イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

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空良の口から言ってほしい

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「空良……」

空良の顎をあげ、誓いのキスをしようと顔を近づけたその時

「悠木ーっ、そろそろ教会に行くぞ」

と扉の向こうから観月の声が聞こえた。

「くそっ! タイミング悪いな」

「寛人さん……」

「く――っ!」

涙を潤ませながら少し欲情に駆られた視線で俺を見上げる空良に思わず理性が飛びそうになる。
だが、ここでこのまま押し倒すわけにもいかない。
俺は理性を総動員して、必死に欲望を抑えた。

「今はこっちにしておこうか」

そう言いながら、空良の頬にチュッとキスをすると、空良は真っ赤な顔をしながらも笑顔を見せてくれた。

今日、このホテルに泊まりになったのはまだ内緒にしておくか。
いきなり豪華な部屋に連れて行って驚かせるのもいいな。
だが、先に理央くんや佳都くんの口から聞かされでもしたら、自分だけ泊まりじゃないと思ってまたショックを受けるかもしれない。

ここはおかしな誤解をさせないためにも空良にちゃんと俺の口から伝えておくほうがいいか。

そう考えて、俺は空良の目の前にさっき綾城からもらったルームキーを見せてみた。

「空良……これ、なんだと思う?」

「えっ? これ……カード? 何かのカードですか?」

まだほんのり赤い顔で不思議そうにそのカードに触れてくるのが実に可愛らしい。

「これは今日空良と俺が泊まる部屋のキーだよ。今日はここのホテルに泊まりだ」

「え――っ!! お、お泊まり? 寛人さん! 本当ですかっ?! 僕、こんなすごいホテルに泊まるの初めてです!!」

ふふっ。目を輝かせて喜んでる。
部屋をとってくれた綾城に感謝だな。
実は俺も今日の結婚式に空良を連れて行くと決めてからすぐに予約しようとしたんだ。
だが、まだ空良から好きだとも言われてないのにホテルを取るなんて下心があると思われでもしたらと思うと取れなかったんだ。
それくらい俺が空良に嫌われることを怖がっているということだな……。

本当に今までの俺は恋愛なんて何もしてなかったんだな。
空良と出会って、初めて本物の恋に落ちた気がするよ。

ようやく空良と気持ちが通じ合った今、もう怖がる必要なんてないか。
せっかくのスイートルームの夜だ。
今夜は空良と思い出に残る一夜にしよう。

「空良……素敵な夜を過ごそう。さっきの続きも……な」

キス以上のことをどれだけ知っているのかわからないが、俺の言葉に顔を赤くした空良が俺と過ごす夜に少なからずドキドキしてくれているのはわかる。
今日最後までできるかはわからないが、甘く蕩けるような夜を過ごせたらいい。

夜の約束を取り付けたところで、俺は空良を連れ部屋の外に出た。

「遅いぞ。仲直りはできたか?」

「ああ。迷惑かけて悪かったな」

「それは俺たちより綾城と佳都くんに言わないとな。まぁ俺の方も理央に誤解させずに済んだし良かったよ」

「そうか、ならよかった」

俺が観月とそんな話をしている間にも、空良と理央くんは楽しそうに会話を始めていた。

「ねぇ、僕たち今日ここのホテルにお泊まりだって!」

「本当? 僕たちもだよ!! すごいよね! 僕、ホテルに泊まったこともほとんどないのに、こんなすごいホテル緊張しちゃうなぁ」

「僕もっ! 施設にいたときはホテルに泊まるどころか、外食もしたことなかったからさっきのケーキも実は緊張してたんだ」

理央くんが開口一番、今日の宿泊の話をしていたから、やっぱり話しておいてよかったと安堵しつつ、2人の会話に俺も観月も聞き入ってしまっていた。

空良も両親を亡くしてからは栄養失調になってしまうほど可哀想な生活を強いられていたが、理央くんは外食すら観月と知り合ってから初めてしたのか……。
どっちがどうということではないが、2人とも本当に俺たちが救えてよかったと心から思う。

教会はホテルの裏庭にあり、森のような木々に囲まれた御伽噺に出てくるような可愛らしい教会だ。

「うわーっ、すごく可愛いっ!!」

空良は興味深そうにキョロキョロと辺りを見回している。
こんなにも気に入ったなら俺たちもここで結婚式を挙げたいくらいだが、ここは今日限りなんだよな。
本当に残念だ。

どこか他に空良の気に入りそうな教会を探しておかないとな。
そうだ、2人っきりで海外挙式なんてのもいいかもしれないな。
そのままハネムーンなんてのも良さそうだ。

そんなことを考えながら階段を上り、教会の中へと入ると、綾城の両親と妹の七海ちゃんとその彼氏の翔太くんがすでに来ていた。

「あっ、悠木せんせっ! こっち、こっち!」

可愛いドレスを着て可愛らしい笑顔を見せながらこっちに手を振ってくる七海ちゃんに手をあげて応えてから、空良に

「綾城の妹の七海ちゃんと彼氏の翔太くんだよ。2人は佳都くんと同じ大学に通っているよ」

と教えてやると、

「へぇー、そうなんですね。すごいなぁ」

と感心したように見つめていた。

空良の目標とする桜城大学に通う子達だもんな。

おっと、先に綾城の両親に挨拶しておいたほうがいいか。

「七海ちゃん、後でゆっくりね」

と声をかけて、空良を連れて先に綾城の両親の席へと向かった。

「綾城のお父さん、お母さん。本日はおめでとうございます。素晴らしい教会でいい思い出になりますね」

「あら、悠木くんも来てくれたのね。嬉しいわ。あら? この子は?」

お母さんが空良の存在にすぐ気づいたのは可愛いこともさることながら、俺がしっかりと手を繋いでいたからだろう。

「彼は私の大切な人です。空良、挨拶できるか?」

そういうと、空良は少し顔を赤く染めながら、

「僕、笹原空良と言います。あの……寛人さんの、恋人です……」

そう言い切ってくれるのはもちろん嬉しかったが、さっき空良と気持ちが通じ合った俺は随分と我儘になってしまっている。
どうしてもそれを空良の口から言ってほしくて

「空良、俺たちはもう婚約者だろ? さっき結婚の約束したじゃないか」

と耳元で囁くと、空良は恥ずかしそうにしながらも、そうだっ! と思い出したように

「僕……寛人さんの婚約者です」

と言い直してくれた。
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