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番外編
可愛い嫉妬
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「エミリーさん、空良の準備を頼む」
「承知しました。まぁっ! なんて綺麗なドレスなんでしょう!!!」
エミリーさんは部屋は部屋に入ってすぐドレスに目を奪われたようだ。
あれだけの期間、試行錯誤しながら空良のために作ったドレスを褒められるのはなんとも嬉しいものだ。
「エミリーさん、今日の空良の髪型をいろいろ考えてくれていたと聞いたんだが……」
「はい。ですが、ご希望があればもちろん、そちらにいたしますよ」
「悪い。早く言っておけばよかったな。実は、今日の空良のドレスに<マリアベール>を合わせようと思っているんだ」
「マリアベールっ!! それはこのドレスにもソラさまにも大変お似合いでございますね!!!」
マリアベールと言った途端、エミリーさんの目が輝いた。
さすがロレーヌ総帥が選んでくれるヘアメイクアーティストだ。
一瞬でこのドレスにも空良にも似合うと見抜いてくれたな。
そのことに気づいてくれただけで努力が報われるというものだ。
「そうだろう? 私もあのベールを知った時に空良にはこれしかないと思ったんだ! だが、あれは髪を纏めるのだろう? せっかくエミリーさんが空良の髪を活かそうといろいろ考えてくれていたのなら申し訳なかったと思っていたんだ……」
「ふふっ。ユウキさまのお心遣い、大変嬉しく思います。ですが、どうぞお気になさらないでください。旦那さまが花嫁さまのために一生懸命お考えになったものを形に表現するのが私の仕事だと思っております。それに私自身、このドレスを拝見して纏め髪にしようと考えていたのですよ」
「そうだったか、それはよかった」
「このシンプルで上品なドレスにはゴテゴテとした髪型は逆に似合いませんから、さすがユウキさまは花嫁さまのことをよくご存知なのですね」
「ああ。それはもう! 空良のことは、空良よりも分かっている自信があるぞ」
「それはそれは、ご馳走さまです」
初対面の女性でこんなにも気楽に話せたのは初めてかもしれないな。
そう、言うなれば看護師長の米田さんくらい、話しやすくていい。
きっと俺に何の関心もないと分かっているからだろう。
そんなことを思っていると、突然空良がぎゅっと抱きついてきた。
「空良、どうした?」
「だって……寛人さん、エミリーさんとばっかり話してる、から……ちょっと、寂しくて……」
「――っ、空良っ」
空良が人前で、しかも初対面の人の前で嫉妬して見せるなんて……。
ああ、もうなんて可愛いんだろうな。
「ふふっ。ユウキさま、愛されていらっしゃいますね。私もこうやってソラさまのようにたまに嫉妬されるとすごく嬉しくなりますからお気持ちがよく分かりますよ」
先日結婚したばかりだというパートナーのことを思い浮かべているのだろうか。
とても幸せそうだ。
「ソラさま。これを見ていただけますか?」
エミリーさんはソラに近づくとスマホを取り出し、画面を見せた。
「わっ、可愛いっ!」
「ふふっ。私の愛しいパートナーなんですよ」
「えっ、本当に?」
「はい。そして、これがマリアベールです。美しいでしょう?」
「これが……さっき、寛人さんが言ってたマリアベール? きれい……っ」
「同じなのが嬉しくてつい話が弾んでしまったのです。ソラさまを不安にさせてしまいまして、申し訳ございません」
「そんな……っ、ごめんなさい。僕……あんなこと言って……」
顔を真っ赤にする空良を抱きしめながら、
「空良の嫉妬が嬉しかったのだから、謝らないでくれ」
というと、エミリーさんも
「ユウキさまとソラさまの愛を拝見できて幸せでございますよ」
と笑ってくれた。
ああ、本当に彼女は素晴らしい人だ。
「さぁ、マリアベールに合う髪型にいたしましょうね」
にっこりと微笑みながら、空良の髪を纏めていく。
「まぁ、なんと綺麗な髪なんでしょう。艶やかで本当に綺麗」
「私がいつも念入りに手入れをしているからだな」
「それは羨ましいですわ」
髪を整え終え、すぐにメイクに入る。
大きくて綺麗な二重の空良はアイメイクをするとさらに綺麗な目になった。
元々綺麗な素肌にはあまりファンデーションをしなくても映えるようだな。
チークや口紅をつけ、鏡の中には美少年から美少女へと変貌を遂げていた。
「わぁ、これが……僕?」
「ふふっ。元が可愛らしいお顔立ちをしていらっしゃいますから、メイクが映えますね」
鏡に映る自分の見慣れない姿に驚いている空良に、
「空良、そこの箱を開けてごらん」
と声をかけた。
「これ?」
「ああ、そうだ」
「なんだろう? わっ! 綺麗っ!!」
中身はこの日のために作っていたマリアティアラ。
マリアベールを邪魔しないように特注したんだ。
「エミリーさん、これもつけてくれ」
「はい。こんな素敵なマリアティアラ、初めて拝見しましたわ。手が震えそうです」
なんて言いながら、空良のおでこにかかるように綺麗につけてくれた。
「空良、どうだ?」
「すっごく綺麗です!!! こういう形のを初めてみました!!!」
「ロレーヌ総帥のクラウンティアラよりずっと空良に似合っているだろう?」
やはりあのクラウンティアラは弓弦くんにしか似合わない。
それはそうだろう。
ロレーヌ総帥が弓弦くんを考えながら作っているのだから。
俺も同じだ。
空良のことだけを考えて作ったんだ。
こんなにも空良の喜ぶ姿を見られて俺は幸せだな。
「承知しました。まぁっ! なんて綺麗なドレスなんでしょう!!!」
エミリーさんは部屋は部屋に入ってすぐドレスに目を奪われたようだ。
あれだけの期間、試行錯誤しながら空良のために作ったドレスを褒められるのはなんとも嬉しいものだ。
「エミリーさん、今日の空良の髪型をいろいろ考えてくれていたと聞いたんだが……」
「はい。ですが、ご希望があればもちろん、そちらにいたしますよ」
「悪い。早く言っておけばよかったな。実は、今日の空良のドレスに<マリアベール>を合わせようと思っているんだ」
「マリアベールっ!! それはこのドレスにもソラさまにも大変お似合いでございますね!!!」
マリアベールと言った途端、エミリーさんの目が輝いた。
さすがロレーヌ総帥が選んでくれるヘアメイクアーティストだ。
一瞬でこのドレスにも空良にも似合うと見抜いてくれたな。
そのことに気づいてくれただけで努力が報われるというものだ。
「そうだろう? 私もあのベールを知った時に空良にはこれしかないと思ったんだ! だが、あれは髪を纏めるのだろう? せっかくエミリーさんが空良の髪を活かそうといろいろ考えてくれていたのなら申し訳なかったと思っていたんだ……」
「ふふっ。ユウキさまのお心遣い、大変嬉しく思います。ですが、どうぞお気になさらないでください。旦那さまが花嫁さまのために一生懸命お考えになったものを形に表現するのが私の仕事だと思っております。それに私自身、このドレスを拝見して纏め髪にしようと考えていたのですよ」
「そうだったか、それはよかった」
「このシンプルで上品なドレスにはゴテゴテとした髪型は逆に似合いませんから、さすがユウキさまは花嫁さまのことをよくご存知なのですね」
「ああ。それはもう! 空良のことは、空良よりも分かっている自信があるぞ」
「それはそれは、ご馳走さまです」
初対面の女性でこんなにも気楽に話せたのは初めてかもしれないな。
そう、言うなれば看護師長の米田さんくらい、話しやすくていい。
きっと俺に何の関心もないと分かっているからだろう。
そんなことを思っていると、突然空良がぎゅっと抱きついてきた。
「空良、どうした?」
「だって……寛人さん、エミリーさんとばっかり話してる、から……ちょっと、寂しくて……」
「――っ、空良っ」
空良が人前で、しかも初対面の人の前で嫉妬して見せるなんて……。
ああ、もうなんて可愛いんだろうな。
「ふふっ。ユウキさま、愛されていらっしゃいますね。私もこうやってソラさまのようにたまに嫉妬されるとすごく嬉しくなりますからお気持ちがよく分かりますよ」
先日結婚したばかりだというパートナーのことを思い浮かべているのだろうか。
とても幸せそうだ。
「ソラさま。これを見ていただけますか?」
エミリーさんはソラに近づくとスマホを取り出し、画面を見せた。
「わっ、可愛いっ!」
「ふふっ。私の愛しいパートナーなんですよ」
「えっ、本当に?」
「はい。そして、これがマリアベールです。美しいでしょう?」
「これが……さっき、寛人さんが言ってたマリアベール? きれい……っ」
「同じなのが嬉しくてつい話が弾んでしまったのです。ソラさまを不安にさせてしまいまして、申し訳ございません」
「そんな……っ、ごめんなさい。僕……あんなこと言って……」
顔を真っ赤にする空良を抱きしめながら、
「空良の嫉妬が嬉しかったのだから、謝らないでくれ」
というと、エミリーさんも
「ユウキさまとソラさまの愛を拝見できて幸せでございますよ」
と笑ってくれた。
ああ、本当に彼女は素晴らしい人だ。
「さぁ、マリアベールに合う髪型にいたしましょうね」
にっこりと微笑みながら、空良の髪を纏めていく。
「まぁ、なんと綺麗な髪なんでしょう。艶やかで本当に綺麗」
「私がいつも念入りに手入れをしているからだな」
「それは羨ましいですわ」
髪を整え終え、すぐにメイクに入る。
大きくて綺麗な二重の空良はアイメイクをするとさらに綺麗な目になった。
元々綺麗な素肌にはあまりファンデーションをしなくても映えるようだな。
チークや口紅をつけ、鏡の中には美少年から美少女へと変貌を遂げていた。
「わぁ、これが……僕?」
「ふふっ。元が可愛らしいお顔立ちをしていらっしゃいますから、メイクが映えますね」
鏡に映る自分の見慣れない姿に驚いている空良に、
「空良、そこの箱を開けてごらん」
と声をかけた。
「これ?」
「ああ、そうだ」
「なんだろう? わっ! 綺麗っ!!」
中身はこの日のために作っていたマリアティアラ。
マリアベールを邪魔しないように特注したんだ。
「エミリーさん、これもつけてくれ」
「はい。こんな素敵なマリアティアラ、初めて拝見しましたわ。手が震えそうです」
なんて言いながら、空良のおでこにかかるように綺麗につけてくれた。
「空良、どうだ?」
「すっごく綺麗です!!! こういう形のを初めてみました!!!」
「ロレーヌ総帥のクラウンティアラよりずっと空良に似合っているだろう?」
やはりあのクラウンティアラは弓弦くんにしか似合わない。
それはそうだろう。
ロレーヌ総帥が弓弦くんを考えながら作っているのだから。
俺も同じだ。
空良のことだけを考えて作ったんだ。
こんなにも空良の喜ぶ姿を見られて俺は幸せだな。
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