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デザートタイム

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ご馳走ばかりの食事も一段落して、お腹も大満足。

エヴァンさんはミヅキさんに誘われて、向こうでワインを楽しんでいる。
チーズや生ハムとワインがすごく合うんだって。

僕はといえば、理央くんたちと待ってましたのデザートタイム。

「これがフランスのクリスマスケーキの定番『Bûcheビッシュ de Noëlノエル』、そして、こっちは『Beraweckaベラベッカ』っていうお菓子。ナッツと、ブランデーに漬け込まれたドライフルーツがたくさん入ってるからあんまり食べすぎないようにね。それから、こっちは『Pandoroパンドーロ』イタリアのクリスマスのお菓子だけど、フランスでも定番かな。そして、これは……」

「あっ、これミシェルさんの好きなケーキ!」

「ふふっ。そう。『Week-end ウイークエンド citronシトロン』 セルジュが絶対にこれを出して欲しいってジュールに頼んでくれたんだよ」

「これ、周りについてる白いのなんですか?」

「お砂糖だよ。シャリッとして甘くてすっごく美味しいんだよ」

理央くんの質問に答えてやると

「へぇー、お砂糖なんだ! すごーいっ!」

と目を輝かせている。


『さぁさぁ、好きなものをお申し付けください』

パピーがお皿を手に持って、なんでも取ってくれる気満々だ。

「ジュールがケーキとってくれるから、好きなのを指差してね」

ミシェルさん、頼り甲斐のあるお兄ちゃんって感じだな。

ミシェルさんからお皿を受け取った空良くんは、

「どれも少しずつ欲しいんですけど……」

と言うと、ミシェルさんがそれをパピーに伝えてくれる。

パピーはニコニコしながら細くて長いナイフで綺麗に切り分けて、お皿に持ってあげていた。

「わぁっ! 『めるしぃ、ぱぴぃ』」

Je vousどういた en prieしまして.』

「えっ? 今、なんて言ったの?」

「どういたしましてって言ったんだよ」

「ああ、そうなんだ。ふふっ。僕のフランス語、通じてる」

うん、わかるよ。
自分が言った言葉が通じるってすっごく嬉しいもんね。

理央くんも空良くんと同じように全部小さく切り分けてもらって、嬉しそうにしていた。
もちろん、僕も。

佳都さんはドライフルーツが苦手なのか、ベラベッカ以外のものを同じように切り分けてもらい、
ミシェルさんはウイークエンドシトロンを少し大きめに。
そして、リュカはベラベッカが好きなんだそうで、それを大きめに入れてもらっていた。

パピーに淹れてもらった紅茶と一緒に楽しいデザートタイムの始まりだ。

「わぁっ! これ、美味しいっ!」

「こっちのも美味しいよ!」

「本当にお砂糖がシャリシャリしてる! 甘くておいしいっ!!」

「わぁーっ、なんかこれ、大人の味がする! でもなんか癖になって美味しいっ!!」

しばらくみんなで楽しくケーキを食べておしゃべりしていると、

「ふふっ。僕、もっとあれ食べたいっ!」

とかなりご機嫌な理央くんがお皿を持ってたちあがろうとして、なんだか足元がおぼつかない。
フラフラと倒れそうになるのをみて、

「あっ、理央くん! 危ないっ!」

と叫んでしまった。
僕のその声に反応したのか、観月さんがすぐに駆け寄ってきて理央くんを抱きしめたけれど、持っていたお皿は落としてしまったようで、パリーンと音を立てて割れてしまった。

「理央っ! 大丈夫か?」

「あっ、ぼ、僕……っ、ごめん、ごめんなさいっ! お皿……っ」

「大丈夫、お皿のことは気にしないでいい。怪我はしてないか? 痛いところはないか?」

観月さんの心配そうな問いかけに理央くんは首を横に振りながらも、目にはいっぱい涙が溜まっていく。

「ごめんなさい、ごめんなさいっ」

理央くんの悲しげな声にみんな何も声をかけられない。
その尋常じゃない様子に今までの理央くんの置かれていた状況を想像してしまう。

詳しいことはあまり知らないけど、理央くんは施設で育ったと聞いている。
それがあまりいいところではなかったらしく、酷い目に遭っていたとエヴァンさんが教えてくれたことがある。

クリスマスも何も知らないんだもんな。

僕だってお皿を割ったことはある。
でも、そう言う時いつだって、母さんは僕に怪我がないかを心配してくれた。

――形あるものはいつか壊れるものだから気にしないでいい。それよりも弓弦が怪我しなくてよかった。

さっきの観月さんは、いつもそう言って許してくれて、抱きしめてくれた母さんと同じだ。
それが愛情なんだろうな。

「エヴァンさん、理央くんを怒ったりしないよね?」

僕はエヴァンさんの元に駆け寄ってそういうと、エヴァンさんはにっこりと笑って

「ふふっ。当たり前だろう、ユヅル。ロレーヌ家の総帥ともあろう者が皿の一枚や二枚、割れたからといって、怒ったりしないよ。リオ、怪我がないならよかった」
『ジュール、すぐに片付けさせてくれ。そして、リオに代わりのケーキを』

と言うと、パピーが新しいお皿にケーキを盛り付けている間に他の使用人さんたちがさっと片づけを終え、あっという間に綺麗になった。

Bonne déどうぞお召しgustation上がりください

パピーが理央くんの目の高さに合わせて、お皿を差し出すと

『め、るしぃ……ぱ、ぴぃ……』

まだ涙声で必死にお礼を言っているのがとても可愛かった。

観月さんは理央くんを抱き上げながら、お皿に乗っているケーキを見て、

「理央、もしかしてこれを食べたのか?」

と尋ねた。

どれも美味しかったけど、何かあるのかな?

理央くんが首を縦に振ると、

「なるほど。そういうことか」

と納得したように頷いた。

「ミヅキ、何かあるのか?」

「いえ、実は理央はものすごく酒が弱いんです。以前、間違えて酒を飲んで倒れてしまったこともあって……」

「ならば、あのふらつきはこの菓子か?」

「おそらく……。この匂いならばかなり強いブランデーが使われているでしょう。少量でも足に来たのかもしれません」

「――っ、悪かったな。それはこちらの落ち度だ。配慮が足りず申し訳ない」

「いえ、そんなこと……」

「リオが皿を割ってしまったそもそもの原因はこちらにあるのだから、気にすることはないぞ。怪我をしないで本当に良かった」

エヴァンさんがそういうと、ようやく理央くんの涙が止まったようだ。
本当に良かった。
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