イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

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番外編

福岡の旅  1

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お医者さんならこういうこともあるだろうなということで書いたお話。
このカップルのほか、直己たち、成瀬たちならありそうですよね。
いつものように序章が長すぎて前後編になりましたが楽しんでいただけると嬉しいです♡


  *   *   *


「空良、来月福岡の学会に出席するから一緒に行くぞ」

「えっ? 福岡? 僕も行っていいんですか?」

「もちろんだ。空良が一緒に来てくれないとうまくいくものもいかなくなるよ。学会は土曜日だから金曜日に出発して日曜日に帰って来よう。月曜は祝日だから家でのんびりできるだろう? 福岡で美味しいものをたくさん食べられるぞ」

「わぁー! 僕、福岡初めてです。楽しみだなー」

車の運転が好きだった父親の影響で家族旅行は関東近郊にドライブに行くのが多かったと思い出を話してくれたことがある。両親が事故に遭って亡くなったこともあって、しばらくは家族での思い出を思い出せなくなっていたが、最近ぽつりぽつりと教えてくれるようになった。
それでもまだその場所を巡るのは辛いだろうから、空良が行ったことのない場所ならきっと楽しめるだろう。

あっという間に出発当日。
今日は午前中の診察を終えて、午後は後輩の医師に応援を頼み、俺は空良を連れて空港へ向かった。

新幹線に乗ったことのない空良を乗せてやろうかとも思ったが、流石に東京から福岡まで時間がかかりすぎる。
今度は名古屋か大阪、京都にでも連れて行く時に新幹線に乗せてやろう。

そういえば、空良はこの前フランスに行くまで飛行機に乗ったことはなかったと言っていた。
一般常識として普通の飛行機がどんなものかは知っていたが、初めての飛行機であの豪華なロレーヌ家のプライベートジェットを経験している。
今日はもちろんファーストクラスをとっているが、プライベートジェットと比べられるとかなり落ちるだろう。
がっかりしなければいいが……。

そう思いつつ、俺は手続きを済ませて空良と共に飛行機に乗り込んだ。

「わぁー! 素敵!! 椅子もおっきくて座り心地良さそう! 寛人さんと一緒に座れるなんて嬉しい!」

俺の心配とは対照的に空良はものすごく嬉しそうに案内されたファーストクラスのペアシートに腰を下ろした。
そうだ、空良はこういう子だ。空良がたまらなく愛おしい。
その気持ちを抑えられなくて俺は、喜ぶ空良の隣に寄り添って座り、さっと唇を奪った。

「寛人さん……」

「この週末は楽しもうな」

「はい」

嬉しそうな空良を抱き寄せ、飛行機が動き出すのを待った。

飛行機が安定飛行に入り、食事の提供が始まった。
どれも満足そうに食べる空良を見ながら、俺も食事を済ませた。

福岡到着まであと40分ほどになった頃、突然機内にアナウンスが響いた。

「お客さまの中に医師、看護師、または他の医療従事者はいらっしゃいませんか? 機内に急病人が発生しております。お客さまの中に医師、看護師、または他の医療従事者はいらっしゃいませんか?」

俗にいう、ドクターコールだ。
厄介なことが起きた。
こんなアナウンスを聞けば、空良のことだ。俺に行けというだろう。だが、俺は空良のそばを離れたくない。
明日が福岡で学会があるのだから、もしかしたら俺以外にも前乗りで福岡に向かっている医師もいるはず。なんとかそいつが先に手をあげてくれないかと思ったが、もう一度アナウンスが機内に流れた。

「寛人さん、病人がいるそうですよ。行った方がいいです!」

空良から離れたくないが、ここで見殺しにするような真似をして空良に嫌われたくない。

「わかった。じゃあ、空良は助手としてそばにいてくれ」

「僕が? いいんですか?」

「ああ、頼む。一人よりは二人がいいからな」

「わかりました! 頑張ります!」

やる気に満ちた空良の頭を撫で、俺はCAに声をかけた。
確認のために持っていた名刺を渡すと、すぐに病人が寝かされていた機内の奥の場所まで案内された。

同伴者によると、20代の女性で持病はなし。
搭乗してからめまいと吐気が治らず、ぐったりとした様子だったためCAに声をかけたということだった。

機内に常備されていた血圧計で測ったが、血圧は正常。
呼吸も脈も問題ない。

「お名前は言えますか?」
「今からどこに向かう予定ですか?」
「同行者との関係は?」

いくつかの当たり障りのない質問をすると、女性は少し頬を赤らめながらも笑顔で答える。
これなら大丈夫だ。

「特に問題は見当たりません。しばらく横になっていたら降りる頃には落ち着くでしょう」

それだけ告げて、空良の手を取って自分たちの席に戻ろうとすると、

「あ、あの、助けてくださったお礼がしたいです! 名刺、いただけませんか?」

とぐったりしていたはずの女性が顔を真っ赤にして起き上がってきた。

「いえ、お礼など必要ありません」

「でも!」

「失礼します」

やっぱり手を上げるんじゃなかったと少しばかり後悔しつつ、空良の手を取って急いでその場から離れた。
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