42 / 205
郷に入れば郷に従え
しおりを挟む
エヴァンさんとジュールさんが話しているのをみていると、突然綺麗なヴァイオリンの音色が聞こえ始めた。
「えっ? これ……」
僕が驚いていると、エヴァンさんが
「これはこの屋敷の呼び鈴なんだよ。私の父がニコラが亡くなった後、ニコラの音色を忘れないようにと呼び鈴にしたんだ」
と教えてくれた。
そうなんだ……。
これがニコラさん……いや、お父さんのヴァイオリンの音色。
一度聴いてみたいなと思っていたけれど、こんな形で聴けるなんて思ってなかった。
ああ、素敵な音色だな。
心があったかくなる。
呼び鈴の音に、すぐにジュールさんが玄関へと向かうと玄関先でセルジュさんとミシェルさんの声が聞こえてきた。
ああ、二人も到着したんだ!
エヴァンさんは僕の隣に腰を下ろして、二人が中に入ってくるのを待っていると、
「ユヅルーっ!」
僕の名前を呼びながらミシェルさんがリビングに駆け込んできてそのまま僕の空いている方の隣にポスっと座った。
「ちょっと遅くなっちゃった」
「ミシェルさんたちはどこかに寄っていたんですか?」
「ふふっ。ユヅルに食べさせたいお菓子を買いに行ってたんだよ」
「僕に食べさせたい?」
「今、セルジュがジュールに用意してもらってるから楽しみにしてて」
うわぁ、なんだろう。
ジュールさんの出してくれたお菓子もまだ食べてないのに、また新しいのがやってくるなんて。
すごいな。
「ユヅルさま。どうぞ」
キッチンから戻ってきたセルジュさんとジュールさんが僕の前に小さなお皿をコトリと置いてくれた。
「ありがとうございます。これは、なんというお菓子ですか?」
「これは『ウィークエンドシトロン』って言ってフランスの伝統的なお菓子なんだよ。このケーキ、僕が一番好きなんだ。だからユヅルにも食べてもらいたくて……」
「――っ!! ありがとうございます、嬉しいです」
一番好きなケーキを僕にも共有してくれるなんて……。
なんだかミシェルさんの思い出の中に僕が入れたみたいで本当に嬉しい。
周りについている白いお砂糖がとっても甘くて美味しそう。
フォークで一口サイズに切り分けて、口に入れるとシャリっとした砂糖の食感としっとりしたケーキの相性がとってもよくて、爽やかなレモンの香りと味がとっても美味しい。
周りのお砂糖はきっとレモンの酸っぱさを落ち着かせるんだな。
「わぁっ! 美味しいっ!!」
あまりの美味しさに思わず大声を出してしまった。
「あっ、ごめんなさい」
「ふふっ。気にしないでいい。ユヅルがフランスのスイーツを気に入ってくれてみんな喜んでるんだよ」
「そうだよ、僕の好きなケーキ、気に入ってくれて嬉しいよ」
エヴァンさんもミシェルさんも本当に優しいな。
ジュールさんとセルジュさんにも目を向けると、僕をみて笑顔を浮かべている。
わぁ、なんかいつの間にか僕が食べているところをみんなに見られてるんだけど……。
一人で食べてるのって恥ずかしい。
「あの、ミシェルさんも食べてください。僕だけお菓子を食べているのは……」
「ふふっ。そうだね。ユヅルが可愛いから食べてる姿見るの楽しくってつい……。じゃあ。僕もこれ、食べようかな」
「ミシェルのはこれだよ」
そう言ってセルジュさんがミシェルさんの前に置いたのは、あのホテルの可愛いケーキ。
「あっ、これ……」
「ミシェルがまた食べたいと言っていただろう?」
「わぁ、買ってきてくれたんだ!! セルジュ、大好き!!」
ミシェルさんはセルジュさんに抱きついて、そのまま唇にチュッとキスをした。
「わっ!」
人がキスしてるの、初めて見ちゃった……。
しかも、こんな間近で……。
母さんと暮らしている時はテレビでキスしてるところが流れると、すぐに違う番組に変えられてたしな。
その時は僕も恥ずかしいから特段みたいとも思わなかったけど。
今は僕もエヴァンさんんと、その……キス、してるけど、そんなふうにキスしてるかなんて自分じゃ見れないし。
でも……ミシェルさんとセルジュさんのキスは、なんていうのかな。
見ててもすごく綺麗だし、本当に嬉しいっていう愛情表現のような感じがする。
「ユヅル、どうした?」
隣にいるエヴァンさんが僕の腰に腕を回して、ぎゅっと抱き締めてくれる。
「いえ、あの……フランスでは、こうやって……き、キスで喜びとか表すのが常識なんですか?」
「えっ? ああ、そうだ。嬉しい時や幸せなときにこうやって抱きしめたり、セルジュたちのようにキスしたりというのは恋人なら当然のことだよ。これは家の中だけじゃなく、外でも同じだ」
「えっ? 外、でも……ですか?」
「ああ、もちろん。ここは日本じゃないんだ。しないと恋人じゃないと誤解されるだけだ」
「そう、なんですね……」
早速カルチャーショックがきたけど、郷に入れば郷に従えっていうしな。
しかもこれからずっとフランスで生活するんだ。
今から一つ一つ叩き込んでおかないと!
「だからユヅルも嬉しい時や幸せな時、それだけじゃなくてどんな時でも私たちが恋人だと思われるように愛情表現してくれ」
「わかりました! がんばります!」
僕がそういうと、エヴァンさんはとても嬉しそうに笑っていた。
「えっ? これ……」
僕が驚いていると、エヴァンさんが
「これはこの屋敷の呼び鈴なんだよ。私の父がニコラが亡くなった後、ニコラの音色を忘れないようにと呼び鈴にしたんだ」
と教えてくれた。
そうなんだ……。
これがニコラさん……いや、お父さんのヴァイオリンの音色。
一度聴いてみたいなと思っていたけれど、こんな形で聴けるなんて思ってなかった。
ああ、素敵な音色だな。
心があったかくなる。
呼び鈴の音に、すぐにジュールさんが玄関へと向かうと玄関先でセルジュさんとミシェルさんの声が聞こえてきた。
ああ、二人も到着したんだ!
エヴァンさんは僕の隣に腰を下ろして、二人が中に入ってくるのを待っていると、
「ユヅルーっ!」
僕の名前を呼びながらミシェルさんがリビングに駆け込んできてそのまま僕の空いている方の隣にポスっと座った。
「ちょっと遅くなっちゃった」
「ミシェルさんたちはどこかに寄っていたんですか?」
「ふふっ。ユヅルに食べさせたいお菓子を買いに行ってたんだよ」
「僕に食べさせたい?」
「今、セルジュがジュールに用意してもらってるから楽しみにしてて」
うわぁ、なんだろう。
ジュールさんの出してくれたお菓子もまだ食べてないのに、また新しいのがやってくるなんて。
すごいな。
「ユヅルさま。どうぞ」
キッチンから戻ってきたセルジュさんとジュールさんが僕の前に小さなお皿をコトリと置いてくれた。
「ありがとうございます。これは、なんというお菓子ですか?」
「これは『ウィークエンドシトロン』って言ってフランスの伝統的なお菓子なんだよ。このケーキ、僕が一番好きなんだ。だからユヅルにも食べてもらいたくて……」
「――っ!! ありがとうございます、嬉しいです」
一番好きなケーキを僕にも共有してくれるなんて……。
なんだかミシェルさんの思い出の中に僕が入れたみたいで本当に嬉しい。
周りについている白いお砂糖がとっても甘くて美味しそう。
フォークで一口サイズに切り分けて、口に入れるとシャリっとした砂糖の食感としっとりしたケーキの相性がとってもよくて、爽やかなレモンの香りと味がとっても美味しい。
周りのお砂糖はきっとレモンの酸っぱさを落ち着かせるんだな。
「わぁっ! 美味しいっ!!」
あまりの美味しさに思わず大声を出してしまった。
「あっ、ごめんなさい」
「ふふっ。気にしないでいい。ユヅルがフランスのスイーツを気に入ってくれてみんな喜んでるんだよ」
「そうだよ、僕の好きなケーキ、気に入ってくれて嬉しいよ」
エヴァンさんもミシェルさんも本当に優しいな。
ジュールさんとセルジュさんにも目を向けると、僕をみて笑顔を浮かべている。
わぁ、なんかいつの間にか僕が食べているところをみんなに見られてるんだけど……。
一人で食べてるのって恥ずかしい。
「あの、ミシェルさんも食べてください。僕だけお菓子を食べているのは……」
「ふふっ。そうだね。ユヅルが可愛いから食べてる姿見るの楽しくってつい……。じゃあ。僕もこれ、食べようかな」
「ミシェルのはこれだよ」
そう言ってセルジュさんがミシェルさんの前に置いたのは、あのホテルの可愛いケーキ。
「あっ、これ……」
「ミシェルがまた食べたいと言っていただろう?」
「わぁ、買ってきてくれたんだ!! セルジュ、大好き!!」
ミシェルさんはセルジュさんに抱きついて、そのまま唇にチュッとキスをした。
「わっ!」
人がキスしてるの、初めて見ちゃった……。
しかも、こんな間近で……。
母さんと暮らしている時はテレビでキスしてるところが流れると、すぐに違う番組に変えられてたしな。
その時は僕も恥ずかしいから特段みたいとも思わなかったけど。
今は僕もエヴァンさんんと、その……キス、してるけど、そんなふうにキスしてるかなんて自分じゃ見れないし。
でも……ミシェルさんとセルジュさんのキスは、なんていうのかな。
見ててもすごく綺麗だし、本当に嬉しいっていう愛情表現のような感じがする。
「ユヅル、どうした?」
隣にいるエヴァンさんが僕の腰に腕を回して、ぎゅっと抱き締めてくれる。
「いえ、あの……フランスでは、こうやって……き、キスで喜びとか表すのが常識なんですか?」
「えっ? ああ、そうだ。嬉しい時や幸せなときにこうやって抱きしめたり、セルジュたちのようにキスしたりというのは恋人なら当然のことだよ。これは家の中だけじゃなく、外でも同じだ」
「えっ? 外、でも……ですか?」
「ああ、もちろん。ここは日本じゃないんだ。しないと恋人じゃないと誤解されるだけだ」
「そう、なんですね……」
早速カルチャーショックがきたけど、郷に入れば郷に従えっていうしな。
しかもこれからずっとフランスで生活するんだ。
今から一つ一つ叩き込んでおかないと!
「だからユヅルも嬉しい時や幸せな時、それだけじゃなくてどんな時でも私たちが恋人だと思われるように愛情表現してくれ」
「わかりました! がんばります!」
僕がそういうと、エヴァンさんはとても嬉しそうに笑っていた。
217
お気に入りに追加
2,934
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
FLY×FLY
片里 狛
BL
NYのローカルテレビ局の顔、スタンリー・ジャックマンことSJは絶望の淵にいた。
うっかり喧嘩を売った実業家にうっかり干されかけ、あわや会社が乗っ取られる危機となり、仲間に説得され国外に雲隠れする羽目になったのだ。SJが遠い縁を頼って舞い降りた地はスウェーデンのど田舎。そこで同居することになった元俳優ハロルドは、マスコミ嫌いの寡黙な男だった。
喋りすぎるうるさいSJと、彼の言葉に絆されるハニーの物語。
人生に絶望している元俳優×黙っていられないテレビクルー。
こいじまい。 -Ep.the British-
ベンジャミン・スミス
BL
貿易会社に勤務する月嶋春人は上司に片想いをしていた。
しかし、その想いは儚く散ってしまう。
いつまでも上司を忘れることが出来ない春人に「無理に忘れる必要は無い。」と、声をかけたのはイギリス人のアルバート・ミラーだった。
いつのまにか英国紳士なアルバートに惹かれていく春人は徐々に新しい恋への1歩を踏み出し始めていた。
身長差30cm、年の差18歳
おまけに相手は男で、外国人。
様々な壁にぶつかりながらも愛を育んでいく2人のオフィスラブ。
************
素敵な表紙はもなか様から
いただきました。
ありがとうございます。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる