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Cabane dans les arbres

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途中で視点が変わります。


  *   *   *

<side ジュール>

ニコラさまのお墓にアマネさまを埋葬されてから、ユヅルさまの心に何かしら変化が起こったのか、その日からフランス語の勉強を熱心にされるようになった。

できるだけ、日本語を使わないように努力する姿はなんともいじらしく、応援したくなる。

最初はフランス語の教科書を片手に勉強なさっていたけれど、やはりひとりではなかなか進まないものだ。
特に言語習得にはそれを教えてくれる教師が必要だろう。

とはいえ、ユヅルさまに対してこの上なく独占欲をお持ちの旦那さまのお眼鏡に適うような教師が見つかるわけもなく、私はやきもきしていた。

私が日本語さえ習得していれば……とどれだけ思ったか知れやしない。
しかしいまさら勉強しても、きっとユヅルさまがフランス語を習得する方が先だろう。
なんせ私はもう頭の固い老人なのだから。

そんなことを思っていると、旦那さまがようやくユヅルさまにフランス語の家庭教師を連れてこられた。

そのお方はリュカ・セザールさま。
彼はフランス警視庁にあるロレーヌ一族専属警備隊の副隊長でいらっしゃるお方だ。
旦那さまはそのお方が日本語に堪能でいらっしゃることに目をつけられたのだろう。
専属護衛兼家庭教師としてユヅルさまのおそばに置かれることになったのだ。
もちろん、リュカさまが警備隊の副隊長でユヅルさまの専属護衛としてお仕えしていることはユヅルさまには内緒だ。
それは、ユヅルさまにはのびのびと過ごしてほしいという旦那さまのご意向だからだ。

国内でも屈指の猛者であるリュカさまは物腰が柔らかく、ユヅルさまとは馬が合うようですぐに打ち解けられまるで長年のご友人であるかのようだ。
私はいつもお二人の勉強に同席しているが、お二人が楽しく勉強なさっている姿を拝見できるのが最近の楽しみになっている。

ユヅルさまの頑張りの成果が出始め、今では簡単な会話ならフランス語でできるようになっていた。
こんなにも短期間で会話ができるようになるとは……本当に素晴らしいことだ。

いつものようにユヅルさまが私にお茶の注文をなさる。

辿々しいフランス語もだいぶ上手になられた。
嬉しく思う反面、あの幼な子のような発音をされていたのを懐かしくも思う。
ユヅルさまの姿に旦那さまのお小さい頃が思い出される。

ふと旦那さまの昔話を思い出してユヅルさまにお話ししたところ、大層喜ばれた。
どうやらフランス語を早く学びたいと思われたのは、私に旦那さまのお話を聞きたかったからという理由もあるようだ。

ああ、旦那さまはこの上なくユヅルさまに愛されていらっしゃるのだ。

こんなにも愛し合う二人がこの広い世界で出会えたことは本当に幸運だったのだろう。

私は今日もユヅルさまのキラキラとした瞳に引き込まれるように、旦那さまの昔話をお聞かせする。


<side弓弦>

『大旦那さま……旦那さまの、お父さまが、まだお小さかった、旦那さまに1冊の本を、贈られたのです。その本に出てくる、Cabane dans les arbres を旦那さまは、いたく気に入られて……』

『かだん、ばん れ、ざーぶる?』

聞いたことのない単語が出てきた。
気に入ったって食べ物とか?

悩んでいるとすかさずリュカが教えてくれた。

『Cabane dans les arbres』「ツリーハウスのことですよ。木の上に建てたお家ですね」

「へぇー、ツリーハウス。素敵!」

『珍しく、どうしてもほしいと、駄々をこねられて』

『それで、どうしたの?』

『ふふっ。大旦那さまが、旦那さまのために、庭の大きな木の上に、家を建てられたのですよ』

『ええーっ!! すごいっ!!』

『ふふっ。実は、大旦那さまの方が元々、憧れて、いらっしゃったのですよ。完成した、時は一番、喜んでいらっしゃって……』

『そうなんだ……なんか、可愛い』

『大旦那さまが、お聞きになったら、大喜びされますね』

『いや、総帥が  la jalousie なさいますよ』

『ら、じゃるーじぃ?』

リュカの言葉がわからなくて聞き返すと、リュカは笑って

「嫉妬、ヤキモチのことですよ」

と教えてくれた。

僕が可愛いと言ったら、エヴァンさんが嫉妬する?
どうして?

僕が不思議に思っている横で、なぜかリュカとパピーは楽しそうに笑っていた。
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