イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

文字の大きさ
上 下
43 / 62
番外編

これから先のこと

しおりを挟む
結婚式を終えると、空良たちが話していた願いを叶えるために庭へと移動した。

ずっと憧れていた絵本の中のプリンセスのようになりたいと明確な理想を持っていた理央くんと違って、空良のドレスは俺が一から作るものだったから、何にしようかとずっと考えていただけに、陽の光を十二分に与えると、色が変わるという生地を見つけた時、空良のドレスを作るならこれしかないと思った。

空良の可愛さとこの生地を活かすために作り上げたシンプルで上品なドレスは、マリアベールとマリアティアラとも相まって、空良を美しく彩ってくれた。

「寛人さん……僕のこのドレス、作るの大変だったでしょう?」

庭へと向かう道すがら、俺の腕の中でそんなことを聞いてくる。

「空良のために作るんだ。大変でも幸せでしかなかったよ」

「寛人さん……僕、本当に嬉しい。僕、自分がドレスを着たいなんて思ったことは一度もなかったけど、佳都さんがドレス姿の写真を見せてくれた時、いいなって思ったんです。結婚式の時に二人でタキシードを着ているのを見て羨ましいって思ったのに、寛人さんとの結婚式を想像した時に自分が何を着て隣にいたいかって思ったら、ドレスを着ていて…‥佳都さんみたいに綺麗じゃないし、理央くんみたいに可愛いわけでもないし、似合わないかもって思ったけど……それでも寛人さんの隣で、ドレス着て笑ってたいって思ったんです……」

「空良……」

「だから、お支度部屋でこのドレスを初めて見た時、ものすごくびっくりしたんですよ。こんなドレス着てみたいなって想像していたドレスと同じだったから」

だからあんなにも喜んでくれたのか……。

「空良……そんなにこのドレスを気に入ってくれて嬉しいよ。でも、一つだけ間違っていることがある」

「えっ? まち、がい?」

「ああ。空良は誰よりも綺麗で可愛いよ。それは他の誰がなんと言おうと決まっていることだ。なんせ、俺が人生をかけて選んだ相手なんだからな。空良はもっと俺に愛されている自信を持ってくれないか? 俺は他の人たちなんか目に入らないくらい空良を心から綺麗で可愛いと思っているし、愛しているよ」

「――っ、寛人さん……っ。はい、僕……自信持ちます。僕も寛人さんが大好きだから……」

「空良……」

うっすら涙を浮かべながら俺を見つめるその顔にどきっとして、顔を近づけキスしようとすると、

「わぁーっ! 空良くんのドレス! 本当にピンク色になってるー!」

という理央くんの声が響き渡り、一斉に視線が注がれるのを感じて空良がピクリと身体を震わせた。

ちょっとタイミングが悪かったな。
でも理央くんには全く悪気はない。
仕方ないとは思いつつ、空良の唇を奪えなかったことは心残りだ。

空良は俺がそんなことを思っていることにも気づかずに、自分のドレスが褒められてとても嬉しそうに談笑している。
まぁ、あとでゆっくりと楽しめばいいか。

ここから夜は……いや、明日も時間はたっぷりあるのだからな。


ミシェルさんの声掛けで撮影会が始まり、ウェディングドレスを着ている空良たちと、お揃いの淡い水色のドレスに身を包んだ佳都くんたちとが入り混じって並ぶ。

ああ、壮観だな。
子猫たちが戯れあっているようなそんな可愛らしい集団。
その前で俺たちはスマホを手に、主に自分の伴侶をメインに写真を撮り続けていた。

空良は友人たちとの写真撮影に、さっきの俺との撮影とはまた違った可愛らしい笑顔を浮かべている。
こんなにも表情が大人びたり、子どもっぽくなったりするのも空良くらいだろうか。
どちらの空良も可愛いことに変わりはないが。

空良と理央くん、そして弓弦くんとの撮影の後、佳都くんたち四人が撮影をしている間に、そっと観月の元に近づく。

「おい、観月」

「ああ、やっぱり何か言いにくると思ってたよ」

「わかってたのか?」

「当たり前だろう。だが、理央を責めないでくれ。理央はお前たちがキスしようとしていたなんて何も気づいていないからな。理央は単純にドレスしか見えてない」

「わかってるよ。たまたまタイミングが悪かったんだろう。俺はそのままキスしてもよかったんだが、空良が恥ずかしがるから……」

「理央も同じだ。どれだけキスしたって、人前は恥ずかしがる。ここに来て、フランスの開放的な感じに少し気が楽になったようだけどな」

理央くんにはフランスがもしかしたら合っているのかもしれない。
観月はそう言いたいのだろうか。

「そういえば、お前……フランス移住は本当に考えてるのか? ロレーヌ総帥はかなり誘っていただろう?」

「ああ。理央のことを考えたらこっちで暮らすのもいいかなと思っている。日本にいて、施設にいた頃の奴らと出会うかもしれないなんて不安を抱えながら生きていくよりはずっと安心だろう? まぁ、空良くんと離れるのだけは嫌がりそうだけどな」

「両親はどうするんだ? あれだけ理央くんを可愛がっているんだ。離れるのは嫌がるんじゃないか?」

「正式にこっちに移住となれば、きっと両親もこっちにくるって言いそうだな。元々、もう仕事はしなくても余裕で暮らせるくらいの蓄えはあるし、将来は海外に住みたいというのは理央が来る前から話していたしな」

「そうか……なら、俺も考えるとするかな」

「えっ? お前も移住を考えてるのか?」

「ああ。別に真似をするわけじゃないが、ロレーヌ総帥の話していたあの大学なら、空良も伸び伸びと過ごせるんじゃないかと思ってね」

「確かに、あの大学は魅力的だな」

「だろう? まぁ、今すぐどうこうとは考えてないが、空良ともゆっくり話し合って決めるよ」

「ああ。そうだな。俺もそうするつもりだ。それはそうと、空良くんのあのドレスの生地なんだが……」

空良よりもドレスの生地の方が気になるあたり、やっぱり自分の伴侶しか見えてない。
そういうところも俺たちは似ているんだ。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

強引に伴侶にされた俺は、なぜか溺愛されています

すいかちゃん
BL
昔から、葵家と登坂家ではある約束が交わされていた。それは、葵家の当主は登坂家の誰かと婚姻を結ばなくてはならないという事だ。だが、困った事に登坂家に男しかいない。男なのに当主の伴侶に指名された登坂樹は困惑する。だが、葵奏貴(かなた)は樹をとても気に入ったと熱烈アプローチ。かくして、樹は奏貴と婚礼を挙げる事になり…。 樹は、奏貴のある能力を知り…。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

処理中です...