるはずよ。あのドレス姿を見た時から日本に来たらお着物を着てもらおうってみんなで考えていたの。だから、私たちの行きつけの呉服屋さんから弓弦くんたちに似合いそうなものをいっぱい選んできたのよ。この中からそれぞれ好きなものを選んでちょうだい」
理央くんのお母さんが笑顔で説明してくれる傍らで、空良くんたち他のお母さんも一緒に笑顔で頷いている。
これはもう決定事項って感じだけど、ミシェルさんやリュカの反応はどうだろう?
そっと二人に目をやると、リュカは驚いて声も出せない様子だったけれど、ミシェルさんは目をキラキラと輝かせて、掛けられた着物を見つめていた。
「ミシェルさん、どうする?」
「『C’est pas mal du tout!』プレゼントでシューゴから貰ったユカタもすっごく綺麗だったけど、キモノは最高!! 僕、着てみたい!!」
「あらあら、そんなに気に入っていただけて嬉しいわ。じゃあ、早速ミシェルさんのを選びましょうか。誰が選ぶ?」
「あ、私たちが」
手を挙げたのは秀吾さんと佳都さんのお母さん。
「じゃあ、花織さんと清佳さん。お願いね」
二人のお母さんはミシェルさんにフランス語で話しかけると、少し離れた場所に座って早速着物を選び始めた。
「弓弦くんとリュカさんも選びましょう」
「あ、あの……理央くんたちは、着物着るんですか?」
「ええ。もちろんよ。私たちの若い頃の着物を仕立て直して準備しているの。それを着て、みんなで初詣に行きましょう」
「理央くんたちと、みんなで、着物着て、初詣……」
その光景が頭にふっと浮かんできて、楽しそうと思ってしまった。
「リュカ、着替える?」
「そうですね。ミシェルさんも乗り気ですし、私もこの煌びやかなお着物には興味があります」
「じゃあ、着替えようか。こういう時でもないと着られないもんね」
「はい。そうですね」
「よかったわ。じゃ選びましょう」
僕とリュカの会話を楽しそうに聞いていた理央くんのお母さんがさっと僕の背中に手をやって着物のところへ連れて行って入れた。そして、リュカもまた空良くんと周防さんのお母さんたちと離れた場所で着物を選び始めた。
「弓弦くんのお着物を選べるなんて嬉しいわ。弓弦くんはどんなのが好き?」
「えっ……うちは母さんも着物を着ているのをみたことがないし、どんなのが好きか考えたことなくて……でも、あの着物はすごく綺麗だなって思います」
僕は掛けられていた薄いピンク色の着物を指差した。
「あれ? やっぱり! 弓弦くんなら気に入ってくれると思っていたのよね。あれは私が選んだの」
理央くんのお母さんはさっと立ち上がってその着物を外して持ってきてくれた。近くで見ると余計に触れるのを躊躇うくらいに豪華だ。
「振袖の方がずっと豪華でお正月にはピッタリだけど、弓弦くんは着られないから訪問着にしたのよ。でもこれ、よく似合うわ。髪の色とのバランスもピッタリ」
「あの、振袖ってどうしてダメなんですか?」
「あれはね、結婚していない女性が着るものなの。弓弦くんにはもう素敵な旦那さまがいるでしょう?」
「あっ! そういうことなんですね」
「ええ。だから、この部屋には振袖はないの。じゃあ、この着物にしましょう。これに合う帯を選びましょうね」
理央くんのお母さんは引き出しからいくつかの帯を持ってきて、着物に当て始めた。
「この辺りはどれも似合うんだけど、気に入ったものがある?」
「あの、これ……エヴァンさんと僕の髪の色みたいで綺麗です」
光に当たると金色っぽく見えるこの髪の色は、あの閉鎖的な田舎では目立って嫌いだったけど、僕とお父さん、そしてエヴァンさんと一緒だってわかって大好きな色になった。それを身につけられたらって思ったんだ。
「ええ。とてもよく似合うわよ。じゃあ、この帯にしましょう」
それから理央くんのお母さんは、そのほかの小物も一緒に選んでくれて、僕の着物が完成した。
「明日が楽しみね」
「あ、でもこれ…どうやって着るんですか?」
「大丈夫。私が着付けをするわ。ミシェルさんもリュカさんもみんなが着付けをしてくれるから大丈夫よ。今、主人たちがエヴァンさんたちにお話ししていると思うんだけど、今日はエヴァンさんと弓弦くんはうちにお泊まりしてもらうわ。ミシェルさんセルジュさんは花織さんのお家で。リュカさんとジョルジュさんは愛子さんのお家でそれぞれお泊まりしてもらうわ」
「えっ、いいんですか?」
「ええ。理央と凌也も今日はここに泊まるから楽しい夜になるわよ」
てっきり夜はホテルに行くと思っていただけに驚いたけど、ここで理央くんも一緒にお泊まりだと思うと嬉しくてたまらなくなっていた。
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