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家族が揃った
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車の振動で揺れ動かないように、お骨入れを膝の上に抱っこしてギュッと抱きしめていると、
「ユヅル、クレマンは運転が上手だからそんなに必死に抱えていなくても大丈夫だぞ。あまり強く抱きしめていると、ユヅルの手が心配になる」
と僕の手にそっと触れて優しく撫でてくれる。
「ふふっ。大丈夫ですよ。僕……母さんとエヴァンさんとフランスの街をドライブしてるのが嬉しいんです」
「そうか……ちょうどアマネがいたのもこのくらいの時期だったかもしれないな。いつもはもう寒くなっている時期だが、ユヅルとアマネが来たからかな。今日はとても暖かい、ピクニックにはもってこいだよ」
「そうなんですね、嬉しいです」
花と緑に囲まれた庭園のような広い敷地に車が入っていく。
ああ、もう着いたんだ。
こんなに近いなら、いつでもお父さんと母さんに会いに来れるな。
スッと扉を開けてくれたのはぱぴー。
先にエヴァンさんが外にでて、母さんのお骨入れを受け取ってくれた。
続けて僕も外に出ると、
「ニコラのいる場所まで少し距離がある。アマネはこのまま私が持っていよう」
と言ってくれたけれど、
「あの、大丈夫です。落とさないようにきをつけますから、僕に持たせてください」
とお願いした。
遺骨が入った骨壷はかなり重みがある。
その上、お骨入れもしっかりとしているからか、かなり重たくて、膝に乗せているのも結構辛かった。
それでも母さんだから、離したくなかった。
だって、母さんを抱きしめられるのもこれで最後だから……。
「ユヅル……そうだな。アマネもユヅルに抱かれてニコラのもとに行きたいだろうしな」
そう言って、僕にお骨入れを渡してくれた。
この重みが今は嬉しい。
「あの、わがまま言って……ごめんなさい」
「ふふっ。そんなこと、気にしないでいい。ユヅルがちゃんと自分の気持ちを伝えてくれて嬉しかったよ。それに……」
「えっ? ――わわっ!!」
エヴァンさんがにっこりと笑ったかと思ったら、急に僕の身体がふわりと浮かび上がった。
「私がユヅルを抱けば問題ないだろう?」
お骨入れを抱えた僕をお姫さまのように抱き上げる。
「えっ、でも……重いですよ」
「言っただろう? ユヅルなら10人くらい軽く持ち上げられるって。軽すぎて心配になるくらいだよ」
「そんなこと……」
「ふふっ。じゃあ、行こうか」
エヴァンさんはぱぴーと何やら話をすると、そのままスタスタと庭園のような墓地へと進んでいく。
途中ですれ違ったおじいさんとおばあさんに
『C’est un beau couple!』
と何か言葉をかけられた。
エヴァンさんは笑顔で、
『Merci beaucoup』
と返している。
今、めるしーって言った?
その後に何かついてた気がするけど、『ございます』的なものかな?
「エヴァンさん、どうしてお礼を言ったんですか?」
「ああ、美人カップルだねって褒められたんだよ」
「えっ、そんな……美人ってそれは、エヴァンさんだけでしょう? 僕はただの子どもで……」
「全く、ユヅルはわかっていないな。ユヅルは。ほら、見てごらん。彼らも、あっちにいる彼らもユヅルに目を奪われてる」
「え……っ」
そっちに目を向けると確かに僕を見ている気がする。
でもそれはエヴァンさんに抱きかかえられてるからのような気もするんだけど……。
「ユヅル、ダメだ。そんなにじっとみては。相手に期待を持たせてしまうだろう? ユヅルは私だけのものなのだからな」
チュッと髪にキスされた。
途端に周りからヒューっと口笛が聞こえて、それが恥ずかしくて顔が赤くなってしまった。
すると、エヴァンさんは僕の顔をすぐに自分の胸に隠しながら
「ユヅルの可愛い顔が見られるのは私だけでいい」
そう言ってくれた。
エヴァンさんのそんな独占欲がなんだかすごく嬉しく感じたんだ。
「さぁ、ついたよ。ここがニコラのお墓だよ」
「わぁっ! 綺麗っ!!」
日本のお墓とは全く違う、十字架を模した石碑に続く台にはたくさんのお花が置かれていた。
「ニコラのファンの人たちが毎日絶えることなく献花してくれるんだよ。だからいつもニコラの周りには花が咲き乱れてる」
「そうなんですね……もう亡くなって20年近く経ってるのに……嬉しいですね」
「ああ、ニコラの音楽はそれほど大勢の人たちを魅了したんだろうな」
これほど長く愛されている人が僕のお父さんだなんて……。
僕はこれからお父さんと母さんに恥じないような人生を送らなくちゃな。
「さぁ、アマネと一緒にさせてやろう」
「はい」
エヴァンさんは僕を腕から下ろすと、ぱぴーに声をかけた。
ぱぴーは何やら器具を取り出し、石碑の台を手際よくずらして母さんのお骨入れをニコラさんの隣に入れてくれた。
「これでようやく2人は一緒になれたな」
母さん……お父さんと出会えたかな?
ここに連れてくることができて本当によかった。
僕たち、やっと家族が揃ったんだね。
ああ……あのお父さんの遺してくれたストラディヴァリウスを持ってくればよかったな……。
「ユヅル、どうした?」
「あ、いえ。あのヴァイオリン……ここに持ってきたらよかったかなって……。母さんがお父さんのヴァイオリンを大切にしてたって見せられたし、それに……お父さんに演奏を聞いてもらいたかったなって」
「ユヅル……」
「でも、次回にします。その時までしっかり練習してから……」
「あのヴァイオリンなら持ってきてるぞ」
「えっ? 今なんて……?」
「ユヅルがもしかしたらそう言い出すかもしれないと思って用意していたんだ。ほら」
そう言ってエヴァンさんが指した先には、お父さんのあのストラディヴァリウスの入ったケースがあった。
「――っ!!!」
「ユヅル、ここで演奏してくれるか? ニコラとアマネとそして、私たちに聞かせてほしい」
「エヴァンさん……」
どうしてこの人はこんなにも僕の気持ちをわかってくれるんだろう……。
嬉しすぎておかしくなりそうだ。
「ユヅル、クレマンは運転が上手だからそんなに必死に抱えていなくても大丈夫だぞ。あまり強く抱きしめていると、ユヅルの手が心配になる」
と僕の手にそっと触れて優しく撫でてくれる。
「ふふっ。大丈夫ですよ。僕……母さんとエヴァンさんとフランスの街をドライブしてるのが嬉しいんです」
「そうか……ちょうどアマネがいたのもこのくらいの時期だったかもしれないな。いつもはもう寒くなっている時期だが、ユヅルとアマネが来たからかな。今日はとても暖かい、ピクニックにはもってこいだよ」
「そうなんですね、嬉しいです」
花と緑に囲まれた庭園のような広い敷地に車が入っていく。
ああ、もう着いたんだ。
こんなに近いなら、いつでもお父さんと母さんに会いに来れるな。
スッと扉を開けてくれたのはぱぴー。
先にエヴァンさんが外にでて、母さんのお骨入れを受け取ってくれた。
続けて僕も外に出ると、
「ニコラのいる場所まで少し距離がある。アマネはこのまま私が持っていよう」
と言ってくれたけれど、
「あの、大丈夫です。落とさないようにきをつけますから、僕に持たせてください」
とお願いした。
遺骨が入った骨壷はかなり重みがある。
その上、お骨入れもしっかりとしているからか、かなり重たくて、膝に乗せているのも結構辛かった。
それでも母さんだから、離したくなかった。
だって、母さんを抱きしめられるのもこれで最後だから……。
「ユヅル……そうだな。アマネもユヅルに抱かれてニコラのもとに行きたいだろうしな」
そう言って、僕にお骨入れを渡してくれた。
この重みが今は嬉しい。
「あの、わがまま言って……ごめんなさい」
「ふふっ。そんなこと、気にしないでいい。ユヅルがちゃんと自分の気持ちを伝えてくれて嬉しかったよ。それに……」
「えっ? ――わわっ!!」
エヴァンさんがにっこりと笑ったかと思ったら、急に僕の身体がふわりと浮かび上がった。
「私がユヅルを抱けば問題ないだろう?」
お骨入れを抱えた僕をお姫さまのように抱き上げる。
「えっ、でも……重いですよ」
「言っただろう? ユヅルなら10人くらい軽く持ち上げられるって。軽すぎて心配になるくらいだよ」
「そんなこと……」
「ふふっ。じゃあ、行こうか」
エヴァンさんはぱぴーと何やら話をすると、そのままスタスタと庭園のような墓地へと進んでいく。
途中ですれ違ったおじいさんとおばあさんに
『C’est un beau couple!』
と何か言葉をかけられた。
エヴァンさんは笑顔で、
『Merci beaucoup』
と返している。
今、めるしーって言った?
その後に何かついてた気がするけど、『ございます』的なものかな?
「エヴァンさん、どうしてお礼を言ったんですか?」
「ああ、美人カップルだねって褒められたんだよ」
「えっ、そんな……美人ってそれは、エヴァンさんだけでしょう? 僕はただの子どもで……」
「全く、ユヅルはわかっていないな。ユヅルは。ほら、見てごらん。彼らも、あっちにいる彼らもユヅルに目を奪われてる」
「え……っ」
そっちに目を向けると確かに僕を見ている気がする。
でもそれはエヴァンさんに抱きかかえられてるからのような気もするんだけど……。
「ユヅル、ダメだ。そんなにじっとみては。相手に期待を持たせてしまうだろう? ユヅルは私だけのものなのだからな」
チュッと髪にキスされた。
途端に周りからヒューっと口笛が聞こえて、それが恥ずかしくて顔が赤くなってしまった。
すると、エヴァンさんは僕の顔をすぐに自分の胸に隠しながら
「ユヅルの可愛い顔が見られるのは私だけでいい」
そう言ってくれた。
エヴァンさんのそんな独占欲がなんだかすごく嬉しく感じたんだ。
「さぁ、ついたよ。ここがニコラのお墓だよ」
「わぁっ! 綺麗っ!!」
日本のお墓とは全く違う、十字架を模した石碑に続く台にはたくさんのお花が置かれていた。
「ニコラのファンの人たちが毎日絶えることなく献花してくれるんだよ。だからいつもニコラの周りには花が咲き乱れてる」
「そうなんですね……もう亡くなって20年近く経ってるのに……嬉しいですね」
「ああ、ニコラの音楽はそれほど大勢の人たちを魅了したんだろうな」
これほど長く愛されている人が僕のお父さんだなんて……。
僕はこれからお父さんと母さんに恥じないような人生を送らなくちゃな。
「さぁ、アマネと一緒にさせてやろう」
「はい」
エヴァンさんは僕を腕から下ろすと、ぱぴーに声をかけた。
ぱぴーは何やら器具を取り出し、石碑の台を手際よくずらして母さんのお骨入れをニコラさんの隣に入れてくれた。
「これでようやく2人は一緒になれたな」
母さん……お父さんと出会えたかな?
ここに連れてくることができて本当によかった。
僕たち、やっと家族が揃ったんだね。
ああ……あのお父さんの遺してくれたストラディヴァリウスを持ってくればよかったな……。
「ユヅル、どうした?」
「あ、いえ。あのヴァイオリン……ここに持ってきたらよかったかなって……。母さんがお父さんのヴァイオリンを大切にしてたって見せられたし、それに……お父さんに演奏を聞いてもらいたかったなって」
「ユヅル……」
「でも、次回にします。その時までしっかり練習してから……」
「あのヴァイオリンなら持ってきてるぞ」
「えっ? 今なんて……?」
「ユヅルがもしかしたらそう言い出すかもしれないと思って用意していたんだ。ほら」
そう言ってエヴァンさんが指した先には、お父さんのあのストラディヴァリウスの入ったケースがあった。
「――っ!!!」
「ユヅル、ここで演奏してくれるか? ニコラとアマネとそして、私たちに聞かせてほしい」
「エヴァンさん……」
どうしてこの人はこんなにも僕の気持ちをわかってくれるんだろう……。
嬉しすぎておかしくなりそうだ。
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