イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

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誤解なんだ!

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「やっぱりわかったか?」

「ああ、俺も同じだからな」

「綾城が佳都くんにぞっこんになったのを見てここまで人間って変わるものなんだと驚いたが、自分もまさか同じようになるとは思っても見なかったよ。理央を初めて見た時に不思議な感覚があったんだが、あの時はあそこから出すことしか考えられなくてもう二度と会えないと覚悟してたんだ。助け出せただけよかったとしようと思ってたんだが、まさか理央が俺を探し出してくれるとは思わなかったから……嬉しかったよ」

観月が理央くんを見る眼差しがあまりにも優しくて驚いた。
こいつがこんな柔らかい表情するなんてな……。
まぁ俺も観月にはそう思われているかもしれないが。

「それで、お前……理央くんとはもう?」

「いや……流石にまだだ。あまりそういう知識も持っていないみたいでな、キスするのも初めてだったよ」

「そうか、それも同じだな」

「じゃあ、空良くんも?」

「ああ。抱きしめたりは少し慣れてくれたみたいだが、キスもこの前初めてしたくらいで……」

「ふふっ。あれだけモテてた俺たちがこんなに奥手とはな」

「大切にしたいからこそ手を出せないって今頃分かった気がするな」

「確かに」

俺と観月は美味しそうにケーキを食べる空良と理央くんを微笑ましく思いながら、コーヒーに手を伸ばした。
ああ、ここのコーヒーは美味しい。


美味しそうにケーキを食べていた空良が突然こっちを向いて、

「寛人さんもケーキ食べませんか?」

と笑顔を向けてくれた。

「空良が全部食べていいんだぞ」

「でも……美味しいから一緒に食べたくて……」

「く――っ、そ、そうか。じゃあ、貰おうかな」

上目遣いでそんなふうに言われたら受けないわけがない。

「はいっ! あーん」

空良が嬉しそうに差し出してくれたケーキを、パクリと口に入れるととびきり甘いマンゴーが口の中に広がった。

「どうですか? 美味しい?」

「ああ、美味しいな」

「ふふっ。よかった」

観月はにやにやと俺たちの様子を見ていたが、理央くんに同じように『あーん』と言いながらフォークを差し出され、少し照れながら口を開けていた。

やっぱり俺たちは似たもの同士。
可愛い恋人には敵わないな。


ロビーでゆっくりとお茶をしていると、ポケットに入れていたスマホが震えるのを感じて急いでスマホを取り出すと、綾城からメッセージが届いていた。

「お前もか?」

みれば、観月にも綾城からメッセージが届いているようだ。

「用意が終わったのかもしれないな」

と言いつつ、メッセージを開くと、

<式前に話しておきたいことがあるから、新郎控え室に来てくれないか?>

と書かれていた。

「観月、これ……」

画面を見せれば、観月にも同じ文面が届いていた。
ということは俺たち2人に同じ話があるということか?
なんの話だろう? とは思ったが、とりあえず聞きにいくしかない。

俺たちは2人で顔を見合わせて、空良と理央くんに声をかけた。

2人はすでにケーキを食べ終わっていて仲良く談笑中だったが、流石にここに2人を置いていくわけにはいかない。
こんなに可愛く目立つ2人をロビーに置いていったりしたら、声をかけてくれと言わんばかりだ。

「空良、理央くん。今日の主役の新郎新に挨拶に行こうか」

「僕たちも一緒に行っても大丈夫なんですか?」

「ああ、もちろんだ。空良も理央くんもちゃんと招待を受けてるんだからな」

嬉しそうに顔を綻ばせる空良と理央くんを連れて、俺たちはロビーラウンジをでた。

4人で連れ立って歩いていると、2人でいた時よりもさらに視線を感じる。
俺と観月は空良と理央くんを隠すように急いで綾城のいる新郎控え室に向かった。

扉をトントントンと叩くと、

「どうぞ、入ってくれ」

と声が聞こえて、カチャリと扉を開けると、相好を崩した綾城の姿が飛び込んできて俺も観月も思わず

「くくっ」

と笑ってしまった。

「なんだ? お前たち、会って早々失礼だな」

「悪い、悪い。あまりにもデレデレした顔をしているから我慢できなかった。お前、相当嬉しいんだな、今日の結婚式」

「当たり前だろっ! 俺がどれだけ待ち侘びてたか……」

俺たちが綾城とそんな会話で盛り上がっていると、突然袖をツンツンと引っ張られた。

「んっ? どうした、空良」

「あ、あの……あの人が寛人さんのお友達ですか?」

「ああ。そうだ。綾城直己。俺と観月の高校時代からの悪友だ。それがどうかしたか?」

「いや、えっ……だって、あの……」

なぜか綾城を見て混乱した様子の空良に

「どうしたんだ? 落ち着いて話を聞かせてくれ」

としゃがみ込んで顔を近づけながら尋ねると、空良は少し言いづらそうに

「あの……お友達さんと結婚するのがだって言ってたから、てっきりお友達さんは女性の方だとばかり思ってて……その、男同士で結婚できるって知らなくて……それでびっくりしたっていうか……」

としどろもどろになりながらも教えてくれた。

そういえば、俺……綾城としか言ってなかったな。
空良は男同士で結婚なんて……と思っただろうか?

空良の言葉に新郎控え室がしんとなりかけた時、

「それって、僕と寛人さんも結婚できるってことですよね?」

と空良の嬉しそうな声が響いた。

「……えっ? 結、婚……?」

「えっ……? 僕たちは結婚、できない……んですか……?」

俺が思っても見なかった空良の言葉にポカーンと口を開けていると、空良が一気に目を潤ませながら悲しげに言ってきた。
これはまずいっ!!
すぐに誤解を解かないとっ!!

「やっ――、ちがっ――!」

しかし、俺の声は虚しく空良の泣き声に阻まれ、空良の耳には入らなかったようだ。

「寛人さん! ひどいです!! 空良くんのこと、揶揄ってたんですか?」

「違うっ!! そんなことあるわけないだろうっ!!」

「だって、今そう言ったじゃないですかっ!!」

「理央、落ち着けっ!!」

観月が興奮した理央くんを窘めてくれたが、理央くんは空良をがっちりと守って離そうとしない。
幸せに包まれるはずの新郎控え室がいきなり修羅場になってしまった。

どうしようかと思っていると、

「ちょっと、こっちで話さない?」

と俺たちの後ろから声が聞こえた。
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