天涯孤独になった僕をイケメン外国人が甘やかしてくれます

波木真帆

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母さんとニコラさんの思い出

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「今日は早く休もうか」

「はい。あ、エヴァンさんは僕のベッドに寝てください。僕はここのソファーで寝るので」

「ユヅル、ちゃんと休まないと疲れが取れないよ。私がソファーで寝るからユヅルはベッドで寝るんだ」

「でも、エヴァンさんこそ遠くからきてくれて疲れてるのに……」

僕なんかよりエヴァンさんの方がずっとずっと疲れてるはずだ。
僕はソファーだって眠れるけど、エヴァンさんにはこのソファーは小さすぎる。

「じゃあ、一緒にベッドで寝よう」

「えっ? 一緒に?」

「ああ、それなら二人とも休めるしそれが一番いい解決策だろう?」

「あっ、でも……」

「ほら、湯冷めしてもいけないから行こう」

戸惑っている間にさっさとエヴァンさんに抱きかかえられて、僕の部屋に連れていかれる。

僕のベッドは母さんが知り合いからもらってきてくれたものでセミダブルだから普通よりは大きいはずだけどエヴァンさん大きいからあんまり意味はないかもしれない……。

大丈夫かなぁ。

不安に思いながらも、ベッドに横になると

「少し狭いがユヅルと一緒なら大丈夫だな」

と嬉しそうに僕を抱きしめてくる。

エヴァンさんの胸の空間に僕の小さな身体がすっぽりと収まるから、確かに大丈夫そうだけど。

「寝にくくないですか?」

「ああ、大丈夫だよ。ユヅルが抱き枕みたいでかえって熟睡できそうだ」

確かにエヴァンさんの温もりはホッとして僕も熟睡できそうだ。
そういえば母さんとこうやって一緒に寝てたことがあったな。
あれはまだ僕が小学生くらいだったか……。

流石に中学生になってからはなかったもんな。
久しぶりの人肌に少し緊張するけど、なんだか安心する。

「ユヅルから見たアマネはどんな人だったんだ?」

エヴァンさんからの突然の質問に驚きつつも、そういえば思い出話をしながら寝ようって言われてたっけ。

「母さんは一言で言うと……強い人、でしたね」

「強い? アマネが?」

きっとエヴァンさんは若い頃の母さんに会ったことがあるんだろう。
驚いた声に少し笑ってしまう。

「ふふっ。はい。どう見ても未成年の女性が生まれたばかりの赤ちゃん連れで、こんな田舎にやってきてたら訳ありと思うでしょう? 来たばかりの頃は周りの人はみんな、母さんのことを怪しく見てたみたいで……不倫の末に子どもを産んで逃げてきたとか、僕の見た目がどう見てもハーフだったから外国人に遊ばれて捨てられたとか……いろんな噂流されて結構辛い思いをしてたみたいです」

「そんなことが……。ユヅルももしかして辛い想いをしたのか?」

「僕は物心ついた時から母さんとずっと二人で、それが当たり前だと思って生きてきましたけど、学校に行き出したらやっぱりいろいろと言われましたよ。どう見ても僕は日本人には見えないですしね。でも、母さんはお父さんのことは何も教えてはくれなかったけれど、お父さんのことを一度も悪く言わなかったんです。それどころか、母さんは何か辛いことがあると、僕を抱きしめて僕のこの髪を優しく撫でてくれたんです。そしてすぐに笑顔に戻ってました。今思えば、きっと僕を通してニコラさんのことを想っていたのかもしれないな。だから僕もお父さんのことを恨むことはなかったですね」

「そうか……。そういえば、ユヅルの髪色はニコラのそれにそっくりだな。柔らかな髪質も本当に瓜二つだ」

そう言ってエヴァンさんが僕の髪を優しく撫でてくれる。
母さんのあの優しい指の感触に似ている気がする。

「ニコラさんはどういう人だったんですか?」

「そうだな。ヴァイオリンに関しては誰も足元に及ばないほど天才的な技巧を持っていて、ニコラはずっとヴァイオリンを生涯の相手に選んだと言われていたよ」

「そんなにすごい人だったんですね」

「ああ。だが、アマネと出会ってニコラは変わった。最初はアマネの天使の囀りのような美しい音に魅了され、そしてアマネ自身にも魅了されたんだ。アマネと出会ってからのニコラのヴァイオリンは格段に変わった。まだ小学生だった私の耳でもニコラの音が美しく変わったとわかったくらいだ。本当に素晴らしかったよ」

「そんなに素晴らしい音色だったんですね……僕も聞きたかったです。でも、母さんはいつも幸せそうにヴァイオリンを弾いてましたからもしかしたらニコラさんの音色を出せるようになっていたのかもしれないですね。母さんはニコラさんのこと、本当に心から愛してたんでしょうね」

「ああ、そうだな。ニコラがアマネと一緒にいるのを何度か見かけたことがあるが、その時の二人は本当に幸せそうだったよ。ニコラにあんな表情させることができたのは多分、生涯を通じてアマネだけだったろうな……」

母さんと二人で幸せに暮らしてきたけど、ニコラさんと母さんが引き離されなかったら僕たちはきっと幸せな家族になれてたんだろうな。

「ユヅル……ニコラとアマネの分まで幸せになろう。私がずっとユヅルのそばにいるからな」

「ふふっ。エヴァンさんのその言葉……なんだかプロポーズみたいですね」

エヴァンさんの優しい言葉となにも心地良い温もりに包まれながら、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。
母さんが亡くなった夜だというのに、ここ最近で一番幸せを感じながら深い眠りにつけたのはきっとエヴァンさんのおかげだろうな。
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