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愛の挨拶※

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「あれ? エヴァンさん、どうしたんですか? 僕、どこか間違ってました?」

「ユヅル……もしかして、無意識なのか?」

「えっ? 無意識? ってどういう意味ですか?」

エヴァンさんの言っている意味がわからなくて聞き返したけれど、なぜかエヴァンさんはどう言おうか悩んでいるようで、言いにくそうにしていた。

「いや、ユヅル……その、今……演奏しながら何を考えてた?」

「えっ? 何を、って……えっと……」

作曲者であるエルガーが曲を作った背景を思い浮かべてたら、この曲を好きだった母さんとニコラさんのことを考えてて……そしたら……そうだ!

「エヴァンさんのこと、考えてました……! すぐに駆けつけてきてくれて嬉しかったなとか……抱きしめられて安心したなとか……エヴァンさんがすごく優しいなって……あの、エヴァンさん。大丈夫ですか?」

僕が話すたびにエヴァンさんの顔がますます赤くなっていく。

「はぁーーっ、もう我慢できないな……」

エヴァンさんは大きなため息を吐きながら立ち上がり、僕の持っていたヴァイオリンを優しくとると、そっとケースにしまった。

「あの……我慢って……僕、何かしちゃいましたか?」

エヴァンさんの不思議な行動に恐る恐る尋ねると、エヴァンさんは僕の前に立ってギュッと強く抱きしめてきた。
エヴァンさんの大きな身体にすっぽりと包み込まれた途端、エヴァンさんの爽やかな匂いが鼻腔をくすぐる。
母さんが好きだったニコラさんの匂いも慣れ親しんでいて好きだけど、エヴァンさんの匂いは安心するし、ドキドキする。

「あの……エヴァン、さん?」

「ユヅル……私は、ユヅルが好きだ」

「えっ? 好き、って……」

「家族としてではなく、恋愛感情として、ユヅルのことを愛してるんだ」

「――っ!」

ギュッと抱きしめられたまま顔も見えないけれど、ぴったりとくっついた身体からエヴァンさんの速い鼓動が伝わってくる。

エヴァンさんが……緊張してる……。

じゃあ、今の……愛してるって冗談なんかじゃないってこと?
でも、僕もエヴァンさんも男同士だし……好きになるなんて、そんなこと……。

「エヴァンさん…あの」

「ユヅル……私はユヅルを愛してるんだ。ユヅルも私を愛してくれているだろう?」

「えっ――! そんな、だって……」

僕がエヴァンさんを……愛してる?
まさか……。

「さっきのヴァイオリンの演奏」

「演奏?」

「ユヅルからの愛の告白だと思うくらい、ヴァイオリンの音が訴えてた。
『大好き……愛してる……心からエヴァンさんのことだけを……』って、ずっとずっと私だけに愛の言葉を囁かれてたよ」

「あ――っ!」


――弓弦、ヴァイオリンはね……自分の感情が素直に出るものなの。誰かを思いながら弾けばその思いは必ず相手に届く。そういう不思議な楽器なのよ。


母さんに練習のたびに言われてたあの言葉。
だからいつも楽しい曲の時は母さんとの楽しかった思い出を……。
悲しい曲の時には揶揄われて辛かった時のことを思いながら弾いてた。

今は……ずっと、エヴァンさんのことを思いながらあの曲を弾いてたんだ……。

『愛の挨拶』をエヴァンさんに向けて……。

うそ……じゃあ、本当に僕はエヴァンさんのことが?

あっ! そういえば……

――エヴァンさんと離れるのは嫌です

――エヴァンさんと一緒にいる時間が幸せ

――ひとりでいるのは耐えられない

――エヴァンさんと一緒にいたい


あの時は無意識だったけど……今、思えばこれって……エヴァンさんのこと好きだって言ってるのと同じなんじゃ……?

うわーっ!
うわーーっ!

僕、知らない間にずっとエヴァンさんに愛を告白してたってこと?

しかも、演奏でもエヴァンさんに告白するなんて――っ!

うわーっ!!
恥ずかしすぎるっ!!

一気に赤くなった顔を隠したくて、エヴァンさんの胸に顔を擦り付けると

「ユヅル……顔を見せてくれないか?」

と耳元で優しく囁かれる。

「ひゃ――っ!」

ゾクゾクと不思議な感覚が身体の中を通り抜けていって変な声が出てしまった。

「ユヅル……」

もう一度声をかけられて、恐る恐る顔を上げると、エヴァンさんの顔もまだほんのり赤かった。

「Je t’aime plus que tout.」

流れるようなフランス語が耳に入ってくる。
だけど意味はわからない。

「えっと……じゅ てーむ ぷりゅす く とぅ-……? どういう意味ですか?」

「――っ!!!」

「ユヅルっ!!」

「――っ! んんっ!!」

突然、エヴァンさんに顎を持ち上げられたと思ったら唇を重ねられた。

えっ? これって……キス?
僕、今、エヴァンさんと……キス、してるの?

エヴァンさんの肉厚な唇にこのまま食べられちゃうんじゃないかと思うくらい、何度も唇を喰まれてる。
チュッチュッと何度も啄まれてようやく唇が離された時には僕はぐったりとエヴァンさんに身を預けてしまっていた。
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