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<閑話> 高嶺の花  <後編>

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「わぁー、僕こんなチケット持つの初めて!」

「うん、僕もだよ! なんかドキドキするね」

そんな声が聞こえてきて、思わず顔が綻んでしまう。
なんて可愛い子たちなんだろう。
女の子かもしれないと思っていたけれど、僕と言っているから男の子かもしれないな。
それでも可愛いことに変わりはない。

周りにいる観光客たちは確実に日本語をわかっていないだろうけれど、それでも彼らの可愛さにみんな笑顔を向けながら静かに眺めていた。

凱旋門に上がる螺旋階段は大人一人分くらいの幅しかない。
このイケメンたちは彼らをどうするだろうと思って見つめていると、当然のようにスッと彼らを抱きかかえた。

その流れるような仕草と彼らの様子に、ああ、これは彼らにとっていつものことなのだと感じさせられた。

展望台まで300段近い階段を上るというのに、イケメンたちは辛さなど微塵も見せずまるで何も持っていないかのようにスタスタと上がっていく。
こっちは日頃のデスクワークのせいですでに足がパンパンなんですけど……。

イケメンってそんなところまでイケメンなのね……。

途中で休憩しようと思ったけれど、誰も休憩する人がいない。
みんな彼らの後に続くようにひたすら上を目指している。

きっと彼らを見たくて仕方がないんだ。

そういう私もその一人だけれど。

「何? あの人たちだけ平坦な道を歩いてるの? 人一人抱っこしているのに、あんなにスタスタ歩けるってバグってる?」

亜子が驚きながら見上げているけれど、休憩するそぶりもない。

「もうこうなったら観光ついでに彼らも観察するしかないよね!」

ヒィヒィ言いながらも必死に階段を上り切ると、妙な達成感と共に周りの人たちとの一体感が生まれた。

『ハーイ! やったわね』

なぜか目の前を歩く女性たちとハイタッチをしてしまう。
でもなんだか爽快だ。

薄暗い螺旋階段から外に出ると、爽やかな青空が私たちを待ち受ける。

あの人たちはどこ行ったのかな?

キョロキョロと見回さなくてもすぐに見つかった。

なぜなら、観光客でいっぱいのはずの屋上が彼らを取り巻くように空いているのだから。
もはやみんな景色よりも彼らを見ることに必死になっているようだ。

でも、その気持ちはよくわかる。
彼らが纏う空気が妙に神々しく見えて、目が離せない。

なんて素敵なんだろう。
絵になるとはこういうことを言うんだろうな。

「わっ!」

総帥と可愛い彼がキスをしてる! 多分。
ここからは、いや、どの角度からも可愛い彼の顔は見えないけれど、確実にキスしていそうな距離感。
もしかして、誰からも可愛い彼の顔が見えないように計算している?
そう思わずにいられないほど計算し尽くされたキスに思わず感嘆の声が漏れる。

可愛い彼のキス顔が見えなくても、重なり合う二人のシルエットを見ただけで、今日この場に居合わせた価値はある。

他の可愛い彼らとも合流して、写真を撮り合う姿すら様になっていて、もうここにいる観光客たちは誰も景色を見ようとしていない。

誰かがそんな彼らの可愛い様子を写真に収めようとスマホを取り出すと、さっと目の前を妨害するように邪魔が現れる。
あっちでもこっちでも同じような妨害が行われていて、私はさっきのことを思い出す。

そういえば、さっき手帳を取り出した時もこうやって邪魔が現れたっけ。

もしかして、これって……。

私がそう気づくと同時に私の隣にいたおじさんが

『ヒュー。さすがだな、ロレーヌ家専属警備隊。隙がないな』

と笑っている。

『ロレーヌ家、専属、警備隊、ってなんですか?』

聞きなれない言葉がどうしても気になって尋ねてみた。

『知らないのか? パリ警視庁の中にあるんだよ。パリ警察の中でも精鋭だけが入れる特殊警備部隊がな。彼らは絶対にロレーヌ総帥に近づくことは許さないんだよ。ほら、ロレーヌ総帥の近くにいる鍛えている男わかるか?』

おじさんが視線を向ける先にいたのは、総帥と同じ車から最初に降りてきたあのイケメン。

『彼がその警備隊の隊長だよ。彼がいる限り総帥に近づける奴はいねぇな』

このおじさんがなんでこんなに詳しく知っているのかわからないけれど、もしかしたら総帥の追っかけだったり?
日本でも皇室の人を追っかけていく先々に現れる人っているもんね。

それにしても警備隊長があんなイケメン……。
総帥自身もめっちゃイケメンだし、連れている子は男だか女だかどっちでもいいと思ってしまうほどの可愛い子。

あそこだけ顔面偏差値がすごすぎない?

写真を撮ることは叶わなさそうだからとりあえず可愛い彼らとイケメンたちの顔を目に焼き付けておこう。
じっと見つめていると、近くにいた女性が

『ミシェルー!! 可愛いー!! こっち向いてー!!!』

と無謀にも声をかけると、ミシェル・ロレーヌがこっちを向いてくれた上に、にっこりと笑って手を振ってくれたではないか。

「――っ!!!!!」

その瞬間、ズキューン!!! と胸を撃ち抜かれたような衝撃が私を襲った。

今、確実に私をみてたよね?
絶対私だよね!!
ああ、もう私死んでもいい。

私の横でバタバタと人が崩れ落ちているけれど、そんなことどうでもいい。

あのミシェルの微笑みを私は一生忘れない。
ああ、もう私……結婚できないかもしれないな。
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