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朝のおしゃべり

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目が覚めたのがいつもよりも早かったから、のんびりと支度を済ませて部屋を出る。

「大丈夫です。歩けますよ」

そう言ったけれど、エヴァンさんは

「分かってる。ただ私がユヅルと離れたくないだけだ」

と言って、僕を抱きかかえたままリビングに向かった。

もうすでに起きて仕事をしていたパピーに

Bonjourおはよう,papy!』

と声をかけると、一瞬驚いた表情をした後で満面の笑みで迎えてくれた。

Bonjourおはようございます, Voue avezよく眠 bien dormれましたかi?』

『ふふっ。tres bieとってもn!』

そう返すと、パピーは嬉しそうに笑顔を浮かべ、エヴァンさんと何か話をしていた。
なんだか驚いているみたい?
よくわかんないけど。
多分、早起きしたから驚いて褒めてくれてるのかな?

ふふっ。パピーに褒められると嬉しい。

「ユヅル、朝食はみんなが揃ってからにしようか」

「うん。最後だもんね。あっ、今日の朝食……」

「ふふっ。大丈夫。焼きたてのクロワッサンとショコラショーをジュールが用意してくれているよ」

「わぁっ! 嬉しいっ!!」 『Merci,papy!』

嬉しくてお礼を言うと、パピーは目を細めて笑顔を向けてくれた。

ああ、何も言わなかったのに、僕がみんなと食べたかったものを用意してくれるなんて……本当にパピーはすごいな。
本当に嬉しすぎる。


「今日は何時ごろ空港に向かうの?」

「そうだな、出発が12時の予定だから、10時ごろ出れば余裕だろう。私の自家用機で送るから、出国審査も特に時間はかからないからな」

「そっか……あの飛行機に乗るんだ……すごいっ」

僕はフランスに来た時のあのすごい飛行機を思い出していた。
お風呂もベッドもあって、あれが飛行機の中だなんて考えられないくらいだったもんね。

「ふふっ。アヤシロたちが乗る飛行機はユヅルが乗ったものとは違うけどね」

「えっ? そうなんですか?」

「ああ、ユヅルが乗った飛行機だと個室が足りないんだ。アヤシロたちが乗る飛行機は少し部屋は狭いがそれぞれ個室が用意してある。そっちの方がいいだろうと思ってね」

確かに個室がある方がいいだろうけど……飛行機が何台もあるなんて……すごいな。

改めてエヴァンさんの凄さに驚いていると、

「おはようございます」

と秀吾さんの声が聞こえた。

「あっ、おはようございます。早いですね」

「えっ? あ、はい。なんだか目が覚めてしまって……」

もしかしたら、帰るのが寂しいと思ってくれているのかな……。

「ねぇ、エヴァンさん。僕、秀吾さんとあっちでおしゃべりしたいです」

「んっ? ああ、そうだな。分かった」

そう言うと、エヴァンさんはサッと僕を下ろしてくれた。

「私もスオウと話がしたかったんだ」

「じゃあ、ゆっくりおしゃべりしてくださいね。秀吾さん、あっちでおしゃべりしましょう」

僕は秀吾さんの手を取って、少し離れたソファーに腰を下ろした。

すかさずパピーが紅茶と小さなクッキーを置いてくれた。
ふふっ。優しい。

『『Merci,papy!』』「ふふっ」

お礼の言葉が秀吾さんとかぶって、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

あったかくて香りのいい紅茶を飲んで一息ついていると、

「弓弦くん……ありがとうね」

と秀吾さんが笑顔を向けてくれた。

「この数日、すっごく楽しくて忘れられない思い出になったよ。特に観月さんと理央くんのあんなに嬉しそうな姿を見られて本当に嬉しかった。全部、弓弦くんとロレーヌさんのおかげだよ」

「そんな……お礼を言いたいのは僕の方です。フランスまで来てくれて、みんながお祝いしてくれて……この数日夢みたいで……すごく楽しかった。僕、秀吾さんと一緒にヴァイオリンを弾けたのもすっごく嬉しかったです」

「ふふっ。ありがとう、弓弦くん。僕も弓弦くんとヴァイオリン弾けて楽しかったよ。昨日は一生できそうにない経験できたし……」

ミシェルさんと三人で、たくさんの人に向けて弾いたんだ。
あの時の感動は計り知れない。
それくらい、幸せな時間だったんだ。

「あの、観月さんと秀吾さんって長い付き合いなんですよね? 理央くんと出会う前って今の観月さんとはそんなに違ったんですか? なんか想像つかなくて……」

「ふふっ。今の観月さんしか知らないとそうかもね。でもね、大学でも伝説になってるくらいの人なんだよ、観月さんって」

「伝説、ですか?」

「うん。医学部の綾城さんと悠木さんはお互いに首席を取り合っていたんだけど、法学部の観月さんは入学してから卒業まで誰にも譲ることなく首席でね、顔はもちろんイケメンだし、お金持ちだしってことで、入学してから100人以上から告白されたって噂もあって……」

「ええーっ、100人、ですか? すごいっ!」

「ふふっ。でもね、それを一瞬で断って絶対に笑顔も見せないんだよ。プライベートも誰も知らないし、感情が表情に現れたこともなくて、本当にアンドロイドみたいだったんだ」

いつでも理央くんに笑顔を向けて、嫉妬の表情も見せる観月さんが、アンドロイド……?
信じられないな。
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