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ファーストダンス
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「クララ、頼む」
「はい」
エヴァンさんが僕を大階段の中程で下ろすと、さっとクララさんが駆け寄ってきて、長いトレーンを大理石の階段に沿わせるように広げていく。
「わぁ、綺麗っ」
「ああ、本当に美しいよ、ユヅル。これを持って」
エヴァンさんに際し出されたのは、綺麗な花束。
「このブーケを持って、まずはユヅル一人の写真を撮らせてくれ」
「僕一人で?」
「ああ、せっかくのドレス姿だ。いろんな写真を撮っておきたい」
僕は全部エヴァンさんと一緒がよかったけれど、エヴァンさんがそういってくれるならその通りにしよう。
「わかりました」
エヴァンさんがトリスタンさんに声をかけると、いろんなフランス語が飛んでくる。
それをエヴァンさんが一つずつ僕に指示を出してくれてその通りにしている間に、どんどん写真が撮られていく。
どれくらい撮っただろう。
「ユヅル、上手に撮れているぞ。今度は私との撮影だ」
そういってエヴァンさんが僕の隣に立つ。
一人だとものすごく緊張していたのに、隣にエヴァンさんがいるだけで一気に安心する。
エヴァンさんを見つめていると、自然に身体が動いていく。
遠いところでシャッターの音が聞こえてはいるけれど、その時の僕はエヴァンさんしか見えていなかった。
『Qu’est ce que c’est bien!』
びっくりするくらいのトリスタンさんの大きな声に身体がビクッと震えた。
「大丈夫か、ユヅル」
「あ、うん。びっくりしただけです」
「ふふっ。ユヅルは私しか見えていなかったからな。だが、そのおかげでいい撮影ができたようだぞ。では次の場所に行くとするか」
「あ、あの……」
「どうした?」
「僕……エヴァンさんだけの写真も欲しいです」
「えっ? 私、だけの?」
「だって……こんなに格好良い王子さまのエヴァンさんを写真に残しておきたいです」
「――っ、そうか。なら、そうしよう」
エヴァンさんはトリスタンさんに声をかけると、僕を抱きかかえて一旦階段から下ろし、用意されていた椅子に座らせてくれた。
そして、スタスタと階段を上っていく。
その姿だけで見惚れてしまうほどカッコいい。
本当、エヴァンさんって立ってるだけで絵になるなぁ……。
あんな素敵な人が僕の恋人で……しかも、旦那さまになるなんて、今でも信じられないくらいだ。
あまりの格好良さにずっと見つめていると、僕の視線に気付いたのかエヴァンさんがニコリと笑顔を浮かべた。
「――っ!!!」
うわっ!
今の笑顔……っ。
あれは反則だよっ!!
でも……あの写真、出来上がったらずっと持っていたいな。
そう思ってしまうくらい、エヴァンさんは格好良すぎだった。
撮影を終え、エヴァンさんが僕の元に駆け寄ってくる。
「ユヅル、どうだった?」
「エヴァンさん……格好良すぎですっ。もう見惚れて大変でした」
「ふふっ。そうか、ユヅルがそういってくれると嬉しいな」
「でも、僕以外には見せないでくださいね。あんな笑顔。みんながエヴァンさんを好きになっちゃいますから」
「――っ、ユヅルっ。ああ、わかった。約束しよう」
エヴァンさんはそっと僕のおでこにキスをしてくれると、エヴァンさんの温もりが伝わってくる。
それだけでエヴァンさんからの愛を感じるんだ。
「エヴァンさん、次はどこで撮るんですか?」
「そうだな。舞踏室に行ってみようか」
「舞踏室? って、あのパーティーとかやってるところですか?」
「ああ。そうだ。ダンスをしているところを撮ってもらおう」
「えっ、でも僕……ダンスなんて」
「ふふっ。大丈夫。私がリードするから、ユヅルがそれに合わせるだけでいいよ」
そう簡単にいうけれど、本当に大丈夫かな?
心配しつつも、エヴァンさんは僕を抱き上げると、トリスタンさんとクララさんに声をかけ、スタスタと歩いていく。
大きな扉の前に立つとさっとクララさんが扉を開けてくれた。
「わぁーっ、素敵っ!!」
目の前に広がるのは豪華なシャンデリアや装飾に囲まれた綺麗な部屋。
あのクリスマスパーティーをした部屋も素敵だったけれど、ここはそれ以上だ。
目を瞑ると、映画で見た中世ヨーロッパのあの情景が浮かんでくる。
まるで自分が本当のお姫さまになったような感覚に身体が震えた。
「ユヅル、緊張しているのか?」
「なんだか不思議な感じがして……」
「大丈夫。何も怖くないよ」
そういうと、エヴァンさんは僕を抱きかかえたまま、広間の中央へ足を進めた。
そしてゆっくりと僕を下ろすと、長いトレーンが床に広がった。
「あっ、これだと流石にダンスは……」
「問題ないよ。ほら」
エヴァンさんが僕の腰に手を回したと思ったら、ふわりと身体が軽くなった気がした。
「えっ?」
見ると、長いトレーンがドレスから外れていたんだ。
「これって……」
「ユヅルとダンスがしたくて、取り外しできるように作ったんだ」
「エヴァンさん……ありがとう。これ、本当に素敵!」
「ふふっ。ドレスの裾を片手で少し摘んでごらん」
言われた通りに裾を軽く摘むと、エヴァンさんの作ってくれた真っ白な靴がほんの少し顔をだす。
「これなら踊れるだろう?」
「はい」
「それでは、姫……ダンスを」
差し出された手にそっと手を乗せると、柔らかな音楽が流れ始めた。
これは……ワルツ。
昔、母さんがヴァイオリンで弾いていた気がする。
もしかしたらお父さんとこうやってダンスをしたことがあったのかも……。
そうだったら、こんなに嬉しいことはないな。
「ユヅル……愛してるよ」
「エヴァンさん……僕も、愛してます」
キュッと腰を抱き寄せられ、エヴァンさんのステップに誘われるように、気づけば僕たちは楽しいダンスを踊り続けていた。
* * *
昨年11月に始めた連載でしたが、気づけば100話を超えてしまっていました。
エヴァンsideも加えたら久々にかなりの長編になってしまっていますが、ここまでお付き合いくださりありがとうございます。
早く終わらせないとと思いつつ、書きたいことが多すぎてまだしばらくはお付き合いいただくことになりそうです。
完結までどうぞよろしくお願いします。
「はい」
エヴァンさんが僕を大階段の中程で下ろすと、さっとクララさんが駆け寄ってきて、長いトレーンを大理石の階段に沿わせるように広げていく。
「わぁ、綺麗っ」
「ああ、本当に美しいよ、ユヅル。これを持って」
エヴァンさんに際し出されたのは、綺麗な花束。
「このブーケを持って、まずはユヅル一人の写真を撮らせてくれ」
「僕一人で?」
「ああ、せっかくのドレス姿だ。いろんな写真を撮っておきたい」
僕は全部エヴァンさんと一緒がよかったけれど、エヴァンさんがそういってくれるならその通りにしよう。
「わかりました」
エヴァンさんがトリスタンさんに声をかけると、いろんなフランス語が飛んでくる。
それをエヴァンさんが一つずつ僕に指示を出してくれてその通りにしている間に、どんどん写真が撮られていく。
どれくらい撮っただろう。
「ユヅル、上手に撮れているぞ。今度は私との撮影だ」
そういってエヴァンさんが僕の隣に立つ。
一人だとものすごく緊張していたのに、隣にエヴァンさんがいるだけで一気に安心する。
エヴァンさんを見つめていると、自然に身体が動いていく。
遠いところでシャッターの音が聞こえてはいるけれど、その時の僕はエヴァンさんしか見えていなかった。
『Qu’est ce que c’est bien!』
びっくりするくらいのトリスタンさんの大きな声に身体がビクッと震えた。
「大丈夫か、ユヅル」
「あ、うん。びっくりしただけです」
「ふふっ。ユヅルは私しか見えていなかったからな。だが、そのおかげでいい撮影ができたようだぞ。では次の場所に行くとするか」
「あ、あの……」
「どうした?」
「僕……エヴァンさんだけの写真も欲しいです」
「えっ? 私、だけの?」
「だって……こんなに格好良い王子さまのエヴァンさんを写真に残しておきたいです」
「――っ、そうか。なら、そうしよう」
エヴァンさんはトリスタンさんに声をかけると、僕を抱きかかえて一旦階段から下ろし、用意されていた椅子に座らせてくれた。
そして、スタスタと階段を上っていく。
その姿だけで見惚れてしまうほどカッコいい。
本当、エヴァンさんって立ってるだけで絵になるなぁ……。
あんな素敵な人が僕の恋人で……しかも、旦那さまになるなんて、今でも信じられないくらいだ。
あまりの格好良さにずっと見つめていると、僕の視線に気付いたのかエヴァンさんがニコリと笑顔を浮かべた。
「――っ!!!」
うわっ!
今の笑顔……っ。
あれは反則だよっ!!
でも……あの写真、出来上がったらずっと持っていたいな。
そう思ってしまうくらい、エヴァンさんは格好良すぎだった。
撮影を終え、エヴァンさんが僕の元に駆け寄ってくる。
「ユヅル、どうだった?」
「エヴァンさん……格好良すぎですっ。もう見惚れて大変でした」
「ふふっ。そうか、ユヅルがそういってくれると嬉しいな」
「でも、僕以外には見せないでくださいね。あんな笑顔。みんながエヴァンさんを好きになっちゃいますから」
「――っ、ユヅルっ。ああ、わかった。約束しよう」
エヴァンさんはそっと僕のおでこにキスをしてくれると、エヴァンさんの温もりが伝わってくる。
それだけでエヴァンさんからの愛を感じるんだ。
「エヴァンさん、次はどこで撮るんですか?」
「そうだな。舞踏室に行ってみようか」
「舞踏室? って、あのパーティーとかやってるところですか?」
「ああ。そうだ。ダンスをしているところを撮ってもらおう」
「えっ、でも僕……ダンスなんて」
「ふふっ。大丈夫。私がリードするから、ユヅルがそれに合わせるだけでいいよ」
そう簡単にいうけれど、本当に大丈夫かな?
心配しつつも、エヴァンさんは僕を抱き上げると、トリスタンさんとクララさんに声をかけ、スタスタと歩いていく。
大きな扉の前に立つとさっとクララさんが扉を開けてくれた。
「わぁーっ、素敵っ!!」
目の前に広がるのは豪華なシャンデリアや装飾に囲まれた綺麗な部屋。
あのクリスマスパーティーをした部屋も素敵だったけれど、ここはそれ以上だ。
目を瞑ると、映画で見た中世ヨーロッパのあの情景が浮かんでくる。
まるで自分が本当のお姫さまになったような感覚に身体が震えた。
「ユヅル、緊張しているのか?」
「なんだか不思議な感じがして……」
「大丈夫。何も怖くないよ」
そういうと、エヴァンさんは僕を抱きかかえたまま、広間の中央へ足を進めた。
そしてゆっくりと僕を下ろすと、長いトレーンが床に広がった。
「あっ、これだと流石にダンスは……」
「問題ないよ。ほら」
エヴァンさんが僕の腰に手を回したと思ったら、ふわりと身体が軽くなった気がした。
「えっ?」
見ると、長いトレーンがドレスから外れていたんだ。
「これって……」
「ユヅルとダンスがしたくて、取り外しできるように作ったんだ」
「エヴァンさん……ありがとう。これ、本当に素敵!」
「ふふっ。ドレスの裾を片手で少し摘んでごらん」
言われた通りに裾を軽く摘むと、エヴァンさんの作ってくれた真っ白な靴がほんの少し顔をだす。
「これなら踊れるだろう?」
「はい」
「それでは、姫……ダンスを」
差し出された手にそっと手を乗せると、柔らかな音楽が流れ始めた。
これは……ワルツ。
昔、母さんがヴァイオリンで弾いていた気がする。
もしかしたらお父さんとこうやってダンスをしたことがあったのかも……。
そうだったら、こんなに嬉しいことはないな。
「ユヅル……愛してるよ」
「エヴァンさん……僕も、愛してます」
キュッと腰を抱き寄せられ、エヴァンさんのステップに誘われるように、気づけば僕たちは楽しいダンスを踊り続けていた。
* * *
昨年11月に始めた連載でしたが、気づけば100話を超えてしまっていました。
エヴァンsideも加えたら久々にかなりの長編になってしまっていますが、ここまでお付き合いくださりありがとうございます。
早く終わらせないとと思いつつ、書きたいことが多すぎてまだしばらくはお付き合いいただくことになりそうです。
完結までどうぞよろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
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