イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

文字の大きさ
上 下
35 / 62
番外編

空良のドレス

しおりを挟む
ロレーヌ総帥が空良のために見つけてくれたヘアメイクアーティストはエミリーさんというらしい。
弓弦くんのヘアメイクを担当するクララさんが信頼する一番弟子だという話だったから、ヘアメイクに関しては何も心配はしていない。

日本を発つ前にエミリーさんについての詳細な情報を受け取っていたが、実物は写真よりもずっと可愛らしい女性だった。
彼女のパートナーが女性でまだ結婚したばかりの新婚という情報を聞いていなければ、空良のそばに置くのが心配なほどだった。

だが、彼女が空良をそんな目で見ていないことは彼女の視線ですぐにわかった。
もちろん空良も同じだ。

まぁ空良に関して言えば、空良が俺以外に心変わりをするなんてことがないと自信を持って言えるくらいには愛されている自信があるからな。
何も心配はいらない。

綾城と佳都くんの結婚式に参列するまで、俺にとって結婚式や披露宴は憂鬱なものでしかった。

中学、高校、大学で知り合った友人たちは、こぞって自分の式に俺や俺たちを呼びたがった。
自分が俺たちより早く結婚したとアピールしたかったのか、それとも新婦側の友人を増やすための餌だったのかわからないが、多少なりとも友人として過ごしてきたのだからと納得するしかなかった。

どうしてもと頼み込まれて嫌々参加したが、参列した新婦側の友人、親戚、結婚式場のスタッフ、プランナー、そしてあろうことか結婚式を挙げた新婦まで、目の色を変えて俺たちに擦り寄ってきて、結婚式がとんでもない状況になってしまったのは一度や二度ではない。

結婚式なんて本当に面倒なものでしかなかったのだ。

けれど、綾城の結婚式で俺は初めて二人の幸せを純粋に願うことができた。
綾城がどれだけ佳都くんを大切に思っていたことも、そして、二人がどれだけ愛し合っているのかも知っていたし、何より俺の隣に愛しい恋人の存在があったからだ。

俺もいつか結婚式を挙げるんだという思いが込み上げてきたのも、空良がいればこそだ。
空良に出会わなければ、一生俺の中で結婚式への嫌な思いは消えることはなかっただろうな。

そんな空良との待ちに待った結婚式で不安の材料が何もないことは、俺の心を軽くした。

本当にロレーヌ総帥のおかげだ。


「空良、先にドレスを見せよう。エミリーさん、しばらくここで待っていてくれ」

「承知しました」

嬉しそうな表情を見せる空良を連れて、支度部屋に入る。

支度部屋とは思えないほどの豪華な調度品の数々。
アンティーク家具としての価値を考えれば、ここにある家具だけでも数千万?
それがここだけでなく、観月や綾城たちの部屋にもあることを考えると、改めてロレーヌ一族の凄さを思い知らされる。

本当に一生に一度の大切な思い出になるな。

空良がドレスを喜んでくれたらいいんだが。

奥の扉の向こうにある壁一面ガラス張りの部屋に入ると、空良は驚きの声をあげた。

「鏡がいっぱい!」

「いろんな角度から見て、おかしなところがないかチェックするんだ。ドレスは長いからな」

「そうなんですね。なんだかこんなにおっきく自分の姿が見えるとドキドキしちゃうな」

可愛らしく頬を染める空良を見ながら、俺は急いでカメラをオンにした。
せっかく空良の着替えの一部始終を撮影できるんだ。

撮り逃しては勿体無いからな。

「空良、そこのカーテンを開けてごらん」

「これ、ですか?」

空良がゆっくりとカーテンを開いた瞬間、

「わぁーっ!」

と大きな声をあげた。

目を丸くして、その場から微動だにしない。

「空良、どうだ? 気に入ったか?」

「僕……こんなに綺麗なドレス、着ていいんですか?」

「ふふっ。空良のためだけに作ったんだ。空良が着てくれないと、このドレスは一生このままだぞ」

「ひろ、とさん……っ、ぼく……うれしぃ……っ!!」

理央くんのように明確な希望がなかった空良のドレス作りは大変だった。

空良に似合うドレスを必死に考え、空良にはふんわりとしたドレスよりもっと抑えめな方がいいと思った。
シンプルかつ上品なドレス。

だからこそ、生地に力を入れた。

太陽光に当たると仄かにピンク色に変えるその生地は、可愛らしい空良をさらに美しく彩ってくれると思った。

「空良、喜んでくれて嬉しいよ。このドレスは、まだ秘密があるんだ」

「えっ……秘密? なんですか?」

「ふふっ。それは後のお楽しみ。その前に、ドレスが気に入ったなら、空良からのお礼が欲しいんだが……」

そういうと、空良はほんのり頬を染めながら、思いっきり背伸びをして俺に抱きついてきた。

空良の身長では背伸びをしても俺の唇までは届かない。
そっと屈んでやると、空良の唇が重なり合った。

甘く可愛い唇がちゅっと俺の唇を喰む。

この後もっと深いキスに進みたいが、それは夜の楽しみにとっておこう。

「空良……愛してるよ」

「寛人さん……っ、僕も……愛してる」

可愛らしいドレスの隣で俺たちはしばらく抱きしめあった。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...