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新しい家族

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「そうだ。ニコラとアマネは師弟関係を超えて深く愛し合ってしまったんだ。だが、20以上も歳の離れたニコラとの交際にアマネの両親は激怒して、アマネは留学を取りやめニコラと引き裂かれて日本を連れ戻された。だが、日本に帰国した後でわかったんだ。君を妊娠していたことに……」

「――っ!」

「アマネはどうするべきか悩んでニコラに相談した。ニコラは二人の愛の結晶ができたんだと大喜びしていたそうだよ。もちろん産んでほしい、結婚しようとアマネに告げて日本へ迎えに行ったんだ。だが……不幸にも乗っていた飛行機が墜落して、ニコラは帰らぬ人となった……」

「し、死んじゃったの……?」

「ああ。失意のどん底にいたアマネに追い討ちをかけるように父親のいない子を産ませるわけにはいかないと両親から堕胎するように言われたんだ。手術するために病院まで無理やり連れて行かれて、アマネはニコラとの愛の結晶である君を守るために病院から逃げだしたんだ。なにも持たずにただひたすら君を守るために……」

そんなことがあったなんて……。
僕は何にも知らなかった。

「あの、なんで……そんなことまであなたがご存知なのですか……?」

「私の父はニコラからずっとアマネの話を聞いていたらしい。ニコラがアマネを迎えにいく途中で死んでしまい、その後、アマネがどうなったか心配で調べたんだそうだ。それで彼女が両親からそんな仕打ちを受け逃げていることを知った。それで君たち親子を助けるために父が色々と手を貸そうとしたらしい。住む家もそして、当面の生活費もね。だが、アマネは自分と出会ってしまったせいで私たち家族からニコラを奪ってしまったと責任を感じ、君が生まれるまでの支援のみであとは頑なに拒んだそうだ。ニコラとの子どもは自分の力で大切に育てると宣言して……。父はアマネの強い意志にそれ以上なにも言えず、それでも本当に困ったことがあったら必ず連絡してくれと頼んであの携帯番号を教えたんだ」

「そう、だったんですね……」

「父が昨年亡くなり、私は父の遺言でアマネと君のことを知った。そして、いつか来るかもしれない連絡のために父の携帯は解約せずに取っておいたんだ。今日、君から連絡が来て驚いたが、自分の判断は正しかったのだとホッとしたよ」

いつ来るかわからない、いや、母さんのことがなければ一生連絡しなかったかもしれないのに、それでもこんなふうに優しくしてくれるなんて……。

それに誰かに一番いてほしい時にすぐに駆けつけてきてくれるなんて……。
悲しい日なのに、こんなに心があったかくなれるなんて思いもしなかった。

「ユヅル、こうやって出会えたのも縁だ。私は独身で家族もいない。ユヅルとは従兄弟になるのだから、さっきも話した通りこのまま家族として一緒に住まないか?」

「えっ? 一緒に?」

「ああ。お互い一人で暮らしてもつまらないだろう? せっかくこうして巡り合い家族になれたのだから一緒に暮らそう。だめか?」

「いや、だめとか……そんな、あの知り合ったばかりだし……その」

「それなら心配ない。これから今までの分を埋めればいい。そう思わないか?」

「えっ? いや……思い、ます?」

「よし、じゃあ決定だ。どうする? このまま私がここに引っ越してくるか、それとも私の家に来るか?」

えーっ、いや、なんでこんなことになってるの?
こんなぐいぐいこられてもどうしたらいいか……。

なんて答えたらいいのかもわからなくて、焦っていると、

「エヴァンさま。急にそこまで話をお進めになっても、ユヅルさまもどうしていいかお分かりにならないでしょう? お気づきですか? エヴァンさま、あなたはまだ自己紹介もされておりませんよ。それにアマネさまがお亡くなりになったばかりでご葬儀の手配もございます。ご一緒に住まれるかどうかより、まず先になさるべきことがあるのでは?」

と彼と一緒にきた男性が冷静にそう話してくれた。

「……確かに、そうだな……」

男性の言葉に彼も少し落ち着いたようで、ふぅと深呼吸してから僕の方を見た。

「ユヅル、驚かせてすまない。君から連絡をもらって私も少し冷静でなかったようだ。これからのことを慌てて決めずとも我々は家族になったのだから、まずは今しなければいけないことをひとつひとつ解決していこう」

彼の穏やかな微笑みに僕は少し安心して頷いた。

「じゃあまずは自己紹介からだな。私はエヴァン・ロレーヌ。フランスでIT関係の会社を経営しているが、先月から日本での取引で東京に長期滞在中だ。アマネが事故に遭って本当に残念だったが、私が日本にいる時で本当に良かったと思っている。君のもとにすぐに駆けつけることができた」

「はい……。エヴァンさんがすぐにきてくださって、僕もすごく心強かったです。この家に一人でいるのは本当に寂しかったので……」

「ユヅル……。もう心配はいらないよ。しばらくは私がここに滞在することにしたから」

「えっ? でも、お仕事は?」

「会議も打ち合わせもパソコンがあれば仕事はできるし問題ない。それにアマネとの別れも一緒にしたいからな」

「エヴァンさん……ありがとうございます」

彼の優しさが身に沁みる。

「ユヅル、彼はセルジュ。私が最も信頼している有能な秘書だよ」

「ユヅルさま。お母さまの葬儀については全て私にお任せください」

「えっ? いいんですか?」

「もちろんでございます。私にお任せいただいてもよろしいですか?」

「はい。僕、何もわからなくて困っていたので……どうぞよろしくお願いします」

僕が頭を下げると、彼はにっこりと笑って、

「それではエヴァンさま。私は少し失礼いたします。何かございましたらすぐにご連絡ください。すぐに参りますので」

というと家から出ていった。

「セルジュに任せておけば何も心配はいらないよ。アマネも穏やかに天国に行けるはずさ」

「何から何までありがとうございます」

「ふふっ。言っただろう? 私たちは家族になったんだ。気にすることはないよ。それにセルジュは私の父方の従兄弟だし、君とも縁戚だよ。家族が困っているときは助け合わなければね」

僕は母さんとずっと二人っきりだと思ってた。
それなのに大変な時に助けてくれる家族に出会えるなんて……。
母さんが亡くなった日にこんなことを思うなんて申し訳ない気もするけど、でも僕は幸せ、なのかもしれない。
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