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終わりの始まり

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食事を終えてもなんとなくそこから離れがたくて、しばらくおしゃべりしながらたわいもない時間を過ごしていると、あっという間に空港に向かう時間。

「そろそろ支度をして空港に向かうとしよう」

エヴァンさんの声にようやくみんな重い腰を上げ、それぞれ最後に部屋に戻った。
みんなの荷物はすでに車の中に積み込まれているらしい。

お揃いのもこもこコートを手に持ってきた。
もちろん僕も。

やっぱり別れはどうしたって寂しい。
いくら次に会う約束があったとしても、ここ数日があまりにも楽しかったから、その時間とのお別れはやっぱり悲しくなってしまう。

何か言ったら、涙が出てしまうんじゃないかと思うとなかなか口にも出せない。

そんな僕の気持ちを理解してくれているエヴァンさんは、

「さぁ、行こうか」

と優しく声をかけてくれた。

「リオとソラと同じ車に乗るから、手を繋いでやるといい」

「エヴァンさん……」

エヴァンさんが小さく頷く。
僕はエヴァンさんの気持ちを嬉しく思いながら、

「理央くん、空良くん! 車まで一緒に行こう!」

と二人の間に入り込んでギュッと手を握った。

「うん。行こう!」

「あっ、僕の手袋使ってくれてる!」

「もちろんだよ。これ、すっごくあったかくてお気に入りなんだ。ねっ、空良くんもだよね」

「うん、理央くんの手作りすっごくあったかいよ」

「これの作り方、教えてもらうんだ!」

「ええー、いいなぁ。僕も習いたい!」

「ふふっ。いいよ、一緒にやろう!」

「わぁーっ、やったぁー!」

最後とか、帰るとかそんな言葉は一切でない。
ただ他愛もないその会話が僕を喜ばせてくれたんだ。

「あっ、リュカ! 寒いのに、ありがとう」

僕たちが車に乗るために先に行って扉を開けて待っていてくれたみたい。

「ふふっ。大丈夫ですよ、私はここで生まれ育った人間ですから、寒さには強いです。さぁ、頭を打たないように中に入ってくださいね」

そういえば自分だけで車に乗り込むのって初めて、かも……。
いつもエヴァンさんが抱っこして乗り込んでくれたから、頭を打つかもなんて気にしたこともなかった。

そっと扉の上に手を翳してくれるリュカの優しさに嬉しく思いながら、車の中に乗り込んだ。

歩いていた時と同じように僕を挟んで座ると、続いてエヴァンさんたちも入ってきた。

僕たちの向かいに同じように腰を下ろすと、悠木さんに

「同じ格好で並んでいると、三つ子みたいだな」

と笑われる。

でもそれは僕たちにしてみたら褒め言葉だ。
生まれた場所も育った環境も何もかも違うけど、こうして仲良くなれた。
同じ日に結婚式を挙げて、同じ体験をした僕たち。

ある意味、本当の兄弟よりも本物だ。

「写真を撮ろうか」

「わぁー、撮ってください!!」

観月さんの言葉に一気に盛り上がる。

すると、悠木さんも、そしてエヴァンさんも一斉にスマホを取り出し、僕たちをパシャパシャと撮り出す。
どこをみていいのかわからないけれど、それでもやっぱり僕はエヴァンさんに笑顔を向けてしまう。

きっと理央くんも空良くんも一緒だろうな。

「あっ、見て! 昨日登ったエッフェル塔が見えるよ!」

「あっ、本当だ。こうしてみるとやっぱりおっきいよね」

「あれに登ったなんて不思議ー!」

「だよね。でも、あそこからみる景色……素敵だったな」

「あっ、見て!」

そう言って僕はポケットからスマホを見せた。

「あっ、これ!」

「ふふっ。あの時お揃いで買ったキーホルダー。エヴァンさんがスマホケースにつけてくれたんだ」

「僕も! 僕も! ほら、見て!」

そう言って空良くんが見せてくれたエッフェル塔のキーホルダーには水色のマカロンが付いていた。

「やっぱり空良くんには水色が似合うね」

「うんうん。名前の色だもんね。僕もつけてもらったんだよ!!」

同じように理央くんも可愛いエッフェル塔とピンク色のマカロンがついたスマホケースを見せてくれる。

「お揃いだね」

「うん、お揃い。これみるたびに昨日のことを思い出すよ」

「そうだね」

だんだんと空港に近くなっていく景色を見ながら、少し悲しげな声になっていく。

「あ、あのね……僕、弓弦くんと、ミシェルさんやリュカさんと離れるのが寂しいんだ。でもね……出会えなかったら、寂しいなんて思うこともなくてそれだったら出会えてよかったっていうか……あの……」

「空良、大丈夫。焦らなくていい。ちゃんと伝わってるから」

「うん、ありがとう。寛人さん」

緊張した様子だったけど、悠木さんの声で落ち着きを取り戻した空良くんは言葉を続ける。

「今日は確かにお別れだけど、離れてもずっと繋がっているっていうか、終わりじゃなくて始まりだから……僕、寂しくないよ。本当に弓弦くんに出会えてよかったから……」

最後の方は涙を流しながら、僕に抱きついてくる。

その気持ちがすっごく嬉しくて僕は空良くんを抱きしめながら、

「僕も……出会えてよかった。空良くんと、そしてみんなに。僕、友達一人もいなかったのに、今じゃいっぱいだよ。これって幸せだよね」

「僕も、空良くんと弓弦くんとみんなと会えてよかった……。友達なんて、一生できないって思ってたから……だから……ありがとう」

「僕もありがとうだよ。本当に嬉しい!」

両方から理央くんと空良くんに抱きしめられながら、車は空港に到着した。

車から降りて、ふと次の車を見ると、涙でぐしゃぐしゃのミシェルさんが見える。
それを佳都さんと秀吾さんが慰めながら一緒に泣いているみたい。

「ふふっ。あっちの車も楽しい思い出作りできたみたいだね」

「うん、これも思い出だよね」

「さぁ、ユヅル。これから空港の中は私のところに戻っておいで」

僕が抱きかかえると待っていたかのように理央くんと空良くんも抱きかかえられる。
そうしてみんなで抱きかかえられながら、空港の中に入って行った。

入った瞬間から、すごい視線を感じるけれど抱っこされてるんだもんね。
当然か。

でもエヴァンさんに寄り添っていたら安心だな。

そのままスタスタと保安検査場に向かう。
僕たちが行けるのはここまでだ。

ああー、本当にここでお別れなんだ。
寂しいなぁって思ったけど、

――離れてもずっと繋がっているっていうか、終わりじゃなくて始まりだから

と言ってくれた空良くん言葉を思い出す。

「また会えるからね」

「うん……また会おうね」

「日本で待ってる!」

「うん、必ずいくよ!」

「弓弦くん!」

理央くんと、空良くん。
そして秀吾さんと佳都さんと次々にハグをして笑顔を見せる。

「次は日本で会おうね」

そんな力強い言葉をかけられて、僕たちは離れた。

「みんな……これ、飛行機の中で食べて」

ミシェルさんが渡したのは見覚えのある紙袋。

「あっ、これ……」

「僕の大好きなウイークエンドシトロン。みんなの週末が素敵なものになりますように……」

「ありがとうございます!」

ミシェルさんからそれを受け取った秀吾さんは目にいっぱい涙を溜めながら、

「僕、ヴァイオリン頑張ってみます」

と告げていた。

「うん、また一緒に演奏しよう」

そんな二人の会話を聞きながら、僕たちはみんな笑顔に包まれていた。

「弓弦くん! ミシェルさん! リュカさん! またねー!!」

「うん、またねーー!!! 会いにいくからねーー!!!」

抱きかかえられながら、手をぶんぶんと振ってくれるみんなを見えなくなるまで見送って、

「ユヅル、頑張ったな……」

そんなエヴァンさんの言葉に、僕は堪えていた涙を流した。

見送りだけは笑顔でしたかったから……。
僕の顔を笑顔で覚えていて欲しかったんだ。

「エヴァン、さん……」

「またすぐに会えるからな」

「うん……ありがとう」

またみんなと会える日を楽しみに、僕のフランスでの生活は続いていくんだ。
愛しい旦那さまと一緒に……。



  *   *   *

いつも読んでいただきありがとうございます!
一年三ヶ月近く続けてきましたが、ここで本編完結となります。
連載当初はここまで長い連載になる予定ではなかったのですが、イケメンスパダリシリーズの彼らとわちゃわちゃさせたくてこんな長期連載になってしまいました。
本編は完結となりますが、日本旅行編やその後の話もいろいろ書きたいことはありますので、あとは番外編で続けていけたらと思っています。
エヴァン視点の方はもう少しありますので、そちらも合わせて楽しんでいただけると嬉しいです♡
ここまで長い間、読んでいただきありがとうございました!
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