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大切な人
しおりを挟む「まぁ……確かにそう聞こえなくもないな。勘違いさせたのは私が悪い。だが、私のことはそんなに信用できないか?」
「ちが――っ、あの、でも……エヴァンさんは、素敵な人だから……」
「素敵な人か……ユヅルにそう言ってもらえるのは嬉しいが、信用されないのは辛いな……」
「ごめんなさい……」
ああ、もうこれで完全に嫌われてしまったかもしれない。
エヴァンさんはずっと僕のことを考えていてくれたのに……。
ああ、僕は本当にバカだ。
僕は合わせる顔がなくて俯いてしまっていた。
「ユヅル……謝らなくていい。だから、私の話を聞いてくれ」
そう言われて、エヴァンさんを見上げると
「ユヅル、こんなに目を腫らして……」
と優しく涙を拭ってくれる。
「私に恋人がいると思ってそんなに悲しかったか?」
「……はい。だって、僕……エヴァンさんのこと、本当に大好きだから……」
「ユヅル……私も同じだよ。私にはユヅルだけだ。信じてほしい」
その真剣な表情に一瞬でも疑ってしまったことを申し訳なく思った。
そして、これからは絶対に信じるんだと心に誓ったんだ。
「もう……もう絶対に、疑ったりしません。エヴァンさんを信じます……」
「ユヅル……」
エヴァンさんは僕の目にそっと唇を当てた。
「ふふっ。しょっぱいな。もう泣かせたりしないよ」
「エヴァンさん……」
僕はエヴァンさんに抱きついてしばらく離れなかった。
「さっき話してたアヤシロの可愛いうさぎだが……ユヅルと同じ男の子だよ」
「えっ……? でも、結婚したって……」
確か、日本では同性婚はまだ認められてないよね?
でも、結婚ってどういうこと?
「日本で家族と友達を呼んで、ヨーロッパにハネムーンに行った時に現地で結婚証明書を取ったみたいだ。日本での効力はないそうだけど、養子として彼の家族の籍に入っているそうだから家族に変わりはないな」
「そんな方法があるんですね……知らなかったです」
きっとみんなに祝福されて……素敵な式だったんだろうな。
「ユヅル……フランスでは、同性婚が認められているんだ。だから、私はフランスに帰ったら……ユヅルと結婚して正真正銘の夫夫になりたいと思ってる」
「えっ……」
「もう私はユヅルを手放したくないんだ。それくらい、ユヅルを心から愛してる。だから、私と結婚してずっとそばにいてほしい……」
「エヴァンさん……」
「今すぐに返事が欲しいなんて言わない。だが、私の思いだけは知っていて欲しいんだ。明日……東京に戻ったら、答えを聞かせて欲しい。いい?」
本当はすぐにでも『はい』と返したい。
でも、話には流されてうんと言ったとは思われたくない。
だって、僕は本当にエヴァンさんが好きだから……。
一晩考えて、精一杯の想いをエヴァンさんに伝えたい。
僕はエヴァンさんの目を見ながら頷いた。
エヴァンさんはその頷きに安堵のため息を漏らし、
「じゃあ、明日に備えて寝ようか」
と僕を抱きかかえて立ち上がり、そのまま寝室に連れて行ってくれた。
「ユヅル、おやすみ。ここでの最後の夜をユヅルと過ごせることを幸せに思うよ」
チュッと優しく頬にキスをしてくれるエヴァンさんの優しさに癒されるように僕はここでの最後の眠りについた。
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