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万全の対策
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『Bravo!!』
曲が鳴り止むと共にそんな声が声が聞こえて、ハッとする。
あっ、トリスタンさんだ!
今が撮影中だってことをすっかり忘れていた。
それくらい、エヴァンさんとのダンスに夢中になっていたんだ。
エヴァンさんはトリスタンさんと何やら話をしている。
興奮しきった様子のトリスタンさんのフランス語はかなり早口で全くと言っていいほど聞き取れない。
でも、トリスタンさんが僕たちのダンスを褒めてくれているんだなということだけはわかった。
ただ必死にエヴァンさんについて言っていただけだけど、やっぱりエヴァンさんが上手だから動いているだけで楽しかったな。
「少しお化粧直しをしましょう」
クララさんがそう声をかけて、僕を椅子に座らせてくれる。
さっきのダンスでほんのり汗をかいてしまったみたいだ。
「ごめんなさい、手間をかけてしまって……」
「何を仰っているのですか。あんなに素晴らしいダンスを間近で見せていただいて、喜びでしかないですよ」
「えっ? ダンス……よかったですか?」
「ええ。もう本当に……あまりにもお似合いなお二人の素敵なダンスにうっとりしてしまいました。あのカメラマンの方も興奮なさっていたでしょう? あまりにもダンスが素敵で写真をたっぷりと撮ったそうですよ」
「えーっ、そうなんですか」
エヴァンさんについていくのに必死で周りが全然見えてなかったから、正直言って写真を撮られていることも、今は撮影中ってことも忘れていたくらいだし。
でも、こんなに褒めてもらえると嬉しいな。
「さぁ、お化粧直し終わりましたよ」
「ありがとうございます、クララさん」
「ユヅル、それじゃあ次の撮影場所に行こうか」
お化粧直しが終わるとすぐにエヴァンさんが来てくれて、僕を立ち上がらせるとダンスのために取り外したトレーンを付けてくれた。
「これ、すっごく便利ですね」
「ふふっ。そうだろう? ユヅルとはダンスをするつもりでいたから取り外しできるようにしたんだが、かなり印象も変わるし、二種類のドレスを着せているようで私も楽しいよ」
「ふふっ。確かにそうですね」
「次は庭だよ。ちょうどミヅキから撮影が終わったと連絡が入ったんだ」
「わぁ、理央くん。お庭で撮影してたんですね。ふふっ。理央くんのドレス、どんな感じなのかなぁ……」
「リオのは絵本とそっくり同じに作ったと言っていたぞ」
「えーっ、それすごいですね!」
理央くんの好きだった絵本、タイトルは聞いてなかったけどずっとそれをみて憧れていたみたいだし、きっと喜んでいるだろうな。
ああ、実物を見るのが楽しみになってきた。
「さぁ、行こうか。ここからそのまま中庭に出られるんだ」
軽々と抱き上げられ、舞踏室からテラスに出るとそのまま階段を下り中庭に出た。
日差しが明るくて、眩しい。
「あれ?」
「んっ? どうした?」
「いえ、12月なのにあったかいなって。日差しが出ているとこんなにあったかいんですか?」
「ああ、そのことか。今日は庭全体を暖房で暖かくしているんだ」
「えっ? この広い庭全部ですか?」
「ああ。ユヅルもリオもソラもドレスを着ているんだ。撮影の合間に風邪でも引いたら大変だろう? 万全の対策をしておかないとな」
「えっ、じゃあもし今日が雨とか、雪が降っていたらどうなってたんですか?」
「それなら庭全体に屋根をつければいいだけだ。何の問題もないよ」
あまりにもすごいことをさらっと言われてもう驚くしかない。
でも、こうやって僕たちのためにいろいろ考えてくれて……エヴァンさんって本当に優しい。
だって、日本からわざわざきたのに、天気が悪くて撮影できないなんて勿体無いもんね。
「ユヅル、寒くないか?」
「はい。気持ちいいくらいです」
「そうか、それならよかった」
エヴァンさんはトリスタンさんに声をかける。
どうやらどこで写真を撮るかと尋ねているみたいだけど、二人の間で何かが決まったらしい。
エヴァンさんは僕を抱き上げると、そのまま歩き出した。
「エヴァンさん、どこに行くんですか?」
「ユヅルは撮影のことは気にしないでこの庭を楽しんでくれていたらいいから」
確かにさっきのダンスの時のように何も気にしていない方が、正直言って僕も緊張せずに済む。
いつもの顔を撮りたいってことなのかな。
そう思うと一気に気が楽になった。
エヴァンさんに抱きかかえられながら、庭の景色を楽しんだり、綺麗な芝生の真ん中にドレスを広げて座ったり本当に撮影ってことを忘れて、エヴァンさんと庭を楽しんだ。
「これくらいでいいか」
いつの間にか結構な時間を撮っていたようで、庭での撮影は終わったみたい。
「どんな写真が撮れているのか、見当もつかないですね」
「ふふっ。出来上がりを楽しみにしててくれ。最後はギャラリーで撮ろうか」
「ギャラリー?」
「ああ、我がロレーヌ家に伝わる国宝が展示されている部屋だよ。美しい絵画や美術品と並んで美しいユヅルを撮るのも楽しいだろう」
そんなすごい部屋と並んで撮っても迫力負けしそうだけど、そのギャラリーには興味がある。
国宝なんてそうそうみられないし、楽しみだな。
曲が鳴り止むと共にそんな声が声が聞こえて、ハッとする。
あっ、トリスタンさんだ!
今が撮影中だってことをすっかり忘れていた。
それくらい、エヴァンさんとのダンスに夢中になっていたんだ。
エヴァンさんはトリスタンさんと何やら話をしている。
興奮しきった様子のトリスタンさんのフランス語はかなり早口で全くと言っていいほど聞き取れない。
でも、トリスタンさんが僕たちのダンスを褒めてくれているんだなということだけはわかった。
ただ必死にエヴァンさんについて言っていただけだけど、やっぱりエヴァンさんが上手だから動いているだけで楽しかったな。
「少しお化粧直しをしましょう」
クララさんがそう声をかけて、僕を椅子に座らせてくれる。
さっきのダンスでほんのり汗をかいてしまったみたいだ。
「ごめんなさい、手間をかけてしまって……」
「何を仰っているのですか。あんなに素晴らしいダンスを間近で見せていただいて、喜びでしかないですよ」
「えっ? ダンス……よかったですか?」
「ええ。もう本当に……あまりにもお似合いなお二人の素敵なダンスにうっとりしてしまいました。あのカメラマンの方も興奮なさっていたでしょう? あまりにもダンスが素敵で写真をたっぷりと撮ったそうですよ」
「えーっ、そうなんですか」
エヴァンさんについていくのに必死で周りが全然見えてなかったから、正直言って写真を撮られていることも、今は撮影中ってことも忘れていたくらいだし。
でも、こんなに褒めてもらえると嬉しいな。
「さぁ、お化粧直し終わりましたよ」
「ありがとうございます、クララさん」
「ユヅル、それじゃあ次の撮影場所に行こうか」
お化粧直しが終わるとすぐにエヴァンさんが来てくれて、僕を立ち上がらせるとダンスのために取り外したトレーンを付けてくれた。
「これ、すっごく便利ですね」
「ふふっ。そうだろう? ユヅルとはダンスをするつもりでいたから取り外しできるようにしたんだが、かなり印象も変わるし、二種類のドレスを着せているようで私も楽しいよ」
「ふふっ。確かにそうですね」
「次は庭だよ。ちょうどミヅキから撮影が終わったと連絡が入ったんだ」
「わぁ、理央くん。お庭で撮影してたんですね。ふふっ。理央くんのドレス、どんな感じなのかなぁ……」
「リオのは絵本とそっくり同じに作ったと言っていたぞ」
「えーっ、それすごいですね!」
理央くんの好きだった絵本、タイトルは聞いてなかったけどずっとそれをみて憧れていたみたいだし、きっと喜んでいるだろうな。
ああ、実物を見るのが楽しみになってきた。
「さぁ、行こうか。ここからそのまま中庭に出られるんだ」
軽々と抱き上げられ、舞踏室からテラスに出るとそのまま階段を下り中庭に出た。
日差しが明るくて、眩しい。
「あれ?」
「んっ? どうした?」
「いえ、12月なのにあったかいなって。日差しが出ているとこんなにあったかいんですか?」
「ああ、そのことか。今日は庭全体を暖房で暖かくしているんだ」
「えっ? この広い庭全部ですか?」
「ああ。ユヅルもリオもソラもドレスを着ているんだ。撮影の合間に風邪でも引いたら大変だろう? 万全の対策をしておかないとな」
「えっ、じゃあもし今日が雨とか、雪が降っていたらどうなってたんですか?」
「それなら庭全体に屋根をつければいいだけだ。何の問題もないよ」
あまりにもすごいことをさらっと言われてもう驚くしかない。
でも、こうやって僕たちのためにいろいろ考えてくれて……エヴァンさんって本当に優しい。
だって、日本からわざわざきたのに、天気が悪くて撮影できないなんて勿体無いもんね。
「ユヅル、寒くないか?」
「はい。気持ちいいくらいです」
「そうか、それならよかった」
エヴァンさんはトリスタンさんに声をかける。
どうやらどこで写真を撮るかと尋ねているみたいだけど、二人の間で何かが決まったらしい。
エヴァンさんは僕を抱き上げると、そのまま歩き出した。
「エヴァンさん、どこに行くんですか?」
「ユヅルは撮影のことは気にしないでこの庭を楽しんでくれていたらいいから」
確かにさっきのダンスの時のように何も気にしていない方が、正直言って僕も緊張せずに済む。
いつもの顔を撮りたいってことなのかな。
そう思うと一気に気が楽になった。
エヴァンさんに抱きかかえられながら、庭の景色を楽しんだり、綺麗な芝生の真ん中にドレスを広げて座ったり本当に撮影ってことを忘れて、エヴァンさんと庭を楽しんだ。
「これくらいでいいか」
いつの間にか結構な時間を撮っていたようで、庭での撮影は終わったみたい。
「どんな写真が撮れているのか、見当もつかないですね」
「ふふっ。出来上がりを楽しみにしててくれ。最後はギャラリーで撮ろうか」
「ギャラリー?」
「ああ、我がロレーヌ家に伝わる国宝が展示されている部屋だよ。美しい絵画や美術品と並んで美しいユヅルを撮るのも楽しいだろう」
そんなすごい部屋と並んで撮っても迫力負けしそうだけど、そのギャラリーには興味がある。
国宝なんてそうそうみられないし、楽しみだな。
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