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À tes yeux!

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「ユヅル、コートを」

「あっ、ありがとう」

外の寒さとは違って中はとっても暖かい。
エヴァンさんに手伝ってもらいながらコートを脱ぐと、他の席にいる人たちから何か声が聞こえる。

声が小さいし、フランス語だし、僕には何を言っているのかはわからないけど、いちいち反応するのもおかしいかな?

少し気になったけど、そのままにしておいた。
エヴァンさんもコートを脱ぎ、近くにいた黒服の人に僕のコートと一緒に手渡して、僕をエスコートしながら椅子に座らせてくれた。

そっか、流石にここではエヴァンさんと一緒に座るわけじゃないんだ。
ここのところずっとエヴァンさんの膝に乗ってご飯食べてたからそれが当たり前だと思ってたな。

でも外の景色がよく見えるように横並びの席だから、ピッタリと寄り添って座ればエヴァンさんの温もりを感じられる。

隣を見れば理央くんたちもピッタリと寄り添って座っている。
やっぱりくっついて座ると安心するよね。

「料理は注文しているから、それぞれ好きな飲み物を選んでくれ。ユヅル、何がいい?」

「えっと……ぼく、わからないからエヴァンさんが選んでください」

「ふふっ、なら同じものにしようか」

「えっ、でもエヴァンさんはいつも赤ワインを……」

「ああ、だが今日はまだ夜までいるからな。昼間はノンアルコールにしておこう。ミヅキたちも同じものにしないか?」

そういうと、エヴァンさんはミヅキさんたちに視線を向けた。

「ええ、いいですね。私もノンアルコールにしようと思っていたんですよ」

「じゃあ、そうしようか」

そういうと、エヴァンさんは近くにいた黒服の人にみんなの分の飲み物を注文した。

すぐに僕たちの前に数人の男の人がやってきた。
胸元に金色のブドウのバッジをつけているこの人たちのことをソムリエさんと呼ぶんだって前にエヴァンさんに教えてもらったことがある。

その人たちが僕たちのグラスにトクトクとワインを注いでくれる。

ワイングラスに入れているからというのもあるかもしれないけれど、これがお酒じゃないなんて信じられないな。

「うわー、大人になったみたい!」

「ふふっ。本当だね!!」

理央くんと空良くんがワインを見て興奮しているのが聞こえる。
うん、うん。
やっぱり楽しくなっちゃうよね。

みんなにワインが注がれたのを確認してエヴァンさんがグラスを掲げて声をかける。

『À notre amitié !』

そういうと、観月さんたちは嬉しそうに同じ言葉を繰り返した。

意味はわからなかったけど、僕も聞き取れた言葉でなんとか

『ア ノトル あみてぃえ』

というと、エヴァンさんは嬉しそうに僕の顔を見ながら、

『À tes yeux!』

といいながら僕のグラスにそっと当てた。

「『あてずぃゆ?』どういう意味?」

「ふふっ。ユヅルからも言ってもらえるなんて嬉しいよ。今のは愛しい相手と乾杯する時の言葉だよ」

「そうなんだ、じゃあエヴァンさんと乾杯する時だけだね」

「ああ、そうだ」

「最初のはなんて言ったの?」

「私たちの友情に乾杯って言ったんだ」

「へぇー、そうなんだ。じゃあ……」

僕はすぐ隣に座っている理央くんに

『ア ノトル アミティエ』

というと、理央くんも観月さんに教えてもらったのか、拙いなりにも

『あ のとる あみてぃえ』

と自信たっぷりに返してくれた。

「「ふふっ」」

「僕たち、フランス人になったみたいだね」

「うん、僕フランス語喋ってる!!」

大喜びする理央くんを見つめる観月さんの視線がとても優しく見えた。

次々と食事が運ばれてくる。
見た目にも綺麗な料理ばかりで、料理が運ばれるたびに理央くんや空良くんの方から感嘆の声が漏れてくる。

観月さんはその料理をさっと綺麗に切り分けて理央くんの前に置く。
その素早い動きに驚いてしまうほどだ。

理央くんはそれを嬉しそうに口に運び、

「んんっ、すっごく美味しい!!」

と幸せそうな声をあげる。

それを聞いているだけで僕も幸せを感じながら料理を食べた。

「ユヅル、どうだ?」

「すっごく美味しいです! このお肉、すっごく柔らかいですね」

「ああ、これは子羊だよ。クセもないし、柔らかくて私も好きだよ。ユヅルと好みが一緒で嬉しいよ」

「ふふっ。エヴァンさんったら」

あっという間に食事を食べ終わり、デザートのケーキとミルクと砂糖たっぷりのカフェオレを飲んで大満足。

「お腹いっぱいになっちゃったね」

「うん。美味しかった」

そう話す理央くんはなんだか眠たそう。

「あれ? 観月さん、理央くん大丈夫ですか?」

「ああ、いつも昼食を食べたら眠くなるんだ。少し寝たらすぐに起きるから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

そういうと、観月さんはさっと理央くんを椅子から抱き上げて自分の膝に乗せた。
安心しきったように眠る理央くんとそれを眺める観月さんがすごく素敵だ。

しばらくおしゃべりをしながら理央くんが起きるのを待っていたけれどまだ少し眠いみたい。

「ミヅキ、そろそろ行けるか?」

「ええ、大丈夫です」

観月さんは手際良く寝ている理央くんにコートを着せて立ち上がった。

そして、そのまま店の外に出た。

「動いているうちに起きると思いますから、エッフェル塔に上りましょう」

観月さんがそう言ってくれたので、みんなでそのままエッフェル塔に上る。
時間的にタイミングが良かったのか、さっきまでの行列が嘘のように少なくなっていた。

そうして僕たちはエッフェル塔に上ったんだ。
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