イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

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意外な同伴者

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結婚式当日の朝、寝室のハンガーラックに用意しておいた新しいスーツを待ちきれない様子で何度も見に行く空良に

「そろそろ支度するか?」

と声をかけると、嬉しそうに駆け寄ってきた。

スーツを着る前にヘアワックスで髪をセットしようと、洗面所の鏡の前に立たせた。
自分の髪がどんどん変わって行く様子に

「寛人さん、すごい。美容師さんみたいです」

とはしゃぐ空良が可愛い。

「ふふっ。空良専用だよ」

そう言ってやると、途端に顔を赤らめた。
これくらいの言葉で頬を赤く染めるとは……本当に初心だな、空良は。

髪をセットし終わってようやく空良が待ちに待っていたスーツに着替えさせる。

うっすらと淡い水色のカラーシャツは爽やかな印象で空良にピッタリだ。

「ほら、こっち向いて」

向かい合わせになりネクタイを締めてあげると空良はその間、どこに目線を向けていいのかと悩んでいるようだ。

「俺を見ててくれればいいよ」

そういうと、空良は赤い顔をしながらも俺をじっと見つめてくれる。
俺を見ながら今は何を考えてくれているのだろう。
愛しさが募る空良を抱きしめたい衝動に駆られながらネクタイを締め終えた。

「よし、これでいい」

「ありがとうございます、寛人さん」

ベストとジャケットを羽織らせれば、空良の準備は万端だ。

俺も急いでスーツに着替えて、必要なものを用意する。
ご祝儀とスマホと財布、そして車の鍵があれば十分だな。

「せっかく横浜まで行くんだ。早めに行ってロビーでお茶でもしようか。今日行くホテル、ケーキが美味しいんだよ」

「わぁー、楽しみです」

目を輝かせて喜ぶ空良が可愛くてたまらない。

ふふっ。
空良が喜ぶ顔が見られるなら、ケーキくらい幾つでも食べさせてあげるよ。

車を走らせ、横浜のホテルへと向かう。
空良はドライブ気分で楽しそうだ。

あっという間にホテルに到着し、駐車場に止めようとすると警備員が近づいてきた。
俺たちが結婚式の参列者だと伝えると奥の駐車場を案内された。
聞けば今回の結婚式参列者用に専用の駐車場を用意しているとのことだった。

そういえば、綾城が今回のあの教会を使っての結婚式は王族専用のロイヤルスイートルームに宿泊したカップル限定の特別企画だと言っていたな。
一泊300万もする部屋に宿泊して結婚式を挙げるようなカップルの参列者だから、それ相応の財力を持っていると踏んでホテルがトラブル防止のために用意したというところか。
まぁ、ホテル側が俺たちの車を守ってくれるならありがたい。
綾城はもちろん、俺も観月も車にはこだわっているからな。
もしかしたら綾城自身がホテル側に頼んでくれたのかもしれないな。

案内された場所に車を置き、空良をエスコートしてホテルへ連れて行く。
ロビーに入った瞬間、一斉に視線が俺たちに降り注いだ。

俺に視線が向くのはいつものことだが、今日はそのほとんどが空良に向いているのがわかる。
まぁ元が可愛い上に、ビシッとスーツを決めているからな。
可愛い顔とのギャップが興味をそそられるんだろう。

「ああ、悠木っ! こっち、こっち」

突然呼びかけられた声に空良と2人で振り向くとそこにはロビーラウンジでくつろぐ観月がいた。
隣には空良と同じ歳くらいの子がこっちを窺っているのが見える。

あの子が観月の同伴者か?
あれ? 見覚えがあるな。
どこだったっけ?

そう思いながら、空良に

「空良、今日一緒に結婚式に参列する友達だ。紹介するよ」

というと、一気に緊張し始めたのがわかった。

「大丈夫、俺の友達だから心配しないでいいよ」

と声をかけると、ホッとしたように可愛い笑顔を見せてくれた。

観月と彼のところに近寄り声をかけた。

「観月、お前もケーキ目当てか?」

「ああ、この子に食べさせてあげようと思って。ほら、挨拶できるか?」

観月は今までに見たことがないような優しげな眼差しで隣の子に話しかけた。

「あの、俺……じゃない。僕、木坂きさか理央りおって言います。あの、この前はありがとうございました」

少し照れながら深々と頭を下げる彼を見て、

「ああっ、あの時の!」

と思わず声が出た。

「ふふっ。思い出したか?」

「ああ、俺たちがあの事務所に乗り込んだ時にいた子だろ?」

そういうと、観月は首を縦に振った。
どおりでどこかで見覚えがあると思ったんだ。

「あの……事務所って僕がいたところですか?」

俺たちが話していると空良が話に入ってきた。
あの事務所の話だと知って気になったんだろう。

「そうだよ。俺と観月が話をしに行った時に彼とちょうど居合わせてね、奴らに酷い目に遭っていたから逃したんだ」

空良は俺の言葉に目を丸くして彼を見た。

「その後、俺の事務所にお礼を言いに彼が尋ねてきてくれたんだよ」

「ああ、そういうことか。それでなんでこんなことに?」

「ふふっ。お前と似たようなもんだ」

そう言われてなるほどと思ってしまった。
俺が空良に出会って手放したくないと思ったようにきっと観月も彼をそう思ったんだ。

「あの、君もあの事務所にいたんだよね?」

彼がおずおずと空良に話しかける。

「空良、挨拶できるか?」

「はい。僕、笹原空良です。あの、観月先生にはいろいろとお世話になってありがとうございました。
おかげで僕……あの事務所から出ることができました。本当にありがとうございます」

「笹原くん、元気になってよかった。私は、悠木が君のために頑張ってたから少し手伝っただけだよ。お礼なら悠木だけで十分だ」

「はい。でも……ありがとうございます」

空良が深々と頭を下げると、観月は嬉しそうに笑って

「お前の子、良い子だな」

と小声で俺に言ってきた。

ああ、そんなの俺が一番わかってるよ。
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