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愛の言葉

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顔中にちゅっ、ちゅっと柔らかな感触を感じて、そっと目を開けると

「おはよう。私の可愛いユヅル」

と甘い声が降ってきた。

「え、ゔぁ……こほっ、こほっ……」

「ああ、無理しないでいい。ほら、これを飲んで」

どこからともなく取り出したミネラルウォーターのペットボトルをそっと自分の口に含むと、僕の唇にピッタリと重ね合わせた。

小さく口を開くと、ゆっくりと水が入ってくる。

それを溢さないようにコクコクと飲み干すと、

「まだ飲むか?」

と優しく尋ねられる。

頷くとまたエヴァンさんの口から僕の口へと飲ませてくれて、乾ききった喉も身体も潤っていった。

「あの、今……何時、ですか?」

「そうだな、朝の6時くらいか。起きるにはまだ早いが、お腹空いただろう?」

「あっ、そういえば……」

「昨日は夕食も摂らせずにユヅルを愛し続けてしまったからな。途中で抑えられなかったんだ、悪い」

「えっ……あっ!」

エヴァンさんの言葉で一気に昨日のことを思い出す。

――きもち、よくしてぇ……ぼく、も……あい、してる……。

僕、エヴァンさんと……繋がったんだ……。
自分のはしたない姿に今更恥ずかしくなって、顔を隠すと、

「我慢の効かない私を嫌いになってないか?」

と不安げな声が聞こえる。
そんなことあるわけないのに!

「そんな……嫌いになるなんて! 僕、幸せすぎて夢じゃないかって……」

「ユヅルっ!! ああ、もうっ! 幸せすぎるのは私の方だよ」

「えっ? どうしてですか?」

「『Tu es僕の l’amour人生で de ma vie最愛の人. Je t’aime愛してる』あの時、ユヅルがそう言ってくれただろう?」

「ああっ、よかった……ちゃんと、伝わったんですね……」

「もちろんだよ。ユヅルからの愛の言葉を聞き逃すなんてするはずないさ。でも、驚いたよ。まさか、フランス語で愛の言葉を言ってくれるとは思わなかったからな」

「佳都さんにフランス語の挨拶を調べてもらった時、自分の気持ちもフランス語で伝えられたらいいなって……それで、こっそり調べたんです」

「じゃあ、あの言葉はユヅルが……?」

「はい。僕の気持ちに合う言葉を探したんです」

「そうか……嬉しいよ」

僕を抱きしめてくれるエヴァンさんの声が震えてる気がする。
やっぱり気持ちを伝えるのは、母国語が一番だよね。
一生懸命覚えてよかった。

「くぅ――っ、きゅるるっ……わっ!!」

「ふふっ。ごめん、お腹空いていたんだったな。すぐに用意させよう」

「あ、じゃあ僕も――ったたっ!!」

「ああ、ユヅル。無理するな。今日は起き上がれないはずだからな」

「えっ、どうして……」

「私が無理させたからだ。ちゃんとユヅルの世話は私がするから心配しないでいい。ちょっとだけ待っていてくれ」

エヴァンさんは僕の唇にちゅっとキスをするとガウンを羽織って寝室から出て行った。

エヴァンさん……お尻が見えてたけど、もしかして僕も裸だったり……?
恐る恐る布団を捲ってみると、柔らかな生地のパジャマを着ていてホッとした。
でも着た記憶が全然ないってことはエヴァンさんが着替えさせてくれたってこと、だよね?
うわぁ、それはそれで恥ずかしいんだけど。

それ以上のこともしてるけど、でも記憶のない時に裸を見られて着替えさせてもらうのとはまたなんか違うっていうか……よくわからないけど、不思議な感情が込み上げる。

でも……抱き合ってる間、エヴァンさんずっと優しかったな……。
思い出すだけで恥ずかしくなるけど、幸せだって気持ちは変わらない。

僕、これで本当にエヴァンさんの恋人になれたんだ……。


少し経って、エヴァンさんが寝室に朝食を運んでくれた。
甘い匂いが寝室に広がって、これがすぐにホットチョコレートだと気づいた。

「ふふっ。ユヅルはもうすっかりフランスの朝食が気に入ったようだな」

「はい。甘いホットチョコレートにクロワッサン浸して食べるの、すっごく美味しいです」

「やっぱりニコラによく似ているな。ニコラもその組み合わせが一番好きだったんだ」

「お父さんも……」

「ニコラのこと、お父さんだって呼んでくれるのか?」

「はい。だって、母さんのことをずっと愛しててくれたってわかったから……」

もし、あの事故さえなかったら……きっとここで幸せに暮らしているはずだったんだ。
母さんをほったらかしたんじゃない。
迎えに来ようとしてくれてたんだもん。

「ニコラは喜んでるよ。自分の息子に父さんと呼ばれる日が来て……。近いうちに会いに行こう。アマネも連れて」

「はい。きっと母さんも久しぶりにお父さんに会えるのを待ってると思いますから……」

引き裂かれた母さんとお父さんを早く会わせてあげたいな。
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