イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

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番外編

福岡の旅  5

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あの人たちがいなくなってほっとしたら、急に力が抜けてその場に座り込んでしまった。

「わっ! 空良くん、大丈夫?」

「だ、大丈夫です。ほっとしちゃって……」

「そうだよね。いきなりやってきて怖かったよね。とりあえず部屋でゆっくりしようか」

優しい有原さんに支えられるように立ち上がった僕は。ラウンジから少し離れた部屋に連れて行かれた。

綺麗な花が飾られた花瓶と観葉植物に囲まれた落ち着いた雰囲気の部屋は、まるで理央くんの家に遊びに行ったような安心感に包まれていた。

その部屋の中央に広々とした一人がけのソファーが二つ、テーブルを挟んで向かい合わせに置かれていて、僕は片方の椅子に座るように促された。

「飲み物とケーキを注文しよう」

テーブルに置かれていたメニュー表には全て写真付きで書かれていてとても見やすい。

「空良くんはなににする? 一個でも二個でもいいよ」

ケーキメニューを広げて見せてくれるけれど、どれも美味しそうで困ってしまう。
でもその中でも一際輝いて見えたのは、大きな苺が載ったタルトと、メロンのショートケーキ。

「うーん、どっちにしよう……悩んじゃうな」

「じゃあ、半分にしてもらって両方食べようか」

一つが大きそうだから二つは食べられそうにないけど半分ならいけそう!

「はい! そうしたいです!」

「じゃあ、決定! 飲み物はなにがいい?」

「えっと……砂糖とミルクがいっぱい入ったカフェオレがいいです」

前に理央くんと一緒に飲んでからケーキの時はいつもこれ。

「オッケー。ちょっと待っててね」

有原さんは電話でケーキと飲み物を注文すると、あっという間に運ばれてきた。

「わぁ! もう半分になってる!」

目の前のお皿には二種類のケーキが綺麗に盛り付けられていて、どちらも美味しそう!

カフェオレもミルクがたくさん入っている美味しそうな色をしているし、早く飲みたくてたまらなくなってくる。
スタッフさんたちが部屋を出て行って、

「じゃあ、食べようか」

有原さんが優しい言葉をかけてくれる。

「いただきまーす!」

僕はまずカフェオレに口をつけて、喉を潤してからメロンのショートケーキにフォークを入れた。

スポンジの間にもいっぱいメロンが入っていて美味しそう。
口に運ぶと甘いメロンの味でいっぱいになった。

「んー! 美味しい!!」

「空良くん、すっごく美味しそうに食べるから期待しちゃうよ」

そう言いつつ、有原さんも僕と同じメロンのショートケーキを一口食べた。

「どうですか?」

「ああ、最高に美味しいね!!!」

さっきの人たちと話している時とは全く違う優しい笑顔に、僕はなんだかドキッとしてしまった。

<side寛人>

有原さんが空良を見ていてくれるのは安心だが、なんとなく胸騒ぎがする。
それがなんなのか、よくわからない。

でも空良に何か危機が迫っているような、そんな気がしてならない。

せっかく福岡での学会だったから空良も一緒に旅行気分でと思って連れてきたけれど、余計なトラブルにも遭ってしまったし、やっぱり両親に空良を預けておいた方が良かったかと、自分の判断を後悔した。

「心配で心配でたまらないって顔だな」

「えっ? 顔に出てましたか?」

「ああ。空良くんと離れてからずっとな。そんなに心配なことでもあるのか?」

「実は行きの飛行機で……」

榎木先輩に余計なトラブルに関わってしまったこと、そいつらがどうもしつこそうに見えたことが気になっていると説明した。

「なるほど。それなら心配するのもわかるな。でももしそうだとしても佳史がいるから心配しないでいい。腕っぷしも弁護士としても君が思っている数倍強いよ、佳史は」

榎木先輩の自信満々な様子にホッとしていると、学会の最中に榎木先輩が上着のポケットからスマホを取り出した。

この学会の最中にスマホを使うのは特に禁止されてはいない。
なんせ、俺たちはみんな患者を抱える医師だ。
学会に出席中とはいえ、緊急の電話はかかってくることは暗黙の了解。
それをいちいち咎めることもない。

榎木先生はスマホを取り出すと、持っていたイヤホンを片耳だけつけた。
どうやら動画? いや、音声を確認しているようだ。

「悠木くん。君のスマホにこのデータを送るよ」

確認し終えた榎木先輩が俺のスマホに情報を送ってくる。
俺も片耳にイヤホンを装着すると先輩が送ってくれたデータを再生させた。

――私たち……飛行機の中で、この子の連れのお医者さんに助けてもらって、それでお礼がしたくてずっと探してて……ここで再会できたのも何かの縁だし、この子にあのお医者さんの連絡先教えてもらおうかなって……ねぇ、だめかな?

――あの、そんな勝手なことできません……

――いいじゃない。減るもんじゃないし。さっさと教えなさいよ!

――やっ――!

これはあの女と、空良の声?

どう見ても脅されている様子に腸が煮えくり返る。
くそっ! やっぱり空良を残してこなければ良かった。

自分への怒りでいっぱいになる中、有原さんが毅然とした態度で空良を守ってくれている様子が聞こえてくる。

――私は弁護士です。職業柄今までの会話も全て録音しています。あなた方に勝ち目はありませんが、それでもまだ彼に付き纏いますか?

今まで聞いたことのない有原さんの声に、イヤホン越しでもゾクっと背筋が震える。

「佳史がどれだけ怖いかわかったろう?」

「は、はい。そうですね」

「佳史に怯えているからもうこないとは思うが、奴らはもう二度と近づいてこないようにしておいた方がいいな。写真もあるから後で対処するといい」

渡されたデータに感謝しつつも、俺は早く空良の元に戻りたくてたまらなかった。
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