イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

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番外編

空良のドレス

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ロレーヌ総帥が空良のために見つけてくれたヘアメイクアーティストはエミリーさんというらしい。
弓弦くんのヘアメイクを担当するクララさんが信頼する一番弟子だという話だったから、ヘアメイクに関しては何も心配はしていない。

日本を発つ前にエミリーさんについての詳細な情報を受け取っていたが、実物は写真よりもずっと可愛らしい女性だった。
彼女のパートナーが女性でまだ結婚したばかりの新婚という情報を聞いていなければ、空良のそばに置くのが心配なほどだった。

だが、彼女が空良をそんな目で見ていないことは彼女の視線ですぐにわかった。
もちろん空良も同じだ。

まぁ空良に関して言えば、空良が俺以外に心変わりをするなんてことがないと自信を持って言えるくらいには愛されている自信があるからな。
何も心配はいらない。

綾城と佳都くんの結婚式に参列するまで、俺にとって結婚式や披露宴は憂鬱なものでしかった。

中学、高校、大学で知り合った友人たちは、こぞって自分の式に俺や俺たちを呼びたがった。
自分が俺たちより早く結婚したとアピールしたかったのか、それとも新婦側の友人を増やすための餌だったのかわからないが、多少なりとも友人として過ごしてきたのだからと納得するしかなかった。

どうしてもと頼み込まれて嫌々参加したが、参列した新婦側の友人、親戚、結婚式場のスタッフ、プランナー、そしてあろうことか結婚式を挙げた新婦まで、目の色を変えて俺たちに擦り寄ってきて、結婚式がとんでもない状況になってしまったのは一度や二度ではない。

結婚式なんて本当に面倒なものでしかなかったのだ。

けれど、綾城の結婚式で俺は初めて二人の幸せを純粋に願うことができた。
綾城がどれだけ佳都くんを大切に思っていたことも、そして、二人がどれだけ愛し合っているのかも知っていたし、何より俺の隣に愛しい恋人の存在があったからだ。

俺もいつか結婚式を挙げるんだという思いが込み上げてきたのも、空良がいればこそだ。
空良に出会わなければ、一生俺の中で結婚式への嫌な思いは消えることはなかっただろうな。

そんな空良との待ちに待った結婚式で不安の材料が何もないことは、俺の心を軽くした。

本当にロレーヌ総帥のおかげだ。


「空良、先にドレスを見せよう。エミリーさん、しばらくここで待っていてくれ」

「承知しました」

嬉しそうな表情を見せる空良を連れて、支度部屋に入る。

支度部屋とは思えないほどの豪華な調度品の数々。
アンティーク家具としての価値を考えれば、ここにある家具だけでも数千万?
それがここだけでなく、観月や綾城たちの部屋にもあることを考えると、改めてロレーヌ一族の凄さを思い知らされる。

本当に一生に一度の大切な思い出になるな。

空良がドレスを喜んでくれたらいいんだが。

奥の扉の向こうにある壁一面ガラス張りの部屋に入ると、空良は驚きの声をあげた。

「鏡がいっぱい!」

「いろんな角度から見て、おかしなところがないかチェックするんだ。ドレスは長いからな」

「そうなんですね。なんだかこんなにおっきく自分の姿が見えるとドキドキしちゃうな」

可愛らしく頬を染める空良を見ながら、俺は急いでカメラをオンにした。
せっかく空良の着替えの一部始終を撮影できるんだ。

撮り逃しては勿体無いからな。

「空良、そこのカーテンを開けてごらん」

「これ、ですか?」

空良がゆっくりとカーテンを開いた瞬間、

「わぁーっ!」

と大きな声をあげた。

目を丸くして、その場から微動だにしない。

「空良、どうだ? 気に入ったか?」

「僕……こんなに綺麗なドレス、着ていいんですか?」

「ふふっ。空良のためだけに作ったんだ。空良が着てくれないと、このドレスは一生このままだぞ」

「ひろ、とさん……っ、ぼく……うれしぃ……っ!!」

理央くんのように明確な希望がなかった空良のドレス作りは大変だった。

空良に似合うドレスを必死に考え、空良にはふんわりとしたドレスよりもっと抑えめな方がいいと思った。
シンプルかつ上品なドレス。

だからこそ、生地に力を入れた。

太陽光に当たると仄かにピンク色に変えるその生地は、可愛らしい空良をさらに美しく彩ってくれると思った。

「空良、喜んでくれて嬉しいよ。このドレスは、まだ秘密があるんだ」

「えっ……秘密? なんですか?」

「ふふっ。それは後のお楽しみ。その前に、ドレスが気に入ったなら、空良からのお礼が欲しいんだが……」

そういうと、空良はほんのり頬を染めながら、思いっきり背伸びをして俺に抱きついてきた。

空良の身長では背伸びをしても俺の唇までは届かない。
そっと屈んでやると、空良の唇が重なり合った。

甘く可愛い唇がちゅっと俺の唇を喰む。

この後もっと深いキスに進みたいが、それは夜の楽しみにとっておこう。

「空良……愛してるよ」

「寛人さん……っ、僕も……愛してる」

可愛らしいドレスの隣で俺たちはしばらく抱きしめあった。
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