イケメンスパダリ医師は天涯孤独な彼を放っておけない

波木真帆

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空良を救えて良かった

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部屋に入るとなんの生活音もしなかった。
誰もいないのだから当然だと言われればそうかもしれないが、なんとなく違和感を持った。
なんだ? と辺りを見回してようやくその理由がわかった。

「空良、もしかして電気が止められているのか?」

俺のその言葉に空良は小さく頷いた。

「バイト代で家賃払ったら足りなくて……」

だから食事もできなかったのか……。
家電は揃っているのにあったかいご飯も食べられず……こんな状況ならそりゃあ病院の食事が美味しいというわけだな。

「良かったよ」

「えっ? 良かったって……」

「違う。空良を1人でこの家に帰さなくて良かったって言ってるんだ。電気もなくて部屋もすぐに出なきゃいけないなんて……。私がついててあげられて本当に良かった」

そういって空良の小さな身体を抱きしめると、空良は少し身体を震わせた。

「どうした? 嫌だったか?」

「ううん、違うんです。せんせ……寛人さんがいなかったらどうなってたかと思ったら怖くなって……」

高校中退で保証人も身寄りもない空良がすぐに仕事を見つけられるとは思えない。
その上、家も出て行かなければいけなくなったら空良はたった1人で放り出されるところだった。
空良みたいな子が夜の街を彷徨っていたらすぐに変なのに連れて行かれるだろう。
本当に俺があの時に空良と出会ったのは奇跡的としか言いようがない。

「大丈夫。私はずっと空良のそばにいる。いなかったらなんて考える必要はないよ」

そういって空良の震える背中を優しく撫でると、ようやくホッとしたように俺に抱きついてくれた。

空良が少し落ち着いたところで部屋を見て回ることにした。

「空良は今、自分の手で持っていくものだけ集めていてくれ。うちに必要な家電は全て揃っているから、家電だけは全て処分してもいいか?」

「はい。大丈夫です。あと、僕は両親の位牌だけ持っていけたらあとは運んでもらっていいです」

「そうか、そうだな。ご両親のご位牌は空良の手でうちに連れてきてもらおうか」

それからしばらくして頼んだ引越し業者が段ボールを持って数人入ってきた。
1時間もしないうちに空良の家にあったものは跡形もなく箱に詰められトラックへと運び込まれた。

空良は荷物が無くなりガランとした部屋の真ん中に立って、辺りを見回していた。

「ご両親と過ごした日々のことを思い出しているのか?」

そう尋ねると空は小さく首を横に振った。

「ここには僕は小学生の時に引っ越してきてそれからずっと住んでたんですけど、今その時のことを思い出そうとしても何にも思い出せないんです。いっぱい楽しい思い出もあったはずなのに……何にも思い出せないんです」

「空良……」

「去年、両親が亡くなってから毎日家賃と光熱費をどうにかして稼がないといけないってそればっかり考えてて、家に帰っても明日どうしようってそればっかりで、あそこでバイトするようになってからはもう限界だったので……今はやっとここから出られるって思ったらなんだかホッとしてる自分がいて……僕って、ひどい人間なのかもしれないです」

家族と暮らした思い出のある家をそう思ってしまうほどに空良の心も身体もは本当に限界だったんだろう。

「空良、自分を責めてはいけない。今は自分の気持ちに余裕がないからそう思うだけだ。これからゆっくり私の家で落ち着いたら、きっとご両親との楽しかった思い出を振り返ることができるよ」

「あり、がとう……ございます……ひろと、さん……」

空良はそういって大粒の涙を流しながら俺に抱きついてくれた。
空良の中で俺は一緒にいると安心できる人になっている。
それを感じるだけで俺は嬉しかった。

ここの管理会社との話し合いはまた観月に頼むとするか。
弁護士が話に行った方がすぐに終わりそうだしな。
後で連絡しておこう。
前回の件も併せて何かお礼をしないとな。


部屋から全ての荷物を運び出したのを確認して空良の家を出た。
空良の荷物は既に俺の自宅に到着していることだろう。

俺も跡を追うように急いで自宅へと向かった。

「寛人さん……ここが寛人さんのお家ですか?」

「ああ、そうだよ。すぐに荷物を運び入れてもらうから空良はリビングで休んでいてくれ」

なぜか急に戸惑っている様子の空良をリビングのソファーに座らせ、目の前にお菓子とジュースを置いて俺は引越し業者の方へと向かった。
空良用の部屋は既に用意していたから、急遽空いている部屋にアパートの荷物を全て段ボールのまま運び入れた。
そこから少しずつ空良が必要なものを取り出せばいいだろう。

作業が終わった業者を帰して、リビングへと戻ると空良はソファーの真ん中で小さくなって座っていた。

「どうした?」

「あ、いえ……あの、ずっと狭い部屋にいたので、急にこんな広い家落ち着かなくて……」

ふふっ。
だからそんな猫みたいに小さくなってたのか。
可愛いな。

「大丈夫、すぐに慣れるよ」

「はい……」

まだ戸惑っている様子の空良に

「部屋を案内するよ」

と空良の手をとってリビングを出た。

「ここが空良の部屋だよ」

扉を開けて見せると、空良は

「わぁっ!!」

と驚きの声をあげた。

急遽作った部屋だったが、勉強するには十分だろう。

「こんなにすごい部屋、僕が使ってもいいんですか?」

「ああ、もちろんだよ。空良のために作った部屋だから使ってもらわないと困るな」

「僕、勉強頑張ります!」

「ふふっ。まだ本調子じゃないから無理しない程度にな。あ、それからこっちにおいで」

俺は不思議そうな表情をしている空良を隣の部屋に連れて行った。

「ここに空良のアパートにあったものを置いているから必要なものはここから取るといい」

「あの……僕のためにふた部屋も使っちゃっていいんですか?」

「気にしないでいい、部屋は空いてるんだから」

「ありがとうございます」

「部屋は後でゆっくり片付けるとして、今からちょっと行きたいところがあるから一緒に行こう」

「は、はい」

空良が俺の家に住むことになったし、いろいろ買い揃えたいものがあるからな。
まず先に行くのはあそこからだな。

俺は意気揚々と空良をその店に連れて行った。
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