イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

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番外編

一生に一度だから

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ロレーヌ総帥に教えてもらっていた城内の地図は頭の中に全て入れているから、迷うことなく撮影場所のテラスに到着した。

最初の撮影場所である、大きな窓の外に見えるテラスは花と緑に囲まれた広い空間。

こんなに素敵な場所で空良と撮影ができるのか……。
最高のシチュエーションだな。

『ここからの景色は素晴らしいですよ。湖も見渡せますし、何よりも今日は珍しく雲ひとつない最高の天気ですからね。ただ、長時間の撮影は難しいでしょうから、すぐに終わらせましょう』

アントワーヌの言葉に少々引っかかった。

『なぜ長時間の撮影が難しいんですか?』

『外は真冬の寒さですよ。いくら日差しがあるとはいえ、薄着のソラさまには寒くてとても撮影どころでは……』

アントワーヌのその言葉にそういえばそうだったなと思いつつも、ロレーヌ総帥がそんなことに気づかないわけがない。
なんと言ってもあれだけ弓弦くんを溺愛しているのだ。

弓弦くんが寒さに震え、その中で撮影を強いるようなことをさせるわけがない。

そもそも観月だって、ロレーヌ総帥だって、庭での撮影を予定しているのだ。
寒さに震える中で、笑顔での撮影なんてプロのモデルじゃあるまいしできるわけがない。

『寒さ対策はおそらく問題はないと思いますよ』

俺はそう自信満々に言い切って、テラスに繋がる大きな窓を開けテラスに出た。

最初こそ風のせいか、それとも室温との差なのか、ヒヤリとした感覚はあったがすぐに心地良い気温に身体がホッとする。

「寛人さん、いい天気だとこんなに気持ちがいいんですね」

薄手のドレスを着ている空良でも寒さを感じないほどにこのテラスは、ちょうどいい温度に保たれていた。

『なぜ、こんなに暖かいんだ?』

アントワーヌは驚きの表情を隠せないようだが、俺はもうすでにこのテラス中に暖房が張り巡らされていることに気づいていた。

やはりというか、当然か。

あのクリスマスパーティーでもあの広い庭を全てシートで覆い尽くすくらいの人だ。
このテラスを暖房で温めるなんてこと、造作もないだろう。

おそらく撮影場所である庭も全て暖房で温めているのだろうな。
庶民には到底できない技だが、ロレーヌ家の力を持ってすればできないことなど何もないのだろう。

『ロレーヌ総帥が暖めてくれているようですよ。これでゆっくり撮影できますね』

『おおっ! なんと素晴らしいっ!!』

アントワーヌは目を輝かせながら、カメラを構える。

『お好きなように動いてくだされば、撮影いたします』

『ああ、わかった。ありがとう』

いろいろとポーズを言われた方が撮りやすい場合もあるだろうが、空良の場合は求められるものを自分ができているかと言うことを気にしそうだから、撮影ということに意識を向けさせない方がいいのだろうな。

「寛人さん、もっと先までいけますか?」

「ああ、大丈夫だ。だが俺から絶対に離れるなよ」

「はい」

美しい笑顔を見せる空良を抱きかかえながらテラスの先に向かうと、眼下にはキラキラと輝く湖が見える。

「わぁーっ!! 綺麗っ!!」

「ああ、本当に美しいな」

「僕、湖を見たの初めてです!」

「そうか、なら今度湖にボートでも乗りに行こうか。せっかくなら海に行ってクルージングするのも楽しそうだ」

「クルージングって……あの、船に乗るんですか?」

「ああ、船舶免許を持っているから操縦もできるんだぞ。親父のものだが、船もあるし空良のためなら船くらい買ってもいい。空良はどんな船が似合うだろうな。好きな船を買ってあげるぞ」

「ええっ! 船を? そんなっ、想像もできないこと……考えられません」

ふふっ。
こういうところが空良の可愛いところなんだよな。

おっと、そろそろかな?

「空良、一旦下ろすぞ」

「あ、はい」

ゆっくりと丁寧に空良を下ろすと、ささっとエミリーさんが近づいてきて空良のドレスを綺麗に広げてくれる。

『まぁ……っ!』

エミリーさんはどうやら気がついたみたいだ。
あれだけ日本語が上手でも驚いた時はやはり母国語なのだな。
そのおかげで空良にはまだ気づかれていないようで助かった。

エミリーさんの直しも終わり、湖が一番綺麗に見える位置で空良と向かい合って立つ。

「空良、ドレスを見てごらん」

「えっ? ドレス?」

俺の言葉に素直にドレスに目をやった空良は、

「わぁーっ! えっ、なんで? すごいっ! 綺麗なピンク色だ!!」

と目を輝かせながら、ドレスの裾を持ちその場でくるくると回り出す。

空良が回るたびに薄いふわふわのレース生地が太陽に反射して、キラキラと光る。

「気に入ったか? これは太陽の光を吸収すると色が変わる生地なんだよ」

「寛人さんっ! すごいですっ! この色、桜みたい!! 本当に綺麗っ!!」

うっとりしながら、ドレスを見つめる空良が本当に可愛い。
俺はこの笑顔が見たかったんだ。

「空良。一生、俺のそばでその笑顔を見せてくれ。空良のことをこの世の誰よりも愛してる」

「寛人さん……っ。僕も……僕も寛人さんが誰よりも好き。愛してる。だからずっと僕のそばにいてください」

綺麗な涙を流しながら、俺に手を伸ばしてくる空良をギュッと抱きしめ空良の唇に重ね合わせた。

空良のキス顔なんて本当は誰にも見せたくない。
でも今日だけは……。
一生に一度のキスだから。

この美しい光景を思い出として残せるように。

俺たちはしばらくキスをし続けていた。
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