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番外編
福岡の旅 6
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ようやく午前の部が終わり、俺は急いで片付けを済ませた。
「先輩、もう出られますか?」
「ああ、一緒に行こう」
俺の必死の様子に先輩は少し呆れた様子で笑っていたが、今はそれを気にする余裕もない。
大急ぎで会場から出ると、入り口のあたりで係員たちによる人だかりができていて騒いでいる声が聞こえる。
「なんだ?」
そんなことに関わる時間も勿体無いが、騒いでいる声に聞き覚えがあった。
先輩も同じ反応だったから、やっぱりあいつらだろうとあたりをつけて、俺は先輩とともにその人だかりに近づいた。
すると人だかりの隙間からあの時の女たちが係員に食ってかかっているのが見えた。
「ちょっと触らないでよ!」
「ここは関係者以外は立ち入り禁止って言っているだろう! さっさと出ていきなさい!」
「だから言ってるでしょ! 私たちも関係者なんだってば! ここに出席中のお医者さんによばれてきたんだから! その人に会うまでここから離れないわよ!」
「話が全く通じないな。君たちが誰に呼ばれたのか知らないが、たとえそれが事実であっても、ここから先は学会の招待カードを持った医師しか入れないんだよ。一般人の君たちをここから先に通すわけにはいかない。わかったら出ていきなさい!!」
「だからー、わかんないかなー。いい? しっかり聞きなさいよ! 私たちはここにいる医者に呼ばれてきてんの! 将来の妻になるんだからただの一般人じゃないわけ! わかる?」
「はぁーーっ、もう頭が痛くなってきた。話にならないな」
係員が大きなため息をつく音が俺たちにも聞こえてくる。
だがそうなる気持ちもわかる。
なんせ会話がちっとも噛み合っていない。まるで宇宙人とでも話しているようだ。
日本語を話しているのに、意味がわからないって相当だな。
「悠木くん、どうする? 裏から回るか?」
「いえ。もうここでケリをつけたいです。先輩、警察を呼んでおいてもらえますか?」
「わかった。だが、相手は話の通じない奴らだ。くれぐれも注意しろよ」
「大丈夫です。空良も待っていますから危ないことはしませんよ」
俺の言葉に先輩は納得したように笑顔を見せ、ポケットからスマホを取り出し俺から少し離れた場所に移動した。
それを見て俺は騒ぎが起こっている場所にゆっくりと近づき、女たちから一番離れた場所にいた係員に小声で話しかけた。
「松原さん、大丈夫ですか?」
「あ、先生! 話の通じない方が騒いでいて途方に暮れていたところです。他の先生方には裏から出ていただきましたので、先生もここを離れてください」
「ありがとう。だが、私が対処するから安心していいよ」
「えっ、先生が? もしかして彼女たちが話していたお医者さんというのは先生のことですか? 彼女たちをここに呼んだというのは本当ですか?」
「いや、そんな事実はないよ。付き纏われて困っているんだ」
「ああ。そういうことですか……先生、大変ですね……」
思いっきり同情されてただただ苦笑いを浮かべるしかない。
「今、警察も呼んでもらっているからあとは私に任せてくれ」
「わかりました」
松原さんが、彼女たちの相手をしている係員に声をかけると、彼女たちも俺の存在に気づいたのか、急に満面の笑みで俺を見た。
「きゃー!! 先生! 私たちに会いにきてくれたんですね! 嬉しい!! もう、この人たちが私たちと先生の仲を引き裂こうとして大変だったんですぅー」
女の一人がさっきの怒鳴り声が嘘のような気持ちの悪い猫撫で声で擦り寄ってこようとしたのをさっと躱すと、女は支えを失ったからかそのままビターンと大きな音を立てて床に倒れ込んだ。
「えっ、わっ! ぎゃっ!」
そのあまりにも派手な転びっぷりに周りから、くすくすと笑い声が漏れる。
それもそのはず。ミニスカートは捲れ上がり派手なTバックが丸見えだ。だがその尻はお世辞にも綺麗とは言えない。
空良ならいつまででも見たいと思うのに、この女の下着も尻も俺の目が見るのを拒否している。これはもう本能なんだろう。
「ちょっ――、助けてよ!」
女は大声で叫ぶが、誰も手出しはしない。
今まであれだけ怒鳴っていたんだ。助けたいと思えないのも当然だろう。
結局仲間の女が手を貸して起こすと、女は眉間に皺を寄せて俺を睨んできた。
「どうして助けてくれないのよ! あんた、医者でしょ!」
「飛行機でドクターコールを受けただけでここまで執着されるんだから、ここで手を貸したらどうなるかわからないだろう? そもそも手助けが必要なケガもしていないじゃないか」
転び方こそ派手だったが、怪我をしていないのは明白だったから手を貸す義理はない。
「イケメンで医者だから付き合ってやろうと思ってわざわざここまできて声かけてあげたのにここまで拒否するって何様?」
「何様でもないが、こちらにも選ぶ権利があるんだ。どれだけ執着されても誘いに乗ることは絶対にない」
「失礼ね! もういいわ! あんたなんかこっちから願い下げよ。そうだ! あんたが連れてたあの可愛い子の方がいうこと聞きそうだからそっちにするわ。邪魔しないでよねー」
なんだと? 空良にする? ふざけるな!
「おい!」
「何よ、今更惜しくなったわけ?」
振り向き顔がニヤついていてムカつく。
「素直になった方がいいよ。まぁ、どうしてもって言うなら付き合ってあげてもいいけどー、それなら今までの言動を謝ってもらわないとねー。ほら、謝ってよ。そして付き合ってくださいって土下座して頼んでよー。それなら付き合ってあげるー。ほら、どーげーざ! どーげーざ!」
「はいはい! そこまでね」
二人で囃し立てていると、ちょうどいいタイミングで先輩が呼んでくれた警察が二人の背後をとらえた。
「先輩、もう出られますか?」
「ああ、一緒に行こう」
俺の必死の様子に先輩は少し呆れた様子で笑っていたが、今はそれを気にする余裕もない。
大急ぎで会場から出ると、入り口のあたりで係員たちによる人だかりができていて騒いでいる声が聞こえる。
「なんだ?」
そんなことに関わる時間も勿体無いが、騒いでいる声に聞き覚えがあった。
先輩も同じ反応だったから、やっぱりあいつらだろうとあたりをつけて、俺は先輩とともにその人だかりに近づいた。
すると人だかりの隙間からあの時の女たちが係員に食ってかかっているのが見えた。
「ちょっと触らないでよ!」
「ここは関係者以外は立ち入り禁止って言っているだろう! さっさと出ていきなさい!」
「だから言ってるでしょ! 私たちも関係者なんだってば! ここに出席中のお医者さんによばれてきたんだから! その人に会うまでここから離れないわよ!」
「話が全く通じないな。君たちが誰に呼ばれたのか知らないが、たとえそれが事実であっても、ここから先は学会の招待カードを持った医師しか入れないんだよ。一般人の君たちをここから先に通すわけにはいかない。わかったら出ていきなさい!!」
「だからー、わかんないかなー。いい? しっかり聞きなさいよ! 私たちはここにいる医者に呼ばれてきてんの! 将来の妻になるんだからただの一般人じゃないわけ! わかる?」
「はぁーーっ、もう頭が痛くなってきた。話にならないな」
係員が大きなため息をつく音が俺たちにも聞こえてくる。
だがそうなる気持ちもわかる。
なんせ会話がちっとも噛み合っていない。まるで宇宙人とでも話しているようだ。
日本語を話しているのに、意味がわからないって相当だな。
「悠木くん、どうする? 裏から回るか?」
「いえ。もうここでケリをつけたいです。先輩、警察を呼んでおいてもらえますか?」
「わかった。だが、相手は話の通じない奴らだ。くれぐれも注意しろよ」
「大丈夫です。空良も待っていますから危ないことはしませんよ」
俺の言葉に先輩は納得したように笑顔を見せ、ポケットからスマホを取り出し俺から少し離れた場所に移動した。
それを見て俺は騒ぎが起こっている場所にゆっくりと近づき、女たちから一番離れた場所にいた係員に小声で話しかけた。
「松原さん、大丈夫ですか?」
「あ、先生! 話の通じない方が騒いでいて途方に暮れていたところです。他の先生方には裏から出ていただきましたので、先生もここを離れてください」
「ありがとう。だが、私が対処するから安心していいよ」
「えっ、先生が? もしかして彼女たちが話していたお医者さんというのは先生のことですか? 彼女たちをここに呼んだというのは本当ですか?」
「いや、そんな事実はないよ。付き纏われて困っているんだ」
「ああ。そういうことですか……先生、大変ですね……」
思いっきり同情されてただただ苦笑いを浮かべるしかない。
「今、警察も呼んでもらっているからあとは私に任せてくれ」
「わかりました」
松原さんが、彼女たちの相手をしている係員に声をかけると、彼女たちも俺の存在に気づいたのか、急に満面の笑みで俺を見た。
「きゃー!! 先生! 私たちに会いにきてくれたんですね! 嬉しい!! もう、この人たちが私たちと先生の仲を引き裂こうとして大変だったんですぅー」
女の一人がさっきの怒鳴り声が嘘のような気持ちの悪い猫撫で声で擦り寄ってこようとしたのをさっと躱すと、女は支えを失ったからかそのままビターンと大きな音を立てて床に倒れ込んだ。
「えっ、わっ! ぎゃっ!」
そのあまりにも派手な転びっぷりに周りから、くすくすと笑い声が漏れる。
それもそのはず。ミニスカートは捲れ上がり派手なTバックが丸見えだ。だがその尻はお世辞にも綺麗とは言えない。
空良ならいつまででも見たいと思うのに、この女の下着も尻も俺の目が見るのを拒否している。これはもう本能なんだろう。
「ちょっ――、助けてよ!」
女は大声で叫ぶが、誰も手出しはしない。
今まであれだけ怒鳴っていたんだ。助けたいと思えないのも当然だろう。
結局仲間の女が手を貸して起こすと、女は眉間に皺を寄せて俺を睨んできた。
「どうして助けてくれないのよ! あんた、医者でしょ!」
「飛行機でドクターコールを受けただけでここまで執着されるんだから、ここで手を貸したらどうなるかわからないだろう? そもそも手助けが必要なケガもしていないじゃないか」
転び方こそ派手だったが、怪我をしていないのは明白だったから手を貸す義理はない。
「イケメンで医者だから付き合ってやろうと思ってわざわざここまできて声かけてあげたのにここまで拒否するって何様?」
「何様でもないが、こちらにも選ぶ権利があるんだ。どれだけ執着されても誘いに乗ることは絶対にない」
「失礼ね! もういいわ! あんたなんかこっちから願い下げよ。そうだ! あんたが連れてたあの可愛い子の方がいうこと聞きそうだからそっちにするわ。邪魔しないでよねー」
なんだと? 空良にする? ふざけるな!
「おい!」
「何よ、今更惜しくなったわけ?」
振り向き顔がニヤついていてムカつく。
「素直になった方がいいよ。まぁ、どうしてもって言うなら付き合ってあげてもいいけどー、それなら今までの言動を謝ってもらわないとねー。ほら、謝ってよ。そして付き合ってくださいって土下座して頼んでよー。それなら付き合ってあげるー。ほら、どーげーざ! どーげーざ!」
「はいはい! そこまでね」
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