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人前式
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お揃いのタキシードに身を包み、腕を組み歩く姿はどこからどう見ても幸せなカップルそのものだ。
ああ、今日ほど綾城を羨ましいと思ったことはないな。
ゆっくりと一歩ずつ前へと進んでいく2人を見ながら、俺は近いうちに挙げる空良との結婚式を思い描いていた。
空良は佳都くんより華奢だし、背も低い。
今日のスーツもすごく似合っているが、元が可愛らしい顔立ちをしているから思い切ってウエディングドレスを着させるのもいい。
いや、綾城たちに空良のそんな可愛い姿を見せるのは勿体無いか……。
なら、部屋で俺だけにドレスを着て見せてもらうとか……ああ、そっちの方がいいかもしれない。
ウエディングドレス着たまま空良とエッチできるしな……うわっ、想像するだけでエロいな。
エロい……。
そうだ、俺とエッチするようになったら、空良もかなり色気を振りまくようになるだろうな。
ただでさえ無自覚に人を落とすから、大学に行かせるのが心配になってきた……。
だが、毎日一生懸命勉強している空良に危ないから大学には行かせられないとは言い難い……。
うーん、なら空良が大学に通っている間は俺の病院は後輩に任せておいて、俺は大学の講師として空良と一緒に通うか。
教授たちからはずっと誘われていたから、俺が講師をやりたいといえばすぐにでも採用してくれるだろう。
それはいいアイディアだな。
大学生になった空良とお揃いの指輪をつけながら一緒に大学に通う……。
自分の大学時代では想像もできなかった甘いキャンパスライフが味わえるわけか。
いいな、それ。
「寛人さん? どうか、しました?」
「――っ」
空良のあんなことやそんなことを想像した挙句にストーカーのように追いかけて一緒に大学に通うつもりだと正直に言ったら、流石に引かれるかもしれない。
だが、ここで何も言わずにいたら空良はまた誤解するかもしれない。
そう思って、
「綾城と佳都くんを見ていたら、空良と自分の結婚式を想像してしまってね。浮かれてしまっただけだよ」
小声で返すと、空良は嬉しそうに笑った。
「わっ、僕と一緒です! 僕も寛人さんとこんな結婚式挙げたいなって思ってました」
「くっ――!」
にこやかな笑顔でそんなことを言ってくる空良を今すぐにでも抱きしめてしまいたい!
けれど、ここは教会。
必死に己の欲望を抑えつけ、空良の可愛らしい手を握るだけにとどめておいた。
今日の結婚式は人前式のようで、綾城と佳都くんは司会者の進行により結婚の誓いを始めた。
<本日、私たちはご列席くださった皆様の前で夫夫の誓いをいたします>
2人でそう宣言し始まった誓いの言葉に俺たちは真剣に聞き入っていた。
綾城と佳都くんは笑顔で顔を見合わせてから、先に綾城が口を開いた。
「佳都と知り合ってからの年月はまだまだ短いけれど、これから先の長い人生は佳都と二人で築き上げていきたい。嬉しいことも悲しいことも二人で共有しよう。俺は生涯佳都だけを愛し続けることをここに誓う」
うーん、佳都くんへの深い独占欲と執着の塊のような誓いの言葉だが……佳都くんがこの上なく嬉しそうだからこれでいいんだろうな。
続いて佳都くんが微笑みながら口を開いた。
「僕はいつも直己さんに甘えてばかりで正直このままでいいのかなって思うこともありました。でも、直己さんが僕と一緒にいる時に心の底からくつろいで甘えてくれる表情も見せてくれるようになって、僕でも直己さんの役に立ててるんだって自信になりました。だから僕は仕事で忙しい直己さんの癒しになれる存在になれるようにこれからも頑張っていきます。直己さんのこと、ずっとずっと大好きです。一生僕の傍にいてください」
うわっ、これは佳都くんからのプロポーズみたいなもんだな。
ほら、綾城が嬉しさのあまり泣いてる。
「寛人さん……」
空良がそっと俺の手に何かを持たせてくれたのを見ると、それは真っ白なハンカチだった。
なんで俺にハンカチ?
そう思ったが、俺は気づかないうちに涙を流していたみたいだ。
いつでもどこでも誰かの目を気にして常に『綾城直己』というみんなに作り上げられた虚像の中で生きてきた綾城にとって、気を許せる人間は家族と俺と観月しかいなかった。
それでも俺たちにも常に気を配ってくれるあいつは俺たちに甘えるなんてこともなかった。
そんな綾城がようやく見つけられた唯一の人が佳都くんだったんだな。
その佳都くんとこうして結婚式を挙げられたことに俺も嬉しくなってしまったんだ。
「空良、ありがとう……」
ハンカチで涙を拭いながら、空良の手を握ると空良は嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
綾城と佳都くんは誓いの言葉の後に指輪の交換をした。
きっとこの指輪にも綾城のこだわりがたくさん詰まっているのだろう。
俺も結婚式を挙げるなら早めに指輪を探しておかないとな。
いや、その前にプロポーズの本番か。
その時にあげる婚約指輪も用意しようか。
考えるだけでウキウキするな。
そして、その後結婚証明書への署名をする時になって
「悠木寛人さん、笹原空良さん。こちらへお願いします」
と突然司会者から俺たち二人の名前が呼ばれた。
驚く空良を連れ、綾城と佳都くんのそばに向かうと、
「俺たちの結婚式の証人代表として二人にも署名してほしいんだ」
と綾城から頼まれた。
「俺たちでいいのか?」
「ああ。頼む」
綾城のはっきりとしたその言葉に俺は
「わかった」
と一言返した。
綾城の名前の下に俺の名前、佳都くんの名前の下に空良の名前を書いた。
突然の大役に手を震わせながら一生懸命自分の名を書く空良の姿は参列者全員から感嘆の声が漏れるほどいじらしく可愛らしかった。
綾城と佳都くんは書き終わった結婚証明書を嬉しそうに二人で持ちながら皆に見せて、司会者のお礼の言葉と共に人前式は滞りなく終わった。
ああ、今日ほど綾城を羨ましいと思ったことはないな。
ゆっくりと一歩ずつ前へと進んでいく2人を見ながら、俺は近いうちに挙げる空良との結婚式を思い描いていた。
空良は佳都くんより華奢だし、背も低い。
今日のスーツもすごく似合っているが、元が可愛らしい顔立ちをしているから思い切ってウエディングドレスを着させるのもいい。
いや、綾城たちに空良のそんな可愛い姿を見せるのは勿体無いか……。
なら、部屋で俺だけにドレスを着て見せてもらうとか……ああ、そっちの方がいいかもしれない。
ウエディングドレス着たまま空良とエッチできるしな……うわっ、想像するだけでエロいな。
エロい……。
そうだ、俺とエッチするようになったら、空良もかなり色気を振りまくようになるだろうな。
ただでさえ無自覚に人を落とすから、大学に行かせるのが心配になってきた……。
だが、毎日一生懸命勉強している空良に危ないから大学には行かせられないとは言い難い……。
うーん、なら空良が大学に通っている間は俺の病院は後輩に任せておいて、俺は大学の講師として空良と一緒に通うか。
教授たちからはずっと誘われていたから、俺が講師をやりたいといえばすぐにでも採用してくれるだろう。
それはいいアイディアだな。
大学生になった空良とお揃いの指輪をつけながら一緒に大学に通う……。
自分の大学時代では想像もできなかった甘いキャンパスライフが味わえるわけか。
いいな、それ。
「寛人さん? どうか、しました?」
「――っ」
空良のあんなことやそんなことを想像した挙句にストーカーのように追いかけて一緒に大学に通うつもりだと正直に言ったら、流石に引かれるかもしれない。
だが、ここで何も言わずにいたら空良はまた誤解するかもしれない。
そう思って、
「綾城と佳都くんを見ていたら、空良と自分の結婚式を想像してしまってね。浮かれてしまっただけだよ」
小声で返すと、空良は嬉しそうに笑った。
「わっ、僕と一緒です! 僕も寛人さんとこんな結婚式挙げたいなって思ってました」
「くっ――!」
にこやかな笑顔でそんなことを言ってくる空良を今すぐにでも抱きしめてしまいたい!
けれど、ここは教会。
必死に己の欲望を抑えつけ、空良の可愛らしい手を握るだけにとどめておいた。
今日の結婚式は人前式のようで、綾城と佳都くんは司会者の進行により結婚の誓いを始めた。
<本日、私たちはご列席くださった皆様の前で夫夫の誓いをいたします>
2人でそう宣言し始まった誓いの言葉に俺たちは真剣に聞き入っていた。
綾城と佳都くんは笑顔で顔を見合わせてから、先に綾城が口を開いた。
「佳都と知り合ってからの年月はまだまだ短いけれど、これから先の長い人生は佳都と二人で築き上げていきたい。嬉しいことも悲しいことも二人で共有しよう。俺は生涯佳都だけを愛し続けることをここに誓う」
うーん、佳都くんへの深い独占欲と執着の塊のような誓いの言葉だが……佳都くんがこの上なく嬉しそうだからこれでいいんだろうな。
続いて佳都くんが微笑みながら口を開いた。
「僕はいつも直己さんに甘えてばかりで正直このままでいいのかなって思うこともありました。でも、直己さんが僕と一緒にいる時に心の底からくつろいで甘えてくれる表情も見せてくれるようになって、僕でも直己さんの役に立ててるんだって自信になりました。だから僕は仕事で忙しい直己さんの癒しになれる存在になれるようにこれからも頑張っていきます。直己さんのこと、ずっとずっと大好きです。一生僕の傍にいてください」
うわっ、これは佳都くんからのプロポーズみたいなもんだな。
ほら、綾城が嬉しさのあまり泣いてる。
「寛人さん……」
空良がそっと俺の手に何かを持たせてくれたのを見ると、それは真っ白なハンカチだった。
なんで俺にハンカチ?
そう思ったが、俺は気づかないうちに涙を流していたみたいだ。
いつでもどこでも誰かの目を気にして常に『綾城直己』というみんなに作り上げられた虚像の中で生きてきた綾城にとって、気を許せる人間は家族と俺と観月しかいなかった。
それでも俺たちにも常に気を配ってくれるあいつは俺たちに甘えるなんてこともなかった。
そんな綾城がようやく見つけられた唯一の人が佳都くんだったんだな。
その佳都くんとこうして結婚式を挙げられたことに俺も嬉しくなってしまったんだ。
「空良、ありがとう……」
ハンカチで涙を拭いながら、空良の手を握ると空良は嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
綾城と佳都くんは誓いの言葉の後に指輪の交換をした。
きっとこの指輪にも綾城のこだわりがたくさん詰まっているのだろう。
俺も結婚式を挙げるなら早めに指輪を探しておかないとな。
いや、その前にプロポーズの本番か。
その時にあげる婚約指輪も用意しようか。
考えるだけでウキウキするな。
そして、その後結婚証明書への署名をする時になって
「悠木寛人さん、笹原空良さん。こちらへお願いします」
と突然司会者から俺たち二人の名前が呼ばれた。
驚く空良を連れ、綾城と佳都くんのそばに向かうと、
「俺たちの結婚式の証人代表として二人にも署名してほしいんだ」
と綾城から頼まれた。
「俺たちでいいのか?」
「ああ。頼む」
綾城のはっきりとしたその言葉に俺は
「わかった」
と一言返した。
綾城の名前の下に俺の名前、佳都くんの名前の下に空良の名前を書いた。
突然の大役に手を震わせながら一生懸命自分の名を書く空良の姿は参列者全員から感嘆の声が漏れるほどいじらしく可愛らしかった。
綾城と佳都くんは書き終わった結婚証明書を嬉しそうに二人で持ちながら皆に見せて、司会者のお礼の言葉と共に人前式は滞りなく終わった。
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