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日本旅行編

お年玉とお雑煮

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「さぁさぁ、食事の前に可愛い子どもたちには大事なものをあげないとね」

理央くんのお母さんが笑顔でそう言ったかと思うと、着物の袖のとこから小さな封筒みたいなものをいくつか取り出した。

「さぁ、まずはフランスからきてくれた子たちからね。弓弦くん。どうぞ」

「えっ、あ、ありがとうございます。あの、これ……」

「お正月の大事なもの。お年玉よ。新年おめでとう」

「お、とし、だま……」

知識としては知っていた。だって、冬休み明けにクラスメイトがクリスマスプレゼントの話と一緒にお年玉の話をしてたから。いっぱいもらったからゲーム買いに行くんだって得意げな顔をしている子もいたもんね。
でも僕には母さんだけだったし、他にお年玉をくれるような知り合いもいなかったから、今までお年玉をもらったことはない。もう成人したし、そもそも日本にも住んでいないし、一生もらうことなんてないと思ってた。
それがまさかここでもらえるなんて……。すっごく嬉しい!

理央くんのお母さんは僕に渡すと、ミシェルさんとリュカにも渡し、そして空良くんや佳都さん、そして秀吾さんにも渡していた。

「あれ? 理央くんは?」

理央くんのお母さんが理央くんだけ渡し忘れるわけはないと思ったけれど、理央くんだけ貰えなかったら可哀想だなと思っていたら、

「僕は昨日もらったんだよ、家族でお正月のご飯食べた時に」

と笑顔で教えてくれた。

「ああ、そっか。家族で先にお祝いするんだもんね」

僕もエヴァンさんやミシェルさんたち、それに屋敷の人たちとも新年のお祝いしたんだ。

「そうそう、僕もパパとママからもらったよ」

「僕もパパとママからもらったー!」

空良くんと佳都さんももらったみたい。家族でのお祝いとこうしてみんなでお祝いするのはまた違って楽しいよね。

「さぁ、我が家からもみんなにお年玉を配るわよ」

今度は空良くんのママがお年玉を配ってくれる。理央くんのママからもらったお年玉の袋も可愛かったけれど、空良くんのお家のも可愛い。そして、佳都さんのママと秀吾さんのママ、それに周防さんのママからももらって、僕の目の前にはお年玉袋でいっぱいになった。

「エヴァンさん、みて! すごいよ!!」

「ああ、本当にすごいな。日本にこのような風習があるのを知らなかったよ。あとで我がロレーヌ家からもお年玉とやらを出すとしよう」

「いいの?」

「ああ。もちろんだとも」

エヴァンさんはすぐにパピーを近くに呼び、話をしていた。何を話していたかまでは聞こえなかったけれど、

『承知しました』

ってパピーが言っているのが聞こえたから、きっとみんなの分のお年玉を準備してくれるんだろう。するとその様子を見ていた理央くんのママが笑顔でエヴァンさんに声をかけた。

「あらあら、ロレーヌさん。お年玉は気になさらないでください。フランスでは私たちの可愛い子たちがお世話になったんですから。ねぇ、清佳さん」

「ええ。フランスでどれだけ楽しい時間を過ごしたか、佳都から聞いて喜んでいたんですよ」

「うちの空良もずっと話してくれたんですよ、それに結婚式の写真も動画もたくさん見せていただきましたし。ロレーヌ家でしていただいたことを考えたら、お年玉くらい大したことないんですよ。花織さんも愛子さんもそうでしょう?」

「ええ。今回は日本の風習を楽しんでいただくことが目的ですから、ロレーヌさんは何も気になさらないでください」

みんなのママからそう言われてエヴァンさんは嬉しそうに笑顔を見せた。

「セルジュ、ジョルジュも今回は甘えるとするか」

「ええ。そうですね。ありがたく甘えさせていただきましょう」

エヴァンさんたちがそういうと、

「じゃあ、料理をいただきましょうか」

と理央くんのパパが声をあげた。

「いただきまーす!!」

僕や理央くんたちの声が響き、僕はまずはお雑煮に手を伸ばした。

白味噌仕立てってどんな感じかな……。

「ん!! このお雑煮、とっても美味しい!!」

甘みのある味噌に、入っているにんじんも甘いし、里芋がとろっとしてどれも美味しい!

「わぁ、気に入ってくれて嬉しい!」

秀吾さんが僕の感想を聞いて喜んでくれているけど、これ、本当に美味しいな。

「ユヅル、こっちのカントーフウというのも美味しいぞ」

「わぁ、そっちも気になる!!」

エヴァンさんと器を交換して、一口汁を啜った途端、

「えっ?!」

あまりの驚きに声が出てしまった。

「弓弦くん? どうかした? 何か口に合わなかった?」

「ちが――っ、このお雑煮のお汁……母さんの味によく似てて……」

もう二度と飲めないと思っていた。でも、口に含んだ瞬間、一気に母さんとの思い出が甦ってきて涙が止まらない。

「ユヅル……っ」

エヴァンさんが僕を抱きしめてくれる。

「ごめんなさい、僕……」

「気にすることはない。ユヅルの気持ちはみんなわかってくれるよ」

「そうだよ。大丈夫だよ、弓弦くん。僕もその気持ちよくわかるから……」

佳都さんもそう言ってくれて僕の気持ちに寄り添ってくれる。

「ねぇ、もし弓弦くんがお母さんの味を再現したいなら、協力できるよ! 具材とかどんな味がしたとか教えてもらえたらレシピだって作れるかも!! ねぇ、お母さん!」

「ええ。佳都の味がそんなに似ているのならきっとできると思うわ。そうしたらきっとフランスでも作れるはずよ!」

その言葉に僕は嬉しくてたまらなくなっていた。
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