天涯孤独になった僕をイケメン外国人が甘やかしてくれます

波木真帆

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郷に入れば郷に従え

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エヴァンさんとジュールさんが話しているのをみていると、突然綺麗なヴァイオリンの音色が聞こえ始めた。

「えっ? これ……」

僕が驚いていると、エヴァンさんが

「これはこの屋敷の呼び鈴なんだよ。私の父がニコラが亡くなった後、ニコラの音色を忘れないようにと呼び鈴にしたんだ」

と教えてくれた。

そうなんだ……。
これがニコラさん……いや、お父さんのヴァイオリンの音色。

一度聴いてみたいなと思っていたけれど、こんな形で聴けるなんて思ってなかった。
ああ、素敵な音色だな。
心があったかくなる。

呼び鈴の音に、すぐにジュールさんが玄関へと向かうと玄関先でセルジュさんとミシェルさんの声が聞こえてきた。

ああ、二人も到着したんだ!

エヴァンさんは僕の隣に腰を下ろして、二人が中に入ってくるのを待っていると、


「ユヅルーっ!」

僕の名前を呼びながらミシェルさんがリビングに駆け込んできてそのまま僕の空いている方の隣にポスっと座った。

「ちょっと遅くなっちゃった」

「ミシェルさんたちはどこかに寄っていたんですか?」

「ふふっ。ユヅルに食べさせたいお菓子を買いに行ってたんだよ」

「僕に食べさせたい?」

「今、セルジュがジュールに用意してもらってるから楽しみにしてて」

うわぁ、なんだろう。
ジュールさんの出してくれたお菓子もまだ食べてないのに、また新しいのがやってくるなんて。
すごいな。

「ユヅルさま。どうぞ」

キッチンから戻ってきたセルジュさんとジュールさんが僕の前に小さなお皿をコトリと置いてくれた。

「ありがとうございます。これは、なんというお菓子ですか?」

「これは『ウィークエンドシトロン』って言ってフランスの伝統的なお菓子なんだよ。このケーキ、僕が一番好きなんだ。だからユヅルにも食べてもらいたくて……」

「――っ!! ありがとうございます、嬉しいです」

一番好きなケーキを僕にも共有してくれるなんて……。
なんだかミシェルさんの思い出の中に僕が入れたみたいで本当に嬉しい。

周りについている白いお砂糖がとっても甘くて美味しそう。
フォークで一口サイズに切り分けて、口に入れるとシャリっとした砂糖の食感としっとりしたケーキの相性がとってもよくて、爽やかなレモンの香りと味がとっても美味しい。
周りのお砂糖はきっとレモンの酸っぱさを落ち着かせるんだな。

「わぁっ! 美味しいっ!!」

あまりの美味しさに思わず大声を出してしまった。

「あっ、ごめんなさい」

「ふふっ。気にしないでいい。ユヅルがフランスのスイーツを気に入ってくれてみんな喜んでるんだよ」

「そうだよ、僕の好きなケーキ、気に入ってくれて嬉しいよ」

エヴァンさんもミシェルさんも本当に優しいな。

ジュールさんとセルジュさんにも目を向けると、僕をみて笑顔を浮かべている。

わぁ、なんかいつの間にか僕が食べているところをみんなに見られてるんだけど……。

一人で食べてるのって恥ずかしい。

「あの、ミシェルさんも食べてください。僕だけお菓子を食べているのは……」

「ふふっ。そうだね。ユヅルが可愛いから食べてる姿見るの楽しくってつい……。じゃあ。僕もこれ、食べようかな」

「ミシェルのはこれだよ」

そう言ってセルジュさんがミシェルさんの前に置いたのは、あのホテルの可愛いケーキ。

「あっ、これ……」

「ミシェルがまた食べたいと言っていただろう?」

「わぁ、買ってきてくれたんだ!! セルジュ、大好き!!」

ミシェルさんはセルジュさんに抱きついて、そのまま唇にチュッとキスをした。

「わっ!」

人がキスしてるの、初めて見ちゃった……。
しかも、こんな間近で……。

母さんと暮らしている時はテレビでキスしてるところが流れると、すぐに違う番組に変えられてたしな。
その時は僕も恥ずかしいから特段みたいとも思わなかったけど。

今は僕もエヴァンさんんと、その……キス、してるけど、そんなふうにキスしてるかなんて自分じゃ見れないし。
でも……ミシェルさんとセルジュさんのキスは、なんていうのかな。
見ててもすごく綺麗だし、本当に嬉しいっていう愛情表現のような感じがする。

「ユヅル、どうした?」

隣にいるエヴァンさんが僕の腰に腕を回して、ぎゅっと抱き締めてくれる。

「いえ、あの……フランスでは、こうやって……き、キスで喜びとか表すのが常識なんですか?」

「えっ? ああ、そうだ。嬉しい時や幸せなときにこうやって抱きしめたり、セルジュたちのようにキスしたりというのは恋人なら当然のことだよ。これは家の中だけじゃなく、外でも同じだ」

「えっ? 外、でも……ですか?」

「ああ、もちろん。ここは日本じゃないんだ。しないと恋人じゃないと誤解されるだけだ」

「そう、なんですね……」

早速カルチャーショックがきたけど、郷に入れば郷に従えっていうしな。
しかもこれからずっとフランスで生活するんだ。

今から一つ一つ叩き込んでおかないと!

「だからユヅルも嬉しい時や幸せな時、それだけじゃなくてどんな時でも私たちが恋人だと思われるように愛情表現してくれ」

「わかりました! がんばります!」

僕がそういうと、エヴァンさんはとても嬉しそうに笑っていた。
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