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感謝と愛を込めて
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「えっ……」
不安になって隣にいるミシェルさんと秀吾さんに視線を向けると僕に笑顔を向けてくれる。
これって……
成功ってことなのかな?
そう思った瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が起こった。
地響きを感じるほどのその威力に驚きしかない。
観客の皆さんが口々に何か叫んでいるのが聞こえるけれど、僕が聞き取れるのはBravoと言う言葉くらい。
でもその言葉だけでみんなが喜んでくれたんだってことがわかってホッとした。
ミシェルさんの演奏を邪魔することにならなくて本当によかった。
そう思っていると、突然観客の皆さんが同じ言葉を叫び始めた。
『Une autre! Une autre!』
んっ?
なんて言っているんだろう?
何を言っているのかがわからなくて、隣を見ると
「もう一曲って言っているけれど、どうする?」
とミシェルさんが尋ねてきた。
「えっ、どうしよう……秀吾さん、どうする?」
駆け寄ってきてくれた秀吾さんと三人で話をしていると、すぐにエヴァンさんと周防さん、そしてセルジュさんもきてくれた。
「どうした? 演奏はもう終わりだろう?」
「アンコールって言われているからどうしようかと思って……」
「ああ、本当に君たちは優しいな。でも延々と終わりが来なかったら騒ぎも大きくなるぞ」
「でも……」
「わかった。じゃあ、最後の一曲だ」
そういうと、エヴァさんはまだ大騒ぎしている人たちに向かって大きな声で叫び始めた。
すると今までの騒ぎが嘘のようにぴたりとおさまった。
本当にすごいなぁ、エヴァンさんって。
「曲は何にしますか?」
「せっかくだから、クリスマスじゃない曲にしてみようか?」
「あんまりレパートリーがないので、弾けるかわからないんですけど」
「前に弾いてくれたあれがいい」
「あれ?」
「うん。『Salut d'amour』」
「さ、りゅー、だむー?」
そんなの弾いたっけ?
頭の中の記憶を必死に呼び起こそうとしても全然出てこない。
ミシェルさんの前で弾いたのって……
あっ、もしかしたら……と思い浮かんだものと、秀吾さんの声が重なった。
「愛の挨拶?」
「愛の挨拶だよ」
「そう! それそれ!」
「秀吾さんも弾ける?」
「うん。将臣がこの曲好きだから、たまに弾いてるよ」
「なら、決まり!」
嬉しそうなミシェルさんの声に、エヴァンさんがこっちに視線を向けた。
「決まったのか?」
「うん、愛の挨拶だって」
「えっ? そ、れは……っ」
「だめ、ですか?」
「い、いや……わかった……」
なんだか少し表情が固かった気がしたけれど、
「演奏が終わったらすぐに帰るぞ!」
と言って、少し離れた場所に三人で移動していた。
それを不思議に思いながらも、ミシェルさんから演奏の合図がやってくる。
僕はこの幸せな時間を愛するエヴァンさんと、そして、大切な友人たちと一緒に過ごせることに感謝と愛を伝えるべく、想いを込めて演奏した。
ああ、なんて気持ちいいんだろう……。
日本で誰かと一緒に演奏って言ったら、母さんとだけだった。
でも音が似ていたから、そこまで思わなかったけれど、二人の奏でる音は本当に綺麗。
ミシェルさんの音と秀吾さんの音が混ざり合うと、まるで天使の歌声みたいに聞こえる。
エヴァンさん……僕にこんな未来を与えてくれて本当にありがとう……。
エヴァンさんと出会えて、本当によかった。
みんなと出会えて、本当によかった。
心の中で感謝と愛を伝えながら演奏を終えると、またもやあたりはしんと静まり返っていて、なぜか観客の皆さんは地面に座り込んでいた。
「どういう、こと……?」
不思議に思ったのも束の間、
「ユヅル、帰るぞ!」
そんな声が聞こえたと思ったら、エヴァンさんに突然抱きかかえられ、驚いている間にヴァイオリンを回収されて、階段をスタスタと下りて行ってしまった。
「エ、ヴァンさん? 怒ってる?」
「違う。演奏があまりにも美しかったから、騒ぎにならないうちにこの場から離れたいだけだ」
そう言うと、あっという間に車まで戻り、さっと乗り込んでしまった。
理央くんたちも、リュカたちもさっと乗り込んで来て、エヴァンさんの口から安堵のため息が漏れていた。
「なんとか無事に車に戻ってこられてよかったよ」
エヴァンさんに抱きしめられて僕もホッとする。
けれど、
「ゆ、づるくん……っ」
「えっ? わっ! 理央くん、どうしたの?」
「ふぇっ……うっ、うっ……っ」
突然の理央くんの涙に驚きしかない。
「りょう、やさん……っ」
「ああ、わかったよ」
理央くんは泣きながら観月さんに抱きつくと、観月さんは幸せそうな顔をして僕を見た。
「理央は弓弦くんの演奏に感動したんだよ。もしかして、理央たちのことを考えて弾いてくれたんじゃないかな?」
「えっ、はい。そうです。エヴァンさんとみんなに出会えたことの感謝と愛を伝えたくて……」
「それがものすごく伝わってきて、ずっと泣きっぱなしだったよ」
「そう、だったんですか……理央くん、ありがとう。演奏聞いてそんなに感動してくれるなんて……嬉しい。きっとミシェルさんも秀吾さんも喜ぶよ」
「す、っごく、き、れい、だった……」
まだ涙声で必死に言ってくれる理央くんが可愛い。
「ふふっ。ありがとう! 最後にいい思い出できたね」
そう言うと、
「最後……」
とポツリと呟いたかと思ったら
「最後は、やだ……っ」
と僕に抱きついてきた。
不安になって隣にいるミシェルさんと秀吾さんに視線を向けると僕に笑顔を向けてくれる。
これって……
成功ってことなのかな?
そう思った瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が起こった。
地響きを感じるほどのその威力に驚きしかない。
観客の皆さんが口々に何か叫んでいるのが聞こえるけれど、僕が聞き取れるのはBravoと言う言葉くらい。
でもその言葉だけでみんなが喜んでくれたんだってことがわかってホッとした。
ミシェルさんの演奏を邪魔することにならなくて本当によかった。
そう思っていると、突然観客の皆さんが同じ言葉を叫び始めた。
『Une autre! Une autre!』
んっ?
なんて言っているんだろう?
何を言っているのかがわからなくて、隣を見ると
「もう一曲って言っているけれど、どうする?」
とミシェルさんが尋ねてきた。
「えっ、どうしよう……秀吾さん、どうする?」
駆け寄ってきてくれた秀吾さんと三人で話をしていると、すぐにエヴァンさんと周防さん、そしてセルジュさんもきてくれた。
「どうした? 演奏はもう終わりだろう?」
「アンコールって言われているからどうしようかと思って……」
「ああ、本当に君たちは優しいな。でも延々と終わりが来なかったら騒ぎも大きくなるぞ」
「でも……」
「わかった。じゃあ、最後の一曲だ」
そういうと、エヴァさんはまだ大騒ぎしている人たちに向かって大きな声で叫び始めた。
すると今までの騒ぎが嘘のようにぴたりとおさまった。
本当にすごいなぁ、エヴァンさんって。
「曲は何にしますか?」
「せっかくだから、クリスマスじゃない曲にしてみようか?」
「あんまりレパートリーがないので、弾けるかわからないんですけど」
「前に弾いてくれたあれがいい」
「あれ?」
「うん。『Salut d'amour』」
「さ、りゅー、だむー?」
そんなの弾いたっけ?
頭の中の記憶を必死に呼び起こそうとしても全然出てこない。
ミシェルさんの前で弾いたのって……
あっ、もしかしたら……と思い浮かんだものと、秀吾さんの声が重なった。
「愛の挨拶?」
「愛の挨拶だよ」
「そう! それそれ!」
「秀吾さんも弾ける?」
「うん。将臣がこの曲好きだから、たまに弾いてるよ」
「なら、決まり!」
嬉しそうなミシェルさんの声に、エヴァンさんがこっちに視線を向けた。
「決まったのか?」
「うん、愛の挨拶だって」
「えっ? そ、れは……っ」
「だめ、ですか?」
「い、いや……わかった……」
なんだか少し表情が固かった気がしたけれど、
「演奏が終わったらすぐに帰るぞ!」
と言って、少し離れた場所に三人で移動していた。
それを不思議に思いながらも、ミシェルさんから演奏の合図がやってくる。
僕はこの幸せな時間を愛するエヴァンさんと、そして、大切な友人たちと一緒に過ごせることに感謝と愛を伝えるべく、想いを込めて演奏した。
ああ、なんて気持ちいいんだろう……。
日本で誰かと一緒に演奏って言ったら、母さんとだけだった。
でも音が似ていたから、そこまで思わなかったけれど、二人の奏でる音は本当に綺麗。
ミシェルさんの音と秀吾さんの音が混ざり合うと、まるで天使の歌声みたいに聞こえる。
エヴァンさん……僕にこんな未来を与えてくれて本当にありがとう……。
エヴァンさんと出会えて、本当によかった。
みんなと出会えて、本当によかった。
心の中で感謝と愛を伝えながら演奏を終えると、またもやあたりはしんと静まり返っていて、なぜか観客の皆さんは地面に座り込んでいた。
「どういう、こと……?」
不思議に思ったのも束の間、
「ユヅル、帰るぞ!」
そんな声が聞こえたと思ったら、エヴァンさんに突然抱きかかえられ、驚いている間にヴァイオリンを回収されて、階段をスタスタと下りて行ってしまった。
「エ、ヴァンさん? 怒ってる?」
「違う。演奏があまりにも美しかったから、騒ぎにならないうちにこの場から離れたいだけだ」
そう言うと、あっという間に車まで戻り、さっと乗り込んでしまった。
理央くんたちも、リュカたちもさっと乗り込んで来て、エヴァンさんの口から安堵のため息が漏れていた。
「なんとか無事に車に戻ってこられてよかったよ」
エヴァンさんに抱きしめられて僕もホッとする。
けれど、
「ゆ、づるくん……っ」
「えっ? わっ! 理央くん、どうしたの?」
「ふぇっ……うっ、うっ……っ」
突然の理央くんの涙に驚きしかない。
「りょう、やさん……っ」
「ああ、わかったよ」
理央くんは泣きながら観月さんに抱きつくと、観月さんは幸せそうな顔をして僕を見た。
「理央は弓弦くんの演奏に感動したんだよ。もしかして、理央たちのことを考えて弾いてくれたんじゃないかな?」
「えっ、はい。そうです。エヴァンさんとみんなに出会えたことの感謝と愛を伝えたくて……」
「それがものすごく伝わってきて、ずっと泣きっぱなしだったよ」
「そう、だったんですか……理央くん、ありがとう。演奏聞いてそんなに感動してくれるなんて……嬉しい。きっとミシェルさんも秀吾さんも喜ぶよ」
「す、っごく、き、れい、だった……」
まだ涙声で必死に言ってくれる理央くんが可愛い。
「ふふっ。ありがとう! 最後にいい思い出できたね」
そう言うと、
「最後……」
とポツリと呟いたかと思ったら
「最後は、やだ……っ」
と僕に抱きついてきた。
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