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番外編
空良のお願い
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「寛人さん……ちょっとお願いがあるんですけど……」
診療時間が終わり院長室へと戻ってきた俺に、空良がスマホを片手に少し不安げな様子で近づいてきた。
表情が暗いな、何か言われたんだろうか?
それに空良の方からお願い事をしてくるなんて珍しい。
「どうした?」
「実は、クリスマスにフランスに行った時にみんなでクリスマスプレゼントの交換会をやろうって話になって……」
「ああ、それは楽しそうだな」
「はい。僕も初めてだからすっごく楽しみなんですけど……どういうのを買えばいいのかわからなくて……。寛人さん、一緒についてきてもらえませんか?」
「なんだ、そんなことか。よし、じゃあ明日の休みにでも一緒に選びに行こう」
「わぁーっ、よかった」
よほど心配だったのか、ホッとした表情で嬉しそうに抱きついてくるのが可愛い。
「それで、交換会は誰とするんだ?」
「えっと、佳都さんと理央くん、秀吾さんと弓弦くん、あとミシェルさん、あっ、それからリュカさんもです」
「リュカ? 初めて聞く名前だな。メッセージグループにいたか?」
「リュカさんは弓弦くんのフランス語の家庭教師さんですっごく綺麗な人ですよ」
そう言って、空良はスマホを開いた。
メッセージアプリで送られてきた3枚の写真にはそれぞれ3組のカップルが寄り添って映っていた。
「右がエヴァンさんと弓弦くん、真ん中のがセルジュさんとミシェルさん、そして左のがジョルジュさんとリュカさんです」
じっくりと写真を見れば、ジョルジュさんとやらの服にパリ警視庁のマークがほんの少し映っているのが見える。
なるほど。
おそらく彼らはロレーヌ総帥が弓弦くんの安全のためにつけた護衛だろう。
弓弦くんには家庭教師だという名目でそばにいさせているのだろうな。
さすが、世界のロレーヌ総帥。
専属護衛までつけるとはさすがだな。
俺は恐れ多くて名前でなど呼べないが、空良たちはロレーヌ総帥自ら名前でいいと言われたらしく、最近名前呼びに変えていた。
確かにロレーヌ総帥も秘書のセルジュ・ロレーヌも、そしてプロヴァイオリストのミシェル・ロレーヌも皆、ロレーヌなのだから当然といえば当然なのだが……。
それでもやはり彼らを名前で呼ぶのは畏れ多い。
「皆、お似合いのカップルだな」
「はい。セルジュさんとミシェルさん、それにジョルジュさんとリュカさんは正式に結婚されて夫夫なんだそうです。フランスっていいですね」
「そうだな、日本では俺たちは夫夫にはなれないからな」
「あ、でも僕はお父さんとお母さんの子どもになれたので嬉しいですよ」
正式にうちの両親の戸籍に養子縁組で入った空良。
観月に手続きを頼んで、すでに両親の遺産の相続も決定している。
まぁ、空良は遺産のことなど関係なく、両親という存在ができたことをただ純粋に喜んでいるのだが。
「ああ、そうだな。親父たちも空良という息子ができて大喜びしてるからな」
仲は決して悪いわけではないがお互いに忙しくそこまで行き来するような関係ではなかったが、空良を紹介してからというもの月に2~3度は家族で食事に行ったり、母さんと出かけるのに付き合ったりするようになった。
母さんからは足りないと文句を言われているが、俺だって空良と二人っきりの時間を過ごしたいんだ。
「それで、プレゼントは一人ひとつか?」
「えっ? 一つ買ってみんなで交換だと思ってました」
「いや、それだと選ぶのがかなり難しくなるぞ。万人受けするのは無難なものになりがちだし、本当に贈りたいものをあげられないだろう?」
「あ、そうか。でも……それぞれにだといっぱいになって大変じゃないですか?」
「とりあえず、綾城と観月に確認してみるよ」
そう言って、俺はすぐに二人に連絡を取った。
佳都くんはそれぞれに用意しようと思っていたようだが、理央くんはやはり空良と同じように一つを購入するつもりでいたらしい。
やはりここがクリスマスを経験したかどうかの違いなのだろう。
空良は友達同士で贈り物を交換したことがないと言っていたからな。
フランスでは贈り物は多い方がいいと言っていたし、おそらくフランス側はきっとそうしているに違いない。
ここはそれぞれに贈り物を用意した方がいいだろうということで話はついた。
「というわけで、みんなにプレゼントを選ぶとしよう。ひとつを選ぶよりはその子に合うと思ったものを選べるから楽だと思うぞ」
「はい。わかりました。ああ~、何がいいかなぁ。理央くんには使ってもらえるものがいいかなぁ。手袋とかマフラーとかどうですか? フランスは寒いって弓弦くんも言ってたからあっちですぐに使ってもらえるかも!」
うーん、プレゼントとしては妥当な線だが……あの嫉妬深い観月が人から贈られたものを嬉しそうに身につける理央くんを許せるかどうか……。
無難に消え物の方が良さそうな気もするが……空良としては形に残るものがいいだろうな。
うーん、どうしたらいいか。
「佳都さんには前に着ぐるみパジャマ貰ったから同じように洋服とかパジャマとかいいかも!」
いやいや、洋服もパジャマも絶対に綾城が着せるわけない。
あいつが観月以上に嫉妬深いからな……。
「弓弦くんにはアクセサリーとかいいかも!」
「アクセサリー?」
空良の口から思いもかけない言葉が出てきて驚いた。
「はい。この前、弓弦くん綺麗なブレスレットとピアスを付けてたんです。エヴァンさんから贈られたらしいんですけど、指輪は持ってなさそうだったから指輪とか可愛くていいかも!」
指輪??
いやいや、それは絶対にダメだ!!
大体、弓弦くんがアクセサリーをつけていたのなら、それはきっとGPSが組み込まれている特注品だ。
しかもあのロレーヌ総帥自ら贈ったものなら宝石自体にも数千万の価値はありそうだ。
そこに空良の贈った指輪をつけて欲しいとは俺は言えそうにない。
「い、いや指輪はサイズもあるからやめた方がいい。それに慣れないものだと肌に合わなくてかぶれたりするからな。アクセサリーは絶対にやめておこう」
とりあえずアクセサリーだけは全否定しておかないと。
あのロレーヌ総帥を敵に回したくはない。
「あ、そうなんですね。それじゃあ何がいいかなぁ……」
一人一人に贈り物ができるとあって空良は嬉しそうに考え始めたが、やっぱりひとつ無難なものを選ばせておいた方が良かったと思ってしまったのは、きっと俺だけじゃないだろう。
それでも空良が楽しめるなら俺は頑張るとしよう。
ここから長いプレゼント探しの旅が始まる。
診療時間が終わり院長室へと戻ってきた俺に、空良がスマホを片手に少し不安げな様子で近づいてきた。
表情が暗いな、何か言われたんだろうか?
それに空良の方からお願い事をしてくるなんて珍しい。
「どうした?」
「実は、クリスマスにフランスに行った時にみんなでクリスマスプレゼントの交換会をやろうって話になって……」
「ああ、それは楽しそうだな」
「はい。僕も初めてだからすっごく楽しみなんですけど……どういうのを買えばいいのかわからなくて……。寛人さん、一緒についてきてもらえませんか?」
「なんだ、そんなことか。よし、じゃあ明日の休みにでも一緒に選びに行こう」
「わぁーっ、よかった」
よほど心配だったのか、ホッとした表情で嬉しそうに抱きついてくるのが可愛い。
「それで、交換会は誰とするんだ?」
「えっと、佳都さんと理央くん、秀吾さんと弓弦くん、あとミシェルさん、あっ、それからリュカさんもです」
「リュカ? 初めて聞く名前だな。メッセージグループにいたか?」
「リュカさんは弓弦くんのフランス語の家庭教師さんですっごく綺麗な人ですよ」
そう言って、空良はスマホを開いた。
メッセージアプリで送られてきた3枚の写真にはそれぞれ3組のカップルが寄り添って映っていた。
「右がエヴァンさんと弓弦くん、真ん中のがセルジュさんとミシェルさん、そして左のがジョルジュさんとリュカさんです」
じっくりと写真を見れば、ジョルジュさんとやらの服にパリ警視庁のマークがほんの少し映っているのが見える。
なるほど。
おそらく彼らはロレーヌ総帥が弓弦くんの安全のためにつけた護衛だろう。
弓弦くんには家庭教師だという名目でそばにいさせているのだろうな。
さすが、世界のロレーヌ総帥。
専属護衛までつけるとはさすがだな。
俺は恐れ多くて名前でなど呼べないが、空良たちはロレーヌ総帥自ら名前でいいと言われたらしく、最近名前呼びに変えていた。
確かにロレーヌ総帥も秘書のセルジュ・ロレーヌも、そしてプロヴァイオリストのミシェル・ロレーヌも皆、ロレーヌなのだから当然といえば当然なのだが……。
それでもやはり彼らを名前で呼ぶのは畏れ多い。
「皆、お似合いのカップルだな」
「はい。セルジュさんとミシェルさん、それにジョルジュさんとリュカさんは正式に結婚されて夫夫なんだそうです。フランスっていいですね」
「そうだな、日本では俺たちは夫夫にはなれないからな」
「あ、でも僕はお父さんとお母さんの子どもになれたので嬉しいですよ」
正式にうちの両親の戸籍に養子縁組で入った空良。
観月に手続きを頼んで、すでに両親の遺産の相続も決定している。
まぁ、空良は遺産のことなど関係なく、両親という存在ができたことをただ純粋に喜んでいるのだが。
「ああ、そうだな。親父たちも空良という息子ができて大喜びしてるからな」
仲は決して悪いわけではないがお互いに忙しくそこまで行き来するような関係ではなかったが、空良を紹介してからというもの月に2~3度は家族で食事に行ったり、母さんと出かけるのに付き合ったりするようになった。
母さんからは足りないと文句を言われているが、俺だって空良と二人っきりの時間を過ごしたいんだ。
「それで、プレゼントは一人ひとつか?」
「えっ? 一つ買ってみんなで交換だと思ってました」
「いや、それだと選ぶのがかなり難しくなるぞ。万人受けするのは無難なものになりがちだし、本当に贈りたいものをあげられないだろう?」
「あ、そうか。でも……それぞれにだといっぱいになって大変じゃないですか?」
「とりあえず、綾城と観月に確認してみるよ」
そう言って、俺はすぐに二人に連絡を取った。
佳都くんはそれぞれに用意しようと思っていたようだが、理央くんはやはり空良と同じように一つを購入するつもりでいたらしい。
やはりここがクリスマスを経験したかどうかの違いなのだろう。
空良は友達同士で贈り物を交換したことがないと言っていたからな。
フランスでは贈り物は多い方がいいと言っていたし、おそらくフランス側はきっとそうしているに違いない。
ここはそれぞれに贈り物を用意した方がいいだろうということで話はついた。
「というわけで、みんなにプレゼントを選ぶとしよう。ひとつを選ぶよりはその子に合うと思ったものを選べるから楽だと思うぞ」
「はい。わかりました。ああ~、何がいいかなぁ。理央くんには使ってもらえるものがいいかなぁ。手袋とかマフラーとかどうですか? フランスは寒いって弓弦くんも言ってたからあっちですぐに使ってもらえるかも!」
うーん、プレゼントとしては妥当な線だが……あの嫉妬深い観月が人から贈られたものを嬉しそうに身につける理央くんを許せるかどうか……。
無難に消え物の方が良さそうな気もするが……空良としては形に残るものがいいだろうな。
うーん、どうしたらいいか。
「佳都さんには前に着ぐるみパジャマ貰ったから同じように洋服とかパジャマとかいいかも!」
いやいや、洋服もパジャマも絶対に綾城が着せるわけない。
あいつが観月以上に嫉妬深いからな……。
「弓弦くんにはアクセサリーとかいいかも!」
「アクセサリー?」
空良の口から思いもかけない言葉が出てきて驚いた。
「はい。この前、弓弦くん綺麗なブレスレットとピアスを付けてたんです。エヴァンさんから贈られたらしいんですけど、指輪は持ってなさそうだったから指輪とか可愛くていいかも!」
指輪??
いやいや、それは絶対にダメだ!!
大体、弓弦くんがアクセサリーをつけていたのなら、それはきっとGPSが組み込まれている特注品だ。
しかもあのロレーヌ総帥自ら贈ったものなら宝石自体にも数千万の価値はありそうだ。
そこに空良の贈った指輪をつけて欲しいとは俺は言えそうにない。
「い、いや指輪はサイズもあるからやめた方がいい。それに慣れないものだと肌に合わなくてかぶれたりするからな。アクセサリーは絶対にやめておこう」
とりあえずアクセサリーだけは全否定しておかないと。
あのロレーヌ総帥を敵に回したくはない。
「あ、そうなんですね。それじゃあ何がいいかなぁ……」
一人一人に贈り物ができるとあって空良は嬉しそうに考え始めたが、やっぱりひとつ無難なものを選ばせておいた方が良かったと思ってしまったのは、きっと俺だけじゃないだろう。
それでも空良が楽しめるなら俺は頑張るとしよう。
ここから長いプレゼント探しの旅が始まる。
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