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<閑話> 高嶺の花  <前編>

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彼らの凱旋門観光に居合わせた日本人観光客視点のお話です。
長くなりすぎたので前後編で分けます。
楽しんでいただけると嬉しいです♡


  *   *   *

「ああー! 今日は最高の観光日和じゃない?」

「うん。寒いけど、青空出てるしね。フランスでこの時期に青空が見られるのは珍しいらしいよ」

「やっぱり日頃の行いがいいからねー、私」

「どの辺がよ」

「ああー、ひどいっ!」

「はははっ」

社会人三年目の私・笠井かさい莉緒りおは、大学時代からの親友で同期の亜子あこと念願だったフランス旅行に来ていた。

旅の目的は凱旋門やエッフェル塔、ルーブル美術館とオルセー美術館を巡り、ヴェルサイユ宮殿を見に行ってオペラ座でオペラを観ること。
そして、もちろんシャンゼリゼ通りにあるハイブランドのお店を巡るのも楽しみの一つ。

大学時代、フランス語を第二外国語で取っていたおかげで、日常会話くらいはなんとかできる。
あの時必死に勉強しておいて本当に良かった。

「まずは凱旋門からの眺めよね。パスを買っているからいちいちチケットを買うのに並ばないのはいいよね」

「そうそう。いくつか見にいけば元は取れるし最高よね」

決して貧乏旅行ではないけれど、買い物と食事に予算を使いたいから、節約できるところはしっかりしておかないとね。

「うわっ!」

「わっ! 何、どうしたの? いきなり止まったらびっくりするじゃん」

キョロキョロとお上りさんのように周りの景色に見入っていた私の前を歩いていた亜子が、道端で突然止まるもんだから背中にぶつかってしまった。

「あ、あれ!」

「あれ?」

驚いた表情を見せる亜子の指し示す先をみると、二台の超高級リムジンが私たちの行く手に停まるところだった。

「すごーい! あれ、リムジンの中でも超高級車じゃない! しかも二台とか。一体どんな人が降りてくるんだろう?」

「テレビの撮影とかじゃない? もしかしたらフランスの芸能人に会えたりして!!」

思いがけないシチュエーションに興奮する。
私たちだけじゃなく、周りにいる他の観光客や地元の人でさえ、誰が出てくるかを待ち侘びているようだ。
それくらいすごい人ってこと?

きゃー! めっちゃラッキーじゃん!!

ドキドキしながら待っていると、一台目の車の扉が開き、めっちゃイケメンで長身の男性二人が出てきた。
すごっ、この人たちコート着てても鍛えてるのがわかる。
もしかしてSPとか?
でもSPにしては片方の人が着ているコート、めっちゃ可愛すぎない?
似合ってるからいいんだけど。

次に出てきたのは、これまたすごいイケメンの……あれ? 日本人?
どう見ても日本人だよね?
一緒に出てきたのはあのSPっぽい彼とお揃いの可愛いコートと手袋をつけた、日本人っぽい可愛い女の子、いや男の子かな?
親子にしては年が近過ぎだよね、兄弟?

でもその距離感の近さに違和感が募る。
この二人が気になりつつも続けて降りてきた二人組に目をやると、周りにいた地元の人っぽい人が騒ぎ始めた。

何? やっぱり有名人?

気になって、近くで騒いでいた人に

『すみません、あの人たち誰ですか?』

と尋ねてみたい。

『間にいる二人はわからないけど、最後に降りてきたのはロレーヌ総帥だよ。知ってるだろ? 大富豪のロレーヌ総帥。手前にいる二人は彼の専属護衛だよ』

「ええー!! ロレーヌ、総帥って……あのロレーヌ家の人ってこと? うそっ! 超金持ちじゃん!!!」

『何を言っているんだ?』

『ああ、すみません。つい興奮してしまって……あの人がロレーヌ家の人って本当ですか?』

『ああ、間違いないよ。きっと間にいる彼らはロレーヌ総帥の友人じゃないか? 同伴者が同じコートを着ているし間違いないな。まさか、こんな観光地に総帥がやってくるとは思わなかったが総帥自ら案内してやってるなら、あのアジア人の友人はかなりの権力者なのかもしれないな』

『えっ、じゃあ、総帥と一緒にいる子は?』

『知らないが、あれだけ総帥が寄り添っているんだ。大事な存在に間違いはないだろうな』

大事な存在って一体何?
じっと見つめていると、総帥がコートの中にその子を包み込んだ。
その甘くとろけるような表情に周りから感嘆の声が漏れる。

『ああ、やっぱり間違いないな。彼はきっと最近噂になっている総帥の伴侶だよ』

『えっ!! 伴侶って、恋人ってことですか?』

『結婚相手だと噂されているよ。あれは間違いないな。総帥もやるもんだな。あんな若くて可愛い子を捕まえるなんてな。いや、総帥だからあれだけ可愛い子を捕まえられたのか。ははっ』

どうみたって私よりも若い。
あの子が世界的な大富豪の恋人?
男の子だか、女の子だかわからないけど、羨ましすぎる!!!

『きゃー!』
『可愛いっ!!』
『私も包んで~!!』

じっと二人に見入っていると、周りの声が一段と大きくなったことに驚いてそっちを向いた。
見れば、一緒に車から降りてきたあの日本人ぽい人たちも同じようにコートの中にあの可愛い子を包み込んでいた。

「どうだ? 理央、あったかいだろう?」

優しくて蕩けるような甘い日本語が耳に入ってくる。
やっぱり日本人だ! っていうか、今……りお、って言わなかった?
もしかしてあの子もりおっていうの?

うそー、こんな偶然ってあり?

同じりおなのに、この違いって何?

羨ましすぎじゃん。

『きゃー!! ミシェル・ロレーヌよ!』
『セルジュも一緒よ!!』
『きゃー! こっち向いて!! 可愛い!!』

もう一台の車からも次々と人が降りてきて、一際大きな歓声が上がったと思ったらどうやら有名人らしい。
ミシェル・ロレーヌって詳しくないけど確か有名なヴァイオリニストだっけ。
そっかロレーヌ家の人なんだ。
お金持ちなのに、ヴァイオリンの才能もあるなんて羨ましい。

あ、せっかくだしサインとかもらえないかな。
フランス旅行の記念に貰えるもんはもらいたい!

カバンから手帳を取り出し、ミシェルに近づこうとした瞬間、前をさっと男の人たちに遮られる。

「ちょ――っ、邪魔なんだけど……って日本語じゃわかんないか」

ああ、もう面倒くさい! 
この間にいなくなっちゃうじゃん!!

結局近づけないうちに彼らは揃って凱旋門の地下道に向けて歩き出した。

なんだ、同じところに行くならまだチャンスはあるか。
私と亜子は彼らの姿を追いかけるように地下道に入った。
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