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僕が望むもの

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どうしよう……怖い。

もしかしたら急な仕事の電話でもかかってきたのかも……。
必死にそう思おうとするけれど、でも……。

母さんを失ったあの日。
真っ暗な部屋の中でたった一人、孤独を感じた時間があった。

部屋の中で何一つ音が聞こえない。
いつもなら母さんがいる時間なのに……誰の気配もない。
どうしたらいいのかを考えることもできなくて、身体を動かすことも、立ち上がることもできないほど、心が壊れてしまった。
このままこの部屋でたった一人過ごしていくことに絶望を感じたあの日のこと。

エヴァンさんと楽しい時を過ごしてもうすっかり忘れていたと思っていたのに……。

僕の心は一瞬であの時のことを思い出してしまった。

誰もいないベッドに一人。
今はもう怖くて何もできない。

エヴァンさん……エヴァンさん……。
僕をひとりにしないで。
母さんみたいに急にいなくなったりしないで……。

お願いだから、そばにいて……。

必死にお願いをしているとそっと寝室の扉が開き、廊下から柔らかな光の線が部屋に入ってきた。

エヴァンさんだ!

そう思った瞬間、何も考えることなく身体が動きエヴァンさんに向かって突進していた。

突然のことにも関わらず、ドンと勢いよく抱きついた僕の身体をエヴァンさんはしっかりと抱きしめてくれた。
ああ、エヴァンさんの匂いだ。
本当にエヴァンさんが帰ってきてくれたんだ。
この匂い、安心する。

「ユヅルっ! どうしたんだ? 何があった?」

泣きすぎて何も言えない僕を軽々と抱き上げ、そのままベッドに連れて行ってくれた。
それでも今は離れたくなくてイヤイヤと顔を埋めながらも強く抱きついていると、エヴァンさんからもギュッと抱きしめられたまま背中を優しく撫でてくれた。

その優しい手の温もりにさっきまでの恐怖が少しずつ落ち着いてくる。

必死に涙を抑えながら、顔を上げるといつもと同じ優しい表情のエヴァンさんが見えた。

「お、きたら……っ、え、ゔぁんさん、が……いな、かったから……っ、さみ、しくて……えゔぁんさん! どこにもいっちゃ、やだっ!! ぼく……また、ひとりになったかとおもって……こわくて、それで……」

エヴァンさんの顔を見たら一気に思いが溢れてきて、必死に訴えるとエヴァンさんは僕の気持ちを理解してくれたのか、

「ユヅルっ! 悪かった!! もう絶対に一人にはしない!! 約束する!!!」

そういいながら、僕の身体を強く抱きしめてくれた。



それからどれくらい抱き合っていただろう。
エヴァンさんはハッと思い出したように僕を抱きしめたまま、ベッドに横たわり布団をかけた。

「こんなに冷えて寒かっただろう……」

「ううん、大丈夫。エヴァンさんが抱きしめてくれてるからあったかいです」

「本当に怖い思いをさせて悪かった。もう二度とユヅルを残して寝室をでたりしないよ。だが、ユヅル……眠れなかったのか?」

僕は顔を横に振りながら、

「いつも抱きしめて寝てくれるからあったかかったのに、エヴァンさんがいなくて寒かったから……目が覚めたんです」

というと、

「そうか……やっぱり私が悪かったな。ユヅルの睡眠を妨げた上に、怖がらせるなんて酷いことをしてしまった」

とがっかりしたように項垂れた。

「あの、エヴァンさん……でも、お仕事だったんでしょう? 僕が勝手に怖くなっちゃっただけなのでエヴァンさんは悪くないですよ」

「ふふっ。ユヅルは優しいな。だが、約束する。もう絶対にユヅルを一人にしたりしないよ」

エヴァンさんの優しい言葉がさっきまで恐怖でいっぱいだった心を温める。

「エヴァンさん……大好きです」

「ふふっ。私もだよ。なぁ、ユヅル……あの言葉をもう一度言ってくれないか?」

エヴァンさんがもう何度もそう言ってお願いしてくる言葉……。

『テュ et ラムール de ma ゔぃ』

「ふふっ。聞くたびにユヅルの発音が上手くなっていくな。ああ、この言葉を聞くだけで私は幸せだよ。なぁ、ユヅル……ユヅルは何か欲しいものはないか?」

「えっ? 欲しいもの、ですか?」

「ああ、もうすぐクリスマスだからな。ユヅルが望むものなら、なんでもいい。どんなものでも必ず贈ると約束しよう。何がいい? 遠慮などしなくていいぞ」

「僕が、望むもの……?」

「そうだ。ユヅル専用のプライベートジェットを作ろうか? いや、それよりユヅル専用のクルーザーでもいいな。南太平洋の島を買って、そこにホテルでも建てようか? それとも――」
「僕……エヴァンさんがいいです」

「えっ?」

「エヴァンさんと過ごせる時間が欲しいです。二人っきりで時間を気にせずに何日も過ごせたら嬉しいな……。でも流石に無理ですよね。エヴァンさん、お仕事忙しいから……」

飛行機も船も何もいらない。
ただエヴァンさんと過ごせたらそれでいい。
でもそれはきっと一番贅沢なプレゼントだよね。
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