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感情が揺さぶられる
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「先生?」
「空良……君のことが好きだからだよ」
悩んだ挙句、結局思いを伝えてしまった。
空良は思っても見なかったんだろう。
目を丸くして俺を見つめている。
「えっ? 好きって……その……」
「もちろん恋愛感情として空良が好きなんだ。だから空良のためならなんでもしてあげたいと思っている」
「あの、僕……そんなこと考えたことなくて…だから、その……」
「わかってる。空良が私のことをそんな感情で見ていないことは。だが、わかって欲しいのは最初からそんな下心があって空良を助けたわけじゃないんだ。空良を助けたのはあくまでも医師として目の前で倒れそうになっていた君を見過ごすなんてできなかったからだ」
そう訴えると、空良は静かに頷いてくれた。
「だから、助けてもらった恩を感じて無理に私の思いに応えようとしなくていいよ。空良が私をどう思っていようが、私が空良にしてあげたいと思っていることは変わらないし、一緒に住んでも空良の気持ちが私に向かない間は絶対に手を出したりしないよ。それは約束する。だから、退院したら一緒に暮らそう。私に空良の未来を手助けさせてくれないか?」
初めてここまで好きになった相手だ。
想いが通じ合えば嬉しいが、それは贅沢かもしれない。
それなら空良の役に立てるだけで、空良の笑顔が見られればそれでいい。
いや、それは綺麗事だ。
本当はただ単に思いっきり拒絶されるのが嫌で逃げているだけなんだ。
いつだったか佳都くんに言ったことがある。
――綾城が感情を揺さぶられるのは君だけだよ
俺にとってはそれが空良だったってことだったんだな。
今ならわかる。
相手の本当の気持ちを知るのがこんなにも怖くドキドキするものだって。
俺の言葉をじっと聞いていた空良が意を決したようにゆっくりと口を開いた。
「僕、今まで好きな人もできたこともなかったし、どういうのが好きとか恋愛感情がどうとかよくわからないですけど……今まで……特に1人になってからは幸せなんて感じる余裕もなくて毎日毎日が辛かったんです。でも、先生と出会えてからは毎日がすごく幸せで気持ちにゆとりができたっていうか……毎日のご飯も気にしないでよくて、好きなだけ勉強できて疲れたら寝て……そのどれも幸せで嬉しいんですけど……僕が今一番幸せを感じるのは先生と一緒にいる時間なんです」
「――っ」
「僕、先生と一緒にいると両親といるときとは全然違う心地よさがあって幸せだなぁって感じるんです――っわぁっ!」
空良は気づいていないようだが、一生懸命伝えてくれる空良の言葉の一つ一つが俺のことを好きだと表していて、俺は我慢できずに空良をギュッと抱きしめた。
今はまだわかっていなくてもいい。
このまま一緒にいて、ゆっくりと自覚してくれればそれでいい。
空良が俺のことが好きだって俺がわかっただけで今は十分だ。
「空良が幸せだと思ってくれただけで私は嬉しいよ。今はそれでいいんだ。だから、これからも一緒に過ごしてくれるね?」
「は、はい。先生がそう望んでくれるなら……」
「よし。決まりだ。明後日、臨時医師を頼んでいるから、その日に退院しよう」
「臨時医師?」
「ああ、後輩の医師で今は大学病院に勤めてるんだけど近々開業する予定でね。開業医の勉強がてら、時々予定がある時に頼んでるんだ。腕はいいからうちの患者さんたちにも気に入られててね。まぁ医者のアルバイトってとこかな」
「へぇ、お医者さんでもアルバイトできるんですね」
「ああ、大学病院勤めは給料が安いから、こうやってアルバイトしている医師も多いよ。バイトだと時間給も高くもらえるしね」
「そうなんですねー」
空良は目を丸くして驚いている。
どうやら医者のアルバイトという言葉がかなり驚いたらしい。
「だから、その日は朝退院してそのまま私の家に行こう。その後、いろいろと必要なものを買い物に行こうか」
「あ、僕……一度家に帰って荷物とか取りたいです」
「そうだな。じゃあ、空良の家に行ってから私の家に行こうか」
「はい」
空良が元気よく挨拶をしたところで、大事なことを思い出した。
「空良に渡すものがあるんだった」
そう言って、俺はベッドの横に置いていたバッグを取ってその中から書類と封筒を取り出し空良に渡した。
「これは……?」
「空良がアルバイトをしていたところの雇用契約書だ。最初に書かされたろう?
この契約書がここにあるということは、空良とあの会社との契約は終わったということだよ」
「終わった? じゃあ、もうあそこで働かなくてもいいんですか?」
「ああ、そういうことだ。今日、友人の弁護士と一緒に話をつけてきたから、もう大丈夫だ」
そういうと空良は心の底からホッとした表情をして、
「よかった……。先生っ! ありがとうございます!!」
と涙を潤ませた。
それほどまでにあの会社での日々は辛かったのだろう。
「こっちの封筒はなんだろ――えっ? これ……」
「それは空良が今まで罰金として給料から引かれていた分と、君が割ったという壺の弁償金の返還金、それから今回の就業中による緊急搬送の労働災害補償の給付金だよ。これは全て空良のお金だ」
「うそ……っ、こんなに? 信じられない……」
「本当だよ。空良が一生懸命働いて、空良が受け取るはずだったお金だ。頑張ってたんだな」
保険金を抜いたとしても数十万。
1人でよく頑張ったと思う。
俺が空良の頭を撫でてやると、空良は声を押し殺して泣いていた。
きっと今までの辛かった日々を思い出しているんだろう。
それも今日で終わりだ。
これからは俺が毎日を楽しく幸せに感じられるように過ごさせてやるからな。
「空良……君のことが好きだからだよ」
悩んだ挙句、結局思いを伝えてしまった。
空良は思っても見なかったんだろう。
目を丸くして俺を見つめている。
「えっ? 好きって……その……」
「もちろん恋愛感情として空良が好きなんだ。だから空良のためならなんでもしてあげたいと思っている」
「あの、僕……そんなこと考えたことなくて…だから、その……」
「わかってる。空良が私のことをそんな感情で見ていないことは。だが、わかって欲しいのは最初からそんな下心があって空良を助けたわけじゃないんだ。空良を助けたのはあくまでも医師として目の前で倒れそうになっていた君を見過ごすなんてできなかったからだ」
そう訴えると、空良は静かに頷いてくれた。
「だから、助けてもらった恩を感じて無理に私の思いに応えようとしなくていいよ。空良が私をどう思っていようが、私が空良にしてあげたいと思っていることは変わらないし、一緒に住んでも空良の気持ちが私に向かない間は絶対に手を出したりしないよ。それは約束する。だから、退院したら一緒に暮らそう。私に空良の未来を手助けさせてくれないか?」
初めてここまで好きになった相手だ。
想いが通じ合えば嬉しいが、それは贅沢かもしれない。
それなら空良の役に立てるだけで、空良の笑顔が見られればそれでいい。
いや、それは綺麗事だ。
本当はただ単に思いっきり拒絶されるのが嫌で逃げているだけなんだ。
いつだったか佳都くんに言ったことがある。
――綾城が感情を揺さぶられるのは君だけだよ
俺にとってはそれが空良だったってことだったんだな。
今ならわかる。
相手の本当の気持ちを知るのがこんなにも怖くドキドキするものだって。
俺の言葉をじっと聞いていた空良が意を決したようにゆっくりと口を開いた。
「僕、今まで好きな人もできたこともなかったし、どういうのが好きとか恋愛感情がどうとかよくわからないですけど……今まで……特に1人になってからは幸せなんて感じる余裕もなくて毎日毎日が辛かったんです。でも、先生と出会えてからは毎日がすごく幸せで気持ちにゆとりができたっていうか……毎日のご飯も気にしないでよくて、好きなだけ勉強できて疲れたら寝て……そのどれも幸せで嬉しいんですけど……僕が今一番幸せを感じるのは先生と一緒にいる時間なんです」
「――っ」
「僕、先生と一緒にいると両親といるときとは全然違う心地よさがあって幸せだなぁって感じるんです――っわぁっ!」
空良は気づいていないようだが、一生懸命伝えてくれる空良の言葉の一つ一つが俺のことを好きだと表していて、俺は我慢できずに空良をギュッと抱きしめた。
今はまだわかっていなくてもいい。
このまま一緒にいて、ゆっくりと自覚してくれればそれでいい。
空良が俺のことが好きだって俺がわかっただけで今は十分だ。
「空良が幸せだと思ってくれただけで私は嬉しいよ。今はそれでいいんだ。だから、これからも一緒に過ごしてくれるね?」
「は、はい。先生がそう望んでくれるなら……」
「よし。決まりだ。明後日、臨時医師を頼んでいるから、その日に退院しよう」
「臨時医師?」
「ああ、後輩の医師で今は大学病院に勤めてるんだけど近々開業する予定でね。開業医の勉強がてら、時々予定がある時に頼んでるんだ。腕はいいからうちの患者さんたちにも気に入られててね。まぁ医者のアルバイトってとこかな」
「へぇ、お医者さんでもアルバイトできるんですね」
「ああ、大学病院勤めは給料が安いから、こうやってアルバイトしている医師も多いよ。バイトだと時間給も高くもらえるしね」
「そうなんですねー」
空良は目を丸くして驚いている。
どうやら医者のアルバイトという言葉がかなり驚いたらしい。
「だから、その日は朝退院してそのまま私の家に行こう。その後、いろいろと必要なものを買い物に行こうか」
「あ、僕……一度家に帰って荷物とか取りたいです」
「そうだな。じゃあ、空良の家に行ってから私の家に行こうか」
「はい」
空良が元気よく挨拶をしたところで、大事なことを思い出した。
「空良に渡すものがあるんだった」
そう言って、俺はベッドの横に置いていたバッグを取ってその中から書類と封筒を取り出し空良に渡した。
「これは……?」
「空良がアルバイトをしていたところの雇用契約書だ。最初に書かされたろう?
この契約書がここにあるということは、空良とあの会社との契約は終わったということだよ」
「終わった? じゃあ、もうあそこで働かなくてもいいんですか?」
「ああ、そういうことだ。今日、友人の弁護士と一緒に話をつけてきたから、もう大丈夫だ」
そういうと空良は心の底からホッとした表情をして、
「よかった……。先生っ! ありがとうございます!!」
と涙を潤ませた。
それほどまでにあの会社での日々は辛かったのだろう。
「こっちの封筒はなんだろ――えっ? これ……」
「それは空良が今まで罰金として給料から引かれていた分と、君が割ったという壺の弁償金の返還金、それから今回の就業中による緊急搬送の労働災害補償の給付金だよ。これは全て空良のお金だ」
「うそ……っ、こんなに? 信じられない……」
「本当だよ。空良が一生懸命働いて、空良が受け取るはずだったお金だ。頑張ってたんだな」
保険金を抜いたとしても数十万。
1人でよく頑張ったと思う。
俺が空良の頭を撫でてやると、空良は声を押し殺して泣いていた。
きっと今までの辛かった日々を思い出しているんだろう。
それも今日で終わりだ。
これからは俺が毎日を楽しく幸せに感じられるように過ごさせてやるからな。
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