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番外編
みんなとの約束
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「空良、何があったのか俺に教えてくれるか?」
初夜を迎えた朝にこんなふうに空良の涙を、しかも悲しい涙を見ることになるとは思ってもみなかった。
「大丈夫だから、俺を信じて話してくれ」
小さな身体を俺の腕の中に閉じ込めて、頭を優しく撫でてやれば空良は涙に濡れた声で、
「あのね……みんなと、ぐすっ、やくそくしたの……」
と教えてくれた。
「約束?」
「うん。でも……うっ、ぐすっ……それを、わすれちゃって……ぼく、うっ……きらわれちゃう……ぐすっ」
「大丈夫だよ。みんなが空良を嫌うわけないだろう?」
「でも……」
「どんな約束だったんだ?」
「うーん、いっちゃ、だめだって……ぐすっ、ないしょだって……」
みんなで約束……俺には内緒……。
あっ!!!
もしかしたら!!!
その時、俺の脳裏にあのクリスマスパーティーでの光景が思い浮かんだ。
佳都くんからのクリスマスプレゼントだ!
あの艶かしいベビードール。
あれはただのプレゼントじゃなく、初夜に着るためにと佳都くんが用意してくれたんだろう。
だから、約束を守れずに朝を迎えてしまった空良が……。
なるほど、そういうことか。
だが、そんな約束……観月も、ロレーヌさんも守れているとは到底思えない。
なんせ、結婚式で美しいドレス姿を見続けて我慢しているのだから。
あの時中庭から自室へ駆け戻ったのは俺だけじゃないはず。
伴侶のために似合う世界にひとつだけのドレスを作ったのは、それを着たまま愛し合うためでもある。
まぁ、もしかしたらあの観月なら、ことに及ぶ前に理央くんの話を聞いてドレスから着替えさせて約束を守ってあげるなんてこともあるかもしれない。
そうだな、あれだけ理央くんのドレスを大切にしていたんだ。
汚す前に脱がせて、その時に着替えさせることもないとは言えないが、ロレーヌさんはどうだろう?
いかにも紳士でがっつきもしないタイプに限って、限界を迎えたら理性が飛ぶなんてことも十分にあり得る。
俺たち同様にずっと煽られてきているんだ。
絶対にドレスのまま、ことに及んでいるはずだ。
そもそもみんな忘れているんじゃないか?
理央くんにも弓弦くんにもそんな余裕があるとは思えないし。
とはいえ、空良が約束を守れなかったと涙を見せるなら、俺はそれを守るだけだ。
「空良……泣かないでいいよ」
「ひろと、さぁん……っ、ぼく、どうしたらいい……?」
「みんなと会う前までに約束を守ればいいんだ。時間までは決まってなかったんだろう?」
「えっ……でも、しょやにって、やくそくしたんです……」
「ふふっ。なら、大丈夫だ。まだ初夜は終わってないよ」
「ほんと?」
「ああ、だからその約束がどういうものか教えてくれないか?」
そういうと、ようやく空良の表情に安堵の色が見えた。
目にいっぱい溜まった涙を乱暴に拭おうとするのを制して、唇を当てて優しく吸い取ってやる。
少ししょっぱいが空良だと思うだけで極上の味になるのだから不思議だ。
「ふふっ。ひろとさん……くすぐったいです……」
「手で拭ったりしたら空良の可愛い目が腫れてしまうからな。涙はいつでも俺が吸い取ってやる。だが、もう泣かせる気はないがな」
「ひろとさん……だいすき」
「ほら、そんなに煽ったら約束を守れなくなるぞ。それで何をどうしたらいいんだ?」
「あ、あのくろねこさんのシールがついたはこ……」
「すぐに取ってくるよ」
ぱちっと電気をつけベッドから立ち上がると、
「わっ!」
と空良の驚く声がする。
その声に驚いて振り返ると真っ赤な顔をして俺を見ていた。
「どうした?」
「あ、あの……ひろとさん……は、だか……」
そういえば、服を着ずに空良と抱き合っていたんだったな。
だが、今までもう何度も愛し合っているし、裸以上のものだって見まくっているのに……本当に空良はいつになっても初心で可愛い。
「もう夫夫なんだから恥ずかしがることはないだろう?」
「で、でも……かっこよすぎて、ドキドキします」
「ふふっ。空良にドキドキしてもらえるならずっと裸でもいいな」
「えっ、そんな……っ」
「ふふっ。冗談だよ」
近くに置いてあったガウンを纏い、
「これでいいか?」
と尋ねれば、
「うわぁ、かっこいい……」
とさらに頬を染める。
俺は自分が思っていた以上に空良に愛されているようだ。
初夜を迎えた朝にこんなふうに空良の涙を、しかも悲しい涙を見ることになるとは思ってもみなかった。
「大丈夫だから、俺を信じて話してくれ」
小さな身体を俺の腕の中に閉じ込めて、頭を優しく撫でてやれば空良は涙に濡れた声で、
「あのね……みんなと、ぐすっ、やくそくしたの……」
と教えてくれた。
「約束?」
「うん。でも……うっ、ぐすっ……それを、わすれちゃって……ぼく、うっ……きらわれちゃう……ぐすっ」
「大丈夫だよ。みんなが空良を嫌うわけないだろう?」
「でも……」
「どんな約束だったんだ?」
「うーん、いっちゃ、だめだって……ぐすっ、ないしょだって……」
みんなで約束……俺には内緒……。
あっ!!!
もしかしたら!!!
その時、俺の脳裏にあのクリスマスパーティーでの光景が思い浮かんだ。
佳都くんからのクリスマスプレゼントだ!
あの艶かしいベビードール。
あれはただのプレゼントじゃなく、初夜に着るためにと佳都くんが用意してくれたんだろう。
だから、約束を守れずに朝を迎えてしまった空良が……。
なるほど、そういうことか。
だが、そんな約束……観月も、ロレーヌさんも守れているとは到底思えない。
なんせ、結婚式で美しいドレス姿を見続けて我慢しているのだから。
あの時中庭から自室へ駆け戻ったのは俺だけじゃないはず。
伴侶のために似合う世界にひとつだけのドレスを作ったのは、それを着たまま愛し合うためでもある。
まぁ、もしかしたらあの観月なら、ことに及ぶ前に理央くんの話を聞いてドレスから着替えさせて約束を守ってあげるなんてこともあるかもしれない。
そうだな、あれだけ理央くんのドレスを大切にしていたんだ。
汚す前に脱がせて、その時に着替えさせることもないとは言えないが、ロレーヌさんはどうだろう?
いかにも紳士でがっつきもしないタイプに限って、限界を迎えたら理性が飛ぶなんてことも十分にあり得る。
俺たち同様にずっと煽られてきているんだ。
絶対にドレスのまま、ことに及んでいるはずだ。
そもそもみんな忘れているんじゃないか?
理央くんにも弓弦くんにもそんな余裕があるとは思えないし。
とはいえ、空良が約束を守れなかったと涙を見せるなら、俺はそれを守るだけだ。
「空良……泣かないでいいよ」
「ひろと、さぁん……っ、ぼく、どうしたらいい……?」
「みんなと会う前までに約束を守ればいいんだ。時間までは決まってなかったんだろう?」
「えっ……でも、しょやにって、やくそくしたんです……」
「ふふっ。なら、大丈夫だ。まだ初夜は終わってないよ」
「ほんと?」
「ああ、だからその約束がどういうものか教えてくれないか?」
そういうと、ようやく空良の表情に安堵の色が見えた。
目にいっぱい溜まった涙を乱暴に拭おうとするのを制して、唇を当てて優しく吸い取ってやる。
少ししょっぱいが空良だと思うだけで極上の味になるのだから不思議だ。
「ふふっ。ひろとさん……くすぐったいです……」
「手で拭ったりしたら空良の可愛い目が腫れてしまうからな。涙はいつでも俺が吸い取ってやる。だが、もう泣かせる気はないがな」
「ひろとさん……だいすき」
「ほら、そんなに煽ったら約束を守れなくなるぞ。それで何をどうしたらいいんだ?」
「あ、あのくろねこさんのシールがついたはこ……」
「すぐに取ってくるよ」
ぱちっと電気をつけベッドから立ち上がると、
「わっ!」
と空良の驚く声がする。
その声に驚いて振り返ると真っ赤な顔をして俺を見ていた。
「どうした?」
「あ、あの……ひろとさん……は、だか……」
そういえば、服を着ずに空良と抱き合っていたんだったな。
だが、今までもう何度も愛し合っているし、裸以上のものだって見まくっているのに……本当に空良はいつになっても初心で可愛い。
「もう夫夫なんだから恥ずかしがることはないだろう?」
「で、でも……かっこよすぎて、ドキドキします」
「ふふっ。空良にドキドキしてもらえるならずっと裸でもいいな」
「えっ、そんな……っ」
「ふふっ。冗談だよ」
近くに置いてあったガウンを纏い、
「これでいいか?」
と尋ねれば、
「うわぁ、かっこいい……」
とさらに頬を染める。
俺は自分が思っていた以上に空良に愛されているようだ。
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