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番外編
これから先のこと
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結婚式を終えると、空良たちが話していた願いを叶えるために庭へと移動した。
ずっと憧れていた絵本の中のプリンセスのようになりたいと明確な理想を持っていた理央くんと違って、空良のドレスは俺が一から作るものだったから、何にしようかとずっと考えていただけに、陽の光を十二分に与えると、色が変わるという生地を見つけた時、空良のドレスを作るならこれしかないと思った。
空良の可愛さとこの生地を活かすために作り上げたシンプルで上品なドレスは、マリアベールとマリアティアラとも相まって、空良を美しく彩ってくれた。
「寛人さん……僕のこのドレス、作るの大変だったでしょう?」
庭へと向かう道すがら、俺の腕の中でそんなことを聞いてくる。
「空良のために作るんだ。大変でも幸せでしかなかったよ」
「寛人さん……僕、本当に嬉しい。僕、自分がドレスを着たいなんて思ったことは一度もなかったけど、佳都さんがドレス姿の写真を見せてくれた時、いいなって思ったんです。結婚式の時に二人でタキシードを着ているのを見て羨ましいって思ったのに、寛人さんとの結婚式を想像した時に自分が何を着て隣にいたいかって思ったら、ドレスを着ていて…‥佳都さんみたいに綺麗じゃないし、理央くんみたいに可愛いわけでもないし、似合わないかもって思ったけど……それでも寛人さんの隣で、ドレス着て笑ってたいって思ったんです……」
「空良……」
「だから、お支度部屋でこのドレスを初めて見た時、ものすごくびっくりしたんですよ。こんなドレス着てみたいなって想像していたドレスと同じだったから」
だからあんなにも喜んでくれたのか……。
「空良……そんなにこのドレスを気に入ってくれて嬉しいよ。でも、一つだけ間違っていることがある」
「えっ? まち、がい?」
「ああ。空良は誰よりも綺麗で可愛いよ。それは他の誰がなんと言おうと決まっていることだ。なんせ、俺が人生をかけて選んだ相手なんだからな。空良はもっと俺に愛されている自信を持ってくれないか? 俺は他の人たちなんか目に入らないくらい空良を心から綺麗で可愛いと思っているし、愛しているよ」
「――っ、寛人さん……っ。はい、僕……自信持ちます。僕も寛人さんが大好きだから……」
「空良……」
うっすら涙を浮かべながら俺を見つめるその顔にどきっとして、顔を近づけキスしようとすると、
「わぁーっ! 空良くんのドレス! 本当にピンク色になってるー!」
という理央くんの声が響き渡り、一斉に視線が注がれるのを感じて空良がピクリと身体を震わせた。
ちょっとタイミングが悪かったな。
でも理央くんには全く悪気はない。
仕方ないとは思いつつ、空良の唇を奪えなかったことは心残りだ。
空良は俺がそんなことを思っていることにも気づかずに、自分のドレスが褒められてとても嬉しそうに談笑している。
まぁ、あとでゆっくりと楽しめばいいか。
ここから夜は……いや、明日も時間はたっぷりあるのだからな。
ミシェルさんの声掛けで撮影会が始まり、ウェディングドレスを着ている空良たちと、お揃いの淡い水色のドレスに身を包んだ佳都くんたちとが入り混じって並ぶ。
ああ、壮観だな。
子猫たちが戯れあっているようなそんな可愛らしい集団。
その前で俺たちはスマホを手に、主に自分の伴侶をメインに写真を撮り続けていた。
空良は友人たちとの写真撮影に、さっきの俺との撮影とはまた違った可愛らしい笑顔を浮かべている。
こんなにも表情が大人びたり、子どもっぽくなったりするのも空良くらいだろうか。
どちらの空良も可愛いことに変わりはないが。
空良と理央くん、そして弓弦くんとの撮影の後、佳都くんたち四人が撮影をしている間に、そっと観月の元に近づく。
「おい、観月」
「ああ、やっぱり何か言いにくると思ってたよ」
「わかってたのか?」
「当たり前だろう。だが、理央を責めないでくれ。理央はお前たちがキスしようとしていたなんて何も気づいていないからな。理央は単純にドレスしか見えてない」
「わかってるよ。たまたまタイミングが悪かったんだろう。俺はそのままキスしてもよかったんだが、空良が恥ずかしがるから……」
「理央も同じだ。どれだけキスしたって、人前は恥ずかしがる。ここに来て、フランスの開放的な感じに少し気が楽になったようだけどな」
理央くんにはフランスがもしかしたら合っているのかもしれない。
観月はそう言いたいのだろうか。
「そういえば、お前……フランス移住は本当に考えてるのか? ロレーヌ総帥はかなり誘っていただろう?」
「ああ。理央のことを考えたらこっちで暮らすのもいいかなと思っている。日本にいて、施設にいた頃の奴らと出会うかもしれないなんて不安を抱えながら生きていくよりはずっと安心だろう? まぁ、空良くんと離れるのだけは嫌がりそうだけどな」
「両親はどうするんだ? あれだけ理央くんを可愛がっているんだ。離れるのは嫌がるんじゃないか?」
「正式にこっちに移住となれば、きっと両親もこっちにくるって言いそうだな。元々、もう仕事はしなくても余裕で暮らせるくらいの蓄えはあるし、将来は海外に住みたいというのは理央が来る前から話していたしな」
「そうか……なら、俺も考えるとするかな」
「えっ? お前も移住を考えてるのか?」
「ああ。別に真似をするわけじゃないが、ロレーヌ総帥の話していたあの大学なら、空良も伸び伸びと過ごせるんじゃないかと思ってね」
「確かに、あの大学は魅力的だな」
「だろう? まぁ、今すぐどうこうとは考えてないが、空良ともゆっくり話し合って決めるよ」
「ああ。そうだな。俺もそうするつもりだ。それはそうと、空良くんのあのドレスの生地なんだが……」
空良よりもドレスの生地の方が気になるあたり、やっぱり自分の伴侶しか見えてない。
そういうところも俺たちは似ているんだ。
ずっと憧れていた絵本の中のプリンセスのようになりたいと明確な理想を持っていた理央くんと違って、空良のドレスは俺が一から作るものだったから、何にしようかとずっと考えていただけに、陽の光を十二分に与えると、色が変わるという生地を見つけた時、空良のドレスを作るならこれしかないと思った。
空良の可愛さとこの生地を活かすために作り上げたシンプルで上品なドレスは、マリアベールとマリアティアラとも相まって、空良を美しく彩ってくれた。
「寛人さん……僕のこのドレス、作るの大変だったでしょう?」
庭へと向かう道すがら、俺の腕の中でそんなことを聞いてくる。
「空良のために作るんだ。大変でも幸せでしかなかったよ」
「寛人さん……僕、本当に嬉しい。僕、自分がドレスを着たいなんて思ったことは一度もなかったけど、佳都さんがドレス姿の写真を見せてくれた時、いいなって思ったんです。結婚式の時に二人でタキシードを着ているのを見て羨ましいって思ったのに、寛人さんとの結婚式を想像した時に自分が何を着て隣にいたいかって思ったら、ドレスを着ていて…‥佳都さんみたいに綺麗じゃないし、理央くんみたいに可愛いわけでもないし、似合わないかもって思ったけど……それでも寛人さんの隣で、ドレス着て笑ってたいって思ったんです……」
「空良……」
「だから、お支度部屋でこのドレスを初めて見た時、ものすごくびっくりしたんですよ。こんなドレス着てみたいなって想像していたドレスと同じだったから」
だからあんなにも喜んでくれたのか……。
「空良……そんなにこのドレスを気に入ってくれて嬉しいよ。でも、一つだけ間違っていることがある」
「えっ? まち、がい?」
「ああ。空良は誰よりも綺麗で可愛いよ。それは他の誰がなんと言おうと決まっていることだ。なんせ、俺が人生をかけて選んだ相手なんだからな。空良はもっと俺に愛されている自信を持ってくれないか? 俺は他の人たちなんか目に入らないくらい空良を心から綺麗で可愛いと思っているし、愛しているよ」
「――っ、寛人さん……っ。はい、僕……自信持ちます。僕も寛人さんが大好きだから……」
「空良……」
うっすら涙を浮かべながら俺を見つめるその顔にどきっとして、顔を近づけキスしようとすると、
「わぁーっ! 空良くんのドレス! 本当にピンク色になってるー!」
という理央くんの声が響き渡り、一斉に視線が注がれるのを感じて空良がピクリと身体を震わせた。
ちょっとタイミングが悪かったな。
でも理央くんには全く悪気はない。
仕方ないとは思いつつ、空良の唇を奪えなかったことは心残りだ。
空良は俺がそんなことを思っていることにも気づかずに、自分のドレスが褒められてとても嬉しそうに談笑している。
まぁ、あとでゆっくりと楽しめばいいか。
ここから夜は……いや、明日も時間はたっぷりあるのだからな。
ミシェルさんの声掛けで撮影会が始まり、ウェディングドレスを着ている空良たちと、お揃いの淡い水色のドレスに身を包んだ佳都くんたちとが入り混じって並ぶ。
ああ、壮観だな。
子猫たちが戯れあっているようなそんな可愛らしい集団。
その前で俺たちはスマホを手に、主に自分の伴侶をメインに写真を撮り続けていた。
空良は友人たちとの写真撮影に、さっきの俺との撮影とはまた違った可愛らしい笑顔を浮かべている。
こんなにも表情が大人びたり、子どもっぽくなったりするのも空良くらいだろうか。
どちらの空良も可愛いことに変わりはないが。
空良と理央くん、そして弓弦くんとの撮影の後、佳都くんたち四人が撮影をしている間に、そっと観月の元に近づく。
「おい、観月」
「ああ、やっぱり何か言いにくると思ってたよ」
「わかってたのか?」
「当たり前だろう。だが、理央を責めないでくれ。理央はお前たちがキスしようとしていたなんて何も気づいていないからな。理央は単純にドレスしか見えてない」
「わかってるよ。たまたまタイミングが悪かったんだろう。俺はそのままキスしてもよかったんだが、空良が恥ずかしがるから……」
「理央も同じだ。どれだけキスしたって、人前は恥ずかしがる。ここに来て、フランスの開放的な感じに少し気が楽になったようだけどな」
理央くんにはフランスがもしかしたら合っているのかもしれない。
観月はそう言いたいのだろうか。
「そういえば、お前……フランス移住は本当に考えてるのか? ロレーヌ総帥はかなり誘っていただろう?」
「ああ。理央のことを考えたらこっちで暮らすのもいいかなと思っている。日本にいて、施設にいた頃の奴らと出会うかもしれないなんて不安を抱えながら生きていくよりはずっと安心だろう? まぁ、空良くんと離れるのだけは嫌がりそうだけどな」
「両親はどうするんだ? あれだけ理央くんを可愛がっているんだ。離れるのは嫌がるんじゃないか?」
「正式にこっちに移住となれば、きっと両親もこっちにくるって言いそうだな。元々、もう仕事はしなくても余裕で暮らせるくらいの蓄えはあるし、将来は海外に住みたいというのは理央が来る前から話していたしな」
「そうか……なら、俺も考えるとするかな」
「えっ? お前も移住を考えてるのか?」
「ああ。別に真似をするわけじゃないが、ロレーヌ総帥の話していたあの大学なら、空良も伸び伸びと過ごせるんじゃないかと思ってね」
「確かに、あの大学は魅力的だな」
「だろう? まぁ、今すぐどうこうとは考えてないが、空良ともゆっくり話し合って決めるよ」
「ああ。そうだな。俺もそうするつもりだ。それはそうと、空良くんのあのドレスの生地なんだが……」
空良よりもドレスの生地の方が気になるあたり、やっぱり自分の伴侶しか見えてない。
そういうところも俺たちは似ているんだ。
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