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嫉妬と癒し
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「ご夕食をお持ちしましたので、準備いたしますね」
「セルジュさん、本当に何から何までありがとうございます! 僕もお手伝いします」
「ふふっ。ありがとうございます。ではこちらをお皿に盛り付けていただけますか?」
「はい。――わっ!」
キッチンに行くセルジュさんについて行こうとしたら、急にエヴァンさんに抱き寄せられて声を上げてしまった。
「あ、あの……」
「私も行く」
「えっ? あ、はい。あの……エヴァンさん? 何か、怒ってます?」
少し拗ねたような表情が気になって尋ねてみたのだけど、エヴァンさんは僕を見つめたままだ。
「ふふっ。エヴァンさまは嫉妬なさってるんですよ」
「うるさいぞ、セルジュ!」
「えっ? 嫉妬?」
意味がわからなくて、セルジュさんとエヴァンさんの顔を交互にみていると、エヴァンさんが
「いや、その……ユヅルがあまりにもセルジュと仲良く話していたものだから……それで」
とバツの悪そうな顔で話してくれた。
「それで……嫉妬、ですか?」
「いや、面目ない。私も自分がこんなに嫉妬深いとは思ってなかったんだが……幻滅したか?」
「ふふっ。幻滅なんてする訳ないです。エヴァンさんがこんなに可愛いなんて思ってなかったので、嬉しいです」
「可愛い? 私が?」
「エヴァンさま、よかったですね。ユヅルさまがエヴァンさまを可愛いなんて仰ってくださる奇特な方で」
「セルジュ! 一言余計だぞ!」
「ふふっ。失礼しました」
セルジュさんの笑いに釣られるように、僕もエヴァンさんも笑ってしまいこの家で久しぶりに楽しくて大きな笑い声が響き渡った。
母さん……僕、エヴァンさんとセルジュさんがいてくれるから笑っていられるよ。
母さんが僕に素敵な贈り物を残してくれたから。
本当にありがとう。
セルジュさんが持ってきてくれたのは見たこともないようなキラキラした料理ばかり。
「こちらの料理はエヴァンさまが日本に来たときに必ずお召し上がりになるレストランで、事情を話してテイクアウトにしていただいたのですよ。きっとユヅルさまもお気に召していただけると思います」
「わぁーっ、美味しそう! ありがとうございます」
わざわざ東京まで食事を買いに行ってくれたんだ。
本当、すごいな。セルジュさん……。
「ユヅルが気に入ったら、日本を発つ前に食べに行こうか。シェフにもお礼が言いたいし」
「はい。ぜひ連れて行ってください」
初めて食べるフランス料理は驚くほど美味しかった。
一口食べるたびに笑顔になってしまうような、それくらい美味しい。
エヴァンさんたち本場の人がわざわざ日本に来てまで食べにいくくらいのお店なんだから相当なんだろうな。
「ここの店は、フランスに本店があるんだ」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ。昔、ニコラとアマネもその本店で食事をしたんだそうだよ」
「母さんと……ニコラさんも?」
「ああ。その時のアマネも今のユヅルと同じように嬉しそうに笑顔で食べていたって。一緒に食事するだけで癒されたって。あんなに幸せそうに食事をする人を見たのは初めてだって嬉しそうにニコラが話していたと父が言っていた」
「母さんが……」
「昨日もだけど、ユヅルも美味しそうに食事をするなぁって思っていて、今日、ここの料理を食べてニコラとアマネの話を思い出した。やはりアマネとユヅルは親子なんだな。私がユヅルを見て癒されているように、ニコラも癒されていたのだと思うと感慨深いよ」
こうやって母さんやニコラさんの話に僕のことも織り交ぜてくれるエヴァンさんの言葉。
聞いているだけで僕の方が癒されてる気がする。
エヴァンさんって本当に優しい人だな。
「それでは私はそろそろお暇いたします。また明朝お迎えにあがりますので……」
「あの、セルジュさんもよかったら、ここに泊まって行かれては? 狭い家ですけど……」
「お気遣いいただきありがとうございます。ですが、まだこれから行くところもございますので今日は失礼いたします」
「セルジュ、頼むぞ」
「はい。それでは」
頭を下げ出ていくセルジュさんを見送りながら、
「一人でいろいろさせてしまって申し訳ないな……」
と呟くと、
「ユヅルは優しいのだな。セルジュもユヅルの思いは伝わっているから気にしないでいい。ほら、風呂に入って休もう」
と優しく頭を撫でてくれた。
それから交代でお風呂に入り、エヴァンさんは今日も湯上がりに僕の作った浴衣を来てくれていた。
「これが着やすくていいんだ。結び方もなんとか覚えたから今日はユヅルの手を煩わせずに済んだぞ」
少し縒れているけれどしっかりと結べてい帯を得意げに僕に見せるエヴァンさんが可愛くて、
「本当ですね! すっごく上手です!」
とほんの少し大袈裟に褒めると、エヴァンさんは嬉しそうに笑っていた。
今日もエヴァンさんに抱きしめられ、僕のベッドで眠りにつく。
昨日と違ってすごくドキドキするのは、エヴァンさんが恋人になったからだろうか……。
「ユヅル、お休みのキスをしても?」
「――っ!」
抱きしめられたまま、耳元で囁かれて身体がゾクゾクと震える。
言葉も出せなくてコクコクと頷くと、顎を持ち上げられエヴァンさんの顔が近づいてくる。
チュッと重なり合った唇は本当に柔らかくて温かくてドキドキする。
「Fais de beaux rêves ! ユヅル」
心地良いフランス語を聞きながらもう一度頬にキスをされて、僕は眠りについた。
「セルジュさん、本当に何から何までありがとうございます! 僕もお手伝いします」
「ふふっ。ありがとうございます。ではこちらをお皿に盛り付けていただけますか?」
「はい。――わっ!」
キッチンに行くセルジュさんについて行こうとしたら、急にエヴァンさんに抱き寄せられて声を上げてしまった。
「あ、あの……」
「私も行く」
「えっ? あ、はい。あの……エヴァンさん? 何か、怒ってます?」
少し拗ねたような表情が気になって尋ねてみたのだけど、エヴァンさんは僕を見つめたままだ。
「ふふっ。エヴァンさまは嫉妬なさってるんですよ」
「うるさいぞ、セルジュ!」
「えっ? 嫉妬?」
意味がわからなくて、セルジュさんとエヴァンさんの顔を交互にみていると、エヴァンさんが
「いや、その……ユヅルがあまりにもセルジュと仲良く話していたものだから……それで」
とバツの悪そうな顔で話してくれた。
「それで……嫉妬、ですか?」
「いや、面目ない。私も自分がこんなに嫉妬深いとは思ってなかったんだが……幻滅したか?」
「ふふっ。幻滅なんてする訳ないです。エヴァンさんがこんなに可愛いなんて思ってなかったので、嬉しいです」
「可愛い? 私が?」
「エヴァンさま、よかったですね。ユヅルさまがエヴァンさまを可愛いなんて仰ってくださる奇特な方で」
「セルジュ! 一言余計だぞ!」
「ふふっ。失礼しました」
セルジュさんの笑いに釣られるように、僕もエヴァンさんも笑ってしまいこの家で久しぶりに楽しくて大きな笑い声が響き渡った。
母さん……僕、エヴァンさんとセルジュさんがいてくれるから笑っていられるよ。
母さんが僕に素敵な贈り物を残してくれたから。
本当にありがとう。
セルジュさんが持ってきてくれたのは見たこともないようなキラキラした料理ばかり。
「こちらの料理はエヴァンさまが日本に来たときに必ずお召し上がりになるレストランで、事情を話してテイクアウトにしていただいたのですよ。きっとユヅルさまもお気に召していただけると思います」
「わぁーっ、美味しそう! ありがとうございます」
わざわざ東京まで食事を買いに行ってくれたんだ。
本当、すごいな。セルジュさん……。
「ユヅルが気に入ったら、日本を発つ前に食べに行こうか。シェフにもお礼が言いたいし」
「はい。ぜひ連れて行ってください」
初めて食べるフランス料理は驚くほど美味しかった。
一口食べるたびに笑顔になってしまうような、それくらい美味しい。
エヴァンさんたち本場の人がわざわざ日本に来てまで食べにいくくらいのお店なんだから相当なんだろうな。
「ここの店は、フランスに本店があるんだ」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ。昔、ニコラとアマネもその本店で食事をしたんだそうだよ」
「母さんと……ニコラさんも?」
「ああ。その時のアマネも今のユヅルと同じように嬉しそうに笑顔で食べていたって。一緒に食事するだけで癒されたって。あんなに幸せそうに食事をする人を見たのは初めてだって嬉しそうにニコラが話していたと父が言っていた」
「母さんが……」
「昨日もだけど、ユヅルも美味しそうに食事をするなぁって思っていて、今日、ここの料理を食べてニコラとアマネの話を思い出した。やはりアマネとユヅルは親子なんだな。私がユヅルを見て癒されているように、ニコラも癒されていたのだと思うと感慨深いよ」
こうやって母さんやニコラさんの話に僕のことも織り交ぜてくれるエヴァンさんの言葉。
聞いているだけで僕の方が癒されてる気がする。
エヴァンさんって本当に優しい人だな。
「それでは私はそろそろお暇いたします。また明朝お迎えにあがりますので……」
「あの、セルジュさんもよかったら、ここに泊まって行かれては? 狭い家ですけど……」
「お気遣いいただきありがとうございます。ですが、まだこれから行くところもございますので今日は失礼いたします」
「セルジュ、頼むぞ」
「はい。それでは」
頭を下げ出ていくセルジュさんを見送りながら、
「一人でいろいろさせてしまって申し訳ないな……」
と呟くと、
「ユヅルは優しいのだな。セルジュもユヅルの思いは伝わっているから気にしないでいい。ほら、風呂に入って休もう」
と優しく頭を撫でてくれた。
それから交代でお風呂に入り、エヴァンさんは今日も湯上がりに僕の作った浴衣を来てくれていた。
「これが着やすくていいんだ。結び方もなんとか覚えたから今日はユヅルの手を煩わせずに済んだぞ」
少し縒れているけれどしっかりと結べてい帯を得意げに僕に見せるエヴァンさんが可愛くて、
「本当ですね! すっごく上手です!」
とほんの少し大袈裟に褒めると、エヴァンさんは嬉しそうに笑っていた。
今日もエヴァンさんに抱きしめられ、僕のベッドで眠りにつく。
昨日と違ってすごくドキドキするのは、エヴァンさんが恋人になったからだろうか……。
「ユヅル、お休みのキスをしても?」
「――っ!」
抱きしめられたまま、耳元で囁かれて身体がゾクゾクと震える。
言葉も出せなくてコクコクと頷くと、顎を持ち上げられエヴァンさんの顔が近づいてくる。
チュッと重なり合った唇は本当に柔らかくて温かくてドキドキする。
「Fais de beaux rêves ! ユヅル」
心地良いフランス語を聞きながらもう一度頬にキスをされて、僕は眠りについた。
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