181 / 198
日本旅行編
懐かしい匂い
しおりを挟む
飛行機を降りると、風に乗って懐かしい匂いがする。
フランスではあまり感じることのない匂いかもしれない。
「ユヅル? どうした?」
「あ、なんか匂いが……」
「ああ、それはきっと日本食の匂いだよ」
「日本食?」
「ああ、味噌や醤油、それに出汁のいい匂いがするだろう? どれもフランスではなかなか感じられない匂いだからな。ユヅルが今まで味わってきた匂いが呼び起こされたんじゃないか」
だから懐かしく感じたんだ。
フランスでの生活を始めた頃は、日本食が割と食卓に出ていた気がするけれど、ここしばらくはだいぶ少なくなっていた気がする。
それを寂しいとも思わなかったけれど、日本に着いてみると一気に思い出したのかもしれない。
「久しぶりに和食が食べたくなっちゃいました」
「そうか、ならアヤシロに美味しい日本食の店を教えてもらおうか」
「わぁー、楽しみです!」
これでまた一つ、日本での楽しみが増えたな。
到着口まで歩く間、他の飛行機から降りてきた人たちが僕たちを見て驚きの表情を見せる。
さっきエヴァンさんに言われた通り、僕の顔も知られているってことなんだろう。
でも、僕とエヴァンさんはフランス人で、フランスという国で認められた正式な夫夫。
誰にも迷惑をかけているわけでもないし、エヴァンさんのそばから絶対に離れないで堂々としていればいいんだよね。
「エヴァンさん……っ、僕、ちゃんとくっついてますね」
「ああ、いい子だな」
腕にギュッと絡みつくと、エヴァンさんが嬉しそうに笑う。
僕はエヴァンさんが隣にいてくれるから、周りの視線なんか気にしないでいられるんだ。
「もうみんな待ってるのかな?」
「ああ、到着口で待っているって連絡が来ていた。目立つから代表でアヤシロとケイトだけで待っていると言っていたよ」
「えっ、そうなんですね……」
てっきりみんな待ってくれていると思ってた。
でもそういえばみんながフランスに来てくれた日、空港でちょっと騒ぎになっちゃってたっけ。
きっとエヴァンさんもセルジュさんもあの時のことを覚えていたんだろう。
「みんなにもすぐに会えるよ」
「うん!」
そんな話をしていると、トンと軽い衝撃が背中に走った。
ミシェルさんだ。
「ねぇ、ユヅルー。なんだかドキドキするね」
「うん。あ、到着口見えてきたよ!」
「本当だ!」
駆け出したくなるのを必死に抑えて、ジョルジュさんを先頭にエヴァンさんと一緒に到着ゲートを出る。
そのすぐ後ろから、セルジュさんとミシェルさん。そしてパピーとリュカが出てきた。
どこだろうと探す前に、
「弓弦くーん! ここだよ!」
と佳都さんにしては控え目の声が聞こえる。
きっと騒がないように言われたのかな。隣にいる綾城さんが頭を優しく撫でているのが見える。
「ユヅル、行こうか」
「はーい!」
エヴァンさんと一緒に二人の元に向かう。
後ろからミシェルさんたちもきている音がする。
「佳都さん!」
「弓弦くん。ミシェルさん、それにリュカさんも元気そうで嬉しい!」
「佳都さんも! また会えて嬉しい!!」
「もうみんなと離れてから寂しくて……。でもみんなでまた会えるからって我慢してたんだ。今日が待ち遠しかったよ」
ふわっとした優しい笑顔を見せてくれる。
お別れした時と全然違う、笑顔で会えるって嬉しい。
「みんなお迎えに来たいって言ってたんだけどね。ごめんね、僕たちだけで」
「ううん、来てくれるだけで嬉しいです。それで、理央くんたちはどこで待っているんですか?」
「理央くんと観月さんの実家なんだよ」
「えっ、そこに行っていいんですか?」
「うん。みんなで最初はどこに行くって相談したんだけど、観月さんのお母さんがどうしても一番最初にうちに来てほしいって言ってね。それで決まったんだ。美味しいお雑煮とおせち料理を用意してくれているみたいだよ」
「わぁー! 食べたいと思ってたんです。ねぇ、ミシェルさん」
「うんうん。初日から夢が叶うのって嬉しい!」
ミシェルさんはよっぽど食べたかったんだろう。
その場で嬉しそうにジャンプしている。
そんな子どもみたいな可愛い姿を見ていると、世界中で有名なヴァイオリニストには見えないな。
「ユヅル、そろそろ移動しようか」
「はーい」
綾城さんと佳都さんの案内で駐車場に着くと、一際大きな車が止まっているのが見える。
「みんなで乗るから、親父の車を借りてきたんだ」
そう言って、綾城さんが運転席に乗り込み、道順を覚えるためと言ってパピーが助手席に座ることになりあとは全員で後ろに座った。
エヴァンさんの家にもあったような大きな車だから、余裕で全員が乗れる。
「弓弦くん、ミシェルさん。リュカさんもこっちに座ろう」
僕の隣には佳都さんが座ったけれど、考えてみたら車の中で佳都さんと横並びで座るのは初めてかも……。
なんだか新鮮だな。
フランスではあまり感じることのない匂いかもしれない。
「ユヅル? どうした?」
「あ、なんか匂いが……」
「ああ、それはきっと日本食の匂いだよ」
「日本食?」
「ああ、味噌や醤油、それに出汁のいい匂いがするだろう? どれもフランスではなかなか感じられない匂いだからな。ユヅルが今まで味わってきた匂いが呼び起こされたんじゃないか」
だから懐かしく感じたんだ。
フランスでの生活を始めた頃は、日本食が割と食卓に出ていた気がするけれど、ここしばらくはだいぶ少なくなっていた気がする。
それを寂しいとも思わなかったけれど、日本に着いてみると一気に思い出したのかもしれない。
「久しぶりに和食が食べたくなっちゃいました」
「そうか、ならアヤシロに美味しい日本食の店を教えてもらおうか」
「わぁー、楽しみです!」
これでまた一つ、日本での楽しみが増えたな。
到着口まで歩く間、他の飛行機から降りてきた人たちが僕たちを見て驚きの表情を見せる。
さっきエヴァンさんに言われた通り、僕の顔も知られているってことなんだろう。
でも、僕とエヴァンさんはフランス人で、フランスという国で認められた正式な夫夫。
誰にも迷惑をかけているわけでもないし、エヴァンさんのそばから絶対に離れないで堂々としていればいいんだよね。
「エヴァンさん……っ、僕、ちゃんとくっついてますね」
「ああ、いい子だな」
腕にギュッと絡みつくと、エヴァンさんが嬉しそうに笑う。
僕はエヴァンさんが隣にいてくれるから、周りの視線なんか気にしないでいられるんだ。
「もうみんな待ってるのかな?」
「ああ、到着口で待っているって連絡が来ていた。目立つから代表でアヤシロとケイトだけで待っていると言っていたよ」
「えっ、そうなんですね……」
てっきりみんな待ってくれていると思ってた。
でもそういえばみんながフランスに来てくれた日、空港でちょっと騒ぎになっちゃってたっけ。
きっとエヴァンさんもセルジュさんもあの時のことを覚えていたんだろう。
「みんなにもすぐに会えるよ」
「うん!」
そんな話をしていると、トンと軽い衝撃が背中に走った。
ミシェルさんだ。
「ねぇ、ユヅルー。なんだかドキドキするね」
「うん。あ、到着口見えてきたよ!」
「本当だ!」
駆け出したくなるのを必死に抑えて、ジョルジュさんを先頭にエヴァンさんと一緒に到着ゲートを出る。
そのすぐ後ろから、セルジュさんとミシェルさん。そしてパピーとリュカが出てきた。
どこだろうと探す前に、
「弓弦くーん! ここだよ!」
と佳都さんにしては控え目の声が聞こえる。
きっと騒がないように言われたのかな。隣にいる綾城さんが頭を優しく撫でているのが見える。
「ユヅル、行こうか」
「はーい!」
エヴァンさんと一緒に二人の元に向かう。
後ろからミシェルさんたちもきている音がする。
「佳都さん!」
「弓弦くん。ミシェルさん、それにリュカさんも元気そうで嬉しい!」
「佳都さんも! また会えて嬉しい!!」
「もうみんなと離れてから寂しくて……。でもみんなでまた会えるからって我慢してたんだ。今日が待ち遠しかったよ」
ふわっとした優しい笑顔を見せてくれる。
お別れした時と全然違う、笑顔で会えるって嬉しい。
「みんなお迎えに来たいって言ってたんだけどね。ごめんね、僕たちだけで」
「ううん、来てくれるだけで嬉しいです。それで、理央くんたちはどこで待っているんですか?」
「理央くんと観月さんの実家なんだよ」
「えっ、そこに行っていいんですか?」
「うん。みんなで最初はどこに行くって相談したんだけど、観月さんのお母さんがどうしても一番最初にうちに来てほしいって言ってね。それで決まったんだ。美味しいお雑煮とおせち料理を用意してくれているみたいだよ」
「わぁー! 食べたいと思ってたんです。ねぇ、ミシェルさん」
「うんうん。初日から夢が叶うのって嬉しい!」
ミシェルさんはよっぽど食べたかったんだろう。
その場で嬉しそうにジャンプしている。
そんな子どもみたいな可愛い姿を見ていると、世界中で有名なヴァイオリニストには見えないな。
「ユヅル、そろそろ移動しようか」
「はーい」
綾城さんと佳都さんの案内で駐車場に着くと、一際大きな車が止まっているのが見える。
「みんなで乗るから、親父の車を借りてきたんだ」
そう言って、綾城さんが運転席に乗り込み、道順を覚えるためと言ってパピーが助手席に座ることになりあとは全員で後ろに座った。
エヴァンさんの家にもあったような大きな車だから、余裕で全員が乗れる。
「弓弦くん、ミシェルさん。リュカさんもこっちに座ろう」
僕の隣には佳都さんが座ったけれど、考えてみたら車の中で佳都さんと横並びで座るのは初めてかも……。
なんだか新鮮だな。
856
お気に入りに追加
2,875
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
おいしいじかん
ストロングベリー
BL
愛重めの外国人バーテンダーと、IT系サラリーマンが織りなす甘くて優しい恋物語です。美味しい料理もいくつか登場します。しっとりしたBLが読みたい方に刺されば幸いです。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
奴の執着から逃れられない件について
B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。
しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。
なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され...,
途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる