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愛している人
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セルジュさんが買ってきてくれた食事で夕食を済ませ、ここ数日のように交代でお風呂を済ませて出てくると、エヴァンさんがリビングで誰かと電話している声が聞こえた。
セルジュさんかな?
一瞬そう思ったけれど、エヴァンさんが日本語で話している。
ということは仕事関係の人なのかも。
そういえばここで仕事するって言ってたっけ。
ーああ。明日東京に戻って、翌日フランスに帰るよ。君とは途中で別れてしまったが、まぁ有意義な時間は過ごせただろう?
ーははっ。ああ、そうだな。会えるなら嬉しいよ。次に東京に来るのは少し空きそうだからな。
ー喜んで会いにいくよ。ああ、楽しみにしてる。待ちきれないな。
ーああ、もちろん。私の全てだ。愛してるよ。
えっ……愛してる?
今の会話って……仕事相手、じゃないよね?
なんか、別れを惜しんでる……恋人みたい……。
愛してるって……僕以外の人にいうなんて……。
もしかして、エヴァンさんには……東京に恋人がいる、とか……?
うそ――っ、だって、エヴァンさんは僕のこと……。
好きだって、そう言ってくれたのに……。
あれは僕の勘違いだったの?
エヴァンさん、ひどいよ……。
僕、もうこんなにもエヴァンさんを好きになってしまっているのに……。
「……うっ、ぐすっ……うっ、うっ……」
僕は溢れ出てくる涙を堪えきれずにその場にしゃがみ込んだ。
ガタガタっと音がしたと思ったら、突然大きくて暖かいものに身体が包み込まれた。
「ユヅルっ、どうしたんだ? 何かあったのか?」
心配そうなエヴァンさんの顔が歪んで見えるのは、ああ、僕の涙か。
今の電話の相手は誰なの?
エヴァンさんには僕の他にも愛している恋人がいるの?
僕を好きだと言ってくれたのは嘘だったの?
聞きたいことは山のようにあるけれど、今は何も出てこない。
ただ悲しくて、でも抱きしめてくれているエヴァンさんが優しくて……感情がごちゃ混ぜになってしまってる。
エヴァンさんは僕を抱き上げると、そのままソファーへと腰を下ろした。
「風呂上がりなのにすっかり身体が冷えてしまってるな」
そういうと、さっと自分の上着を脱いで僕にかけてくれた。
エヴァンさんからもこの上着からもエヴァンさんのいい匂いがする。
この匂いに包まれながら、抱きしめられているうちにやっと涙が落ち着いてきた。
けれど、心の中はまだモヤモヤしたままだ。
「ユヅル……さっき怖い思いをさせてしまったのを思い出したのか?」
怖い思い?
ああ、そうか。
そういえば母さんの両親っていう人が来てたんだっけ。
なんだか遠い昔のことのように思えるのは、今、僕の頭の中がさっきのエヴァンさんの電話のことで占められているからだろう。
頭を横に振ると、
「じゃあ、どうしたんだ? ユヅルが悲しんでいるなら、私にも共有してくれないか? ユヅルが一人で泣いているのはみたくないんだ」
とそっと髪にキスされて、優しく抱きしめられる。
バカだな、エヴァンさん。
こんなに優しいから僕……勘違いしちゃうんだよ。
「さ、さっきの……でん、わ……」
「電話? ああ、アマネの葬儀が滞りなく終わったと連絡したら、アヤシロがかけてきてくれたんだよ」
「えっ? アヤシロさんって……?」
「んっ? 前に少し話したのを覚えてないかな? 最先端医療機器を日本の会社と組んで開発してるって。その会社の社長なんだ、アヤシロは。ユヅルから初めて電話をもらった時は彼との会議の最中でね。まぁ、もう終盤に差し掛かっていたからあとは彼に任せてきたんだ。そのお礼とその後の報告ついでに私に可愛いうさぎが現れたとメッセージを送ったら、よほど驚いたらしくて慌てて電話がかかってきてね、お互いに惚気あってたんだ。彼も最近結婚したばかりの可愛いうさぎがいるんだ」
「結婚、したばかり……?」
「ああ、それでぜひその子をユヅルに紹介したいって言ってくれてね。聞いたら彼のうさぎは22歳なんだそうだ。年も近いし、仲良くなれるだろうと思ってね、せっかくだから明日東京で会おうって約束したんだが……もしかして、勝手に約束してしまったことが嫌だったのか?」
……さっきの電話はそれ?
じゃあ、恋人がいると思ったのは僕の勘違いってこと?
エヴァンさんは僕に友達を作ってくれようとしただけ?
それなのに僕は……勝手に勘違いして、エヴァンさんに裏切られたと思って……。
わぁー、何やってるんだよ。
「エヴァンさん、ごめんなさい……ぼく……」
エヴァンさんは何も悪くないのに、勝手に傷ついて、泣いて、エヴァンさんを心配させちゃって……。
「どうしたんだ? ユヅル。ユヅルは何も悪いことなどしていないぞ」
「ううん、僕……エヴァンさんに東京に恋人がいるんだと思って……それで……」
「えっ? 恋人? どうして?」
「だって……愛してるって……それに、会えたら嬉しいって、会うのを楽しみにしてるって言ってたから……」
「ああ、それで私に恋人がいると思ったのか?」
僕が頷くと、エヴァンさんは大きなため息を吐いた。
セルジュさんかな?
一瞬そう思ったけれど、エヴァンさんが日本語で話している。
ということは仕事関係の人なのかも。
そういえばここで仕事するって言ってたっけ。
ーああ。明日東京に戻って、翌日フランスに帰るよ。君とは途中で別れてしまったが、まぁ有意義な時間は過ごせただろう?
ーははっ。ああ、そうだな。会えるなら嬉しいよ。次に東京に来るのは少し空きそうだからな。
ー喜んで会いにいくよ。ああ、楽しみにしてる。待ちきれないな。
ーああ、もちろん。私の全てだ。愛してるよ。
えっ……愛してる?
今の会話って……仕事相手、じゃないよね?
なんか、別れを惜しんでる……恋人みたい……。
愛してるって……僕以外の人にいうなんて……。
もしかして、エヴァンさんには……東京に恋人がいる、とか……?
うそ――っ、だって、エヴァンさんは僕のこと……。
好きだって、そう言ってくれたのに……。
あれは僕の勘違いだったの?
エヴァンさん、ひどいよ……。
僕、もうこんなにもエヴァンさんを好きになってしまっているのに……。
「……うっ、ぐすっ……うっ、うっ……」
僕は溢れ出てくる涙を堪えきれずにその場にしゃがみ込んだ。
ガタガタっと音がしたと思ったら、突然大きくて暖かいものに身体が包み込まれた。
「ユヅルっ、どうしたんだ? 何かあったのか?」
心配そうなエヴァンさんの顔が歪んで見えるのは、ああ、僕の涙か。
今の電話の相手は誰なの?
エヴァンさんには僕の他にも愛している恋人がいるの?
僕を好きだと言ってくれたのは嘘だったの?
聞きたいことは山のようにあるけれど、今は何も出てこない。
ただ悲しくて、でも抱きしめてくれているエヴァンさんが優しくて……感情がごちゃ混ぜになってしまってる。
エヴァンさんは僕を抱き上げると、そのままソファーへと腰を下ろした。
「風呂上がりなのにすっかり身体が冷えてしまってるな」
そういうと、さっと自分の上着を脱いで僕にかけてくれた。
エヴァンさんからもこの上着からもエヴァンさんのいい匂いがする。
この匂いに包まれながら、抱きしめられているうちにやっと涙が落ち着いてきた。
けれど、心の中はまだモヤモヤしたままだ。
「ユヅル……さっき怖い思いをさせてしまったのを思い出したのか?」
怖い思い?
ああ、そうか。
そういえば母さんの両親っていう人が来てたんだっけ。
なんだか遠い昔のことのように思えるのは、今、僕の頭の中がさっきのエヴァンさんの電話のことで占められているからだろう。
頭を横に振ると、
「じゃあ、どうしたんだ? ユヅルが悲しんでいるなら、私にも共有してくれないか? ユヅルが一人で泣いているのはみたくないんだ」
とそっと髪にキスされて、優しく抱きしめられる。
バカだな、エヴァンさん。
こんなに優しいから僕……勘違いしちゃうんだよ。
「さ、さっきの……でん、わ……」
「電話? ああ、アマネの葬儀が滞りなく終わったと連絡したら、アヤシロがかけてきてくれたんだよ」
「えっ? アヤシロさんって……?」
「んっ? 前に少し話したのを覚えてないかな? 最先端医療機器を日本の会社と組んで開発してるって。その会社の社長なんだ、アヤシロは。ユヅルから初めて電話をもらった時は彼との会議の最中でね。まぁ、もう終盤に差し掛かっていたからあとは彼に任せてきたんだ。そのお礼とその後の報告ついでに私に可愛いうさぎが現れたとメッセージを送ったら、よほど驚いたらしくて慌てて電話がかかってきてね、お互いに惚気あってたんだ。彼も最近結婚したばかりの可愛いうさぎがいるんだ」
「結婚、したばかり……?」
「ああ、それでぜひその子をユヅルに紹介したいって言ってくれてね。聞いたら彼のうさぎは22歳なんだそうだ。年も近いし、仲良くなれるだろうと思ってね、せっかくだから明日東京で会おうって約束したんだが……もしかして、勝手に約束してしまったことが嫌だったのか?」
……さっきの電話はそれ?
じゃあ、恋人がいると思ったのは僕の勘違いってこと?
エヴァンさんは僕に友達を作ってくれようとしただけ?
それなのに僕は……勝手に勘違いして、エヴァンさんに裏切られたと思って……。
わぁー、何やってるんだよ。
「エヴァンさん、ごめんなさい……ぼく……」
エヴァンさんは何も悪くないのに、勝手に傷ついて、泣いて、エヴァンさんを心配させちゃって……。
「どうしたんだ? ユヅル。ユヅルは何も悪いことなどしていないぞ」
「ううん、僕……エヴァンさんに東京に恋人がいるんだと思って……それで……」
「えっ? 恋人? どうして?」
「だって……愛してるって……それに、会えたら嬉しいって、会うのを楽しみにしてるって言ってたから……」
「ああ、それで私に恋人がいると思ったのか?」
僕が頷くと、エヴァンさんは大きなため息を吐いた。
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